--元世界最強のウマ娘の視点
日本の宝塚にあいつが出走する。
流れた情報の信憑性を私は誰よりも知っていた。
何故ならあいつのトレーナーが直接話を持ち掛けてきたのだから。走る理由はクソみたいな理由で、私に話を持ち掛けた理由もクソみたいな理由だけど。
「ふとあの娘がブレイクルさんの存在を思い出しましてね。
『忘れた頃にもう一度念入りに叩き潰しておこうか』とおっしゃってましたので」
まるで悪びれた様子のない口調で映像通話を寄越してきたものだからかつて無い程にブチ切れたわ。
そもそもあの連中は私が引退したことすら知らない風で話していたからそれも癪に障った。
その様子を見ていた教え子(と言うか後輩ね)2人もあいつの出走に興味を示していた。
あれにリベンジマッチを挑める、と。
世界の一線級で張ってるウマ娘の殆どはあいつに苦杯を喫しているが、心の折れていない連中は今だリベンジに燃えている。
今回のチャンスは日本にありだ。
期間は短いが日本で出走登録ができるレースは結構ある。
日本での海外バ出走条件は人数制限に引っかかりさえしなければ案外緩かったりするから、これはチャンスと思いどうせならと言う事で、最も格式高いエンペラーカップにエントリーした。
これが良くも悪くもいい経験となったわけだけど。
日本のウマ娘は世界ではあまり見受けられない。
あいつが規格外なだけ。そんな安易な思い込みがあったのだ。
冷静に、少し考えて調べれば分かる事。
あいつを追って日本に向かった連中の成績を調べれば、自ずと結果が見えてくる事に。
言ってしまえばその高い鼻っ柱はボッキボキに折られた。
距離、バ場状態、気候、その他諸々条件はあるが、じゃあその条件をクリアして本当に連中に勝てるのかと言われても『イエス』とは
答えられない。それだけ連中は鍛え抜かれていたのだ。
『領域』に入る走りは当たり前。
或いはそれすらも『超越』するような走り。
特に後者はあいつに通ずるものがある走りだ。嫌なことを思い出させてくれる。
日本のレース界隈も世界の例に盛れず人気が低迷傾向にあるようだが、その分地方が活気付いている。だからと言って日本国内の一線級のウマ娘達の質が下がっていると言ったらそうでもない。寧ろ近年稀に見る程の実力派揃いらしい。
『新しい風』が吹いたと思ったら特大の嵐が全てを飲み込んでしまったが如く、あいつが猛威をふるい続けているんだとか。ミスタヅナはそんな事を仰っていた。
エンペラーカップの前にそれを知っていればと思わずにはいられなかったが、下調べを怠った私が悪い。
レース後は私の技術継承も質にして何とか練習相手を募ったが、私らの悪評が出周り(身から出た錆でもあるが)中々練習相手が見つからない。
3人だけで練習もできなくは無いが施設利用、サポート体制等の点から明らかに練習効率が悪くなってしまう。
トレーナーとして何とかしないと。
そう思っていた矢先にルドルフとサイドテイルが声を掛けてくれた。
内容は情報提供と、合同練習の提案。
渡りに船だった。
特にカノープスは私達を全面的にバックアップしてくれると言う最高に嬉しい提案までしてくれた。
エンペラーカップを制したウマ娘がいるチームの全面協力である。
宝塚に出走するメンバーがいないからこそ協力ができると言う事で、タイミングが神がかっていて狂喜乱舞したものだ。
見返りは今後の協力関係の構築と、世界レベルの練習の提供。
現世界最高峰の2人と、元とはいえかつて最強と呼ばれた私の実力と技術を生で味わう事ができるのは十分見返りになると判断してくれたのだ。
うちとしても2人を退けたサイドテイルの秘密を探れるかもしれないのだから願ったりかなったりである。
通常練習自体はチビ達をパートナーに調整を行った。
何でもサイドテイルは先のエンペラーカップの疲労が抜けきっていないようで、本格的に練習に混じるのはまだ先になりそうとの事であったのだ。
尤もそれは初めに言われていたことなので納得していたが、思った以上にチビちゃん達がやる。
ターボの初っ端の加速力は既に世界トップ水準だし、ネイチャはチビとは思えない度胸で駆け引きを迫ってくるし、テイオーは全てが高水準。
これでデビューを済ませていないのだからさぞかし南坂は彼女らの成長が楽しみだろう。
最終的に私もうずうずしてきたので南坂にバックアップをお願いし、一緒に混じって走ることにした。
最後まで喰らい付いてきたネイチャがすっっっごく可愛くてゾクゾクして来ちゃったのは内緒。
サイドテイルがいい感じにネイチャを煽ってくれたからホント、可愛い反応をくれて(ジュルリ)
他にも日本のダービーを見て驚かされもした。
海外で注目されていたグラスとエルが日本のダービーに出場していた事。そしてそいつらでさえダービーを獲れなかった事に。
私らが知っている今期のクラシックのビックネームが、日本の名の知らぬウマ娘に競り負ける光景を見て、改めてレベルの高さを実感させられた。
ちなみにこの頃になると日本のトレセン学園に2人は大分馴染み、満喫するようになっていた。
チビちゃんやらサイドテイルの先輩やらに連れられて、カラオケ、ゲーセン、スイーツ、etc。
日本の娯楽に触れるようになって、2人の肩の力もいい意味で抜けてきたように見えた。
気が付けば時期も6月に入り、いよいよ練習も追い込みをかける期間。
ここからは一部サイドテイルも練習に参加してくれるとの事で2人も改めて気を引き締めて練習に臨んだのだが、やはりその強さは本物であった。
私を含めた4人立で、実戦さながらのレース練習を日に一度メニューに組み込んだのだが、サイドテイルには終ぞ一度も勝てなかったのだ。
なお、この時私は煽られて2度目のブチ切れをかましていたのだが(まだ2×歳だ!)……まあこの話は止めよう。死人が出る。
私らが『領域』に入った走りをしてなおサイドテイルには及ばないのだから驚きである。
『領域』の先を行く走りとはいったい何なのか。
南坂に尋ねたが彼からは『ゴリ押し』としか返ってこなかった。意味が分からない。
ただまああまり多用出来ないと言う事も凡そ分かる。
サイドテイルの抜けない疲労から察するに、あれには相応のリスクがあるのだろう。走り終わった後もフォームが微妙に歪んでいたし。
つまるところサイドテイルの実力は薄氷の上に成り立つものなのかと予想が着く。
それならば宝塚に出走しないのも合点がいく。
ま、こちらとしてはここで調整がてらに走ってくれた方が断然ありがたい。
サイドテイルの走りをいくらでも目にすることができるのだから。
「さ、今日も連勝記録伸ばしちゃおうかしら」
『『『FU〇K!!!』』』
「あ、あの、汚い言葉は彼女らの情操教育に影響が」
但し負けっぱなしは性に合わないけれどね。
「サイドテールなんてやっつけちゃえ!(ターボ)」
「先輩を叩き潰せー!!(ネイチャ)」
「弱い者イジメ反対(テイオー)」
外野からの熱いエールに南坂の呟きも掻き消された。
なお、結果はチビ達の応援には応えられなかったとだけ伝えておく。