YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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3話

 2月。

 世間ではバレンタインだなんだで騒がしい時期であるが、生憎うちの学園にはそんな軟派な行事は無い。なんせ学園に集まる輩は皆華の乙女。『A組の○○君、かっこいいよねー』などと言った会話は存在しないのだ。

 

 ただまあ、どこそこのTが誰それのウマ娘OGと結ばれただのウマダッチしただのという会話は聞こえてくるのだが。聞く度に私はこう思うわけだ。

 

 私だって乙女乙女したい!

 

 

 

「サイドテール先輩は何をおっしゃいたいんでしょうか?」

 

「いいかねナイスネイチャ君。私だって華の十代。つまりは思春期 THE 乙女。

 彼氏彼女のキャッキャウフフに憧れる年頃でもあるのだよ」

 

「(小学生相手に何言ってんだコイツ)彼氏でも欲しいんですか?」

 

「他人の純粋な恋バナが聞きたい。それで色恋に悶える姿を見て鼻の下を伸ばしたい」

 

「(うわぁ)うわぁ」

 

 

 

 ドン引きである。目の前のモフツインがかなり後ずさりした。

 いや、引かれることぐらい分かってる。でもさ、ここ数年特訓にカマかけて色恋話などする相手、たまに来る先輩達位としかしなかったわけだから結構飢えているのだ。

 

 しかもあいつらちゃっかり彼氏なんて軟派なものつくりやがって無自覚にマウント取ってきやがるものだから、こちとら『はいはいご馳走様ご馳走様(憎)』と話を聞くことしかできない。

 

 そこで最近できた後輩である。

 この際、私のサンドバックとなってもらおうと考えたのだ。

 

 つまり本音は小学生らしい、かわいらしいお話に癒されたい。

 

 

 

「ほら、甘酸っぱい恋バナプリーズミー、プリーズミー」

 

「しませんよ!」

 

「ん、ターボならあるぞ」

 

「「え」」

 

 

 

 え……え?

 

 

 

「ターボな、好きな男の子がいたんだー。だからその子を放課後呼び出して『好き!』って言ったんだ。

 でもな、その男の子慌てた感じで『きょ、興味ねーし!好きな人とかいねーけど、興味ねーし!』とかなんか言われてて逃げられちゃったんだ」

 

「ど、どうしてお好きになられたのでしょう?

 というか逃げ出すとか酷くないでせうか?」

 

「でもちゃんとした返事はもらったぞ。うん、やっぱりその子が優しかったからかな。

 その時は逃げられちゃったけど後から手紙をもらったんだ。

 色々書いてあってあんまり覚えてないけど

 『急に言われても分かんねー。だけど一番に走ってる君は大好き』て見つけてな。

 だからターボはいつも全力なんだ」

 

「ターボは今でもその男の子が?」

 

「んふふー。秘密ー」

 

 

 

 すみません、誰かコーヒーお願いします。

 後この可愛い生き物のラッピングもお願いします。

 

 

 

「こんにちはー、ってあれ。ネイチャ、どうしてターボがモフラれてるの」

 

「このこの。愛いやつめ、愛いやつめ!」

 

「なんで、なんでー!? サイドテールー、止めろー!」

 

「これはターボが悪い」

 

「?まあいいや。それより見て見て、今度の阪神大賞典の特集。

 やっぱりハヤヒデさんとブライアンさんの姉妹対決がフォーカスされてるっぽいよ」

 

 

 ターボを愛でていた私であったがその手を止めた。

 テイオーが持って来てくれた月間トゥインクルの記事に目を通すとなるほど。確かにそこには後輩達の名前が書き綴られている。

 

 

 

「で、わたサイドテイルさんの名前はいずこに?」

 

「欠片も見当たらないね。

 他にはタマモクロスと、後ライスについて触れられてるよ。

 特にライスはブライアンへの雪辱に燃えているっぽいのがインタビューの節々から感じられるよね」

 

 

 

 ライスシャワーという後輩は昨年の菊花賞でナリタブライアンに僅差で敗れているしね。

 

 普段こそか弱く見えるライスだが、ここぞという大一番。それも長距離でこそ真価を発揮するからやっぱり強い。

 

 そんな娘を力で捻じ伏せたんだからブライアンもやるわ。

 

 

 

「すごい面子よね。私なら絶対出走回避するわよ。

 というか言っちゃあなんだけどサイドテイル先輩ってこの人らと渡り合える実績ってあるの?確かに練習だけ見てたら恐ろしい量こなしているのは分かるけど」

 

