YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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9話

--黄色いシャツの巨漢Tの視点

 

 

 

 スズカは何かを掴みつつある。

 自身の理想の走りを追い求めていたころと違い、明確に『敵』を定めて走ろうとしていることで変わったのだ。

 スぺはこの変化をあまり快く思っていないようだが、俺としては悪くない変化だと思っている。

 

 

 良くも悪くも、前までのスズカは求道者然とし過ぎていた。

 自身の最善を追究するような走りこそ、スズカのポテンシャルを最も活かせる走りだと俺自身も思っていた。

 その方向で伸ばして行くことこそ、彼女の走りを最大限輝かせるものだと。

 

 それはそれで間違っていないのだが、あいつとの邂逅がもう一つの可能性を見出してくれた。

 

 

 

 より強い闘争心の発露

 

 

 

 今までのスズカは、言わば『邪魔されたくない』と言った意味合いで、誰よりも速く走り抜けるという方針であった。

 しかしあいつがスズカを煽ったことで、スズカがブチ切れて、自身の殻を破った。

 

 余ほど自分が見ている世界を否定されたのが頭に来たのだろう。と言うか煽られた日のスズカはマジで怖かった。

 

 

 どの程度の変わりようかと言うと、リギルでの併走トレーニングを苦に感じていたレベルから、うちの部員相手に容赦無く(物理的にも精神的にも)当たりの強い併走トレーニングを行う程度に。

 

 それはもう、年下(ウオダススペ)だろうが年上(ゴルシ)だろうが関係なく。

 

 

 始めこそスズカの変わり様に面食らっていた一同だが、何やかんやでうちの連中は適応力が高く、そして喧嘩っ早い。

 直ぐに順応して逆に当たり負けしないようになり、互いにガツガツ来るようになった。

 

 その位スズカの心境に変化があったのだ。

 

 

 通常なら落ち着かせようとするものだが、如何せん当のスズカが今回は折れる気配を微塵も見せない。

 何より苦しそうな表情が見られないためこの方針で練習を続けている。

 

 この感情の上振れが自身の走りと噛み合った時が飛躍の時だと考えている。

 

 

 

 同時にそこがスタートラインでもある。

 あいつには、今までのように自身の世界に入り込むだけでは勝てない。

 

 

 仮にあいつがいない世界線だったなら。

 今までどおりスズカを自身の世界の内側で走らせれば、結果は出してくれただろう。

 しかし、あいつがいるならそうはいかない。

 

 既に数値として記録は出てしまっている。

 最低限そのタイムに近しいものを出さなければ、本番で勝てる見込みなんてあるわけがない。

 

 良くも悪くも臨時T時代、助っ人であいつのマネジメントに携わっていたものだから、渡り合うためのタイムってのは嫌でも分かってしまう。

 

 

 

 

「どれ位足りませんか?」

 

「まだまだだよ」

 

「そうですか。続けます」

 

 

 

 明確に自分よりも速い敵と言った存在。

 追われる者から追い駆ける者となったスズカの可能性は未知数だが、不安は尽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--緑の耳当てをしたウマ娘の視点

 

 

 

 許さない。

 私の世界を否定したあの人を。

 

 同時に私の冷静な部分が告げている。

 

 

 

 今のままでは届かない、と

 

 

 

 なれば、今まで以上を注ぎ込む。

 

 敵意を、怒りを、衝動を。

 あらゆる感情を溶け込ませろ。

 

 無垢に楽しく走る時間はもう終わったのだ。

 

 

 

 一本走り終えるごとに自分の走りが組み変わる感覚。

 同時にタイムも伸びていく。

 

 

 

 今はまだあの人には届かないけど、必ず本番までには仕上げてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--日本総大将になるかもしれないウマ娘の視点

 

 

 

「はあ、最近スズカさんが怖いなー」

 

「どうかされましたか?」

 

「スぺちゃん、元気無いデース」

 

 

 

 最近のスズカさんの具合について。私はとっても不安を感じています。

 ゴールドシップさんも一時的にチームを抜けてしまうみたいだし。

 ちょっと緩い感じの空気が漂っていた頃のスピカが懐かしく思えてきます。

 

 ……いや、最近トレセン学園に来たばかりなので、前のスピカって言ってもいピンと来ませんが。

 

 

 

「エルちゃん、グラスちゃん、聞いてください。練習中のスズカさんが最近すっっっごく怖いんです!!」

 

「スズカが?いや、それもそうですけど」

 

「スぺちゃん。スズカさんだけでなく、スピカ全体が凄く恐ろしい具合に練習をしていると思うわ。

 それこそ、スぺちゃんも含めて」

 

 

 

「へ?」と思わず間抜けな声を出してしまいました。

 確かに最近、凄く練習がキツイなーとは思っていましたが、このくらい当たり前なのでは?

