YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

35 / 37
14話

 6月下旬

 

 上半期の総決算宝塚記念。

 

 

 メジロ4人の衝撃

 オグリ、エアグルーヴら世代の出走

 マーケビュティ、ファンブルスら世界からの刺客

 

 そしてあいつの出走確定報

 

 

 

 確定日を迎えてなお名前が残っていることで、あいつが来ることも確定した。

 珍しく。本当に珍しくあいつ陣営がメディアに露出していると思ったら、出走理由を『イジメたい娘がいるから』と嫌らしい笑顔で答えたことも相まって、その注目度は天皇賞と同等まで跳ね上がっている。

 

 

 『イジメたい相手とは?』とこれまた攻めた事を聞こうとした記者に対し『ん-、一番悔しそうにしている奴じゃない?』と相変わらずな事を宣っていたわけだが、まあその答えを知っている陣営は限られてくるわけで。

 

 

 そのヤリ玉に挙げられているウマ娘と来たらそれはもうおっかない雰囲気を放っているのだった。

 

 

 

「ヘーイスズカwwスッマーイスッマーイww」

 

「あー。まあ来るかもしれないとは思ったけどさ」

 

 

 

 まあ敵陣は視察するわけなんですけど。

 今回の私は完全にフリーなのでかなり手広く動いていたりする。

 

 メジロはライアン×、ドーベル(来ると思っていなかった)×、アルダン×××(やべぇ声が漏れて来た)とNGを食らったため、黙って引き上げて来たけど。

 

 なお、パーマーヘリオスら陣営はかなり気前よく受け入れてくれたので、ウェイウェイしながら世間話をして帰ってきた。

 でもこいつら、逃げしか打つこと無いからそれ以上探りの入れようがないし。

 

 

 フクキタルは完全にパルプンテだから触れない。

 当日の方針を占いで変える可能性のあるやつはマジでキ〇ガイだと思うんだ。嘘か誠か真相は分からないけど。

 

 

 エアグルーヴはルドルフのロックが掛かっているから無理。同世代の通訳には今後もお世話になることがありそうだし。

 

 

 で、最後に来たのがスピカの控室。巨漢Tが現在頭を張っているチームであいつのイジメたいウマ娘がいるところ。

 ゴルシが離脱してからは下の代が中心の次世代チームとは聞いていたけど、いやぁおっかねぇわ。

 

 ツインテールと短髪がメンチ切って来て、例のよく食うウマ娘が「どこ陣営のカチコミですか!!」とチンピラ節全開のムーブを噛まして来たりで、ゴルシの系譜を思わせるような食い付きを見せてくれた。

 

 そんな中でもスズカは特に気にした様子もなく、こちらを一瞥するだけ。

 そこそこ雰囲気は一丁前である。

 

 

 

「いや、どの陣営にも出禁喰らっちゃってね。主にメジロ」

 

「そりゃ無理筋だろ(うちはゴルシ-マックイーンと太いラインが残っちゃいるけど)で、他陣営は?」

 

「何も。多分あんたとそう変わら無いわよ(但しゴルマク情報は除くww)」

 

「「だよ(ね)なー((絶対何か隠してるわ、コイツ))」」

 

 

 

 後輩達そっちのけで和気藹々と話していると、ちょっとだけスズカの雰囲気に鋭い視線が混じるようになった。

 これはぁ、、、、甘酸っぱい青春のかほり。私でなくちゃ見逃しちゃうね。

 

 

 『にちゃぁ』という笑顔でスズカに目を向ける。

 ツインテールのウマ娘がなんか面倒くさそうな表情を向けているが気にしない。

 

 ラブコメの波動に目覚めた私はうざいのだ。

 

 

 

「にしても懐かしいわ。あんたに身体管理を任せていた頃が懐かしいわ。当然あいつの情報も抑えている訳でしょ?」

 

「あー、まあな。あいつも進化していると頭が痛くなってくるけどな」

 

「大丈夫ですよ。その進化を上回るつもりですから」

 

 

 

 フィィィィシュッ!!

 ちょっとだけ過去を匂わしただけで話に入り込んで来るこの反応よ。

 

 何よ、この娘可愛いところあるじゃないの。

 「え、この人スピカの人だったんですか?」とよく食う娘がアシストまでしてくれるものだから話が捗るわ。

 

 

 

「逆逆。コイツが私んとこの臨時Tだったのよ」

 

「……へぇ、だからあの人の正確な情報が」

 

「まあ、そういう事だ。これはオフレコで頼むな。口外したくない情報だからな。

 後コイツは聞けば嬉々として教えてくれると思うけど、気付いたら俺達の情報も抜いてくるから。油断するなよ」

 

「んふふー。情報の扱いだってあんた達が教えてくれたんじゃない。ごっつぁんです!

