4月。今年も多くの新入生が中央にやって来た。
世間から言わせると入学者は減っているようではあるが、その分質が上がってきているというのが内部の見立てである。ってTが言ってた。原因は何やかんやであいつの台頭が影響しているとのこと。
そんな影響下ではあるが、我らがカノープスはすでに3名の新人を(なし崩し的に)確保しており、今後注目すべきチームと何かと話題にも上がりつつある。
尤もその最たる理由はトウカイテイオーの所属が正式にカノープスに決まったからではあるのだが。
目の前で得意気に記者のインタビューに答えている姿を見てテイオーがそれほどまでの注目株だということを改めて思い知らされた。
「するとテイオーさんが所属するに持って来いのチームなんですね」
「うん、トレーナーも元は実績がある人だし。サイドテールがこの前の阪神大賞典で力のあるウマ娘達を抑え込んだ事からも裏付けはあるしね。
寧ろ早い内にこっちから内諾が取れて良かったとさえ思っているよ」
但し私は『お前誰だ』と盛大にぶちまけたい。
何だこのいい子ちゃん過ぎる回答をするクソガキは。私の知ってるテイオーじゃないわ。
「サイドテイルさんですか。彼女もまた立派なウマ娘でしたね。後輩達に支えられながらお立ち台に向かって、自分の事を話すより後輩達のことについて素晴らしかったと受け答えしていましたからね」
ぬふふ、頂戴頂戴。もっと頂戴そういうの。
「プクク。記者さんあれにはオチがあってね、ンフ。
支えられる前にサイドテールが先輩らを盛大に煽ってたみたいなんだけど、あまりにもその姿が間抜け過ぎて、哀れみから運んでもらったみたいだよ。
サイドテールもそんな自分が情けなさ過ぎて『ありがとね、ありがとね』って結局お礼を言いながら涙目で運ばれてたみたい。ソースはライス」
「テイオォオオオ!あんたもう、テイオォォオオオ!!
なんて事ぶちまけてるのよぉぉぉおおおお!!」
完全に油断した。やっぱりこいつはマジもんのクソガキだ。あとライスは絶許。
「あ、あの、サイドテイルさん。大変申し訳ないのですが、その話については記者の間では大分ネt……話題になっておりまして。正直知ってる人は皆知っておりますのでその、お気になさらず(正直テイオーさんから裏付けもいただけたし、思わぬ収穫だった)」
「ぐ、ぐぬぅぅぅぅぅ。そ、ソースは」
「すみません、黙秘いたします」
「良かったねサイドテール、これで注目度アップだね♡」
「」
あんまりだ。阪神大賞典の勝者だぞ私は。
名だたる後輩どもを捻じ伏せた先輩ウマ娘だぞ。カリスマだぞ。
それがこんなネタ娘扱いなんて、あんまりじゃないかぁ。
畜生、見てろよ。春・天で目にもの見せてくれるわ。
「サイドテイルさん心配しないでください。
正直ネタ的にも美味しいですが、実力は本物だと言う事は当然理解しております。
あのレースをフロックという輩はそうそういませんよ」
「畜生、ネタの扱いさえ無ければ素直に喜べるのに。
……でもまあいいわ。天皇賞でその扱いさえも間違いだったって事に気付かせてあげる」
「それはまた、大きく出ましたね」
「フフン、これでこそサイドテールだね」
「あんたは調子に乗らない」
「いぎゃぁぁぁぁああああああ!
油断したぁぁぁぁぁああああ!」
怒りの頬抓りである。
安心せい、跡は残らんぞい。
「本来ならテイオーさんについて話を聞く予定でしたが、思いの外面白い話を聞けました」
「しっかり記事書いといてね。後悔はさせないわよ」
「流石に私如きが独断で決めることはできませんが、いちファンとしては本格的に応援させていただきますよ」
「まあそんなものかしらね。引き続き感謝祭を楽しんでね」
そうそう、今日は4月のファン感謝祭の日でもある。
4月上旬。
ちょうど大阪杯が終わった頃で皐月賞が始まる前辺りに、毎年学園ではファン感謝祭が開催される。
私はというとカノープス名義で出店を行っており、その傍らでインタビューに受け答えを行っていたりする。殆どテイオーについてのインタビューが多いけど。
学園にあるいくつかの入り口付近に並んでいる出店群の中で、クレープを売っている屋台があったらそこが私らの屋台だ。
「ネイチャ、人参とハムレタス2枚ね」
「私ら入学したばっかりなんですけど、なんで主力級の働きをしてるんですか!
……とりあえず一丁上がりで。ターボ、商品受け渡しよろしく」
「ほいきた!人参ハムレタス出来立て2枚お待ち!」
主力は私、ネイチャ、ターボの3人。Tは会計兼裏方に専念してもらっている。
ちなみにテイオーはまた別でインタビューを受けている模様。
おかげさまでそれなりに盛況である。作業効率も私の手際がそこそこいいからか、割と順調である。この手の作業は先輩らがいた頃に叩き込まれたので結構得意なのだ。日はく、料理の1つや2つ、女として覚えておいて損は無いのだとか。
今回の出店に伴って後輩'sには阪神大賞典が終わった直後から技術継承に取り組んでもらった。
明らかに力を入れるところを間違っているように思えるが、走るだけが楽しみでもないから。こういうイベントもぜひ楽しんでもらいたいものだ。私だって後輩のためにそれ位は考えるのである。
ちなみに、あいつもこういう料理系統の作業は得意だった。結構好んで料理をするみたいで、割と楽しそうに作業に取り組んでいたのを覚えている。
「ふふふ、ネイチャ。割と楽しんでるでしょ?」
「ま、まあそれなりに家庭の事情もありますし? 結構楽しんでるって言うか」
「ターボは楽しいぞ!」
「このこの、あんたらはいちいち反応が可愛いのよ」
「ちょ、あたしを巻き込むなっての! ターボ、ってにゃろう逃げたか!