 

 現に年下のスカーレットちゃんとウォッカちゃんは遠慮なくガツガツして来ますし、ゴールドシップさんなんてスズカさんをぶっ飛ばす勢いですし。

 

 

 と言うか気を抜いたら一気に持ってかれちゃいますから、私もとっても必死です!

 隙あらば一撃で仕留めんとばかりに出し抜く、って位気を張っていないと。

 

 次何時ヤれるか分かりませんからね。

 

 

 

「OH、スぺちゃんがすっかり染まってしまってますね。

 いや、マジでうすら寒いものを感じるんですが」

 

「中々に容赦が無さそうな具合に仕上がっていますね」

 

 

「私じゃなくて、スズカさんですよ!

 この際うちのチームがなんかヤバそうってのは目を瞑ります。

 

 とにかくスズカさんが群を抜いて怖いんです。

 多少の当たりは序の口ですし、容赦ないくらい置き去りにするわ、ハンデ戦では後ろから悪鬼の如く追い込んで来るわでもう大変なんですよ。

 

 練習が終われば今度は本音をぶちまけ大会で、今度は容赦なく互いに弱点を指摘するわで、安まる時間が無いんです。

 

 あ、でも自室では「スペちゃ~ん」ってお腹に顔埋めて来るから可愛い所はあるんですけどね」

 

「不満を聞いているのか惚気を聞いているのか分からないデース」

 

「そもそもスぺちゃん。私達も日本ダービーを控えている訳じゃないですか。

 スズカさんの事も重要かもしれませんが自身の事も顧みないとだめですよ(スズカさんが追い込み?)」

 

 

 

 グラスちゃんが一瞬怪訝そうな表情をしましたがすぐに取り繕い何事もなかったように振舞います。

 エルちゃんは表情が読めません。

 

 まあこの程度の情報は流しても良いとスズカさんもゴールドシップさんも言ってましたからね。

 

 

 そんな事よりもスズカさんに関する愚痴にまだまだ付き合ってほしい!

 この後も私は同期二人を相手に盛大に愚痴をこぼしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--怪鳥と呼ばれているウマ娘の視点

 

 

 

 あーあ、グラスってば表情に出ちゃってまだまだでーす。

 スぺちゃんにはああ言ったものの、自分だってスぺちゃん始めスズカの事だって気になってるじゃないですか。

 

 尤もスズカに拘るグラスの気持ちもわからない訳ではありませんが。

 

 

 

 

 過去、私達は揃ってスズカの後塵を拝することになりました。

 あの年のダービーを見て、日本のウマ娘のレベルを改めて確認し直そうと思って参加した大会。

 

 私達はその高い鼻をこっぴどくへし折られました。

 グラスに至ってはその大会の予選で年下のウマ娘にも敗れる始末でしたから、相当悔しがっていました(決勝できっちりリベンジを果たしましたが)

 

 スズカの影すら踏めないし、後ろからあっさりブライアンに捲られるし、年下には追い上げられるし、きれいなフォームのウマ娘の前には出れないしで、もう散々でした。

 

 

 

 だからこそ、日本のトレセン学園に入学を決めた訳でもあります。

 そしてそれは間違いでは無かったです。

 

 チームリギルでの活動は、それこそ毎日がエキサイティングです。

 マルゼンスキーは最近姿を見せませんが、いつも情熱的な先輩達が私達を可愛がってくれまーす。

 

 会長、副会長(最近就任した)を始め、名だたるウマ娘が切磋琢磨するチーム。

 

 

 

 

 そんなチームにいる私達から見ても、今のスピカは恐ろしいです。

 

