「たのもー!ですわ」
部室でいつものメンバーと談笑しているところに何かなんかお嬢っぽい娘が来た。
何だろう、そこはかとなく弄りがいがありそうで顔のにやけが止まらない。
周囲で見ていたテイオーやネイチャは『逃げて、超逃げて』なんて顔をしていたが、逃がすだなんてとんでもない。
ビュティとファンも何だか気の毒そうにその娘を見ていたが、迷えるウマ娘を手荒に扱うわけがない。
紳士的に席まで案内して、紅茶まで入れて茶菓子(生徒会室産)で持て成してやろうじゃないか。
「あ、ありがとうございます。あら、このお菓子は」
「生徒会からおすそ分けされたものでね。味は保証するわよ」
「まあ、生徒会とも交流があるのですの」
「ええ。海外から来られている方の交流の件でね。
うちだけでは対応しきれないことについてフォローしてもらっているのよ」
嘘は言っていない。
特にルドには通訳と言う点でそれなりに活躍してもらったから嘘ではない。
お菓子は出来合いのものを。
いつも通りテイオーと泥沼の障害レースを校舎で繰り広げて生徒会に呼び出し喰らった時に、ね。
最近は棚に入っているお菓子まで副会長が管理するようになったからお裾分け(強制)の量も大幅に減ってしまったけど。
おのれ、エアグルーヴ。
思ったのと違う持て成しを受けてお嬢っぽい娘が「思っていたのと違いますわ」と言い始めたところで要件を聞くことにした。
「で、どうしたの」
「ええ。アルダンがバ鹿にされたようなのでお礼参りにと思っていたのですが。
あなたがそんなことするウマ娘には見えないのでちょっと戸惑っておりますわ。
あ、そのクッキーも美味しいですわね」
お菓子一つで警戒を解いてくれる。
カモである、むっちゃカモである。
多分今の私は飛び切りの笑顔なのだろう。
お嬢っぽい娘、メジロマックイーン以外の連中が皆ドン引きしている。
良かった、アルダン弄っておいて。
出血大サービスだ。他にもここぞとばかりに秘蔵のお菓子を提供して警戒を解いていく。
「珍しいお客様だし良かったら(ゲス顔)」と普段は絶対に見せない物腰穏やかなお姉さまスタンスで更に警戒を解いていく。
いよいよ周りの連中が身体を掻き毟り出してきたところからが本番である。
「ふふ、美味しそうに食べるわね」
「は、私としたことが。
はしたない所をお見せして申し訳ありませんわ」
「いいのよ。おいしく食べていただいた方がありがたいもの。それより、何か物申したいことがあるんじゃないかしら?」
「う、正直そのつもりでお伺いしたのですが。とてもそのような気分ではありませんわ。
良くしていただいた方にあれこれ言おうとしたなんて」
「口に出さなければいいのに。でもそうね。折角来たのだから少しお話でもしない?
食べるだけではつまらないでしょう?」
「ありがとうございます!
それと今更名乗ることになりましたがメジロマックイーンと申します。
ご歓迎誠にありがとうございます」
「サイドテイルよ。あまり畏まった口調はできないけどよろしくね」
「今日の天気は雪かなー。夏だけど」なんて魂が抜けたような表情の連中はさておき。
精一杯のもてなしの結果、実に有意義なお茶会になった。
やはり春天を回避したメジロが宝塚にやって来ること。
あいつに対してのヘイトが半端ない事。
アルダンが私に対してガチギレしてる事(マックイーンにはやんわりと嘘ではない事情を説明)
こちらこそマックちゃん、ごちそうさまです。
ただ大まかな方針は分かったのだが、練習内容については各陣営でかなり厳重に管理しているっぽい。
それとなく聞いてみたがマックちゃんの耳にもその情報は出回っていないようである。
テイオーとネイチャは同世代のためか、罪悪感でお腹を押さえだしているし、聞き取れる情報ももう無いし、ここらで勘弁してやろう。
やんわりと話を切りお帰り願おうと思った矢先だった。
「チワーッ、ゴルシック宅配サービスでーす。
お荷物の引き受けに伺いやしたー」
「あれ、ゴルシじゃん。もしかしてマックイーンちゃん?」
「うへぇ、お前が応対かよ。遅かったか」
「その辺の教育もしときなさいよ。あんたのところ所属なんでしょ?」
「そ、あたしが引っ張って来た。これからすげえ伸びるぜ、マックちゃんは」
そう言うとゴルシは手際よくズタ袋をマックイーンに被せて去って行ってしまった。
マックちゃんは『シリウス』所属かー。
あの連中に揉まれて成長していくんだとしたら、そこはかとなく恐ろしい存在になるわね。
喜びなさい後輩達。
あんたらの世代も中々に楽しそうな世代よ。
「ビュティ、ファン、朗報よ。
メジロファミリー、宝塚、エントリーよ」
「メジロファミリー。それは強いのか」
「詳細は南坂Tが来てからね。簡単な英語じゃ伝えきれない位手強いわよ」
--メジロなウマ娘(お嬢笑)の視点
「何するんですの、ゴールドシップ!」
折角楽しいお茶会をして親睦を深めていたと言うのに。
それに、あのクッキーもまだ全部食べ終えていませんのよ!
