YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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7話

--5月上旬・天皇賞(春)前日

 

 

 京都競バ場に前日入りした私達カノープス一行。

 調整を終えた後旅館の一室で明日の打ち合わせを行っていた。

 

 

 京都の春は長い。3,200mという長丁場での戦いになる。

 前回の阪神でも体感したが3,000m超は正直長い。

 

 加えて明日集まるウマ娘は前回以上にハードな面子が集まった。

 

 昨今のトゥインクルシリーズの人気がどうのこうの言われている状況下でかなり話題となっている。

 それ位影響力のある粒が集まったんだとか……ってテレビで言ってた。

 

 

 尤も私から言わせれば今更である。

 阪神の後輩どもに、スーパークリークとイナリワン。こいつらはいずれも特退枠だったはず。

 後はゴルシにルドルフとマルゼン。それとシービーパイセン。同期どころかパイセンまで来ちゃったのだ。

 

 

 他にも海外から数人が出走を予定している。

 多分こいつらは本命を宝塚に据えている海外の強敵。当然目的はあいつだろう。

 

 と言うかあいつの宝塚出走だってかなり際どい情報なのに、急遽都合を付けて天皇賞を前哨戦に据える辺り中々の執念である。

 

 まあ正直こいつらにはジャパニーズ洗礼を浴びせてやるつもりだけど。

 こちとら数年単位であいつを獲物にしているのだ。ぽっと出の行き当たりばったりであいつの挑戦権を掻っ攫うつもりなら叩き潰してやる。

 

 

 

 あ、それと

 

 

 

「何たらのうん周年で天皇陛下が観覧する天覧競バと来たら、そりゃ話題にも上がるよね」

 

「どの陣営も意気込みが通常の5割増しです。斯く言う私もかなり震えています」

 

「Tが走るわけでもないのに。

 でも、気持ちはわかるよ。URAもかなりギリギリにそんな重要な情報公開するんだもん」

 

 

 

 こんなこと知ってたら嬉々としてあいつは出走するだろうに。

 あ、それでか。きっとチーフTにも予め手を回したのかな。

 

 まあいいけど。今回あいつは走らないわけだし。

 

 

 

「凄いメンバーだね。これ、今のトゥインクルの代表格ばっかりじゃん」

 

「そりゃあ先輩の練習にも熱が入るわけですね」

 

 

 

 萎縮しまくりの後輩ズ(ミニ)。

 

 練習はいつもあんなもんだよ。

 と言うか君達もいずれは同じ土俵の上で戦うわけだけど分かってんのかな。

 

 そこら辺の意識改善も課題だねこりゃ。

 

 

 

「ふっふっふ。2人とも、そんな弱気じゃターボの敵にならないね」

 

「何おう?」

 

「逆噴射させるよ、ダブルジェット」

 

「ツインターボ!まあネイチャにテイオー君、ターボの意見を先ず聞いて欲しい。

 

 確かにメンバーは凄いかも……と言うか良く分かんないけど、サイドテールも出走できる。

 これに尽きるぞ」

 

「「確かに」」

 

「おうおうおう。私が出れるって聞いて何で敷居が低くなったかのようになってんだコラ」

 

 

 

 ターボめ、次の併せで可愛がってやるからな。

 結論、舐められるのもやっぱりむかつく。

 

 Tも苦笑いして、でも萎縮されるよりかは、って思ってるんだろうな。解せぬ。

 

 

 

「まあまあ。結果を見せ付けましょうサイドテイルさん。

 後輩である皆さんにも、何よりあなたが気にしてるあの人にも。

 

 今回のレース、台風の目はあなたですよ」

 

 

 

 言ってくれるじゃん。そんな事言われたら燃えるね。

 

 

 

「あいつに挑む以上はここでも躓いちゃいられないんだよね。

 

 海外勢もパイセンもひっくるめて格付けを終わらせるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ここからは本格的な打ち合わせである。

 Tに洗ってもらった情報を元に各陣営の実力や動向を目一杯頭に叩き込む。

 

 無論普段から知り得ている情報もあるが、すり合わせる部分もある。

 また、不要な情報はTがカットしているから、インプット作業に無駄は無い。信頼関係のなせる技である。

 

 

 ノーパソとタブレットを用いながらああでもないこうでもないと情報を取り交わして明日のレース展開をシミュレーションする。

 

 阪神の時はかなりざっくりだったが今回はすでにガチモード。前回も慢心したつもりは無いけどやっぱりダービ以来のG1だからか、力が入ってしまう。

 

 

 後輩達も呆気に取られているようで、口を開けたままアホ面を晒してくれていた。

 

 

 

「ってわけで多分ライスは腹に三物も四物も隠してそうなんだけど、……ちょっとタンマ。

 

 いい、あんたらもいずれはレースに出るわけなんだから、Tを上手く活用しなさい。

 自分の能力はもちろん、レース適性、果ては内面の性格。その上で相手をよく知って自分の得意所での勝負なり、相手の弱点を突くなりをTと一緒に見極めるの。

 

