YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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10話

 チーフTとの最終調整。

 流石にダービーが近いから限界まで痛めつけるような練習は行わない。

 

 いよいよ今日本番を迎える。

 今はそのための最終調整をチーフTと話している最中である。

 

 

 

 

「見慣れたタイムですが、末恐ろしいですね。

これでまだ成長途中とか、あなた以降の世代からレコード更新が途絶えるでしょう」

 

「私の影を追うか諦めるか。そう思うと私としても実に走り甲斐のあるレースになりそうだよ」

 

 

「それは僥倖。尤も今懸念してるのはダービー後の言及。

 間違いなく今までは本気じゃなかったのか、という質問が来ますね。どうお考えで」

 

「質問されたことについては正直に答える。後ろ暗い事なんて無いし」

 

「サイドテイルさんにも?」

 

 

「……そうだよ。先輩達にもサブTにも臨時Tにも。

 相手が誰だろうと()()()()つもりは無いよ」

 

「よろしい。そんなあなただからこそ私も本気になれる」

 

「チーフTの本気?」

 

「楽して天下が取れそう娘が来たら全力でサポートする。大局的にはそうやって大物を待っていたんですよ。あなたのような、ね。

 それでいてあなたはぶっ壊れた感性の持ち主でしたので、私の感性を揺さぶる点でも満点中の満点でしたね。

 

 サイドテイルさんも中々に面白いですけど、やはりあなたは格別だ」

 

「どうしよう、もっと人畜無害な奴と手を組めたら良かった件」

 

「そんなまともな人でしたら、あなたとタッグなんて組もうとしませんよ」

 

 

「言えてる。じゃ、行くかな。

 Tはこの後サイドテのとこ?」

 

「ええ。あなただけに付いてたら贔屓してるように思われますので。

 では、レース後に」

 

 

 

 私がダービーを取ることを確信した返事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月末

日本ダービー(東京優駿)当日

 

 

 世間では世代最強決定3本勝負の2本目とも言われているクラシック三冠の2冠目。

 出走メンバーが控室入りする前から、すでに会場は観客で溢れかえっていた。

 

 

「皐月もすごかったけど、ダービーはまた、なんか異様だね」

 

「トゥインクル・シリーズを語る上でダービーは外せませんから。

 あなた達にとっても関係者にとってもダービーの栄誉は何物にも代え難いものであるのですよ。

 

 だから皆さん必死になる。その雄姿を一目見たいがために『この日だけは』と。

 お客さんも会場に足を運ぶ人が多いんです。

 

 また、場内の賑わいはもちろん、場外も出店や屋台が立ち並んでるのは『お祭り』の一端も

 成しているからですね。

 

 

 皐月賞のように観戦チケットも事前販売を行わず当日の抽選入場のみ。

 映像も場外のあらゆる場所に関係モニターが設置されており、そのモニターで確認できた当選者のみが入場可能。

 中に入れるのは本当に『運のいい』方だけです。それ以外の方はモニター越しの観戦です。

 

 また、普段指定席で設けられている席は全てレース関係者の席として開けるだけで

 一般開放は行われておりません。

 

 他にも挙げるとキリがありませんが、それだけの一大事業でもあるんですよ。

 

 だから皆さん、ダービーに夢を見るのです」

 

 

「そうなんだ。あたしはただマルゼンスキーを打倒したいだけでここに来たつもりなんだけど。

 夢を見る場所ねー……うん、なんかいいわね、そう言うの!

 

 そっか、だからあんたはここを目指していたわけね!」

 

「まあね」

 

 

 

 

 

--過去、未来、そして今を走る私達の夢を飲み込むために

 

 

 

 

「何より今年はあの2人がいます。世間はシービーさんから続いてる、三冠争いに湧くに沸いているわけです。

 

 圧倒的な強さのを見せつけられた去年と違い、2人とも世代が被らなければどちらも三冠を取れていると言われてますから」

 

「じゃあ、それを阻めたらサイッコーに気持ちいわね!」

 

「ふふふ、その意気です。ナイトさんはどうですか?