食べ物は粗末にしてはいけないんですのよ。
「あー、マックちゃん念のため聞いておくけど、何の話をしていたんだ?」
「パーマーやライアンが次のレースのために燃えているって話ですが」
ゴールドシップにしては珍しくストレートな物言いですわね。
「ダウト。それは言ってはいけない情報だわ」
「? どうしてですの。当人達からは話してもいいと言われているのですが」
「あそこの海外組も走るのに余計な情報は与えちゃいけないぜ。向こうの情報に制限を掛けれてたんだから。
正確な情報を言い振らしちゃうと奴らは分析してくるから、より手強くなっちゃうんだよ」
「そうなんですの。なら、より強くなった敵を打倒してこそですわね」
上等です事。
真っ向から叩き伏せる。実にメジロ好みのシチュエーションですわね。
私、いい仕事し過ぎです事よ。ナイスアシストですわ。頑張れーライアン、アルダン、パーマー、ですわ。
「アホかー! うちからオグリが出走するのに、敵陣営に楽させる道理はないだろうが!!」
は、しまったですわ。
オグリキャップさんが出走するんだとしたら、敵陣営に貴重な情報を与えてしまった事になっていますわ。
畜生、謀られましたわ!!ガッデムですわ!!!
おのれぇ、サイドテイルさん。まんまと嵌められました。
「あの方、巧妙過ぎますわ」
「どうせお菓子で釣られたんだろ。口元がお留守だぞ(躊躇いなく仕掛けてくる辺りサイドテールもえげつないけどな)」
く、ゴールドシップさんにも呆れられている。何たる屈辱。
いいですわ。いずれあの方ともいずれ雌雄を決する事にいたしますわ。
「ほれ、マックちゃん。着いたぞ。マックちゃんもメイクデビューが近いんだから練習は油断すんじゃねーぞ」
「そこは分かっています。それで、今日は誰の調整を」
「お、戻って来たかい。ならオグリ君に着いて練習してくれ。
おーい、北原君! マックイーンも見てあげてくれ!!」
ズタ袋から解放された私はそのままオグリキャップさんの練習に着くよう指示を出された。
このトレーナーはとても優秀なお方です。
始めこそ、ゴールドシップさんの道楽で練習に付き合わされていたのかと思いましたけど、集まっている部員は全員一線級
のウマ娘達でした。
何でも、最強のウマ娘を打倒するべく、練習効率を重視するために作ったチームなのだとか。
そのため練習もとんでもなく厳しいです。
代表トレーナーさんに北原サブトレーナー。臨時で六平トレーナーさんが見てくれているのですが、本当にキツイです。
オグリさんもそうですけど、ブライアンさんにチケットさんにライスさんも物凄い根性しています。
私も負けていられません。
「凄い、走れば走るだけ伸びていく」
「ジョー、調子に乗って負担掛け過ぎるなよ!」
「ふぅぅぅぅ。大丈夫だ、マックイーンが来てくれたから調整して走れる」
「カッチーんと来ました。疲労困憊状態のオグリさん等敵ではありませんわ」
「? まだ仕上がっていないマックイーンに負けるわけないだろう」
こ、この人は本心でこういう事言ってのけるからもう。
結構。そのお惚け顔に敗北の味をプレゼントして差し上げますわ!