 ちなみに阪神の時はゴリ押しがコンセプト」

 

 

「……へぇー。ぼく、今回も鍛えまくって競り勝つだけだと思ってたけど」

 

「そんなの最前提よ。その上でできることをやってるだけよ。

 チーフ、じゃなくてあの胡散臭いTだって、色々教えてくれると思うから、有効活用しなさい」

 

「それはできないかな」

 

「あー、テイオーはそうかもね。

 あんたら2人も分かった?」

 

「正直先輩からそういうことを言われるのは意外だと思いましたけど、分かりました」

 

「ターボも分かったぞ!」

 

「よし。ならあんたらも気になった事があったらどんどん言いなさい。

 外からの視点てのも重要なファクターなのよ」

 

 

 

 この後、打ち合わせはさらに本格化していった。

 

 

 特にキーとなったのがマルゼンの情報について。

 あいつの動向は特に情報が少ないため、中々にシミュレーションがし辛い。

 

 私も結構情報を伏せていたから分かるけど、こういう奴は大概腹に何か抱えているって予想が着く。

 但し分かるのはそこまで。答え合わせは本番でするしかない。

 

 

 

「あんにゃろうは絶対何かしでかすわね」

 

「適性は短中距離で、今年の大阪杯を獲ったあたりこれ以上の出走は無いだろうと思っていたんですが。

 それがここにきて3,000m超えですから、何かあるとしか思えません」

 

「カイチョーもそんな事言ってたっけ。『最近マルゼンスキーは殺気立っている』って」

 

「あんたがルドルフと交流がある事についてはツッコミを入れないわ。他には何か言ってた?」

 

「それ以上は特に。あ、僕も『サイドテールだってすっごい殺気立ってるから同じだね』って言っといたよ」

 

「まあうん、間違っちゃいないんだけどね。あんまりチームの情報を流すのは勘弁してね」

 

「むぅ、それ位僕だって分かるからカイチョーにあんまり聞かなかったんだからね」

 

 

 

 お前それ絶対ルドルフにも諭されただろ。

 あいつはあいつで何故かテイオーに甘い所あるから、窘めつつ見極めた情報教えたんだろうよ。

 

 知り合いでもない限り真正面からスパイする奴なんて通常ならズタ袋で宙吊りものだ。その上で何をされても文句は言えない。

 その辺の情操教育も今後の課題かな。

 

 

 ただ身近な第三者からそう言う事があるって聞けただけでも収穫だ。

 疑惑が確証に変わったんだから。

 

 

 

 結論。あれは私と同じ穴の狢だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天皇賞(春)当日

 

 

 天気は雨。バ場は不良。

 それでもやることに変わりはない。

 

 ダービー以来のG1のため、勝負服にそでを通すのも実に久し振りだ。

 この日のために採寸もし直しデザインも一新した。

 

 白基調のノースリーブドレスと、その上にドレスと一体型となるような緑基調の羽織。

 クラシック戦線の娘にも凄く似た衣装の娘もいたようだがこちとら元祖だ。

 

 それに向こうは全体が緑主体に対して、こっちは白が主体だ。

 

 

 

「どうよ、このパーフェクツ美女っぷり」

 

 

 

 後輩達に披露してるわけなんだがどうも反応が薄い。

 カーッ、美女過ぎてつれーわー。あまりにも美女美女していて反応に困ってる後輩達を見るのはつれーわー。

 

 ……おい、なんか言えよ。いや、マジでなんか行ってくれないとこっちも反応に困るんですけど。

 

 

 

「いやー、ネイチャさんもこれは驚きましたよ。本当に先輩見違えましたね」

 

「そのノリそのノリ、もっと頂戴」

 

「ホント、関心しかしなくて見惚れちゃうんですって。隣のテイオーを見てくださいよ」

 

「へっ!?

 い、いや、僕はそんな驚いていないよ。そんなに普段とか、変わら無いんじゃないかなー」

 

「へー、ほー、ふぅーん。

 何々、私ってばそんなに変わっていない?」

 

「うるさいなぁ!」

 

「ワハハー、テイオー顔真っ赤ー」

 

「ダブルジェット!」

 

 

 

 相変わらずだなー。あー落ち着く。

 少し経ったらギラギラとしたターフに降りるんだから最後に息抜き位はね。

 

 

 改めて、今回の天皇賞(春)は注目度が高い。

 出走メンバーにからもう話題には事欠かないレースになるだろう。

 

 先の阪神大賞典でさえかなり注目度が高かったのだ。

 倍以上の有力バが集まった今回のレースはその比ではない。

 

 加えて天覧競バである。明日の一面トップは待った無しだ。

 

 

 

 但し違和感を感じる事もある。

 今回の天皇賞(春)にはメジロがいないのだ。

 