『あそこまでギリギリの練習はあいつしか舵取りできない』とおはなさんにそこまで言わせるんだから驚きです。

 

 また、今でこそ目の前で延々と愚痴をこぼすスぺちゃんですが、練習中はスズカだろうがゴールドシップだろうが遠慮なく食い千切ろうとしているので、本当に同一人物なのかエルは疑問に思ってしまいます。

 

 スぺちゃんが編入してから僅かな期間しかたっていませんが、それでいて頭角を現してきているのですからやっぱりスぺちゃん、恐ろしいです。

 

 そんなスぺちゃんを皐月で差し切ったスカイに、早くから重賞を取っているキング。

 

 

 

 同期だけでこれなのだ。上の世代に目を向けたらもうキリがありません。

 やっぱり自分はこの学園に来て間違いは無かったのだと改めて思います。

 

 

 

「もう、エルちゃん聞いてます!」

 

 

 

 確かスズカが固執しているウマ娘の話でしたっけ。

 もちろん、私もグラスも知っています。

 

 

「聞いてるよスぺちゃん。スズカが気にしてるウマ娘についてでしょ」

 

「そうです!私のスズカさんを誑かすなんて、許せません!」

 

 

 

 意気込むスぺちゃんを見て、私は苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--海外から短期留学中のウマ娘(豪)の視点

 

 

 

 あっちの席がうるさいね。

 でもそんなこと気にしている場合じゃない。

 

 いくら日本の権威あるレースでこっぴどくやられて恥をさらしたからといっても、私達は走らなければならない。

 と言うか日本の『宝塚』こそ私達がこちらにやって来た本命なのだ。

 

 尤もあのレースは様子見感覚で走るレースでは無かったのだが。

 惨敗した結果、思いがけない経験となったのが唯一の救いである。

 

 

 さて、そんな負け犬の私達だが、思わぬところで友誼を結ぶことができた。

 

 

 

「ふっふっふっ。あんた達にはあいつの情報を流してあげるわ。格安で」

 

「何故私まで」

 

「ルドルフがいないと言語の壁を越えられないじゃないの。

 なーに、あんたにも一枚噛ませてあげるから」

 

 

 

 日本のルドルフと、妖精を冠するウマ娘、サイドテイル。

 

 そもそも私達海外勢は日本のレースを大分舐め切っていた。

 あいつが以外はカスだと言わんばかりの態度で、何の下調べもないままエンペラーカップに出走してしまった。

 

 結果はご存じのとおりである。

 

 

 心機一転して情報収集に取り掛かるにしても、あれだけでかい態度をした私達に友好的な者は誰もおらず、私たち陣営は

手詰まりの状態となってしまっていたのだ。

 

 そんなケツに火の着いた状態の私達であったが、救いの手が差し述べてくれたのが意外なことにこの二人だった。

 

 

 

『情報を寄越してやるから、あいつを存分に追い詰めろ。ついでにあんたらの情報も寄越せ』

 

『あいつはもちろん、他のウマ娘の情報もくれてやるわ。

 

 あんたらは日本のウマ娘について知れるし、私らは貴重なモルモットとしての役割を果たしてくれる被検体が増えてくれるわけだし、

 お互いにwinwinの関係を築けるって寸法よ』

 

『ついでにあんたらの馴染のパイセンの話とか聞ければ最高ね。ブレイクルの話とか』

 

『レース前の出来事?あんなもの戦略よ、戦略。レースが終わればノーサイドよ(嫌らしい笑顔)』

 

 

 

 中々がめつい事を言ってくれるが、当然私らに断る選択肢は無い。

 その辺を含めて提案に乗ったのだ。

 

 

 

「人気投票って言っても今回の春天出走者は軒並みリタイアっぽいわね。私含めて」

 

「あれだけのレースを演じたら皆満身創痍、回復に時間を要するに決まっている。お前もそうだろう?」

 

「似たようなもんね。

 と言うか海外組二人が頑丈過ぎる。3,000超の日本の高速バ場をウォームアップとか、結果はともかくとしても方針は頭おかし過ぎるわよ」

 

「君たち二人のスケジュールがクレイジーだと」

 

 

 