「おい、マックの嬢ちゃん。2,000の併走だ。
本気で行って構わねぇ。大差着けるつもりでやってやれ」
六平トレーナーからもゴーサインが出た事ですし、全力で行ってやります。
手抜き? んなもん必要ねぇですわよ。
--葦毛の怪物と呼ばれているウマ娘の視点
「畜生、ですわ!」
ターフで横たわっているマックイーンを尻目に、私は肩で息をつく。
流石にメニューを消化しながら2,000併走はキツい。
新人とは言え、メジロの期待株相手だと尚更だ。
尤も先輩として負けるわけにはいかないがな。
あれから大分遠くに来たものだと我ながら思う。
ルーキー時代。
身体が弱かった頃から何かと北原が目を掛けてくれていた。
良く食べて、良く動いて、少しずつ走ろうと、レースそっちのけで私だけを見てくれているあの視線が大好きだった。
成長するにつれて身体は丈夫に、脚は速くなり、地元はおろか最後は中央から声が掛かるまでに至った。
『よし、行ってこい。笠松の星、オグリキャップ』
嬉しいはずの激励なのだが、私はとても悲しい気持ちになった。
同時にこの時初めて実感したのだ。
--そうか、北原が私のトレーナーなのか
ウマ娘とトレーナの出会いには、時折第六感が働くことがあると聞く。
トレーナーにしろ、ウマ娘にしろ、強く惹かれる事があるのだ。
それが私にとって北原だったのであり、別れの言葉を聞いたことがトリガーとなったということだ。
そこからの私は相当に駄々をこねた。
北原も来い、いや連れて行く。無理?じゃあ私は行かない。行けない。
行っても私は北原が見てくれないと伸びない。直感してしまったんだ。
そんなことを無茶苦茶に泣きながら言ってたと思う。その位コイツを逃しちゃいけないと思ったのだ。
尋常じゃない私の様子を見てか、北原は六平Tに事情を説明し、私の状態を正確に把握してくれた。
『お前さんの教え子はお前にトレーナーとして魅入っちまったんだ。
中央でも選りすぐりのウマ娘ってのは得てしてそういう娘が多いんだよ。
喜べ、お前さんの教え子は間違いなく強くなるぞ。お前がいればな』
後で聞いたらそんな話をしていたらしい。
ただ、当時の私は必死で必死で、日はく『捨てられそうな子犬がキャンキャン悲痛に泣いているようだった』と後に北原が語ってくれた。
いつまでも返事をくれない北原に、いよいよ私が膝を着いて絶望しかけた時に腹を括ったらしい。
『1年待て。必死こいて勉強してコネでも何でも使ってどんな形でも中央に入ってやる。
だからお前もコネでも何でも使って俺を引っ張り上げてくれ』
中央に入った私は六平トレーナーの世話になり、力を磨き、そして--
『言いたいことがあるなら、真っ向から聞いてやる』
『……あんたも面倒くさい目をしてるわ。ようこそサンドバック』
「どうしたオグリ」
「北原--まだまだ私は強くならなくちゃと思ってな」
「そうだな。だが今日はこれで終いだ。ヤムチャしてる後輩も連れてってやれよ」
「まだまだ行けますわ!」
私はまだ、夢の中にいる。
--富士の名を持つウマ娘の視点
最近の地方は活気付いている。それは、ここ笠松にも当て嵌まる。
今までの地方と言ったら、中央のレベルに着いて行けないウマ娘がそこそこに活躍できる場所を求めてやって来る、
中央漏れの受け皿的な立ち位置であった。
それがここ最近は『ちょっとレースに出て見たい』『一度でいいからウイニングライブをしたい』など、些細な理由から受験するウマ娘が多くなっている。
『走る事』に人生を賭ける奴からしたら有象無象の増加はウザったいだけ……何てことを思っていたのだが、中には中央に入る前から自身の実力に見切りを付けて、初めから地方で暴れまわってやろうと画策する娘も少なくない。
理由は簡単だ。あのウマ娘の台頭である。
あれだけとんでもない実力を目の当りにしたら、自身の力を信じられる奴しか挑もうとはしない。
中央に挑む奴と言うのは、その殆どが自信家だ。
その殆どの自信家の自身を打ち砕くぐらい、あのウマ娘の走りは強烈なのだ。
だから地方にそこそこ強いウマ娘が集まるようになったのだ。
では、ライト層の増加の要因は?