 あの楯コレクターとまで言われたメジロが。況してや天覧競バと言われる今レースにその名前が見当たらないなんて。

 

 

 確かにURAの公表は本当にギリギリだったから天覧競バについては知り得ないのは止むを得ないだろうけど。

 いや、メジロなら予め情報をリークすることも可能かもしれないけどさ。

 

 ……あ、答え出たわ。『あいつ』狙いね。

 海外勢と言いメジロと言い、ホントいい根性してるわ。

 

 

 

「どうかしました?」

 

「いや、みんな燃えてるんだなーって」

 

「その筆頭が何を今さら」

 

「そうね。んじゃま、行ってくるわ。

 次会う時は新しいインテリアを持って帰って来るわ」

 

「ええ。期待しています。

 但し、ケガには十分気を付けてください」

 

 

「らじゃ。あんたらも目に焼き付けておきなさい。カノープス初のG1勝利ウマ娘の雄姿をね」

 

「ハードルが高すぎる件。でも、期待してますよ、せーんぱい♪」

 

「うん!サイドテールはすっごい速いからな!」

 

「カイチョーにも頑張って欲しいけど、まあサイドテールは同じチームだし。義理で応援してるよ」

 

 

 

 後輩どもの頭を撫で(テイオーだけチョイ強め)、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ薄く笑い、私はターフに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天気は雨、芝はびっちょり。

 タフなレースになりそうだわ。

 

 周囲を一瞥すると見慣れない海外のウマ娘が2名。

 

 

 紳士っぽそうなクールビューティーがファンブルスで、笑顔のパツキンがマーケイビュティだったはず。

 ルドルフがなんか喋ってるっぽいから情報収集でもすっべ。多分あいつ英語とか話せそうだし。

 

 

 

「ルド、何話してんの?」

 

「ふむ。とりあえず舐めた事を言われている」

 

 

 

 人は怒った時ほど笑顔になるって誰かが言ってた気がしたけど、ルドルフの笑顔はまさに模範的な笑顔だった。

 流石海外勢、煽り力もワールドクラスだ。

 

 

 

「何て?」

 

「要約すると()()()にリベンジするための調整に過ぎない。仲良しこ好しする気は無いからとっとと失せな、だそうだ」 

 

「へぇ、結構強気じゃん。

 負けた時の言い訳お疲れさんwwって話しておいて」

 

「ははは、心得た」

 

 

 

 私はニコニコしながら海外勢2人に顔を向ける。

 ルドも笑顔で話してくれた。

 

 これぞ国際交流。悪くないわね。

 

 

 この後海外勢は笑顔からのキレ芸を披露してくれた。さらっと流せない辺り精神的には隙だらけかな。

 『肩の力抜けよww』って言ってもらったらもっとキレ散らかしていた。ウケる。なお、『w』はルドが付けた模様。

 

 しかしまあこんなんでも肩書だけは半端無ぇのよね。

 日本のレースに馴染めばそれなりに善戦すると思うの。

 

 彼女らには宝塚であいつを苦しめてくれる事を期待しよう。ガンバレー。

 

 

 

「まーた先輩は面白そうな事をしているな」

 

「ナリブじゃん。今日はオラ付いてこないの?」

 

「無駄な労力を割きたくないんでね。タフなレースになりそうだしな」

 

「言えてる。で、何か気になる事でもあった?ちなみに海外勢はチョロそうだったわ」

 

「そうだな。気になることがあり過ぎて収拾が着かないが、しでかすなら()()()だ」

 

「あんたはそういう読みなんだ。その言い方で言うなら私は()()()()だと思うわ」

 

「そうか。参考にさせてもらう。ちなみに注目してるのはあんただよ」

 

「何よ、しっかりオラ付いてくるじゃない」

 

 

 

 私に注目している辺り特に分かっているわね。

 しかしまあ()()()ねぇ。

 

 ちらっと流して見るといやぁ、あいつ凄い目でこっちを見ているわ。

 思わず手を振って茶化そうと思ったんだけど、勝負服と相まってより殺気が際立って見えるからマジで差してきそうだから止めた。

 

 どうも私を誰かとダブらせてみている節があるのよね。

 あれね、きっと相当憎たらしい相手に違いないわ。

 

 

 そう結論付け、また辺りを見回したら赤い勝負服の長身が私に声を掛けてきた。

 こいつは確か

 

 

 

「おう、サイドテール」

 

「ゴールドシップね。こうして面と向かって話すのはダービー前以来かしら。後、サイドテイルよ。伸ばし棒はいらない」

 

「まあな。あたしはあんたの事をそれなりに知っているけどな。レース前に部室に来たんだっけか」

 

「ええ。結局あんたの後輩の現場に遭遇しちゃって、あんたどころじゃ無くなっちゃったけど」

 

「あの後スズカはもちろん、他の後輩達も怒りマックスで大変だったんだぜ。うちは喧嘩っ早い奴が多いからな。

 ちなみに筆頭はあたし」

 