 でもま、あの頃はあのころで楽しかったわ。あいつもいてわちゃわちゃしてたし。先輩達も元気よ。あんたも偶にたかられてるでしょ?」

 

「あのダメ娘'sども、毎度給料日を狙ってくるんだぞ。何とかしてくれよなぁ。

 

 っと、昔話に花咲かせに来たわけじゃないんだろ」

 

 

 

 私としてはこのまま過去話に花咲かせるのも吝かではない。スズカちゃんの雰囲気がとげとげしくなる様子を『グフフ』と言った表情で眺めるのも乙なんだけど、こいつが話し切り上げて来たし切り上げてやろう。

 

 あいつに1%でも対抗できるように仕向けることが私としても本命の話なのだから。

 

 

 

「あんたら陣営。スズカが得意の脚質で来ると仮定すれば、あいつはそれに水を差してくる。うちの海外組もそこに焦点を当てて対策を打っているわ」

 

「おいおい、お前。それは……」

 

「今更話したところで痛し痒しよ。こっちは対策万全で臨める状態なんだから。それに海外組からも了承を得ているわ。

 そもあいつらもあんたらと同じで、別ベクトルで挑発されてやって来てるんだから。敵同士とはいえ、情報の共有程度は問題ないでしょって判断よ」

 

「となると。ああ、高速レース待った無しだ」

 

「喜びなさい。逃げウマ多数のサバイバルマッチよ。勝者は速くてスタミナが豊富な奴」

 

「実質先行じゃねぇかよ。いや、でも、ある程度予想の範疇でもあったが。確定報だな」

 

「そゆこと。これ、聞いて絶望しないなら、良い感じで抵抗してくれそうね」

 

「なるほど。お前はそういう見立てなんだな」

 

「当たり前でしょ。何年あいつを追っかけていると思うのよ」

 

 

 

 悪いけど、あいつが私以外に負ける姿が微塵も想像できないの。

 だからこそ、想定を覆してあいつを苦しめて欲しいと思うのよ。

 

 

 

「言いたいことは分かったかしら。サイレンススズカ?」

 

「貴方に言われなくても。レースで見せつけてやりますよ、先輩」

 

「頼もしい限りで。じゃ、頑張ってね。あ、それと」

 

 

 

 狙いは巨漢Tの右頬。

 不意打ち一千。

 

 まあ口づけです。ごっつぁんです(2回目)

 異性としては全く興味は無いけど、意味深に微笑んでクールに去ると多分火が着くかなーと思って。

 

 惜しいのはその後の控室の様子を音声でしか把握できなかったてこと位である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「どうでしたか」

 

「うーん、それなりに仕上がっていたよ。苦労すると思うわ」

 

 

 

 スズカにしろパーマーにしろヘリオスにしろ、やはり仕上がり自体は完成されていた。絶好調という感じである。

 特にスズカには精神的ブーストを掛けてきたわけだし、手強いのは間違いないだろう。

 

 

 

「オグリキャップさんの様子は?」

 

「ライスが外で待ち構えていてね。流石に無理」

 

「カイチョーのところも無理だったよ。『来ると思ってたからな。仕上がりは上々と伝えてやれ』って外で教えてくれた」

 

「リギルはメジロ張りにガードが堅いから。通報されないだけで上々よ」

 

 

 

 「え、僕って相当危ない橋渡らされてる?」って何を今さら。

 戦慄しているテイオーを他所に情報の整理と今日の方針を海外勢と調整する。

 

 ブレイクを筆頭にビュティ、ファンの表情にも熱が入る。

 最近ふざけ過ぎて忘れてたけど、こいつ等もワールドクラスのウマ娘なのだ。

 

 況してや私と同い年。

 今はもちろん、将来的にもその界隈での活躍を期待されている無茶苦茶なビックネームだったりするわけなんだけど。

 

 

 

『今は無理でも、将来的にターボを招くには……』

 

『ミスターを落とせばワンちゃん』

 

『いや、先ずはこっちのチームに慣れてもらう事から。今回の件をきっかけに、短期の交換留学的なことから』

 

「あのー、今日の方針……」

 

 

 

 南坂Tの雰囲気から察するに、何となく関係なさそうな話に熱が入ってそうなのよね。

 『ターボ』って単語からこいつらまだ引き抜きを諦めてないっぽい。

 

 余裕何だか、リラックスしてるんだか。

 

 

 

「T、対策は十分練ったって判断でしょ。話す事は話したし」

 

「ええ、まあ。そうですね。後は結果が示してくれるでしょう」

 

『オーライ。まあ後はなる様になれ、ってね』

 

「力が入っていないのはいい事ですが。気を付けてくださいね。あなた達が何よりも警戒しないといけないのは、あの人なんですから」

 

『あいつでしょ。それは私が散々煮え湯を飲まされているから分かっているわ』

 

 

 

 ブレイクの手が握りしめられている。

 まあこいつは確かにね。世界クラスに断末魔を上げさせられていたから。

 

 コイツの最後のレースは『慟哭』とまで評されている。

 ま、私クラスなら折れることは無いんだけどね!

 

 私らのダービー後の秘蔵映像を見せてやったら衝撃を受けていたわ。

 『何であんた達は折れていない?』とか何とか。

 

 私以外は折れたんですけどね。私以外は。

 重要なのはその後。立ち上がって尚、前に進む事。これ重要。

 

 

 何でか知らないけど私らの同期は何やかんやで根性がある連中が多い。

 あいつに何を言われても最後は立ち直る。

 

 秋華賞でぼこぼこにされている同期ですら後輩を守るために立ち上がった位なのだから。

 あれは燃えたわ。

 

 エアグルーヴめ、命拾いしたな。

 

 

 

「私が言うのも何だけど、多分天皇賞よりキッツい事になると思うわよ」

 

『あの状態より厳しいのは勘弁願いたいわね』

 

『元よりその覚悟だ。油断も隙も無いが、楽に勝てるとも思っていない。

 あいつにも、それ以外のウマ娘にも、だ』

 