 初のG1がダービーなわけですから、気負いとかは」

 

「まるでないよ」

 

「ホントにあなた達は。実力は発展途上とはいえ、その精神性は驚嘆に値します。

 

 だからこそとやかく言いません。お二人とも()()()()()レースになることを祈っています」

 

 

 

 

 

 チーフT、サブT、先輩らに私たちは見送られて控室に向かう。

 

 道中、私とサイドテールは特に話すこともなく歩き続けた。

 

 

 チラと横目で覗き見る。

 あいつはいつも通りのやる気に満ち溢れた表情。

 私も普段通りの、いわゆる澄ました表情。

 

 珍しく軽口を叩くことなく、互いの分岐路に着く。

 

 

 背中を向けたサイドテールが軽く「じゃ、レースで」と一声かけて自分の控室に向かう。

 

 

 

 

「ねぇ!私は()()()()()()よ」

 

 

 

 何故か言っておきたかった。

 言ったところで結果が変わるわけでもないのに、突発的に口から出てしまっていた。

 

 理由なんて分からない。でも言わないといけないと思ったのだ。

 

 

 サイドテールはこちらを振り返りただ一言。

 

 

 

「うん、上等!」

 

 

 

 それだけ言って控室に向かって行った。

 私もそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒ベースの紫がかった神父服。

 これが私の勝負服のモチーフだ。

 

 シスターベースでは無く、神父ベース。

 可愛さより格好いいと言われる衣装である。

 

 中に全身を覆うインナーを着込み、肌の一切の露出をシャットアウトし、その上から勝負服を着込む。

 

 

 胸元が若干苦しいため少し余裕を持たせた作りになっており、場合によって開閉させることができる構造となっている。

 

 

 そのため、肌を露出させることも可能ではあるのだが、私は勘弁願いたい。

 

 

 おいそれと肌を露わにするわけにはいかないのだ。

 故に完璧なまでに露出をシャットアウトした構造となっている。

 

 

 

 ちなみに私のパドックでの紹介は、『新星のパープルシャドウ』であった。

 初めてのG1ということで新星、衣装がそれっぽく見えて神聖、と言う二つの意味を込めたものだとか。

 

 正直どうでもいい。

 

 

 

 各々のウマ娘の紹介も終わり、地下道を潜ってターフ入りしたらいよいよゲートイン。

 何てことは無い。今日は本気で走るだけである。

 

 

 いつも着ていた超負荷のインナーは着込まず、力のセーブも考えず、ただただ全力で走り切る。

 

 

 さあて、いよいよ開幕だ。

 

 

 

 

 

 

--日本ダービー(東京優駿)

 

東京 11R 芝 2,400m 良 フルゲート(18) 

 

 

 

 

『皐月賞に続き天気は晴れ。バ場状態も良好。

 さあ、日本ダービーが始まります。

 

 一生に一度のクラシックレース。

 皐月賞-最も速い娘-が。

 菊花賞-最も強い娘-が。

 

 ではダービーは?

 -最も『運』がある娘-……なんて言わせない。実力で勝ち取ってみせる。

 

 

 放送席からでも感じられます。

 ウマ娘達の勝利への欲求がひしひしとこちらに伝わってくるのが。

 

 

 

 クラシック三冠の花形『日本ダービー』

 レースに携わる者のすべての夢であるダービーウマ娘の栄誉。

 1年でたった一人。一生の内にチャンスは一回しかありません。

 

 だからこそ我々は熱狂します。

 夢を掴もうとするウマ娘達の輝きを、この目で見ようとするがために。

 

 

 さあ、夢を追いかけるウマ娘達を改めてご紹介しましょう。

 

 

 1枠1番 マルゼンスキー 2番人気。

 真紅の勝負服は勝利の赤旗となり得るのか。

 …

 …

 3枠6番 ゴールドシップ 3番人気。

 皐月で見せた豪脚は爆発するのでしょうか。

 …

 …

 …

 6枠11番 シンボリルドルフ 堂々の1番人気。

 その姿は威風堂々。果たして並ぶ者は。

 …

 7枠14番 サイドテイル  

 もう泣き虫なんて言わせない。今日は全員泣かせてやる。

 はねっ帰りの強い我がままな妖精は何を魅せてくれるのでしょう。

 

 …

 8枠18番 キュウセイナイト

 G1初出走がなんとダービー。好着への祈りは届くか』

 

 

 

『さらに今日は豪華なゲストをお迎えしております。

 現役ウマ娘でもあり、昨年のクラシック戦線でシンザン公以来の三冠を達成しました、ミスターシービーさんにお越しいただいております。

 シービーさん、よろしくお願いします『お願いします』。

 

 改めて各ウマ娘の皆さんはどういうお気持ちで臨んでいると思いますか?』

 

 

 