 

 

 ゴルシと言えば学園内でも寄行種かつ歩くパルプンテとし有名だったはずだけど、普通に会話が成り立っている。

 おかしい、なんか調子でも悪いのかな。

 

 

 

「あんたってそんな普通に話す奴だったっけ?」

 

「そりゃおめー、ゴルシちゃんだってガチる時はあるさ。どうもお前が出る時はガチで走っとかねーと()()()()気がしてよー。

 ゴルシちゃんにそこまで言わせるんだから、すげぇ事だぜ」

 

 

 

 あー本能的に警戒してきてくれている訳ね。

 少なくとも、私を前にしたコイツにふざけた様子は一切見られない。

 

 あーヤダヤダ。これだから同期は隙を見せてくれない。

 さっきの海外組が可愛く思えてくるわ。

 

 

 

「あら、同窓会でも始めているのかしら?」

 

「あん?ってシービーパイセンですか。ルドが楽しそうに国際交流してますけど、そっちいかなくてもいいんですか?」

 

「あの娘は優秀だからね。問題無いわ。

 というよりあなたが嗾けたんじゃないの」

 

「豪州語と英国語って難しくて」

 

「両方英語じゃないのよ」

 

「英語って難しくて」

 

「……ルドやマルゼンから聞いてはいたけど、中々いい性格してるわね。

 まさかゴールドシップがまともに見える日が来るなんてね」

 

「なぁ、ゴルシちゃんを比較に出して乏しめるの止めてくんない?」

 

 

 

 「はぁ」と深いため息をついてから、改め直してパイセンが私を見定める。

 流石三冠ウマ娘と言ったところか。それなりに雰囲気を持っている。

 

 私とゴルシも『やんのか、オラ』的な感じで改めてメンチを切り直す。

 これ、あれだ。チンピラの絡み方だ。

 

 どうにも締まん無いわね。

 

 

 

「なあ、これチンピラの絡み方じゃ無ぇかよ。ゴルシちゃん、今日はマジでガチなんだけど。

 おふざけするつもりあんまし無いんだけど」

 

「言わないで。私だってボケてるつもりは無いわよ」

 

「あはは。君達の世代は本当に愉快な世代ね。ルドもマルゼンもそりゃあ丸くなるよ」

 

 

 

 何か楽しそうに笑って先輩風吹かせながらゲートに向かって行った。

 ゴルシと私は居た堪れない雰囲気に包まれた。

 

 

 

「おう、サイド=チンピラ=テール。とりあえず負けるつもりは無ぇからな」

 

「私もよ」

 

 

 

 もっかいがんの飛ばし合い。

 ……と思ったらゴルシまで急に笑顔を浮かべてきた。

 

 

 

「でもって、最高にかっけぇレースを見せつけてやろうぜ」

 

 

 

 誰にとは言わない。

 私もゴルシもきっといろいろな奴を浮かべていると思うけど、共通するのは()()()が含まれていると言う事。

 

 「ええ」と私が言ったところでゴルシもゲートに向かって行った。

 

 

 

 

 タマモクロスを筆頭にスーパークリーク、イナリワン、ハヤヒデらもすでにゲートに向かっていたため、私も足早にゲートに向かった。

 

 途中、ライスにも接近したが阪神でのレース前以上に洗練された殺気を感じたため、終ぞライスに話し掛けることはできなかった。

 マルゼンの様子も詳細までは確認する事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--天皇賞(春)

京都 11R 芝(右)3,200m 不良 15人

 

 

『春の陽気真っ只中と言えるここ京都競バ場ですが、今日は生憎の天気。

 ですが近年稀にみる強豪達が揃い話題に上がったのは皆さんの記憶に新しいと思います。

 

 

 さて、今年はウマ娘達による競争が始まって〇〇〇年という記念すべき年。

 これを祈念しまして、レースの代名詞ともいえる天皇陛下御夫婦に本日はご臨席賜りました。

 

 

 パドックではいつも以上に気合の入ったウマ娘達が自慢の一張羅を纏い己の存在感をアピールしており、並々ならぬ決意でこのレースに臨んでいる事が一目で分かりました。

 

 

 

 また、海外からも2人の参加者が来日されているわけですが、この2人も凄い。

 

 1人はオーストラリアから。豪州最強と名高いマーケイビュティ。

 もう1人はイギリスより。マイル、中距離で圧倒的強さを誇るファンブルス。

 

 共通することは2人とも『リベンジ』しに来たと言う事だそうです。

 宝塚記念にも出走を予定してると言う事ですので、つまりはそういう事でしょう。

 

 

 

 

 それでは、この記念すべき大会に出走が叶ったウマ娘達をご紹介いたします。

 

 

 1枠 1番 ゴールドシップ

 

 2枠 2番 マルゼンスキー 

  

 2枠 3番 ライスシャワー  

 

 3枠 4番 ナリタブライアン

  

 3枠 5番 スーパークリーク 

 

