都内某空港
『短い期間だけど助かったわ』
宝塚記念が終わった。
レースとしてはあいつの強さを最大限まで引き出すことができない悔しい結果となってしまった。
私が別に走ったわけじゃないんだけど、やっぱり悔しいものは悔しい。
展開もまさかあいつがじっくり行くとも思っていなかったし。
『展開はどうあれあいつに挑める状況ではあったんだ。それでなおあいつに想像の上を行かれただけだ』
『そうよ。気にする必要は無いわ。何より、日本のバ場にもっと適応することが重要って事も良く分かったわけだし』
ファンもビュティはそう言っているが、手のひらは強く握りしめられている事に気が付かない私では無かった。
でもそれを指摘するのは野暮と言うもの。黙ってスルーする。
世界一線級のウマ娘でさえ、あいつの本気を引き出すことはできない。
それどころか掲示板入りも許されない始末。
準備不足どうこうの問題ではない。
いよいよ日本が魔窟化している事を世界に知らしめる結果ともなった。
あいつだけではない。日本には数多くの怪物が犇めいている、と。
『世界にぜひ目を向けて欲しい……何てことを思っていたけれど。傲慢だったわね』
『日本の方がよっぽど修羅の国だったよ』
多分芝の状況なんかも勝手が違うからだと思うけど、それを言い出してしまえば日本に完全に適応した形では無いと、あいつを迎え撃つ事なんて出来ない。
結局のところ得意の土俵で戦う事の方が、あいつに勝てる確率も上がる。
わざわざ海外から来て、日本の土俵で戦う事自体が無謀なのかもしれない。
そんな記事ばかりが目立つ今日この頃。
余計なお世話である、と本人達は言っているが、心の奥底で事実だと受け入れている事でもあるのだろう。
だからとても寂しそうな表情だったのだ。
『ジャパニーズは凄いわ。私なんてたった2回で折れちゃったもの』
「そっちのバ場であんだけ舐められたことをしたら、そりゃ折れるわよ」
『あら、慰めてくれてるの?』
うっせぇ。
「あたしがいたら、せめて喜劇に変えてあげられたかもね」
『ふふ。コメディの間違いじゃないかしら。
ほーら、チビちゃん達も泣かない泣かない』
「泣いてないですし。ネイチャさんは別に悲しくなんて無いですから。
あ、でも多分テイオーは泣いてるかもだけど」
「そうやって話を逸らすのはずるいと思うんだよねー。あ、早くお国にお帰り下さい(グスッ)」
「も゛っど日本であ゛ぞぼう゛よ゛ぉぉぉ(ガチ泣き)」
やはりと言うべきか。
後輩達はとても寂しそうである。
私以外の走れる先輩が帰るとなったらやっぱりね。少しだけ妬いちゃうかな。
感極まってビュティもファンもターボはもちろんネイチャやテイオーにも抱き着いているからあちらも同じ気持ちなのだろう。
あの刺々しかった連中がこうなるとは。人って変わるものだなーとしみじみ思うわけ。
「何してんのよ、あんたも行くのよ」
「傍観者決め込んでないでさっさと行くわよ!」
「ちょ!、パイセン。私は」
「「私らも混ぜろぉぉぉ!!」」
う、うぜぇ。
パイセンらはそもそもレクレーション担当でしょうな!!
練習も差し入れと煽り担当のくせして。
後方支援者面すんなや。
結構な頻度で顔出ししてるからといってもう……もう!!
「やっぱり寂しいわよ!!もう!!!」
出会いがあれば別れもある。
見上げた空には飛行機と太陽。
友は去ったが、季節は巡る。
さあ、夏がやって来る。