 ふむ。確かにスケジュールはタイトだったかもしれない。

 何せあいつはKGⅥ&QESと凱旋門以外、走るレースが神出鬼没過ぎて中々情報が出回らない。

 今回はたまたま情報をキャッチすることができたから出走が叶ったのだ。

 

 ただ如何せん、日本という国を舐め過ぎていた。

 調整程度で勝てる程エンペラーカップは甘くは無かった。

 

 いや、本調子だとしても及ばなかったと思う。

 そう感じてしまう程のレースだったのだ。

 

 

 故に私達はもう侮ることはしない。

 あいつ以外の情報も貪欲に取り入れて戦略を練る。

 

 

 

『顔にペイントのあるやつの走りの特徴は?』

 

「ヘリオス君か。彼女は先行、逃げの性質だ」

 

「ついでにパーマーもいるでしょ。そう、お嬢様感のあるギャルっぽいの。コイツと連むと大逃げの可能性大」

 

『……猫を背負ったこいつは?』

 

「フクキタル君か。最後の差し込みが怖い娘だな」

 

「こいつにスイッチが入った時は気を付けなさい。このカルト狂い、人が変わったように走り出すから」

 

『………お腹の出てるこの葦毛は?』

 

「オグリだな。驚異的な追い込みが持ち味だよ」

 

「良い腹してるでしょ。これであんたらみたいに頑丈なフィジカルしてるんだからやってられないわ」

 

『FU〇K!! どの口でレースを無礼るな(なめるな)と言ってんだよ、ジャパニーズ!!』

 

 

 

 顔にペイントはまあ分かる。

 何ならこっちでは体に墨を入れるのだってよく見かけるから。

 

 ただ猫は何だよ!

 自らハンデ背負って走るとかどんだけ自分に厳しいんだよ!

 いや、まあそういうハンデを自分に課していると捉える事もでき無くはないからこれもまだいい。

 

 

 この葦毛だ。

 この腹、ホントに走る気あるのかよ!

 

 猫野郎が自分に厳しいんだとしたら、コイツは自分に甘過ぎだろうが!

 身体から自分への甘さが漏れ出しているぞ!!

 

 

 ブレイクルを完封した奴がこんな色物が出るレースに出走って、にわかに信じ難い。

 

 

 

『ねえルドルフ。もう日本のウマ娘を侮ることは無いと思ったんだけど、それはギャグで言っていたの』

 

「(気持ちは分かるが)それでも彼女らの実力は指折りだ」

 

「特にオグリはライスと連んでいるから。文字通り腹に何か抱えているかもね」

 

 

 

 だが真剣な顔して出走者を評してくるものだから、どうしても最後まで舐めた目で見る事は出来なくなってしまう。

 日本出身のウマ娘達は映像以外でもこいつらの人となりを良く知っているから惑わされることは無いと思うが、私達海外勢は見たまんまでしかライバルを捉える事ができないから正直判断が付け辛いのだ。

 

 そういった意味ではこの二人の解説が聞けて良かったと思う。

 でなければ間違いなく舐め切っていたとこだろう。

 

 

 

 

「じゃ、ぼちぼち本命と行こうかしらね」

 

「あいつに関しては私の方が良く対戦してるから任せてもらおう。

 

 一つ、脚質は何でも行ける

 一つ、距離も何でも行ける」

 

「んなことは誰でも知ってんのよ」

 

「それと気に入らないウマ娘の心を折に行くような走りをする。

 私は色んなパターンで何度も負けている。

 

 ただ、言ってしまえばあいつの反感を買ったウマ娘を探れれば対策の立てようはある」

 

 

 

 あいつの気に入らないウマ娘。

 ルドルフはすまなそうな顔をしているから多分当たりを付けられないのだろう。

 

 だが隣の妖精はクソ趣味の悪い笑顔で私達を見つめていた。

 

 

 

「んっふっふー。私が教えてあげるから後であんたらの話も聞かせてもらうわよ。ルド」

 

「全く君と言うやつは。で、誰なんだい?」

 

「サイレンススズカ。得意距離はマイルから中距離。脚は逃げも逃げ、大逃げの変体ね。

 で、『景色』とやらを見れるヤクty……ロマンチストよ」

 

 

 