 4枠 6番 ファンブルス(外)

 

 4枠 7番 イナリワン    

 

 5枠 8番 タマモクロス   

 

 5枠 9番 ミスターシービー   

 

 6枠10番 マーケイビュティ(外)

 

 6枠11番 ビワハヤヒデ

 

 …… 

 

 7枠13番 サイドテイル   

 

 ……

 

 8枠15番 シンボリルドルフ 

 

 

 以上の15名です。さあ、雨中の京都にファンファーレが響き渡ります!』

 

 

 

 

 

 雨音交じりのファンファーレが鳴り響く。

 信じるのは積み重ねてきた練習の成果のみ。

 3,200m先にあるゴールを1番に駆け抜けるだけ。

 

 さあ、行って見ようか。

 

 

 

『さあ、各ウマ娘ゲート完了。……スタートしました。

 

 いち早く先頭に躍り出たのは6番ファンブルスと2番マルゼンスキー。世界の一線級に日本のウマ娘が喰らい着きます。

 

 次いで3位集団に10番マーケイビュティ、15番シンボリルドルフ、11番ビワハヤヒデ、5番スーパークリーク、……と続く。

 

 更に2バ身離れてサイドテイルはこの位置。その後ろに3番ライスシャワーがぴったり張り着く。

 

 そこから3バ身離れて7番イナリワン、その後ろに8番タマモクロス、ナリタブライアンと続く。

 2バ身離れて1番ゴールドシップと最後尾に9番ミスターシービー』

 

 

 

 想定していたケースで最もオーソドックスな滑り出し。

 各々得意とする位置で長距離に臨もうと言ったところと想定。

 

 動きがあるとしたら『淀の坂』からだが、オーソドックスな滑り出しのため掛かって突っ込む輩はいないと予想。

 仮に動きがあれば何か計算があるものと当たりを付ける。

 

 そして以外にも海外勢も落ち着いている。

 正直こいつらの暴走には期待していたが、そこまでバ鹿じゃないようだ。残念。

 

 ともすれば如何なく世界レベルの走りを見せてくれると言う事である。

 ただそれはここ()()じゃすでに見慣れた風景。

 

 何度となくあいつ目当ての挑戦者が辿ってきた道でもある。

 

 

 

『さあ間もなく坂を迎えると言ったところ。先頭ファンブルスは変わらず力強いストライドで

 マルゼンスキーとの差を徐々に広げている。そのまま第3、4コーナーに入ります。

 

 次いで3位集団もそれを追い駆ける。

 サイドテイルはその後方、ライスシャワーも定位置と言ったところ。

 

 イナリワン、タマモクロス、ゴールドシップ、ナリタブライアン、そして最後方はミスターシービー。

 

 先頭は間もなく坂を下り終え、スタンド前直線に入ります』

 

 

 

 下りを利用してルドルフらの集団に付ける。その間ライスもピッタリ私をマークしている。

 並のウマ娘ならプレッシャー負けしているところだろうが、私相手じゃそれこそ『こうかがないみたいだ』だよ。

 

 懸念はどこで私を差し込むのか。

 多分私が一番嫌がる時にコイツは差してくると思う。

 だからこそ隙を見せたく無い。プレッシャー負け何て愚の骨頂だ。

 

 

 前方では海外勢②のマーケイビュティが頑張っている。

 ルド始め、他の知性派連中と駆け引き何て最高に脳みそが疲れるからあまりお勧めはしないわ。

 

 奴らは日本トップクラスに駆け引きが上手いウマ娘。加えて中央で()()()に揉まれてきた真正の変態。

 世界の一線級程度で怯む奴でもないと言う事である。

 

 やるなら一気呵成。

 気取られる前に置き去りにするが吉。

 

 

 仕掛け所はスタンド正面に入ったら、歓声のテンションに合わせて『掛った振りで』煽らせてもらうわよ。

 

 

 

 

『さあ各ウマ娘、続々とスタンド前を通過していきます。

 先頭は依然としてファンブルす、次いで5バ身離れてマルゼンスキー。

 

 後続は阪神の覇者、サイドテイルが歓声に呼応してペースを上げてきた。ライスシャワーも淡々と着いてきます。

 マーケイビュティら3位集団もペースが上がってきました』

 

 

 

 阪神ではここから力で捩じ伏せた、という実績が私にはある。

 それを懸念してか、知性派連中はすぐに対応してきた。

 その辺の判断は流石だわ。

 

 修正。

 勝負はスタンドを抜けた後のコーナーから『いや、ライスだ!ライスシャワーが出し抜いた!!』

 

 

 

 

 

 ほんっっっとに嫌なとこで!

 前集団が私に対応して、私が勝負所を定めたところを見計らってコイツは差してきやがった。

 

 

 立て直せ!レースが動く!!