「油断は無いようです。もう私達から言う事は何もありませんよ」

 

「そうね。ま、慰めの言葉でも考えて待っているわよ。個人的には覆してくれた方が嬉しいんだけどね」

 

「サイドテイル先輩が照れてるわよ」

 

「ネイチャ、シーッだよ。ほら、尻尾がそわそわしてる」

 

「おら、だから聞こえてるんだっつーの」

 

「「キャーっ」」

 

 

 

 畜生、しまらないもんね。

 でもまあ、あれだけ一緒に頑張って練習してたんだから、応援したくなる気持ちも出て来ちゃうのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--宝塚記念

 

阪神 11R 芝(右) 2,200m 良 15人

 

 

『名門メジロの衝撃。海外勢2人の刺客。

 全てはあのウマ娘が参戦を表明したからと言われています。

 

 上半期の総決算、宝塚記念。今回も出走するメンバーはG1の輝きに相応しいメンバーが集まりました。

 

 残念ながら天皇賞から連戦で出場するウマ娘は海外勢を除けばおりませんが、それだけあのレースが激戦だったと言う事であります。

 そしてこちらに出走するメンバーも激戦必須と言える事でしょう。

 

 ご紹介します。

 

 

 1枠1番  メジロライアン

 

 2枠2番  メジロアルダン

 

 2枠3番  メジロドーベル

 

 3枠4番  エアグルーヴ

 

 3枠5番  ファンブルス(外)

 

 4枠6番  オグリキャップ

 

 4枠7番  マチカネフクキタル

 

 5枠8番  マーケイビュティ(外)

 

 ……

 

 ……

 

 6枠11番 ダイタクヘリオス

 

 7枠12番 メジロパーマー

 

 7枠13番 サイレンススズカ

 

 ……

 

 8枠15番 キュウセイナイト

 

 

 以上の15名です。

 さあ、どのウマ娘もあのウマ娘を意識しているのは間違いないでしょう』

 

 

 

 どいつもこいつもあいつを意識しやがって。

 まあ散々コケにされてきたのだ。俺様もそこは腹立たしい事でもあると思う。

 

 まあどうでもいいや。正直俺様には関係ない。

 あいつを実際に見るまではそう思っていた。

 

 

 

「あーだる。揃いも揃って似たり寄ったり。そう思わない、サイレンススズカ?」

 

「あなたに土を付ければその余裕も無くなりますか」

 

「いやぁ、私ってば無敗ってわけでもないのよ。ジュニア期に幾つか条件戦落としているし」

 

「ふざけてますね」

 

 

 

 へぇ、あのスズカが。無茶苦茶怒ってるじゃん。

 気になってそいつを見て見たんだけど、ゾクっとしたね。

 

 気性の荒さもさることながら、全てを下に見ているあの蔑んだ目。

 コイツ、泣かせてやりたい。単純にそう思った。

 

 

 

「あん?ねぇ、一丁前に殺気立たないでくれる?気分悪いわ」

 

「へぇ、先輩鋭いじゃん。だったら黙らせてくれよ、なぁ」

 

 

 

 額をがっつりぶつけてメンチを切る。

 周りも止めに入るが知ったこっちゃねぇ。

 

 しかしそいつは全く臆することなく、頭を振ってメンチを切り直してきた。

 

 

 

「お行儀が悪いわね。あんたについては名前もいらないわ」

 

「なら結果で教えてやるよ。あんたより先にゴールすれば掲示板の名前を追うだろうしな」

 

 

 

 ああ、久しぶりに血に熱が入る。

 コイツはぶっ壊し甲斐がありそうだ。

 

 

 

「ふむ、興味深いね。普段の君はそんなに熱くならないだろう?」

 

「んだよ白衣野郎。悪いか?」

 

「いやいや、ぜひ当てウマとして頑張って欲しいねと」

 

「お前……いい度胸してるな」

 

「君ほどじゃあ無いよ。何の実績も残していない君があそこまで突っかかれるなんて、私には真似できないからね」

 

「安い挑発だけど、買ってやるよ」

 

「あははー、いいレースにしようじゃないか」

 

 

 

 どいつもこいつもぶっ壊し甲斐がありそうだ。

 

 いつの間にか例の先輩はゲートに収まっており、残すは私と白衣だけとなっていた。

 白衣野郎も収まって最後は私。

 

 私が入ったところでいよいよ秒読み。

 マグマのように湧き出るこのドロドロした感情をぶっ放してやる。

 

 

 

 

 

 

『少し衝突があったようですが、各ウマ娘ゲートに収まり……スタートしました。

 

 先頭はやはりこの娘13番サイレンススズカ。

 11番ダイタクヘリオス12番メジロパーマーもすぐ後ろに着けている。

 そして注目の15番キュウセイナイト、その後ろに9番……、5番ファンブルス海外からの刺客、7番マチカネフクキタルは今日はこの位置。

 

 以上7バの先頭集団。

 

 

 大きく離れて2番メジロアルダン。外に8番マーケイビュティ、その内4番エアグルーヴ。

 更に1番メジロライアン、2番メジロドーベルとメジロが続きます。

 

 そこから離れて14番……、6番オグリキャップはここ、10番……

 

 

 

 さあ先頭が第1、2コーナーに入ります。タイムは……これは、とんでもない高速レースだ!!』

 

