YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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閑話2

 普段ブルボンさんは札幌のルキトレ*1で走っているみたいです。

 たまたま春休みで地元に戻っており、調整のためレースに出走してみたとの事でした。

 

 

 何でも、お父様が元中央のトレーナーみたいで、地方にも伝手があったようで出走が叶ったみたいです。

 

 あのきれいなフォームもお父様直伝で、今まで見たどのウマ娘よりも素敵だったと言ったら、表情こそ変わら無いものの、耳がピコピコ動いていてとても可愛らし様子が印象的でした。

 

 

 

 レース後の観客席に座りながら談笑を続けていた私達ですが、本題を切り出します。

 次のブルボンさんの出走予定です。

 

 

 聞くところによると夏のルーキーチャレンジ*2に出走するとのことでしたので、ライスもそこでリベンジをすると話をしたら、特に何の感慨も無く『期待しています』と返事をくれたのでした。

 

 

 間違いなく敵と見做されていないと言う事が分かり、先ずはライスの方に振り向いてもらおうと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月、6月。ブルボンさんが札幌に戻ってからというもの、ひたすらにライスは走り続けました。

 あの後ろ姿に追い着くため、レースでは誰よりも強い覚悟で臨むようにもなりました。

 

 物心ついた頃から走り続けていたためか、小さな体の割にはとても頑丈だと言う事が私の強みの一つです。

 ちょっと残念なのは、身体だけはそれほど大きくならなかったことです。いや、ご飯は一杯食べてたつもりなんですけどね。

 

 

 ルーキートレセンへは小学校が終わったらの通っていたため、一日中練習をしている所謂ガチ勢ではありませんでしたが、受け入れ時間ギリギリまで練習場も使わせてもらっていました。

 

 そのため、帰る間際になるとフラフラな状態なので、防犯面も考慮していつも両親に送迎してもらっていました。

 なお、行きはウォーミングアップを兼ねて自分の足で通っていました。

 

 

 周りから見るとかなりストイックな生活に見えたようでしたが、当時の私からしたらいくら時間があっても足りないと思っていました。

 

 ブルボンさんのしっかりした身体と、きれいなフォームから繰り出されるストライドにライスが対抗するには、同程度の体力ト-レーニングだけじゃ先ず敵わない。その上で走りに無駄を無くさなければいけません。

 

 

 ならばひたすらに走り続けて、その中で私自身の走り方を固めていくしかありません。

 指導を受けて反復練習。家でも両親と一緒に、参考になる走りの動画を見てああでもないこうでもないと、四苦八苦しながら研究をしていました。併せて、ブルボンさんの攻略法も探っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして迎えた7月下旬。

 ルーキーチャレンジの道内選考が札幌レース場で行われます。

 

 この道内選考を勝ち上がった上位2名が、東京レース場で開催される本戦に出場ができます。

 

 

 選考方法は、タイムトライアルで上位14名まで絞り、翌週の選考の1発レースで本選出場者を決定するといったものです。

 

 

 距離は1,500m右回り。そして芝。

 門別はダートレースが主なため、芝の練習場はそれほど大きくありません。

 

 経験こそあまり積めませんでしたが、しかしそこは身体能力の差で補うつもりで臨みます。

 

 

 

 

--ルーキーチャレンジ(道内選考)

4R 札幌 1,500m 芝 稍重

 

 

 

 今日のトライアルではブルボンさんとは当たりません。

 ですが皆、自分の足に自信のあるウマ娘さんです。油断なんてできる相手じゃないことは確かです。

 

 それでも独走する位の気持ちでなくちゃ、ブルボンさんのに追い着くことなんて到底できない。

 今、自分が出せる全力をこのレースで出し尽くしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としてライスは14人の枠の中、13番目の記録で来週の選考へ駒を進めることができました。

 ちなみに、ブルボンさんは1番速いタイムを叩き出していました。

 

 ブルボンさんとの距離がどれ程のものなのかこの時初めて理解することができました。

 

 

 それでも2か月前と比べたら、あの背中は近くに見えるようになったかな。と、タイムを比較してちょっとだけ悦に浸ったり。

 

 

 それに後1週間の猶予がありますから、目標に向かい更に自分を追い込むことが出来ます。

 ライスの感覚は1週間を経て更に研ぎ澄ますことができたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--ルーキーチャレンジ(道内選考・最終)

4R 札幌 1,500m 芝 良(フルゲート)

 

 

 

 この日のライスのコンディションは最高でした。

 かつて無い程にあの感覚は研ぎ澄まされており、周りの子たちの挙動が手に取るように頭に入って

きます。

 

 緊張している娘、興奮している娘、殺気立っている娘。

 そんな中で悠然と、何の揺らぎも見えない娘が1人。

 

 言わずもがな、ブルボンさんです。

 

 

 

<着いてく、着いてく>

 

 

 

 2か月前は追い縋る事すらも出来ませんでした。

 ですが、今日こそは意識してもらいます。

 

 

 

 

