YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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6話

 感謝祭も終わり、ひたすらに天皇賞まで自分を苛め抜く毎日が始まった。

 

 後輩達がドン引くような時間走り続け、はたまたドン引くような大きさのタイヤを引き、その上で後輩達3人が代わる代わる私と併走をするという、「お前何で動けてるの?」的な練習である。

 

 確かにキツイっちゃキツイが、正直併走は楽しい。

 今まで併せて走る面子がいなかったから、年下とはいえ一緒に走るのはとても気持ちがいい。

 

 何より私を出し抜こうとするから堪らない。

 年齢差なんて関係無ぇとばかりに前に出ようとするから張り合いがある。

 

 サシで走った場合いい感じに勝負するのはテイオーだけど、2対1、3対1で向かって来た場合は3、4割の確率でネイチャが2着に入ってくる。こいつは駆け引きが上手い。

 

 但し一番相手しててしんどいのはターボ。

 初っ端だけでも本気の私と競るとか、現段階で加速力は化け物クラス。

 スタートダッシュが上手くなってスタミナが着いたら立派な逃げウマ娘になるわあれ。

 

 本当、スタミナが付いたらやばいよ。うん、付いたらいいなー。

 

 

 

「くっっっっそぉぉぉおおおおおおお!!

 また負けたぁぁぁああああああああ!!」

 

「まだまだあんたらに抜かれるわけにゃいかないわねぇ。

 ほら、テイオーもあの二人が倒れ込んでる場所へお行き」

 

「も゛う゛い゛っ゛ぼん゛」

 

「ったく誰に似たんだこの負けず嫌いめ。T、言ってやって」

 

「テイオーさん。ここはまだまだ無理するところではありません。

 しっかりと身体を作ってトレーニングを積めばサイドテイルさんなんて目じゃありませんよ」

 

「う゛ん゛!」「おい」

 

「ただでさえあなたは足回りが脆いんです。

 今は無理せず。飛躍のためにしっかり休む時は休みましょう。さ、これを」

 

「わーい!」

 

 

 引導を渡したというか、ハチミーなるくっそ甘い飲み物を3つ渡してネイチャとターボが倒れ込んでる場所に駆けてった。

 

 飲み物一つで上機嫌になるのだからクソガキである。

 

 

 ちなみにテイオーの足回りが脆いのは本当。

 入学後の身体チェックで判明したことだ。

 

 ()()()()を見ているためか、特に身体面に気を回し過ぎるTのお手柄である。

 

 また、無理しようとする度にテイオーを宥めるのだからそこも大したものである。

 あのハチミーにも何やら栄養やらを効率よく吸収できるように何かしら混ぜられているというのだから恐ろしい手腕だと思う。

 

 

 

「さてと。ちょっと早いけど私は上がるわ。先に夕飯食べてるわ」

 

「あれ、珍しいね。休養日?」

 

「夜練よ。早めに休憩取って備えるのよ」

 

「ふーん。着いてっちゃダメー?」

 

「ダメです。休むのも練習の内ですから。

 どうにも余裕があるようですので、あなた達3人はもう少し頑張ってから今日は上がりましょう」

 

「「「うへぇー」」」

 

「頑張りなさいよー」

 

 

 

 さてと。軽めに食べて仮眠を取ってから夜の部も頑張りますか。

 と言うか私の本番はこの後からである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Tが夜に連れて行ってくれる練習場には私達以外の人の気配は無い。

 古い校舎らしき建物とちょっぴり狭いグラウンドと照明設備ががあるだけの練習場はちょっぴり不気味だと思う。

 

 証明音と私の足音だけがやたら響く中、人目を気にせず藻掻きながら走り続ける。

 例のくっそ重いインナーやら、これまたくっそ重い蹄鉄やら、あらゆる方法で身体への負荷を強め何度も何度も同じトラックを走り抜ける。

 

 

 多分酷い顔をしてるんだろうな。

 Tのしかめっ面を見る度にいつもそう思い、ヘラっと笑ってしまう。

 

 

 

 まだまだ余裕だし。

 そんな強がりを見せて自分の健在ぶりをアピール。

 

 ここで余裕こけなかったらそのままズルズルと落ちてしまうから。

 そしてそんな弱弱しい姿を見せたらここぞとばかりにTは全力で練習を阻止しに来ると思う。

 

 

 

「いつ倒れてくれたって構いませんよ。

 そうすれば私は大手を振るってあなたを止められる」

 

「はん、まだまだぁああ!」

 

 

 

 でもさ、ここ最近はTの想定を超えることが多くなった。

 その分Tの視線も鋭くなっていったけど。

 

 

 多分だけど、最近感覚が分かるようになってきたんだ。

 --限界が際限なく超えられていく感覚が。

 