 サイレンススズカ。

 この緑色の耳当てのウマ娘がレースのキー。

 ルドがゾーンと言っていたが、こいつも足を踏み込んでいるのか。

 

 聞けば今年シニアになったばかりと言っていたが、それでいて足を踏み込めるとは。

 いよいよ以て油断ができない。

 

 

 

「君達も『領域』を知っているとみても?」

 

『当然。ブレイクルを見て来た私達は誰よりもその存在を熟知している。

 だからこそエンペラーカップでは驚いたわ。どのウマ娘も領域に足を踏み込んでいたんだもの』

 

 

 

 自身が思うように走れる世界に入り込む。領域に足を入れると言う事はそういう事だ。

 これができるウマ娘は決まってぶっちぎりの速さを持っているのだが、ことエンペラーカップにおいては該当者が多過ぎた。

 

 だからこそ私達はもちろん、ルドルフでさえ3位内入着が叶わなかったのだ。

 

 

 いや、3位内に至ったウマ娘達に限ってしまえば更に何か『超越』したような走りを見せていた。

 この事を妖精に指摘したら「良いセンスしてじゃん」と返って来たが、それ以上の返答は望めなかった。

 

 

 

 『領域』と『超越』

 

 

 

 この二つがあいつを知るカギとなり得るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--海外から短期留学中のウマ娘(英)の視点

 

 

 

 ビュティが聞きたいことを聞いてくれたから次は私が話す番。

 私からはブレイクルについて話そうと思う。

 

 

 彼女はかつて世界を席巻した。

 

 嫌らしい程に実力を見せつけて、全てを掻っ攫っていくスタイル。

 彼女がレース中に笑わなくなったらもう諦めろと言われる位、本気になった彼女は手が付けられないと言われていた。

 

 

 KGⅥ&QES、凱旋門、BCターフetc

 

 

 誰もが知っているレースで、圧倒的な成績を伴い結果を残してきた。

 

 

 私やビュティを始め、誰しもが打倒ブレイクルを掲げるも、ブレイクルの名の如く真っ向から叩き潰される始末。

 強すぎる存在は時に人を退屈にして仕舞い兼ねないが、それでも世界は強過ぎる彼女を中心に熱狂していたのだ。

 

 あいつが冷や水を被せるまでは。

 

 

 

 笑みが消えた彼女を

 本気になった彼女を

 領域に入った彼女を

 

 

 あいつは嘲笑ったのだ。

 最高の記録と最低の記憶を残して。

 

 

 

 普段こそ飄々と周囲を小バ鹿にするような彼女だったが、一度レースが始まれば誰よりも真剣で真摯だった。

 いけ好かない奴だが同時に憎めない奴でもあったのだ。

 

 ロンシャンでリターンマッチを挑むって表明した時、彼女を目の敵にしている奴ほど、熱を入れて応援していた姿には笑わされたものだ。

 

 

 

 ライバルたちの熱い声援を受けた二度目の決戦。

 始めからクライマックスと言う奴かな。初っ端から全力の彼女を見るのは皆初めてだって言ってたよ。

 

 そして、その本気をおちょくるように走って迎え撃ってしまう光景もね。

 

 

 

 追い着いては離され、追い着いては離される。この繰り返し。

 始めこそ行けると思ったようだけど、それが2回3回と繰り返されると見ている誰もが怒り、そして信じられるわけがないと絶望したんだ。

 

 その間あいつは決して進路を防ぐようなことはしなかったが、それが一層あいつとの差を見せ着けるものとなった。

 

 

 まるで『いつでも抜いてどうぞ』と言わんばかりに。

 

 

 

 こいつには勝てない。

 観客だろうがウマ娘だろうがそう思ってしまったら熱を奪われてしまう。その先に待っているのは絶望だ。

 

 

 

 後はご存じの通り。

 彼女はこの後引退を表明した。

 

 世界最強はその称号と共にあいつに喰われて、今はカスみたいな残り火であたしら後進に熱を入れてもらっているところさ。

 

 

 

「そういう事よ、ジャパニーズ」

 

「前置きが長いのよ」

 

 

 

 私とビュティのかつての天敵でそして現トレーナー。

 ブレイクル改めブレイク。彼女は元世界一位のウマ娘である。

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