最高に気持ちが良かった。
どいつもこいつも蹴散らしてやって、絶望を与えて。
観客もそこに含まれているのは当然のことである。
また、思った以上に連中の精神が脆弱だったのはいい誤算だった。
個人的にはサイドテールみたいに歯向かってくるものだと思っていたが、肩透かしを食らった気分だ。
潰れるならこのまま潰れてしまえ。
這い上がるなら……まあ機会があったら相手ぐらいしてやるよ。
今は眼中に無い。
さて、次はウイナーズ・サークルで写真撮影かな。
流石に中指は勘弁してあげる。
悠々と負け犬どもの脇を抜けて勝者のお立ち台に向かって行く。
バ声は止んだみたいだけど、未だにどよめきの収まらない会場の空気は、やはり最高にいいものである。
向こう関係者はかなりびくついた様子であったが、黙っている私の様子を見てほっとしたのか、手際良く渡すものを渡したらどっかに行ってしまった。
通常だと関係者を交えた写真撮影などに時間を割かれたりもするのだが、これではウイナーズ・サークルにお集まりいただいた皆様の期待に応えられない。
うん、閃いた。
中指は勘弁してやるからニコニコ立ってて質問が飛んで来たら正直に答えてやろう。
後で開かれるインタビューとは別にこの場ですぐ回答して差し上げよう。
なーんて思っていたのだが、誰も私に話し掛けてくれない。
それどころか写真だってかなり控えめな態度で取ってくれている。
まあうざったいよりは全然いいんだけどさ、なんか物足りない。
「……歪んでる」
聞こえたよ
いいね、いいものが引っ掛かったね。
「お姉さん、大正解」
「!!……どういうつもり」
「ちょっぴり暇つぶしに勝手な受け答えをしようと思って。
お姉さんになら正直に話してあげるよ」
「……あなたにとってダービーとは」
「足の速いウマ娘を決めるちょっぴり偉そうなレース」
「ウマ娘とは」
「有象無象」
「……ありがとうございます。インタビューを楽しみにしています」
それだけ言ってお姉さんは行ってしまった。
多分私の回答が余ほど気に入らなかったのだろう。
濃い悪意がプンプン匂ってきたからね。
敏感なんだよ、そう言うのには。
さて、今度は楽しい楽しいインタビューの時間である。
ばっちり、なんでも答えて進ぜましょう。
隣のチーフTもいつもの笑顔だし、この人がストップ掛けないようであれば特に自重する気は無い。
「毎潮新聞です。ダービー1着先ずはおめでとうございます。
2、3簡単に伺います。率直に今の感想をお聞かせください」
「ダービーが獲れて嬉しいです。あ、本心ですよ」
「続けて。ではなぜゴール後に中指を立てるような挑発的な行為を行ったのでしょう」
「嬉しかったからですよ。2強を圧倒的な実力でねじ伏せることができたのが。言うなれば興奮状態にあったってことですね」
早速ざわつき始める。
しかし隣のTは微動だにしない。つまりは余裕ってことか。
いいよ、どんどん行こうか。
「挑発的な意味合いがあったと?」
「もちろん。じゃなきゃあんなことしませんって」
「……ありがとうございます」
『ほかにご質問のある方……』
「にっぽんtVです。2つ質問です。
2強、マルゼンスキーさんとシンボリルドルフさんへの感想は?」
「有象無象達と何ら変わりない。それだけです」
「強かった、とか、リスペクトするといった感情は」
「全く皆無です」
ざわつくと同時にシャッター音も増してくる。
私もTも何食わぬ表情でニコニコ顔。
私はともかくとして、このTも中々の剛の者と思われる。
「週刊ババ野郎です。
失礼ですが、今回のダービーに至るまでのレースは全て手を抜いたものだったのでしょうか」
「力をセーブしていたっていう意味では事実です。
しかし今回のダービーのために、どのレースも全力を以て臨んでおりました」
「力を抑えていたのに全力、とは?」
「言い方を変えると、クッソ真面目に手抜きをしていた、ということです。
じゃなきゃセーブしてることなんてすぐ皆さんにばれてしまいますから」
「な、なるほど。全力で演技をしていた、ということですね。ありがとうございます」
正直、ドン引きれるような本心で語っているから、中々刺激的な展開となり得ない。
だって、記者達が聞き出そうとしてることを、あっけなく話してしまっているのだから。
と、思ってたら、中々刺激的な質問が飛んできた。
「月間トゥインクルです。この後のウイニングライブは
かなりざわつき始める。