これは地方に足を運ぶお客さんが増えたことに起因している。
あのウマ娘の台頭は中央の観客から熱を奪った。
ただその熱の行き先が地方に向けられた。
地方の試合はいい塩梅で実力が拮抗することが多い。
それを見て、お客さんは盛り上がってくれるのだ。
且つ、中央と違いそのレベルは段違いに低いため、接戦を観る者の中にはこう考える者も出てくる。
『私でもワンチャンはあるのでは?』と。
地方側もここぞとばかりに入学者を増やすために、2の手、3の手を打つ。
ローカルシリーズの運営は通常通りに、特に地方でもやっていけないと学生が思った時のためのセーフティーを充実させると言いう点に重点を置いた。
進学に力を入れるクラスと、専門的学門や技術を収めるためのクラスの増設である。
当たり前と言えば当たり前の事なのだが、ここさえ押さえてしまえば、当人や親御さんが感じる将来に対する不安も払拭できると考えたそうだ。
そしてそれは当たっていた。
玉石混淆。
実力に大分ばらつきはあるが、ここ数年で入学者は爆発的に増加した。
最近では、アイドルウマ娘が特例的に短期入卒を行い、ローカルシリーズに出るって事もあったりする(実力はお察しだが)
地方だからこそ柔軟に対応できる。というわけでは無い。
中央の連中があのウマ娘に振り回されているどさくさ的な意味合いの方が強いと思う。通常、革新的な事などしようものなら中央の物言いが入るはずだ(或いは敢えて目を向けないようにした?)
どうせ緩やかに停滞していくのが目に見えているのならこのチャンスを活かしてみようと発奮し、やるからには各地方で足並みを揃えてやって見よう。なーに、ダメでも底は変わら無いからヘーキヘーキ。
そんな緩い感じで発足したようだが、結果、地方のへの入学者は上昇傾向。実力のある新入生も増えたのだから私もうかうかしてはいられない。
「上手くいきすぎている?」
「ああ。中央としても地方の活性化は課題でもあったから、邪魔立てするデメリットは無いんだよ。
寧ろ新しい利権。所謂甘い蜜が出来るって算段があるから、そこを求めての足の引っ張り合いが起こりそうなもんだったんだが、
不気味なくらいスムーズに話が進んだんだ。
要因は恐らくあそこの元理事長が噛んでいると思われるが、真相は当事者にしか分からん。
ただ事実として言えるのは、その話を通した後、あそこの学園の元理事長含みURA上層部は何人か首が飛んだってことだな。
尤も、我々の気にする事では無いが。
末恐ろしいのはあのウマ娘だよ。自身の力と言動だけで一体制に影響を及ぼすんだから。
舵取りをしているトレーナもこれまた恐ろしい人なんだと思われる」
「……そんな危ないウマ娘と、またオグリはやるんですよね」
不安しかない。
またジャパンカップの時みたいに打ちのめされるんじゃないか。
そんな気がしてならない。
あの時テレビでオグリの様子を見て、急いで皆で連絡を取ろうとして。
毅然と立ち向かってくれたエアグルーヴさんには感謝しかない。
オグリも実際『本当に怖かった』と吐露してたから。
「オグリもジョーさんも、『リベンジだ』って息巻いていたからな。
相当も揉まれて来たんだろうな」
「オグリもジョーさんも強いんだな」
「だな--さて俺たちも行こうか。今や地方も勢いだけなら中央以上に群雄割拠だからな」
ちょっと前と比べても、人が明らかに増えたターフ内。
中央から漏れ出した者、軽い感じでやって来た者。
走る理由は様々だけど、誰だって一番を目指したい。
でもって、ちょっと疲れた時は一休みして、また走り出せばいい。
ここはそういうところ。
斯く言う私はまだまだ走り足りないがな。