 

 

 速ぇ。

 感覚先頭集団に着いても可笑しくねぇ位置にいると思うが、スズカを筆頭にあのバ鹿コンビがペースを上げていやがる。

 

 後方とはいえこのペースは異常だ。

 

 後ろのオグリキャップが何考えているか分からねぇが、このままズルズルはよく無ぇ。

 ちぃとギアを入れていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--メジロなウマ娘(ガチお嬢)の視点

 

 

 

 やはりと言うべきか。先頭はサイレンススズカにパーマーが着いて行く形になりましたか。

 ヘリオスさんまで行くところと、ファンブルスさんとあのウマ娘が行くか行かないかまでは想定の範囲内。

 

 ですが白衣の方とフクキタルさんは想定外でした。

 

 特にフクキタルさん。今日のレースは先行策らしき位置取りですが、速度的には逃げ相当の速さです。

 掛かっている。にしては入れ込んだ様子もなかったですし、不気味です。

 

 あの白衣の方については完全なノーマーク。

 本人の練習風景は一切情報が入手できず、逆にこちらの練習には神出鬼没で現れ、幾つかその様子晒してしまった事からかなりの警戒をさせられた。

 

 そのおかげもあってか、あのじゃじゃウマには一切情報を漏らすことは無かったのですが。

 

 

 

 ただそれ以上に私を突き動かすのはあのウマ娘の存在。

 春の天皇賞に屈辱を覚えているのは私だけでは無く、全メジロが雪辱を誓っている。

 

 いや、それは違いますわね。

 何よりも私がブチ切れております事。これが重要ですわね。

 

 ライアンもドーベルもパーマーも同じ気持ちだと思います。

 手を組んで、だなんてつまらない事を聞いてくる娘は一切おらず今日を迎えました事については嬉しく思いますが、着いてこられないならそれはそれで終わりですわよ。

 

 

 

『最後方から14番……、オグリが徐々に追い上げて来る。

 

 中団はメジロアルダン、外にビュティ、次いでエアグルーヴ、メジロライアン、ドーベルと呼応するように速度が上がって来る。

 ここはまだまだ元気いっぱいか。

 

 さあ先頭は内側一杯サイレンススズカ、外からダイタクヘリオス、次いでメジロパーマーが追い掛ける形。

 キュウセイナイトは不気味に静観している』

 

 

 

 マーケイビュティ。彼女もまた豪州で活躍されていたウマ娘。

 最近になってかの最強ウマ娘、ブレイクに師事する事になって走りに磨きをかけたと聞きましたが。

 

 天皇賞以上のキレを見せてくれます。

 日本の高速バ場にもずいぶん対応されていらっしゃる。

 

 このお方を始め、仕掛けて来るなら向正面に入ってから。

 煩わしい駆け引きはそこで終わると踏んでいます。

 

 

 気配がビシビシ伝わってきますもの。

 ですので、ちょっと借りますわよ。

 

 

 

 

『おーっと、向正面に入り8番マーケイビュティがさらに速度を上げて来た。

 速い速い、あっという間にアルダンを抜き去る。

 

 いや、メジロアルダンもしっかり対応して後ろにぴったりくっついている』

 

 

 スリップストリーム。

 まあ体のいい風よけの出来上が

 

 

 

 

--ゾクッ

 

 

 

 

 

 

『寸分の違いも無くピッタリ着いて行くのは流石メジロと言ったところ。

 

 さあレースは中盤に差し掛かったところ。後方2人も中団を射程に捉えました』

 

 

 

 ちょっと待って。

 追い掛けて来る足音が多い。

 

 強烈な足音は言わずと知れたオグリさん。

 

 けれどもう一人の方は?

 

 

 ……まあいいですわ。

 力でねじ伏せる事に変わりはありません事よ。

 

 ビュティさん、日本のウマ娘の圧を存分に堪能してくださいまし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--女帝と言われているウマ娘の視点

 

 

 アルダン嬢がマーケイビュティの風下に入った。ビュティもそれを容認したか。

 他のメジロも判断が早く、そこに乗っかることを決めたのだろう。ビュティの風下にアルダン、ライアン、ドーベルとトレイン上になって先頭集団を追い掛ける形を作る。

 

 これに乗っかった方がロスは無さそうだが、如何せん後方の圧が無視しきれない。

 無視して私単体で追うのも悪くないが、さてどうしたものか。

 

 

 

『先頭は依然としてサイレンススズカ。しかし2番手ダイタクヘリオスとの差が全く広がらない。メジロパーマーもまだまだ喰らい付く』

 

 

 

 しかしあいつは不気味なくらい静かだ。

 流石にこの高速展開は予想できなかったのか。

 

 

 

 ……いや待て。

 あいつはそんなタマじゃない。

 

 忘れたのか、あいつが走る圧倒的なレースの数々を。

 

 

 どんなメンバーだろうが、巨像がありを潰すかのように蹂躙するのがあいつのスタイルだ。

 それが遅いか早いかの違い。

 

 幸いにして今日のあいつは遅い方。

 理由はどうあれチャンスがある。

 なんせ早い方なら恐らく誰も追い着けない、悔しいが。

 

 それでもレース展開がそういう状況なら、今のあいつの油断を最大限に活かす。

 

 

 後方だ。後方の圧力に賭ける。

 単体で私一人で差し切れるほど自信家でもない。

 