「レース実績で言っちゃうと張り合えるものなんて無いわ。

 でもね、あんたが言ったように勝てると思えるほどのトレーニングは積んできたつもりよ」

 

「そうそう、サイドテールは凄いんだから!」

 

「なんでテイオーがドヤ顔してるかは分からないけど。

 でもそこまで言うんだったら期待してますよ」

 

「後輩達にいいとこも見せてあげなくちゃね。期待して見てなさいな」

 

 

 

 さて、今日も練習練習。

 色恋事より目先の後輩()に先輩の威厳を見せつけてやりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月中旬

阪神大賞典当日

 

 

 『姉妹対決』『菊花のリベンジ』『稲妻の凱旋』など、中々大きな扱われ方をしている今回のレース。そこに私の名前は出走登録者としてしか載っていない。

 

 そんなものだ。

 私の実績なんてクラシック期にちょっと頑張ってたウマ娘、ってレベルのものだから。

 

 同期のどの娘にも真っ向から勝ったことのない。

 マルゼンスキーより速かった時だってあいつのお情けで勝たせてもらったもの。

 

 結局どこにでもいる、ただの重賞未勝利ウマ娘。それが今の私だ。

 

 

 

「凄い、これが重賞の空気」

 

「あんたらもいずれ走ることになるんだから、今の内雰囲気だけでも味わっておきなさい」

 

 

 

 少し不安な気持ちを紛らわすために後輩達に声を掛ける。

 何よりこいつらの前でビビった姿なんて見せたくない。これは私の意地だ。

 

 本当は凄く不安なのだ。

 稀に出走したレースは()調()()ではない状態だったから自分にまだ言い訳ができたけど、今日はそうはいかない。

 

 

 体調は万全。

 しかし気持ちが落ち着かない。

 

 

「サイドテイルさん、どうしました」

 

「……何でもないわ。ただ今日走る後輩達の様子がちょっと気に掛かっただけよ」

 

 

 

 一筋縄じゃ行かないわね。

 いざ実際にあの娘らを見ていると尋常じゃないくらいにギラギラしているもの。

 天・春の前哨戦とはいえ、入れ込みが半端ではない。

 

 何があんたらをそこまで搔き立てるのか。そもそもあんたら全員出走当確ラインでしょうな。

 

 

 ……私以上にプレッシャーを感じるウマ娘なんておかしいでしょうが!!

 

 

 

「ったくどいつもこいつも余裕が無いわね。

 私以上に余裕がないウマ娘なんていやしないのに」

 

「(折り合いが着いたようですね)ええそうです。

 あなた以上に追い込まれている娘そうはいません。尤もその状況は自身で作り上げてしまったものですがね」

 

「そうよ。全くもって自業自得だわ。私が負ければ、だけどね。

 さ、あんた達。さっさと控室に向かうわよ」

 

 

 

 ここで生意気にもギラギラしてる後輩達とバチバチするのは、チームの娘達の教育上よろしくないし。さっさとずらかりますか。

 

 インタビューを受けているギラギラの後輩達を尻目に、私達は控室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐らくあなたのことです。今日のレース運びについてある程度算段は着いているでしょう。

 だから敢えて言います。先行しようが追い込もうが『相手をねじ伏せてきなさい』」

 

 

 

 あの優男が無茶苦茶強気なことを言ってきた。

 他の3人も唖然としている。おそらくこういうタイプだと思っていなかったのだろう。

 

 付き合いの長い私はそれほど驚いてはいない。

 それとなく言い方も、私を初めて見出してくれたチーフTを意識してのものだと予想が着いた。

 

 

 いいね、分かってるじゃん。

 今私が欲しかったのは慰めの言葉なんかじゃなくて、テンションを上げていくようなバチバチした激励だ。

 

 

 

「了解。先輩風吹かしてくるわ」

 

「その意気です」

 

「サ、サイドテール」

 

「あん。どしたのよ」

 

「えっとさ、その、……頑張れ!」

 

「珍しいわね、素直に応援してくれるなんて」

 

「ぼ、僕だってそりゃ勝ってほしいよ!同じチームの一応先輩だし、その……だし……止め止め!、とにかく1着だよ、1着!」

 

「ターボも応援してるぞ!」

 

「愛いやつめー、このこの」

 

「だ、だから頬ずりはヤメロォォおおお!」

 

「締まらないわね。でも、ネーチャさんも応援してるから、頑張ってチームの評価を上げてきてね。相対的に私の評価も上がると思うから」

 