 

 

 

『ここで最後続の集団も続々とペースを上げてきました。そのまま前集団に乗り込む勢いです。

 さあ雨の京都競バ場。天候さながらにレースの空模様も荒れて参りました。

 

 集団を抜けたライスシャワーがそのままマルゼンスキーを……抜いてく!マルゼンはそれを追わない!

 まだ勝負所では無いと見たのでしょうか。それともライスシャワーが掛かり気味なのか。

 

 そのまま先頭に進みます。ファンブルスも来たのがマルゼンでは無くライスシャワーで驚愕の表情。

 そのままライスが置き去りに、しない、させない!

 

 叩き合う!世界の一線級にライスシャワーが喰らい着く!』

 

 

 

 ライスの雰囲気は私を追い抜く瞬間から尋常じゃ無い程に膨れ上がっていた。

 埒外からあの雰囲気を叩きつけられたら私だって刺激される。

 

 つまるところ、ファンブルスに喰らい付いているわけでは無く、ライスシャワーが圧倒している。

 

 

 

『抜けた!第二コーナーに入ってライスが抜けた!世界の壁を抉じ開けた!

 そのまま向う正面の直線に入ります!

 

 後方からはマルゼンスキー。ライスを追い、ファンブルスを一蹴!後輩には負けてられない!!』

 

 

 

 マルゼンスキーもライスを追う。

 はっきり言ってこのペースはヤバい。

 

 今のままちんたら走ってたんじゃ取り返しがつかなくなる。

 

 

 

 打ち合わせの時、私はマルゼンスキーを同じ穴の狢と評した。

 すなわち、破滅的な走りを躊躇わない類のウマ娘だと当たりを付けていたのである。

 

 が、ふたを開けてみるとライスも該当していたという結果。

 ナリブ、あんたの目に狂いは無かったよ。

 

 

 きっと理性派には理解できない走りだろう。

 絶対にゴール前でバテる。そう思わせる位狂ったペースなのだから。普通なら。

 

 

 

 

 でもね、理性派ども。()()()は普通じゃないんだ。

 破滅的なスピードが当たり前。今でいうこのスピードで走り切る事があいつに挑む最低限の条件。

 

 

 結論。あいつとタメを張りたいのなら、非常識を常識と知れ。

 

 

 

『ライスが逃げ、追うマルゼンスキー。

 後方からはシンボリルドルフを筆頭に集団が必死に追いかける。

 ファンブルス、マーケイビュティらもこの位置。

 最後方からはミスターシービーらも追い上げて来た。

 

 

 先頭ライスは物凄いハイペース。続くマルゼンスキーも驚愕のスピード。とても雨中の走りとは思えません。

 

 中団ではシンボリルドルフ、サイドテイルら同世代がデッドヒート。クリーク、ハヤヒデ、ファンブルス、

 マーケイビュティらもトップギアまで上げていく。集団はまだ集団を形成したまま。

 

 

 いや、サイドテイルだ!向う正面も半ば、サイドテイルが外から仕掛けた!!

 そうはさせまいとシンボリルドルフも内から対応!

 

 外から、内から、同世代の2人が叩き合う!』

 

 

 

 流石、よく研究している。

 ここで私の独走を許さない当たり本当に勘が鋭い。

 隙あらば抜け出すつもりだったんだよね。

 

 私に対してここまで必死になってくれて嬉しいよ、ルドルフ。

 

 

 

『最後方からの追い込み集団がいよいよ合流してきました。

 さあレースもいよいよ大詰め。二度目の坂を迎えます。

 

 先頭ライス、続くマルゼンは変わりません。

 これはもう暴走じゃない。独走態勢か。

 

 次いで後方集団が一気に前を飲み込みレースはもはや大混戦。どのウマ娘も泥化粧をめかし込んでいます。

 

 集団はこのまま叩き合いをしているシンボリルドルフとサイドテイルまで一気に迫る!』

 

 

 

 だから、もう一段階上げる。

 

 

 

『サイドテイルが更に加速。後方に影を踏ませない。シンボリルドルフも即座に対応。

 クリーク、ハヤヒデモ、海外勢も必死に縋り付くが、縮まらない!ついに差ができ始めた!

 

 対応できているのはタマモクロス、ナリタブライアン、ミスターシービー、ゴールドシップ。

 

 ここで先頭ライスシャワーはいよいよ三、四コーナー下りに入ります。

 続くマルゼンスキーは縮まらない差にもどかしそうだ』

 

 

 

 

 走っても走っても、今にも喰わんとして叩き続けるルドルフ。

 『不屈の皇帝』の名は伊達じゃない。圧力もかなりしんどい。

 

 後ろからの圧も凄い。

 タマモとナリブは分かるけど、それ以上にヤバいのが2人いる。多分ゴルシとシービーパイセンか

 

 すでに阪神で発揮した力を費やし続けている訳だが、依然として前方との差は埋まらず、後方から追い上げられている状態。

 なるほど。これが()()()に挑み続けてきた奴らの本気ってわけね。御見それしたわ。

 

 

 

 ここに来て内側にいるルドルフの圧力がいよいよ最高潮の上がり調子となった。

 このままいったら下りで捲られるだろうと私は容易に思い至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--このまま行ったらだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから先は狂った世界。

 あいつとタメを張るために身に付けた私のとっておき。

 

 

 通常、上がらないギアを無理やり上げる走り方。

 阪神でタマモが追い上げて来た時に一瞬だけ入れたギア。

 

 

 

『サイドテイル! サイドテイルだ!!