 ビュティの群れに仕掛けてもらい、後方集団で追い打ちだ。

 

 

 

『4番エアグルーヴはが徐々に離され、後方2人に飲み込まれる。いや、後方と合流した。これは戦略なのか』

 

 

 

 オグリと14番。

 この14番、先ほどあいつと白衣の者といざこざを起こしていた……

 

 それがオグリの雰囲気に呑まれず着いて来ている。

 オグリが大きな雰囲気で呑みこむタイプだとしたら、こっちの小柄な奴は剣呑な雰囲気で何度も切りつけるタイプ。

 

 何度かレース映像を見たがなるほど。これが本来の走りな訳か。

 

 いつもみたいにやる気のない走りでは無く、狂気を振りまくタイプ。

 

 

 

『さあ後方オグリキャップも更にギアを入れて来た。14番も同様。

 エアグルーヴもそれに合せる形。

 

 向う正面中盤、マーケイビュティらもいよいよ先頭集団マチカネフクキタルの後方を……いや、7番マチカネフクキタルも上げてきてる。マーケイビュティも無理には追わずそのまま追い掛ける形。

 

 そしてそのまま世界の壁、ファンブルスに突き当たる。

 しかしファンブルスも応じる形で加速。

 

 ファンブルス以下後方は縦に連なっているがいよいよ差が無くなって来た。

 そのファンブルスの先に映るのは白衣の姿と深紫の姿。世界で最も高い壁が立ちはだかっているぞ。

 

 

 そして先頭は……サイレンススズカとダイタクヘリオスとメジロパーマーがデッドヒートを繰り広げている。

 そのままの形で第三コーナーに入りいや、ここでまた加速だ!

 

 コーナーの遠心力など物ともしない!内埒一杯のデッドヒート!!

 見る方としては思わず目を背けたくなるほど!!』

 

 

 

 あのスズカが限界まで内埒一杯。

 それもヘリオスにパーマーを相手に。

 

 同期でも屈指の切れた走りの二人を相手にするとは。

 スズカ、本当に変わったんだな。

 

 なら私も、この生意気な後輩を捻じ伏せて向かわないといけないな。

 

 

 

「ふん、いい加減うざったい。どいてろ」

 

「ああ?気取ってんじゃねぇよ」

 

「煩わしいな。上げるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--白衣のウマ娘の視点

 

 

 っは、これは驚きだ。

 第三コーナーに入る頃合いか。スズカ君の雰囲気はもちろんだが、ヘリオスさんとパーマーさんの雰囲気も一緒に変わった。

 

 『領域』と言う奴か。実に興味深い。

 自分の意思で速さを上げるのではなく、自身の特徴たる精神性すらも意識的に用いて理想の走りに近付こうとする。

 

 スズカ君のそれは今までなら独走状態でもない限りその走りの境地には至らないと想定していたのだが、果たしてどのように問題を解決したのか。

 そしてまだ引き出しがあるのか。

 

 

 

 ぜひ、見せておくれよ。

 でもまあその前に。

 

 

 

「先ぱぁい、いつまでのんびりしているつもりだい?」

 

 

 

 この人の本気を拝みたい所なんだけどね。

 でも全然この人反応を見せてくれなくて。

 

 ちょっと期待外れなんだよね。

 

 

 まあいいや。目の前の動かぬモルモットより、先で暴れまわっているモルモット君の観察の方が重要だ

 

 

 

『おーっと9番が、15番キュウセイナイトの外から仕掛けてそのまま置き去り!

 キュウセイナイト、どうした!いつものキレが見られない!!

 

 9番はそのまま先頭争いをしている三者に突っ込んで行く』

 

 

 

 ああ、目の前には極上のモルモット達が鎬を削り合っている。

 なんと美しくて胸が熱くなる光景だろう。

 

 でも悲しいかな。

 この光景ももう見られなくなるなんて。

 

 ヘリオスさん、もう限界だね。

 

 

 

「ま、まだまだっしょ!!」

 

「悲しいけど、あなたの輝きは堪能させてもらったよ。

 さあ、もっと上げて行こうじゃないか!!!」

 

 

『あーっと11番ダイタクヘリオス失速入れ替わる形で9番が入り込む!!

 メジロパーマーもここで……いや、まだ上がっている。メジロの爆逃げはまだまだ健在だ!』

 

 

「パーマー!! 爆逃げコンビは不滅っしょ!!!」

 

「!! 次はちゃんと着いてきなよ!!!」

 

 

『生きている、メジロパーマーまだまだ元気いっぱいだ!!

 後輩にはまだまだ負けていられない!!』

 

「ああ、凄い、凄いよ。スズカ君だけでは無く、貴方もまた想定を超えて行く。

 もっともっと見せておくれよ!!!」

 

「っの、生意気な後輩どもが!

 根性根性ぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

『さあ先頭3バのカーブも中盤。ここまで先頭は未だサイレンススズカ。

 だが今日はいつもと違いお供が2人。それでもなお粘りを見せている!!

 

 いや、まさか、これは……差しに来ている!!

 ここまで引っ張ってなお、差せるのか!!』

 

 

 

 いつもと違う条件。周囲の煩わしさに煽られて尚、今日の君は差しに行けると言うのかい?

 君の輝きは、いつの間に泥に塗れてなお輝きを損ねなくなったんだい!!!