 

 

 なんだか懐かしい。

 

 こんなに和やかでは無かったが、あいつともレース前にはくだらない話を交わして。

 苦笑いをしてるサブTがいて、悠然とチーフTが構えていて、先輩らがポジティブな声を掛けてくれて。

 

 後さテイオー。あんたが濁した言葉、ばっちり私の耳には届いていたからね。

 それに多分だけど、後輩’sにも聞こえていたと思うよ。

 

 

 

『その、憧れ(……)、だし』

 

 

 

 ウマ娘の聴力忘れんなし。

 でもま、気合は十分入ったかな。

 こいつらにも先輩風吹かせたいしね。

 

 

 

「じゃ、行ってくるわね」

 

「ええ。ただし、無理は禁物です」

 

 

 

 分かってるっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『久々の出走9番人気、12番サイドテイル。

 これは、凄く気持ちが乗ってそうな表情をしております。

 すでに掛かり気味。いや、何か決意の現れなのでしょうか』

 

 

 

 ただただ悠然とこの後のレースを迎えるだけ。

 やるべきことは観客へのアピールではなく、生意気な後輩達への宣戦。

 

 お前らの目には、一体誰が映っている?

 交わす言葉なんて何もない。全てはレースで分からせてやる。

 

 

 

『いやに不気味です。もしも一波乱起こるなら、彼女が起こすかもしれません。この世代は怖いぞ』

 

 

 

 パドックでの紹介を終え早々に通路に向かう。

 今回のレースはゲート割れがあり、私の紹介が最後であった。

 

 そこから係員に誘導されターフに繋がる通路に入る。

 ここから先は出走者のみが歩んでいく道である。

 

 

 静かな道中だ。

 私の歩む音と、息遣いしか聞こえない。

 

 

 

「よお、三冠ウマ娘。シニアの洗礼見したるわ」

 

「ほう、面白そうだ。姉貴、洗礼してくれるってよ」

 

「私もお前に洗礼する側なんだが。……有マじゃ足りなかったか?」

 

「フゥゥゥゥゥ……!」

 

 

 

 ああ、いつ見てもいいな。

 ギラギラしてるウマ娘達っての言うのは。

 

 

 挑発する者、受ける者、便乗する者、張り詰める者。

 

 

 

 

「失礼」

 

 

 一言、ただそれだけ声を掛けて私はターフに向かう。

 今の私に余計な言葉なんていらない。全てはレースで語ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--阪神大賞典

 

阪神 11R 芝 3,000m(右) 良 ゲート割れ(12)

 

 

 

『『姉妹対決』『菊花のリベンジ』『稲妻の凱旋』『三冠のプライド』

 凡そのレースには注目される副題が1つあるものですが、このレースに関しては少なくとも4つの副題が掲げられています。

 

 また、ウマ娘達の数だけドラマがあります。

 とりわけ、今日ここに集まったウマ娘達のドラマは特に内容が濃いものと言えるでしょう。

 

 さあ、春の長距離の王座に向かわんとばかりの血気盛んな実力派ウマ娘達をご紹介しましょう。

 

 

 …

 2枠2番 ナリタブライアン 2番人気

 昨年の三冠ウマ娘。言葉は不要。有マの雪辱をここで果たさん。

 …

 …

 5枠5番 タマモクロス 1番人気

 シニア戦線のトップクラスを走るウマ娘。シンボリルドルフ、果ては()()()()()()への挑戦状を叩きつけに来たのか。稲妻の凱旋です。

 

 5枠6番 ビワハヤヒデ 3番人気

 人気では妹に譲ったが実力までは譲れない。タマモクロスとは同期であり彼女もまたシニア戦線のトップクラスを走ります。

 

 …

 …

 8枠11番 ライスシャワー 6番人気

 記憶に新しい昨年の菊花賞。そのハナ差はあまりにも遠かった。しかし今度は離さない。研ぎ澄まされた闘志を胸に静かにゲートイン。

 

 8枠12番 サイドテイル 10番人気

 久々の出走。ここ最近はなりを潜めていましたが今日のご機嫌はいかがでしょう。

 

 

 さあ、阪神競バ場の桜も見どころを迎え春の始まりを感じるところ。果たして春一番は誰に吹くのか?』

 

 

 

 空気がヒリヒリする。隣のライスからなんてオーラを放っているんじゃないかって位に闘志が溢れている。

 

 でも甘い。こちとら研ぎ澄ました時間はあんた達より断然長い。

 その分ちょっと耐久性に難は有れど、切れ味は抜群だ。

 