ちょ、せんぱ、ってやめるぉぉおおお!」
「モフツインめ。モフモフしてるからいけないんだ。……さて、手を洗ってくるかな。T、ちょいと任せた」
「ちょ、ばっちいみたいに言うなし!」
「食品扱ってるんだからしょうがないでしょ。休憩がてらちょいと離れるわ。
後ターボ。もう弄らないからこっち来なさい」
「うーっ。本当か?」
「わり、うそ。あんたやっぱり可愛すぎ」
「なんでぇぇぇえええええ!!?」
こいつが可愛すぎるから悪い。
多分将来南坂Tも落とされる時が来ると思う。なんかそんな気がする。
さて、とりあえず強引に一段落付けた訳だけど、ちょいと顔を出しておきたかった奴がいるのだ。
次の天皇賞、私らの代でもう1人出走予定の奴がいるわけだし、そいつにも顔出しておかないとね。
目的地はチームスピカの部室。
ゴールドシップと巨漢Tにもごあいさつ、しとかないとだしね。多分出店で忙しいと思うけど、ワンチャンどっちかは部室にいるかもだし。
そんな軽い気持ちで来たわけなんだけど、どうにも間が悪かったらしい。
緑の耳当てをしたウマ娘が『あいつ』と対峙していた。
「あなたが世界で1番速いウマ娘なら、レース中に
あいつの顔はそれはもう、嫌らしい笑みで歪んでいた。
「ふーん、そっかそっか。そう表現されることもあるのね」
「!あなた、やっぱり」
「勘違いしないで。私はその手のオカルトを全く、全然、クソ程も信じていないの。
残念でしたー」
「この、バ鹿にして「でもね、その手の話をした輩については凄く虐めたくなるタチなの」
「……へぇ」
「あんた、次出るレースは?」
「宝塚記念」
「あんがと。
「その喧嘩、買いました」
思ったね。先越されちゃったって。
ーーとある『夢喰らい』なウマ娘の視点
クラシック戦線で猛威を振るったと言われたウマ娘を有馬で捻った後の話だ。
ドバイへの『観光』も終え、海外への知見をさらに深めたなーと感じていた頃合い。チーフTが新たな情報を仕入れてくれたのだ。
「どうにも、スピカに面白そうな娘が入ったみたいですよ」
「スピカ……ああ、巨漢Tとこの」
「そうです、ゴールドシップさんのいるとこです。あそこは下の代にもいい娘が入ってきているので、多分強くなりますよ。とりわけブライアンさんの世代のウマ娘なんですけどね、その娘のポテンシャルが中々の物でして」
「まだ潰し切っていない娘がいたんだ。でもそれって、結局ブライアン程度でしょ?」
「まあそうなんですけど、中々に面白そうな娘で。あなたの大好きなオカルト信仰が強そうな娘なんですよ」
「それを先に言ってよ。そういう輩は真っ先に潰そうって決めてるんだから」
基本的に弱い物イジメ中心にレース界隈を盛り下げることに定評がある私だけど、オカルト信仰者には特に厳しい。
決まってそいつらは『走る事』に狂った輩なのだ。反吐が出る。
故にそいつらには決まって屈辱的なレース展開で全否定することと決めている。
高尚な理由なんて無い。これはただの嫌がらせ。
とりわけ私の食わず嫌い的な部分の強い、嫌い中の嫌いに対する対応である。
そしてそういうレースだからこそ、私が輝くことをこのチーフTは良く知っている。
どうしようもなく大好きなのだ。レースに賭けるウマ娘の強い思いを踏み躙ることが。
私のそういう部分を知っていて情報を回すのだから、このTも相当なろくでなしで、私の良き理解者である。
「学園のファン感謝祭の時に煽りに行くかな。多分乗ってくるでしょ、巨漢Tのウマ娘なら」
「そうですね。しかし、地道にプチプチ潰していった甲斐がありました。
学園内や中央のウマ娘達は相変わらずですが、社会一般的な視点からはマンネリ化が進んでいるように思われており、ナイトさんが台頭する前ほどの盛り上がりは徐々にですが無くなりつつあるようです」
「自分の推しのウマ娘が、舐め切った態度のヒールにずーっとやられ続けていたらね。
それも一縷の望みも無いような負け方で定型化されたら、観てる側としては飽きと遣る瀬無さが湧くよね」
「過去のウマ娘は、ブレイクルさんを始め、全員がレースその物を純粋に楽しんでいましたからね。そこに憎しみは一切ない。観ている側としても『熱』が入る。
ですがあなたはレースその物を楽しんでいない。そこにある強い思いを踏み躙ることに楽しみを見い出している。ええ歪んでいますね。私もですけど」
「じゃないと走れないし。本当は今すぐにでも止めたいよ。『走る事』何て昔から大嫌いだから」
「苦労を掛けます」
いいよ別に。
そう声を掛けて私はファン感謝祭の日を迎えた。
ーーこんにちは。私は世界で1番足が速いウマ娘だけど、サイレンススズカってあんたかしら?