『いつものダービーなら各人緊張と折り合いを付けたり、自身の走りに集中したりというコメントになるのかと思いますが、今年は見るからにバチバチしてますね。

 

 例年ダービー出走が決まったウマ娘達が非公式ではありますが集まる機会があるのですが、一悶着あったみたいです。

 

 いつもなら終始和やかに互いの健闘を誓い合う程度で済むのですが、挑発の応酬みたいになったそうですよ』

 

 

『ほお!珍しい感じがしますね。

 

 我々から見るとシンボリルドルフさんやマルゼンスキーさんの紳士的な対応をいつも目にしていますので、そういった話は新鮮に感じます』

 

 

『私もそう思っていました。ただ、この前ルドルフとマルゼンに会ったときに印象が変わりましたね。

 

 珍しく2人が『先輩、強者として圧倒する振る舞いを教授いただきたい』って私のところに聞きに来たんですよ。

 普段から交流はあるのですが、ただ今回は走りについてのアドバイスとかでは無かったので。

 

 

 どうしたんだろうと思い掘り下げてみたらもう2人ともマシンガンの如くで捲し立ててきましてね。

 

 それはそれは、放送コードに乗せられないワードをこれでもかって使いながら。

 

 

 世間ではいわゆる優等生然とした2人かと思いますが、こう、まあ、可愛いところもあるんだなと思いましてね。

 

 先輩としてはこういう一面も皆さんにはぜひ知ってもらいたいです』

 

 

 

『なるほどなるほど。

 紳士的な振る舞いばかりに目を取られていると、虎視眈々と下剋上を狙っているウマ娘達の雄姿を見逃してしまいそうですね。

 

 では、シービーさんが注目しているウマ娘はどの娘でしょうか』

 

 

『やっぱりルドルフとマルゼンですね。彼女らは今こちらに上がって来ても間違いなく覇を争えるでしょう。

 

 そう言った意味ではひっじょーに可愛くない後輩達ではあります。

 

 後は6番のゴールドシップ。

 皐月賞での追い込みは大器を感じさせる走りでした。ポテンシャルの面で見たら先の2人より怖い存在に思えてきます。

 

 ちなみに、言動も中々アレみたいです。2人が教えてくれました』

 

 

 

『ゴールドシップさんは前走の皐月賞の好走が記憶に新しいですね。

 結果は3着でしたが、最終コーナーから先頭までの差をあそこまで詰めたのは驚きました』

 

『本気になってた2人から詰めたというのはあの娘だけでしょう。

 だからこそ、そのポテンシャルの高さに期待しています』

 

 

『そうですか。

 ……さあ、ダービー開幕のファンファーレが今、高らかに響き渡ろうとしています!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大外18番。

 枠順なんて関係ない。

 

 ぶっち切ることに変わりは無いのだから。

 

 

 

 

『さあ、各ウマ娘、ゲート完了……スタートしました!』

 

 

 

 開幕と同時に私は駆け出す。

 誰よりも速く、誰よりも力強く。

 

 そもそもの地力が違う。

 そこのところから先ずはっきりさせてやろう。

 

 

 

『これは……大外18番キュウセイナイト。パープルシャドウの勝負服。

 意外な娘が先頭を取りました。

 

 続いて1番マルゼンスキー、お馴染み真紅の勝負服です。

 少し離れて先行集団にシンボリルドルフ。

 

 …

 …

 集団内にサイドテイル。

 その後ろを6番ゴールドシップ。皐月の重役出勤を今日はお預けか。

 

 …

 …

 さあ速くも先頭が第1コーナーに差し掛かった。

 先頭は変わらずキュウセイナイト。その内後ろにマルゼンスキー。

 

 意外なレース展開になりました。

 果たして速駆けの騎士はどこまで駆けるのか。

 ……シービーさん?』

 

『……おかしい、速すぎる』

 

 

 

 へぇ、くっ付いてくるんだ。

 喜べ、サイドテール。こいつは今日落ちるかも知れないよ。

 

 内から切り込もうとするマルゼンと鍔迫り合いをすることも考えたが、それはまたいずれ。

 尤も次の機会があればだけど。

 

 

 第1コーナーに入りさらに私は加速を始める。

 それは内から抜けようとしたマルゼンを外から強引に振り切る形となる。

 

 これが地力の違い。

 そしてこのレースの最初で最後のコンタクトだ。

 

 

 

 

『……マルゼンスキーはトップスピードのはず。

 それを悠々と突き放しに来てる』

 

『ああっと!徐々に差が広がる!!