 翔んだ、妖精が飛んだ!!』

 

 

 

 数舜前の自分を、目の前のルドルフを超えろ。

 

 

 

『驚異の末脚!シンボリルドルフを置き去りにして下る!』

 

 

 

 頭がグワングワンする。

 当然だ、ここまでタフなレースをした上で無茶な走りをしてるんだから。

 

 そうでしょ、マルゼンスキー?

 

 

 

『そのまま、そのままマルゼンスキーを外から捉えた、捉えた!!

 マルゼンスキーも応答、叩き合う!!』

 

 

 

 ルドルフは強かった。きっとあのまま走ってればゴルシやナリブともタメを張るレースになったと思う。

 

 

 

『譲らない!! 両者共に譲らない!!

 先頭ライスは目前だ!!』

 

 

 

 

 でもね、あいつらはいい子ちゃん過ぎるから。

 私らみたいに枷を外せ無い。

 だから理性派。

 

 

 後先考えず。いや、後先すらも今に費やして走るのが私達。

 身体は軋み、嫌な音が鳴り続けている。

 

 マルゼン、分かるよ。

 今のあんたも私と同じように身体が歪んでいるもの。

 

 練習ではほとんど姿を現さなかった。

 同僚のルドルフですら確信に至らなかった。

 きっとあいつに挑むまでその力は見せるつもりは無かったって事でしょ。

 

 

 でもライスと言う誤算が生じた。

 

 

 凄いわよねこの子。あれだけ走れているのに身体が歪んでいる様子が一切見られないもの。

 あいつと同じ位相当フィジカルに恵まれている。

 何より、()()()()()()()()()()だ。良く仕込まれていること。

 

 阪神では未覚醒だったってのに伸び代が恐ろし過ぎる。

 心底羨ましい。

 

 

 身を以てライスのポテンシャルを体感しているのは私とあんたぐらいよ。

 きっと近い内に、世間はコイツの凄さを知る事になるわ。

 

 

『ナリタブライアンは、追い付けない。

 

 タマモクロス、ミスターシービーが外から、内からシンボリルドルフに仕掛けるが、行かせない!

 間髪入れずゴールドシップが更に外から捲った!しかし先頭の3人には及ばないか!?』

 

 

 

 でもね、それは今じゃない。

 もうちょっと先の未来よ。

 

 だって今日のところは私が抑えるもの。

 

 

 

 ……もうニ、三段階ってところかな。

 

 

 

 感覚が更に研ぎ澄まされる。身体の痛みはもう気にならない。

 

 

 限界の

 限界の

 限界の先に、行きつく果ては未だ見えず。

 

 

 今のこれはまだ未完成だけど、名前を付けるならそうね。

 狂気の戦闘機の文字を弄って『追駆突交』ってところかしら。

 

 本来ならあいつと走る時に完成するもの。

 だけど、あんた達も相当狂っているから出し惜しみは無し。

 

 

 

『サイドテイルが翔ぶ!サイドテイルが翔ぶ!

 マルゼンスキー対応、できない!!

 

 サイドテイル、そのままライスシャワーに並んだ!!!

 ライスシャワーが鬼気迫る様子で差し返します!!

 

 何という叩き合いだ!これが3,000mを走ったウマ娘の走りなのか!!』

 

 

 

 もし、あんたの身体に鬼が宿っているんだとしたら。

 今日の私には大和魂が乗っている。

 

 つまるところ、鬼に負ける道理はないって事よ。

 

 

 

『サイドテイルか!?ライスシャワーか!?

 サイドテイルか!?ライスシャワーか!?

 

 ……サイドだ!!サイドだ!最後はサイドテールっっっ!!!

 阪神で魅せた妖精は今日も健在だった!!!』

 

 

 

 

 ゴールを駆け抜けて徐々にスピードを落とし、コースを外れて大の字に倒れ込む。

 呆然として天を仰ぐと、見えるのは当然曇天。雨が容赦なく私を濡らし、身体に浸み込んでくる。

 

 

 

 勝った。ギリギリのレースだった。

 浸み込んでくるのは雨だけではなく勝利の余韻も。

 

 ふふふっと力なく笑い横を向くと、チラとピンクの花弁が一枚だけ、ターフに散っているのが見えた。

 

 

 

「んふふ。ここが散り処では無くてよ」

 

 

 

 誰にもともなく、一人言ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、サイドテール」

 

「サイドテイルよ」

 

 