 

 もう駄目だ、我慢できない。

 今日は君の傍で最後まで付き合おうじゃないか。

 

 スピードの向う側に、私を連れて行って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--ねぇ、もういいかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--キュウセイナイト

 

 

 ああ、来たみたいね。

 仲良く縦並びになっちゃって。

 

 さっき白衣の後輩が待ち切れずに先行っちゃったみたいだから、まあ、追い着くまで適当に相手して上げる。

 ああ、さっき前から流れて来たギャル娘は無視しちゃっていいわ。ガス欠だからケツまで自動的に行くわ。

 

 

 じゃ、先ずは茶髪、ああ、この速度に着いて来れないの。論外。

 次、猫娘。あんた根性ありそうね。その叫び声は気になるけど。ま、適当に着いて来れるなら。

 

 

 次、金髪。あんたも茶髪と同じ海外ね。でも気ぃ狂う程の走りでも無さそうだし、茶髪と同じく論外。

 

 

 次、面倒だからまとめてメジロ。

 金髪の後ろから仕掛けて来たわね。タイミング的にはいい感じだけど私には無理よ。逆にまとめて潰せるから楽で助かるわ。じゃ、さよなら。

 

 

 で、あんた達ね。

 エアグルーヴにオグリキャップに態度のでかいの。

 

 正直トップクラスに気に入らない目をしているのよ、エアグルーヴ。

 サイレンススズカなんて目じゃ無い位に、ジャパンカップから気に入らなかったわ。

 

 でもまあ、今日のこのレースの私に着いて来れないようなら、敵じゃないわ。

 

 

 だからさよ……へぇ、粘るね。

 いいよ、終いまで着いてき来なよ。着いて来れるならね。

 

 

 

  

『来ました。来ました。世界最強が牙を向いている。

 

 流れて来たヘリオスを、後ろから仕掛けて来たファンブルスを歯牙に掛けず。

 

 奇声を上げているマチカネフクキタルは内側から必死に喰らい付く。

 

 暇なくマーケイビュティが、メジロもまとめて仕掛けるも、そこは更に突き放す。

 

 突き放して来たスピードに負けず、後発組が必死に喰らい付く』

 

 

『先頭との差はもう僅か。

 メジロパーマーを、9番アグネスタキオンを差し切ったサイレンススズカに、敵はいないと思われましたが。

 このレースはもうサイレンススズカの独壇場と思われましたが。

 

 忘れていました。忘れようとしていました。

 このレースには日本発の最強が存在している事に。

 

 さあ、先頭サイレンスズカが最後の直線に入りました。

 俄然スピードは衰えませんが、既にパーマーとタキオンはキュウセイナイトに捕まっています』

 

 

 

 ああ、いたんだ白衣。

 あんたは先ずこの猫から気が狂う程の走りを学びなさいな。

 その程度の狂気じゃ生温いのよ。

 

 で、猫ちゃんもお疲れ。多分、今日のあんたならスズカ程度差せるわよ

 

 オグリもエアグもまあ今日に関しては奮闘賞ね。

 あんたらはまあ、もう立派なサンドバックよ。

 

 次会うようならルドルフとやゴルシやマルゼンと同じように遊んであげるわ。

 

 

 

 で、サイレンススズカ。

 その、『景色』と言ったかしら。

 

 今日のあんたにそれは見えたかしらね。

 オカルトは嫌いだけど、今日はヘリオスやパーマーが奮闘してくれたおかげで始めから私が出張ることは無いと踏んだの。

 

 そういった意味ではそこの白衣もいい仕事してくれたと思うわ。コイツが行かなかったら私が遊びに行ってたと思うし。

 おかげで後ろの羽虫をじっくりとプチプチすることができたわ。面倒だったけどまあプチプチ作業は嫌いじゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、始めに突っかかって来た生意気な奴もいたわね。

 名前はどうでもいいけど、結果的には私の次な訳だし。頑張った方じゃない?

 

 そこだけは褒めてあげる。

 こいつら相手にして2着は対したものよ、名無しさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--宝塚記念

阪神 11R 芝(右) 2,200m 良 15人

 

 

1着 キュウセイナイト

2着 キンイロリョテイ  8バ身

3着 オグリキャップ   アタマ

4着 エアグルーヴ    アタマ

5着 マチカネフクキタル 1バ身

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--緑色の耳当てをしたウマ娘の視点

 

 

 

 パーマーさん、タキオンとの叩き合いを制した頃だったと思う。

 やっと、やっと私だけの『景色』を勝ち取れた。

 

 

 あの人は来なかったけど、この展開は始めから予想ができた事。

 寧ろあの人の代わりにタキオンが来てくれた事で実力の下方修正までできたくらいだ。

 

 

 その分余裕ができる。

 あの人を迎え撃てる。

 この『景色』は私だけのものだ。

 

 今の歓喜を、勝ち得た感情を、後ろを迎え撃つ気概を。

 あらゆる感情を、残りの直線を走り切る力に。

 

 

 来た瞬間に差す。

 何よりこの『景色』を守るために。

 

 

 

 そう思っていた。

 そう思っていたの。

 

 あの人が来るまで。

 

 

 

 

 感じられたのは全てを呑みこむようなドロドロの悪意。

 逃げた。必死に逃げた。

 

 あれはダメ、追い着かれたら吞み込まれちゃう。

 

 

 

『逃げる、逃げる、サイレンスズカ必死に逃げる!!