 

 

『各ウマ娘、ゲート完了……スタートしました!』

 

 

 

 始まった。

 後輩達は誰も先頭を取りにいかない。流石に様子を見るか。

 何時もの私なら先頭を奪いに行くところだけど、今日は後輩達に合わせて行く。

 

 3,000mの長丁場だ。始めから仕掛けるのは得策ではない。

 

 

 

『…

 …

 ビワハヤヒデ、タマモクロス、ナリタブライアン、ライスシャワー

 

 …

 サイドテイルと続く。

 

 先頭は…だが後方までその差は殆どありません。全体的にレースはゆったりとした走り出し。集団で展開されています』

 

 

 

 最初の直線は様子見。鍔迫り合いの段階。

 まだまだ感覚を研ぎ澄ませ。焦るな。集団に紛れろ。

 

 第1コーナーに入っても形成は変わらない。

 皆も分かっている。ここがまだ勝負処ではないことが。

 

 

 

『第1コーナーから第2コーナーに差し掛かっておりますが、依然として集団に大きな動きは見られません。これはゆったりとした動き出しだ。

 

 さあ集団のまま観客席正面を迎えます。幾多のドラマを生んできたウマ娘達ですが果たして、次の直線で栄光を掴むウマ娘はどの娘なのか。ここまでのレース展開からは全く予想が着きません。

 

 おっと、集団に動きが。

 6番ビワハヤヒデです。直線でスピードを上げてきました。次いで2番ナリタブライアンが追う形。以降集団との差が広がる様相をなしてきた。

 

 いや、忘れてはいけない。

 11番ライスシャワーだ。ナリタブライアンの後ろを追いかける。昨年の菊花の苦杯は忘れてはいないぞ。そう言わんばかりの追撃』

 

 

 

 仕掛けるならここからだと思ったが、ハヤヒデのそれは本気のものでは無い。生意気にもここに集まっているウマ娘を篩に掛けるといった具合のもの。

 

 私にしてはここまで珍しく落ち着いていたと思う。よく爆発させなかったと誉めてやりたい。

 

 

 そう、先輩がいるにも関わらず篩に掛けるといったあの先行。

 これは「私に着いてこれるか」と言った完全に上からの物言いである。つまるところ私を()と認識していないという事だ。

 

 

 

 ふぅ……舐めんな!

 次の直線まで溜めようと思ったけど止めた。

 

 

 

『先頭集団は依然順位が変わらずそのまま阪神の登坂に入ります。続けて第2集団が……おっと、12番サイドテイル。外から物凄い勢いで坂を駆け上がる。

 

 この勢いはそのまま先頭集団を捉えるか、捉えるか、捉えた、捉えた、捉えた。先頭3人は虚を突かれた表情。

 

 いや、更に突き放しに掛かるかサイドテイル!

 第3コーナーに入ってもその勢いは衰えない!

 これは暴走か、戦略か。スパートには速すぎると思うが気紛れ妖精。一体何を考えている』

 

 

 

 第4コーナーを迎える。

 難しいことは考えない。先ずは失速をしない。

 仮に追い縋って来た後輩達がいたとしたら、ただただ迎え撃つだけ。

 

 

ーーここから先、私の前を走るウマ娘は存在しない。

 

 

 

『向こう正面に入って先頭は12番サイドテイル。

 5バ身離れてビワハヤヒデ。後ろにぴったりナリタブライアン。その後ろをライスシャワー。

 

 先頭を追いかけるも差が……縮まらない!サイドテイル、2週目の向う正面の直線を逃げ続ける!

 

 いや、ビワハヤヒデが追う形!その差を4、3バ身と縮める。更に2バ身、1バ身。2周目のコーナーに差し掛かろうというところで外から捲りに掛かる。妖精の独走はここで終わりーー終わらない!横に着けることを許しても前は譲らない!

 

 ビワハヤヒデも必死の形相!しかし躱せない!その差を2バ身、3バ身とサイドテイルがお返しとばかりに広げ返す!』

 

 

 

 まだまだぁ!!

 

 

 

『入れ替わる形でナリタブライアンが仕掛ける!

 

 姉を内からそのまま食らい、今度は妖精を捉えんとばかりに迫る。迫るのだが……最後の一歩が及ばない!1つ上()は超えた。しかしもう1つ(もう1世代)上は三冠ウマ娘でも届かない!有マで見た最強だけではない。この世代には妖精がいた!』

 

 

 

 足をもっと回せ、酸素を取り込め、エネルギーを燃やし続けろ。こんなとこ、限界でも何でも無い!!!