 場内は大きなどよめき!しかしこれは最後まで持つのでしょうか?』

 

『分からない。分からないです。

 けど、あの加速力ならスプリント方面でも活躍はできるでしょう』

 

 

『先頭がそのまま第2コーナーに入りま……え、

 な、何が起きてる。何が起きてるんだ。

 

 加速です、まだまだぐんぐん……加速、加速してますキュウセイナイト!!

 

 なんなんだこのウマ娘はぁぁぁああああああ!!!』

 

 

 

 東京競馬場の直線は長い。

 景色を眺めるにはちょうどいい。

 

 巷では『領域』だの『ゾーン』だのに入るにはうってつけのコースとか言うこともあるみたいだけど、私から言わせればただのオカルトだ。

 

 強さだの速さだの、結局体に身に付く物が全て。私はそう覚えてしまったよ。

 

 

 

 

 だから嫌いだ。

 『走る事』が。本能では喜び、歓喜を感じている自分が。

 

 俯瞰的に自身を顧み見ると、さらに嫌気が差す。

 

 

 

 それでも…それでも走らないと、絶望を与えられない。

 

 どうしようも無い位に大っ嫌いなのだ。

 『走る事』に全てを賭けてしまうような輩が。

 

 何よりもそいつら全員に絶望を与えないことには

 

 

 

--私の気が収まらない

 

 

 

 

 ……ああ、ホントどうしようもない。

 負の螺旋階段の出来上がりだ。

 

 

 

 

『落ちない、落ちない、スピードが全く落ちない!後続との差は広がる一方!

 誰だ、この世代を2強と言ったのは! 誰だ、世代最強三本勝負だなんて口にしたのは!

 

 いや、口では無い。

 走りで語っているのか、パープルシャドウの悪魔は!』

 

 

『なに、この娘……化け物よ』

 

 

『観客席もこの圧倒的な光景に呑まれている様子です。

 ただただ歓声は無く、どよめきと混乱が渦巻いております』

 

 

 

 高尚な理由なんてない。

 これはただの嫌がらせ。

 

 だからごめん、巻き込んじゃって。

 そしてくたばれ、走るだけの有象無象。

 

 

 

 

『2番手マルゼンスキー、懸命に追いかけるも差が縮まらない。

 スーパーカーはフルスロットルだが、今日は追い付かない。追い付けない。

 

 いや、落ちてる、落ちてきている!

 第三コーナーに入って捕まってしまった!

 

 入れ替わるような形でシンボリルドルフが出てきた!

 それでも、それでもほかのウマ娘達には負けられない!

 

 マルゼンスキー、シンボリルドルフ以外のウマ娘をシャットアウト、意地を見せる!

 

 いや、外だ、外からあいつが来た!黄金船、ゴールドシップ!

 皐月の内側、荒れた航路ではない。遠周りの新航路、外から捲って来た!

 流石にこれはマルゼンスキー、チェックできない!

 

 しかし……しかし、これはあまりにも圧倒的すぎる……』

 

 

 

 後続なんて居やしない。

 後ろからの雑音何て遠すぎて埒外。

 

 今聞こえるのは観客席からの絶叫と、私の嘲笑い(わらい)声だけだ。

 

 

 

 

「いひ、……ヒヒヒッ

 

 ……いひゃハハハハハッ!!!

 

 

 

『嘲笑うかのようなキュウセイナイトの笑い声!!

 

 シンボリルドルフ、次いでゴールドシップが最終コーナーを回るも先頭は遥か先っっ!!』

 

 

 

「「キュュュウセェェェェナイトォォォオオオオオオ!!!」」

 

 

 

『無情にも、無情にもキュウセイナイトが、今、ゴールしました!!

 おや?ゴールしたキュウセイナイトが笑顔で両腕を……あーっ!!』

 

 

 

 流しながら顔を上に向け、両腕を突き上げての万歳……では無く、中指を突き上げる。

 全てのレース関係者と……天に向かっての『×××× you』

 

 

 いるかどうかも分からない三女神。

 私に走る力をくれてありがとう。そしてくたばれ。

 

 

 

--日本ダービー

東京 芝 2,400m 良

 

1着 キュウセイナイト レコード

2着 シンボリルドルフ 大差

3着 ゴールドッシップ 2バ身

4着 サイドテイル   7バ身

5着 マルゼンスキー  ハナ

 

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