 

 マルゼンから差し伸ばされた手を掴む。

 

 

 

「あなた、本当に強くなったわね」

 

「……きっかけはあんたよ。あの模擬レースから私は始まったの」

 

「そう」

 

 

 

 ふらっとしながらも今回はしっかり立ち上がる。

 

 

 

 

「マルゼン、あんた相当無茶したでしょ」

 

「ふふ、()()()()()

 

「ったく。あんたみたいな怪物が無茶しちゃったら、私の出る瀬が無いでしょうな」

 

「でも負けたわ。今の私にはあそこまで踏み込む事はできないもの」

 

「そりゃそうよ。年季が違う。でもお陰様で身体ががったがたよ。

 で、ほら、あそこのナチュラルモンスターを見て見なさいな。あっちの若いのは身体を痛めている様子なんて全く見えないから。全く以て羨ましい」

 

 

 

 ナチュラルモンスターことライスシャワーは毅然とした様子でこちらに目を向けていた。

 レース前ほどピリピリした様子では無いから、多分色々と折り合いはついたものと推測する。

 

 私と視線が交錯すると、一礼だけしてターフを去っていった。

 どう言った心境の変化か知らないが、引き続き警戒するに越したことは無い。

 あいつはまだまだ強くなる。

 

 

 

「だー、負けた負けた!!

 おい、サイドテール!! 次は負けねーぞ!!」

 

 

 

 次いで、ゴルシも同様に去っていった。何故かナリブを引きずって。

 「待てよー、ライスー」なんて追いかけながら去って行ったから、ライスも絡まれる事待った無しだわ。

 

 

 

「身体が頑丈な連中が羨ましいわ。当分私は療養かな」

 

「ふふ。ひょっとしてギャグで言ってる?」

 

 

 

 言って見ただけである。元より鵜吞みにするとは思ってない。

 「じゃ、バイビー」なんて飄々とした様子でマルゼンも去って行った。

 

 

 

 さて、ぼちぼち私もと思った頃合い。騒がしい連中がやって来た。

 

 

 言わずと知れた、私の後輩達(ミニ)である。

 テイオー、ターボ、そしてネイチャ(恥ずかしそうにして)が雨で泥濘るんでいるにも関わらず、私に向かってダイブしてきた。

 

「わぷっ」と間抜けな声を出して、後輩達に揉みくちゃにされたわけだが、まあ今回はされるがままにしておこう。

 

 

 

 

--天皇賞(春)

京都 11R 芝(右)3,200m 不良 15人

 

1着 サイドテイル

2着 ライスシャワー  アタマ

3着 マルゼンスキー  ハナ

4着 ゴールドシップ  2バ身

5着 シンボリルドルフ 1バ身

 

 

 

 

 

 

 

 




京都競バ場は熱気に包まれていた。

 名だたるウマ娘が集まり、誰が勝ってもおかしくないとされたこのレース。
 下バ評以上の盛り上がり。昨今のトゥインクルシリーズの低迷具合を払拭するようなものとなった。


 激闘に次ぐ激闘
 叩き合いの応酬

 
 ターフ上の彼女らの誰もが泥化粧を施しており、その死闘の激しさを物語っているようだった。
 

 特に終盤。
 二度目の下りからのサイドテイルの飛翔は観る者を熱くさせた。

 同世代のルドルフを千切り、マルゼンを呑み、ライスを平らげた。
 タイムも雨中とは思えない程の好タイムであり、良バ場だったらと思わせるような走りであった。



「白の勝負服、に泥が良く映えます事」

「ん、ありがと」



 トレセン学園の元理事長から楯の誉が手渡される。
 
 サイドテイル。
 妖精の名を冠する彼女もまた、皆と平等に泥だらけであった。



「陛下御夫妻もあなたの走りにご満悦そうでしたよ。
 『この歳になってここまで熱く突き動かされることがあるなんて』と」

「最高にかっこいいレースだったでしょう。次の私のレースももっと熱くなるわよ」

「それは楽しみです。
 私としても、あなたが今日この日にこれだけの成長を見せてくれた事をとても嬉しく思います。

 ただ同時に、悲しくもあります」

「なぜかしら」

「……失礼。目出度い席で話す事ではありませんでした。
 しかし漸く、晴れ間が見えかけて来たと、勝手ながらに思います」

「晴れ間?……あ、ホントだ」





 どんな話をしているかまでは聞き取れなかったが、とても穏やかなやり取りだと思われる。
 降っていた雨がついぞ止み、雲の切れ間から光が差し込む。

 『そういう事では無いんですがね』と、元理事長の呟きに訝しみながらも、眩しそうに晴れ間を眺める彼女は今日一番で美しく見えた。



--パシャリ



 レースの事、彼女の事、そして最強のウマ娘の事。
 思うところ、聞きたい事は色々あるけれど、このワンカットを抑える事ができたのが何よりも収穫だった。



--とある記者の回想より
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