 

 

 

『観客の歓声が割れんばかりの阪神競バ場!

 いや、ライスシャワー、ライスシャワーだ!

 

 最終コーナーを迎えてやって来た最後の刺客はライスシャワー!

 

 世代は超えた。宿敵も躱した。最後に迎え撃つは怪物のいる世代!』

 

 

 

 大人しそうな表情をして誰よりもギラギラしてたのはコイツだった。

 その小さな体にどれ程の力を蓄えたのか。その執念は買っていたよ。

 

 でもね、年季が違う。

 

 

 

『後続との差を徐々に離しライスシャワー伸びる、ライスシャワー伸びる。しかし。しかし、サイドテイルに届かない!

 何故だ、何故なんだと驚愕の表情!

 

 菊花の雪辱は果たせても怪物のいる世代には届かない。

 後2バ身が残酷なまでに遠い……あーっ!!白い、『白い稲妻』がライスシャワーを貫いた!!!』

 

 

 

 ああ、来たんだね、タマモクロス。

 誰よりも。誰よりもあんたを私は警戒していたよ。

 

 初めて見たあの模擬レースの爆発的追い込みは衝撃だった。

 だからこそ、あの時から私の気持ちは微塵も振れていない。

 

 

 

ーーもっと追い込んで、あの娘らを迎え打つ準備をしないといけないわね。

 

 

 

『そのままサイドテイルを捉えんとばかりの勢い。サイドテイル、万事休すか。

 い、いや!同時にサイドテイルが一気に加速!

 

 ビワハヤヒデを撃墜し、ナリタブライアンを返り討ちにし、ライスシャワーを抑え込んだ果てに、まだ足が残っているというのか!!

 

 さあ、最後の一直線。サイドテイルか、タマモクロスか!!!

 阪神の登り坂を超えた先に栄光は待っているぞ!!』

 

 

 

去ねやぁぁぁぁぁ!!(いねやぁぁぁぁぁ)

 

 

 

 ったく。身体は小さいのに声と態度だけは一丁前にでかいじゃない。

 でもあんたらのそういうギラ着いた感情、何度も言うけど嫌いじゃないわ。

 

 でも、今日のところは私の勝ちよ。

 私、あんたのことはあの模擬レースの時からずっと待っていたもの。

 

 

 

『--ギリィッッ!!』

 歯を食い縛り、こいつのためにとって置いた最後の力を絞り出す。

 

 

 今日を走った後輩達よ、よーく覚えておけ。

 私の名前はサイドテイル!!あんたらよりちょっぴり速く走ることができる、素敵な素敵な先輩だ!!

 

 

『サイドテイル、サイドテイルだ!

 春の春雷の如く鳴り響く稲妻を真っ向から迎え撃ち、今日の妖精はどこまでも飛び続けた!!

 

 春一番。桜舞う阪神の栄冠は12番サイドテイルに吹き込んだ!!』

 

 

 

 ハヤヒデ、ブライアン、ライス、そしてタマモクロス。

 私が先頭に立ってからはただの一度も前を走らせることは無かった。

  

 くそ生意気な後輩達。

 これが『捩じ伏せる』ってことだ。

 

 

 

 

 

ーー阪神大賞典

阪神 芝 3,000m(右) 良

 

1着  サイドテイル(レコード)

2着  タマモクロス   1バ身

3着  ライスシャワー  2バ身

4着  ナリタブライアン 3バ身

5着  ビワハヤヒデ   2バ身

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロー、生意気な後輩ども。

 どうかしら、全く見向きもしなかった先輩にやられる気持ちは。

 

 ねぇ、どんな気持ち(N D K)? ねぇ、どんな気持ち(N D K)ww」

 

 

 

 まあそれはそれとして。

 今、最高に気持ちがいい。カタルシスってやつかしら、もう病みつきになりそうなくらい!!