 きっとこの先にあいつはいるんだと思う。

 自分で言うのもなんだけど、気違い染みた領域だとは思けど。

 ここまで青春(時間)を犠牲にしてようやくとかさ。

 

 

 思えばなんでこんな自分を追い込むことになったんだっけ。

 

 

 

 

 

 ……ああ、そうだ。マルゼンだよ。

 あいつに大差着けられたことが事がきっかけで、チーフTが私に火を付けたんだっけ。

 

 上手く焚きつけられちゃったよなー、私。

 でもさ、充実してたよ。

 

 同期の上を行こうと躍起で、後輩どもに追い付かれないよう必死で。

 それでも結局同僚に遥か先を行かれちゃったけど。

 

 あれには笑ったわ。

 あの腹黒、とんでもない実力隠してたって。

 

 

 そこから先は長かったなぁ。 

 肉体の破壊と再生の繰り返し。これが一番しんどかったわ。

 

 なんせレースどころじゃ無いもの。

 出走しても碌に身体が動いてくれないし。

 自分で決めたとはいえ、練習はきつ過ぎるし。

 

 ぶっちゃけ何度も折れかけたわ。

 ゲロ吐いて、ベソ掻いて、何でこんな苦しい思いしてるんだって。

 

 その度にTに不安と不満をぶちまけて、先輩たちに慰めてもらって。

 何回も「もう止めましょう」って言われたっけ。

 

 止めてれば普通の女子とまでは言わないけど、もちょっと女の子らしい趣味とか

 遊びとかもできてたのかも。それはそれで楽しかったかもしれないわね。

 

 

 でもさ、結局負けっぱなしの自分に折り合いが着かないんだよね。

 だから何度折れても止めたりはしなかったんだ。

 

 

 藻掻き続けて後輩達ができて、その頃には成長を受け入れられる身体が出来上がって……阪神でそれを証明できた。今更止まるつもりなんて毛頭無いわね。

 

 

 

()()()()()()()突き進むのみよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ最近のあなたは明らかにオーバーワーク気味です!

 練習の強度を下げてください!!」

 

 

 

 一息着いた頃真っ先にTに掛けられる言葉。

 ここ最近はこればっかりだ。

 

 

 

「何度も言わせないで。天皇賞直前までは限界まで追い込み続けるって何度も言ってるでしょ」

 

「ですが!」

 

「最悪、影響が出ると思ったら自分から申告する。

 それ以上に些細な予兆らしきものが見えたらTは強制的に練習を止める、って取り決めたはずよ。

 

 今の私にその予兆は見られるかしら?」

 

 

「っ!、見られません。見られませんが、あまりにも身を削り過ぎています。

 こんな事では「とりあえず天皇賞までにするから。私だっていつまでも続けていられないのは分かっているわ」

 

 

 

 言ってしまえばTから見てかなりギリギリの指導なのだ。

 もっと言うと、学園的にはぶっち切りのアウトである。

 

 日常的に強烈な負荷を掛け続けて、その延長で練習に臨んでいるのがあいつだとしたら、練習時に更に倍プッシュの負荷でトレーニングをしているのが私だ。

 

 当然、いきなりでは無く3年かけて段階的に負荷を強めていったわけであるが、結果あいつ以上にやべぇトレーニングが成立するようになった。

 

 但し、あくまで成立するようになっただけである。今の私の身体には抜け切らない疲労なども蓄積されているとのこと。

 

 本来なら身体を休めて疲労を抜くことも視野に入れ、成長曲線を描くことが一般的とされているわけだが、ダービー後のやり取りでそんな悠長な成長ではあいつに追い着くことはできないと直感したのだ。実はチーフTにもこっそり裏を取ってある。

 

 

 なれば、あいつの描いている成長曲線を上回る成長曲線を描くしかない。

 あいつの練習自体がぶっ飛んでいるものなのだから、私はそれ以上にぶっ飛ぶしか他に方法は無かったのだ。

 

 

 と言うかこれを続けて身体のケアまで完璧に出来ているからこそのあのバカげた強さかと、ある意味納得してしまった。

 

 

 そして生憎にも私の肉体方面の才能は並である。

 無理くり練習を成立させても()()についてはどうにもならなかった。

 

 

 だからこそ身体には細心の注意を払い、必ずTが監督することでこのトレーニングは成立しているわけである。

 

 そのTが嘆く位なのだから、まあ()()()()()である。

 

 

 

「G1の一つくらい引っ提げていかないと格好着かないじゃない。

 だから何度も言うようだけどT。先ずは天皇賞まで意地張らせてもらうわよ」

 

「……ケガには、気を付けましょう」

 

 

 

 絞り出すような声だった。

 

 

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