 ゲートが開き、14名が一斉に飛び出しました。

 

 先頭はブルボンさん。負けじと他の娘達も数人が追い掛けます。

 その数人にライスは紛れました。

 

 

 

 

 ブルボンさんの強さは、その圧倒的なスプリント力と、中盤・終盤と高水準のタイムを刻むだけの脚にあります。

 

 あれだけ始めで飛ばしたら普通はダレると思うのですが、そこで更に涼しい顔して加速していくように見えてしまうのだから恐ろしい……なんて幻想を抱いていました。

 

 

 ブルボンさんが勝てなかったレースがいくつかあります。

 

 一つはブルボンさん以上の先行力で独走を許したもの。

 もう一つは終盤の追い込みで捲られてしまったもの。

 

 ライスなりに導き出した答えは単純で、ここで勝った2人は、ブルボンさん以上の運動量で圧倒をしたと言う事。

 

 

 

 もう一度ブルボンさんの強さを振り返ります。

 圧倒的な序盤の制圧力と最後まで垂れない高水準のタイムを刻む脚。

 

 

 但し最後までダレないというのは、決して後半で伸びている、というわけでは無いと言う事です。

 

 

 

 向う正面。

 背中を見ると、きれいなフォームでブルボンさんが加速している……ように見えます。

 

 あの走りにこそブルボンさんの全てが詰まっているのでしょう。

 コンマ1秒を削り出すために無駄なく走り抜ける脚力。

 少しの運動量のロスも許さない徹底したフォーム。

 

 華麗に見えてその実、努力に裏打ちされた境地なんだと、ブルボンさんのレース映像を何度も見返して、漸く見つけた勝機でした。

 

 

 

 ライスが狙うのはそこです。

 序盤の加速力では到底追い着けませんし、終盤に一気に捲れるだけの脚力もありません。

 

 それならば中盤から離されず終盤の運動量で上回る。これしかありません。

 

 

 

 

<集団に迷いが見えた。抜けるなら今>

 

 

 

 隙を見て集団を抜け出しブルボンさんを追い掛けます。

 前回は何となくで追い掛けましたが今日は違います。

 

 ライスのみが感じる我慢比べの始まりです。

 

 

 

<追い着く!追い着く!追い着く!追い着く!!>

 

 

 

 直線、縮まらない。

 でも離されていない。

 

 体力、まだ余裕ある。

 

 

 

 コーナーに入ると僅かに減速したように見えました。

 

<カーブに入ったんだ。詰めるならここからかな>

 

 

 でも流石、本当に走りには無駄がありません。

 あの走りを身に着けたら、ライスももっと速く走れると思う。

 

 

 今はあるもの(運動量)で勝負するけど、いつかはライスもものにしたいかな。

 

 

 先頭は依然とブルボンさんだけど、その距離は確実に狭まっています。

 もうちょっと踏ん張れ。終盤が勝負って言ったよね!

 

 

 

 最後のコーナーを抜けました。ブルボンさんはスパートをかけています。

 私も必死に追いかけます。

 

 

 ちょっと前までただ何となしに走っていたライスだけど、今は誰よりも速く駆け抜けたい、という気持ちで頭がいっぱいです。

 

 

 

<頑張れ、私!頑張れ、ライス!

 苦しいのはブルボンさんだって一緒だよ!>

 

 

 

 感覚が告げてきます。条件はブルボンさんも同じだと。

 ここが最大のチャンスです。

 

 

 

 歯を食い縛り、腕を強く振り、踏み込みに力を入れます。

 姿勢は少しだけ、ほんの少しだけ前に傾けて、イメージはブルボンさんを後半に捲ったシャドーロールのウマ娘さんの走り方で、スパートを駆けます。

 

 多分、鍛えていなかったら、研究していなかったら。或いは、もう少し体力が残っていなかったら成立しなかったと思います。

 

 本家のウマ娘さんと比べたら何枚も落ちる走り方ですけど、この時はこれが一番速く走れると思いました。

 

 

 

<行ける、行けるよ!>

 

 

 

 ブルボンさんの背中を捉えました。

 

 

 このまま千切りに入ろう、そう思った矢先です。

 ブルボンさんの脚がさらに伸びたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--ルーキーチャレンジ(道内選考・最終)

札幌 1,500m 芝 良

 

 

1着 ミホノブルボン

2着 ライスシャワー 4バ身

3着 --

 

 

 

 

 

 ブルボンさんのラストの一伸びは想定していませんでした。

 思えば私達が成長するように当然、ブルボンさんも成長するのです。

 

 ライスが藻掻いているように、ブルボンさんも必死だった。ただそれだけのこと。

 ゴール後に見たブルボンさんの汗だくの表情が物語っていました。

 

 

 

<負けちゃった、負けちゃったかぁ。悔しいなぁ>

 

 

 

 けれど届かない訳じゃありません。

 ライスはブルボンさんを確かに追い込んだんです。

 だから次こそは……次こそは!

*1
トレセン学園のルーキークラスの略

*2
ルーキークラスの全国大会

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