 

 後輩達の出走前のやり取りとか、もうただの寸劇にしか見えない。

 『シニアの洗礼見したるわ(キリッ)』とか、爆笑もんですよタマモクロスさんwwww

 

 

 

 煽り口調全開で私は後輩達に問いかける。

 本来なら後輩どもの悔しそうな表情なり、涙目なりを堪能しながら更に弄り倒すところであるのだが、何故か向けられる視線は生暖かいものであった。

 

 

 

「まあ、悔しいと言えば悔しいのだが、その、サイドテイル先輩」

 

「ックク、いや、有マで負けた時くらい悔しいんだがな--ブフゥ!」

 

「ブ、ブライアンさん、笑ってはダメですよ!」

 

「あんた、仰向けのまま言っても締まらんで」

 

 

 

 サッカーでゴールを決めた時バリに膝立ちでガッツポーズをしたままターフに滑り込みそのまま仰向けになったんだけど、文字通り全力を出し尽くしてしまい仰向けのまま立ち上がれなくなってしまった。

 心配になった後輩達が私のもとに来てくれたところで煽り始めたというのが事の顛末である。

 

 

 

 うん、こんな格好だけど、後輩達を見ていたらどうしてもNDKがしたくなったのだ。

 

 

 

 だから、お願い。そんな憐憫と嘲笑うような目で私を見ないで。

 ……おいライス、人差し指で頬っぺたツンツンすんなや!

 

 あ、ブライアンパイセン、ハヤヒデパイセン、肩を貸していただきありがとうございます。

 自分、もう調子こかないんでこのままゆっくりお運びいただくとありがたいです。

 

 

 

「まあええわ。ほら、飲みもんや」

 

「……後輩達の優しさが目に染みる。後ライス君、お前後で屋上な」

 

 

 

 生意気な後輩?いや、大変よくできた後輩達である。

 ライスは後で屋……あ、ごめんなさい調子こきました。だからツンツンからヅンヅンは止めてください。

 

 この後インタビューで無茶苦茶後輩達アゲをした。




--とある葦毛のウマ娘の視点


 あいつ、やりやがった!
 後輩ネームドども抑えて阪神を獲りやがった!

 なんか最後はライスにツンツンされるのを見てて居た堪れなくなったが……それでも結果を出しやがった!


「おい、トレーナー」

「ああ、サイドテイルは天皇賞に殴り込んでくるぞ」

「あんなの見せられちまったら、ゴルシちゃんも本気と書いてマジになっちまうぜ」

「南坂から聞いたが天皇賞をステップにして、そのままあいつらにも喧嘩を売りにも行くみたいだぞ」


 忘れもしない。
 遊び抜きにしてガチで走った日本ダービー。そんな私を嘲笑うかのようにぶっち切った深紫の後ろ姿を。



「は!私らが通過点かよ。益々面白れぇーじゃねーかあの泣きべそ!!」



 一度は下を向いた。
 勝てない、どうやっても、ビジョンが浮かんでこない。
 あれには本気を出したとしても、届かない、のか?

 しかし、私が初めて折れた傍らであの泣きべそは泣いてすらいなかった。


 あいつは泣いていなくて、ただただ前だけを見続けていて、私らなんて歯牙に欠けていなくて……私らは下を向いたまま?


--火が付いたね。
 他の連中が何を思っていたかは知らねぇ。けど、結局負けたくねぇとかそんなもんだろ。

 だってよ。バ鹿にしてた奴が実は一番カッコイイ奴だったなんて。
 バ鹿にしてた方からしたら一番ダッセーと思うもぜそんなの。

 斯く言う私も同じ穴の狢だったからな。
 結局下に見てたんだよ。

 じゃあ私らは指くわえてあいつの輝きを見守っているだけかって?
 そんなわけ無ぇよ。もっと泥臭く、あいつの2番煎じだろうが今度はかっこよく動くだけだ。
 


「そうだ。あのは跳ねっ返りはあれからずっと前しか見ていない」

「相変わらずかっこいいやっちゃな、あいつは」



 あれはいい。そういう1つの『バグ』だと認識すれば腑に落ちる。
 そうすると差し詰めあいつは『ワクチン』と言ったところか?



「おい、ゴールドシップ」

「ああ、とりあえずこのレースで分かったのはあいつも進化しているってことは間違いないって事だな」

「そうだ。ただ南坂が言うにはどうも効率は悪いらしいみたいだぞ」

「あのお優しいTが言ってる事なら真に受けない方がいいぜ」


 効率が悪い=才能が無いと捉えることはできるがそりゃあ早計だよな。
 じゃなきゃこのレースで勝つことなんて出来やしない。

 才能を凌駕するほどの練習量?
 んなもん私らの世代は誰だって積んでるはずだ。


「お前も考えすぎない方がいいぞ」

「うるへー。ゴルシちゃんはロジカルでシンキングなんだよ」



 まいっか。今日のところは素直に認めといてやるよ。
 だからまあ、天皇賞は首洗って待っとけよな。
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