 差している、スズカは差している。この速度は差しに入っている!!

 

 サイレンススズカの真骨頂、逃げて差す。しかし。しかし、今日の相手はいつもと違う……』

 

 

 

 とどめを刺すための差しじゃない。あれから逃げるための差し。

 いえ、それはもうただの逃げよね。

 

 

 悔しいわ。本当に悔しい。

 パーマーさん、ヘリオスさん、そして最後はタキオンまで抑え込めたのに。

 

 結局あの人が全部持って行っちゃった。

 ああ、悔しい。

 

 悔し過ぎて嫉妬しちゃう。

 多分あれ、全力じゃないわ。

 

 だって全力なら、始めから私が先頭を走るはずが無いもの。

 

 

 ……ああ、そういう事。これも嫌がらせなのね。

 本当、性格が悪いこと。

 

 

 

『キュウセイナイト。先頭を、サイレンススズカを捉えました。

 エアグルーヴ、オグリキャップ、マチカネフクキタル、そしてキンイロリョテイも後に続きます!

 

 サイレンススズカの反逆もここで終わり!!』

 

 

 実力の開きを知ってなお、この人達は挑めるのね。

 エアグルーヴさん、オグリさんは正気のまま。

 そしてフクにリョテイ。あなた達は狂気を身にまとって。

 

 

 

「やる気がねぇならどけ!!」

「シラオキ様ぁぁあああ!!」

 

 

 

 そうね、私にはまだまだ足りないみたいね。

 憎しみも、狂気も。

 何よりそれらを飼いならす精神的な強さも。

 

 足りない、足りない。全然足りない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スズカ……」

 

「スズカさん……」

 

「ふふ。完敗よ。まだまだ足りないものだらけね」

 

 

 

 トレーナーさんにスぺちゃん、ヴォッカちゃんにダイワスカーレットちゃん。

 私はまだまだ弱い。

 

 弱いけど、私を慕ってくれている後輩達

 そして今はいないけど、ぶっきらぼうに私達を包み込んでくれたゴールドシップさん。

 

 今なら分かる。あなたがどんな思いで新しいチームを設立したのか。

 きっと届かないと思ったのでしょう。

 

 だけど何も術がなくて。

 けれど、ライスさんと言う新しい光を見た。

 

 

 あの人も中々異常だものね。綴りたくなる気持ちも分かるわ。

 でもねゴールドシップさん。

 

 私はそれとは別ベクトルで攻めてみたいと思うの。

 多分、ライスさんを参考にする方向は、限りなく正の方向に近いやり方。

 

 

 

「案外あっさりしてるな」

 

「正直、今にも倒れ込みたい気持ちですよ。けれど、あなた達がいてくれるから踏ん張っている。強がりですよ」

 

「す、すずがざぁぁああん!!」

 

「ほら、泣かないで、スペちゃん。私は乗り越えるわ」

 

 

 

 貴女が残してくれた私に取って最高のチーム、スピカ。

 ここで育んだ感情を走りに取り込めたら、どれほどの推進力になるかしらね。

 

 

 ああ、タキオンにも話を持ち掛けなくちゃ。

 

 あの娘、相当私にお熱だったから。話を持っていけばきっと乗ってくれると思うのよ。

 きっと私達、いいコンビになりそうよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--葦毛の怪物の視点

 

 

 この人は、何なんだ。

 あれだけ後ろから仕掛けられて、まるで微動だにしなかった。

 

 エアグルーヴと14番とまとまって最後に仕掛ける形となったが、それでいて尚揺らぐことが無いなんて。

 

 

 ジャパンカップのあの時から、私はこの人に追い着くことができているのか?

 自分の走りに自信が持てなくなる。

 

 

 

「おい、しっかりしろ」

 

「……強いな、エアグルーヴは」 

 

 

 

 隣の同期、エアグルーヴ。

 彼女はジュニア期の頃からあの先輩に立ち向かっている。

 

 ジャパンカップで私達の代が初めて叩きのめされた時でさえ、彼女は立ち竦むことが無かった。

 

 そして今なお私を励まそうとしてくれている。

 

 

 

「何、私も強がりだ。しかし精神的に弱気になるわけにはいかない。

 どんなに後ろ姿が遠くても、前を向かねば追う事ができないからな」

 

 

 

 強い。素直にそう思える。

 

 

 

「尤も足元をお留守にし過ぎた点は、先輩として恥ずべきことだがな」

 

「そうだな。あの14番、最後に一噛みしてきた」

 

 

 

 特大の絶望を目の当たりにして、それでもあの14番の刺々しい雰囲気が萎むことは無かった。

 最後の最後にしてやられたと言うわけだ。

 

 

 何なら今なおあの人に突っかかって、逆に胸倉を掴まれて凄まれている。

 

 

 

「あれだけの元気があるのか。凄いな」

 

「バ鹿者! 止めに行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--金色の名を冠するウマ娘の視点

 

 

 

「キュウセイナイトォォォオオオオ!!」

 

 

 

 激情に駆られるままにあいつ、キュウセイナイトに突っかかる。

 だけどあいつはそれすらも見越したように迎え撃ち

 

 

 

「そうやって呼ばれたのはダービー以来ね。

 で、腕力なら勝てると思って?」

 

 

 

 簡単に片手で抑え込まれて、そのまま胸倉を掴まれる始末。

 私のイライラはますます募るばかりだ。

 

 

 

「ホント狂犬染みているわね。

 ホラ、お座り」

 

 

 

 胸倉を掴まれたまま、私はターフにうつ伏せのまま叩きつけられる。

 このバ鹿力、全然びくともしねぇ。

 

 あいつも同様に座り込んで余裕の表情で私の顔を覗き込む。

 畜生、気に入らねぇなぁあああ!!