「あのトゥインクルさんが……」「大分踏み込んだな」と言がちらほら聞こえる。
というか先ほどのお姉さんである。
うん、このお姉さんにはサービスするって決めてたから、ばっちり答えてあげよう。
「ライブは全力です。持ち得る技術を総動員して最高のパフォーマンスを行います。
そっちの方がお客さんも困惑しますし、何より一緒に出る面子を一層引き立て役に使えます」
瞬間、空気が冷えた。
もはや負けた奴の追い打ちをここまでするのかといった具合の空気である。
「純粋に、声援をくれた方への感謝と、ダービー関係者への敬意は無いのでしょうか!」
「ふふ、分かってて聞いてますね。なのでお姉さんからの質問はサービス心満載で答えてあげます。
『私という汚点を見に来てくれてありがとう。
だから歌って踊って最高のパフォーマンスを魅せてあげる。感謝してくださいね』
こんな気持ちです。
要するに感謝はすれど、敬意などない、ということです」
「……興奮してしまい申し訳ありません。ご回答、ありがとうございます。
最後にもう一つ、よろしいですか」
気落ちした様子だった。
そんな状況でも質問したいことがあるとは、何だろう。
他の会社にも答えないといけないが、どうせ似たような回答になるし。
だったらお姉さんの質問に答えて締めとしたいかな。
「トゥインクルさんからの質問を最後にしていただけませんか?
多分ほかの会社さんも似たり寄ったりの内容になると思うので」
『……はい、かしこまりました。
それでは皆様、申し訳ありませんがトゥインクルさんの質問で打ち切らせていただきたいと思います。トゥインクルさん』
「ありがとうございます。
最後に、次のレースの展望を教えてください」
「ふむ、レースですか。
色々実は検討しておりまして。
各G1レースに出走して、1つずつ、レコードを塗り替えていくか。
はたまた目先の菊花賞で2冠(笑)を達成するか。
大まかな方針としてはこんなところですかね」
「私からも情報を追加提供させてもらってもよろしいですか?」
「あれ、チーフT。他にあるの?」
『担当トレーナーさん、ぜひお願いします』
「ありがとうございます。
私から追加することはさらに2つです。
1つは、今後全てのレース出走を見合わせること。
自身を鍛え直させるための特訓期間を設けたい、ということです。
キュウセイナイトの言葉を言い換えてしまえば『もはや敵などいません』ので、レース戦線から距離を置き、学業等に専念させるということ。
協会の方も果たしてすんなりと我々をレースに出走させてくださるか、懸念がございますしね。場合によっては引退という道もあるのかもしれません」
中々刺激的な答えじゃないか、トレーナー。
でもま、これは可能性が限りなく低いダミーだろう。いや、ありっちゃありかもしれないが。
本題は次だろう。
「もう1つは……『世界挑戦』です」
今回のインタビューで一気に騒がしくなった。
「マジか」「いや、あのタイムなら」と驚愕と、ある意味納得したような言動が聞こえてくる。
しかしなるほど、その手があったか。
というか消去法で行くとそれしか残らないこともあるのか。
野球で例えると、日本のプロ野球で問題を起こしたそこそこ通用する選手が、ほとぼりを冷ますため隠れ蓑で海外挑戦を行う、的な。
なるほどなるほど。
ただ残念なのは私がそんなに海外事情に詳しくは無いということ。
その辺、Tは調べていたのだろうか。
「ど、どのレースを検討しているのでしょうか?」
「英国のレースですかね。7月にある大き目なレースに出走できればと」
「英国で7月……まさか、『
「構想段階ですがね。追加出走で行けるはずかと」
インタビュー会場が今日一番で沸いた。
「と、ととと言うと、あ、あ、あの、さ三連覇中のウマ娘に挑むことが、視野におありですか!!!」
「ええ。現世界最強と言われている彼女、『ブレイクル』さんですね。
もちろん、構想段階ではありますが。挑む気概は十分にあります」
ふーん。世界最強ねぇ。うん、どうでもいい。
ただ海外って言うのはちょっと面白そうかも。
『キングジョージ6世』なら私でも知ってるレースだし。
いいね、いいね。ダービーの次はもっと国内を荒そうと思ったけど、先に海外を荒しちゃいますか!
「チーフT……私、海外旅行初めてなんだよね」
「そうでしたか。ではパスポートの申請をしておきましょう」
翌日、どの紙面でも一面を飾ったのは言うまでもない。