 

 

 

「レースでも、腕力でも勝てないと来たら、次はどうするの?」

 

「……チッ。ウッ!!」

 

 

 

 こ、こいつ、躊躇いが無ぇ。

 掴まれている胸倉がキチィ。

 

 

 

「このままいじめるのも悪くないんだけど、時間切れっぽいわね」

 

「貴様らぁあああ、何をやっているんだ!!」

 

 

 

 あのメス、エアグルーヴか。

 

 

 

「はぁ。何か気ぃ抜けちゃったわ。

 ハロー、エアグルーヴ。はいはい、私ナニモシテナイ。ちょっと後輩とジャレタダケネ」

 

「……そうか。ならさっさとお立ち台にでも行くんだな」

 

「そうしとくわ」

 

 

 

 そう言うとあいつはさっさと行っちまった。

 この野郎、こいつら邪魔立てしやがって!!

 

 ぶっ壊してやる、何もかも!!

 そう思い立ってもう一度あの深紫の背中を追おうとしたところだった。

 

 

 

「おい、エアグルーヴに感謝しとけ」

 

 

 

 葦毛の先輩が立ち上がろうとした私の肩を抑え込んできた。

 ただ先ほどと違うのはそこまで力が入っていない事。

 

 振り解こうと思えば簡単に振り洗える程度の力。

 それでもその表情はクソ真面目なものだった。

 

 

 

「んだよ」

 

「お前があれに突っかかった時点でかなりの警戒がお前達に向けられた。

 あのままにしておいたらお前は確実に処罰が降りてたぞ」

 

「……それが」

 

「その点も含めてあれはうまく立ち回る。お前だけが悪者にされて、二度とあいつに挑めなくなる事だってあり得る。

 あれはそこまで余裕で手を回す。

 

 だからエアグルーヴは動いたんだ」

 

 

 

 ああ、なるほど。

 本当に容赦が無いのなあの先輩。

 

 少し、落ち着いてきた。

 なるほど、隙あらば。気に入らなければ。どこまでも狡猾に攻めて来るんだなあの先輩は。

 

 それがレースの外の話であっても。

 

 

 ああ、分かったよ。

 レースの外で勝とうとしてもそれは私の本意じゃ無ぇ。

 

 やるならレースでだ。そこは定義付けておいてやる。

 

 

 

「力が抜けたと言う事はとりあえずは暴れることは無いと判断していいな」

 

「ああ、折り合いは着いた。貴重な情報提供アリガトウゴザイマス」

 

 

 

 お節介な先輩達だ。

 交流なんざ一度も無いってのによ。

 

 

 

「オグリ、まだしっかり見てろ。控室までコイツは連行していく」

 

「もうしねーよ。デメリットがはっきりしちまった以上私にメリットは無ぇ」

 

「はぁ。できれば早めに理解して欲しいものだ」

 

 

 

 うっせぇ。

 でもまあ、血に熱は入った。それだけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--メジロなウマ娘(ガチお嬢)の視点

 

 

 

 遠い。

 深紫の背中が遠い。

 

 あの春の天皇賞から追い着けているのか。

 分からない。

 

 

 

「アルダン、下はダメだよ。前を向かなくちゃ」

 

「パーマー……」

 

 

 

 泣いていた。パーマは泣いていた。

 それでもなお顔を下げる様子はない。

 

 

 

「あんた達みたいにさ、追い込める脚も駆け引きできる頭も私には無いしさ。

 

 小綺麗に立ち回る事も出来ないし。

 

 始めから頭張って必死で逃げる事しか出来ないんだ。

 

 

 

 でもメジロだから。

 それでもメジロだから。

 私だってメジロだから!!!

 

 

 自分だけじゃなくてさ、メジロとして悔しいんだなぁって。2倍悔しいんだなぁってさ」

 

 

 

 お世辞にもセンスがある娘とは言えない。

 ライアンのような洗練された荒々しさも、ドーベルのような鋭さもこの娘は持ち得ていない。

 

 それでもがむしゃらに走り続けているこの娘は、やはりメジロのウマ娘。

 

 

 

「私は、追うよ。あの背中は遠いかもだけど、まだまだ追い掛けるよ」

 

「あははー、パーマーグチャグチャっしょ。

 うん、追い掛けようよ。私も一緒に行くからさ!!

 

 じゃね、アルダン。あたしらはあたしの道で行くよ。

 ……パーマーはあげないから」

 

 

 

 あらあら、ヘリオスさんに掻っ攫われちゃいましたわ。

 ……さて、あんなに不器用なパーマーだって奮起しているのだ。

 

 いつまでも辛気臭い顔をしてる場合じゃありませんね。

 

 

 

「ライアン、ドーベル。諦める、なんて胸糞悪い事なんて考えていませんよね?」

 

「「もちろん(当然)!!」」

 

「ならよくってよ。それでこそメジロですわ」

 

 

 

 肩書や名誉なんていらない。

 闘争の世界で強敵を屠ってこそ、メジロである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。