YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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7話

 4月

 入学から1年。

 クラシック戦線では皐月賞が近付き、例の2人の報道がいよいよ白熱してきた。

 

 そこに新しい新入生が当たり前のように入学してくるわけだから、学園内でレースの話題が尽きることはまず無い。

 

 

 

 

 

 今年の新入生は豊作の年だ

 

 

 

 

 

 誰が言い始めたかは知らないが、みんな口を揃えてそう言う。

 

 

 良家の令嬢『エアグルーヴ』を筆頭に、名門メジロ家より『メジロライアン、メジロパーマー』。さらに特待枠で3人、ヤバいやつらがいるとのこと。

 

 推薦枠が『ちょっと地元で足が速くてアッピルしたら、学園に認められた』という枠に対して、特待枠は『君の走りにピンときた。ぜひ来てほしい』という言わばスカウト枠である。

 

 黙っていても強力なウマ娘が集まる中央のトレセンが、わざわざ来てほしいと頼み込む時点でもうヤバい素質の持ち主だということが分かる。それも3人。

 

 例年1人出るか出ないかの枠が3人も出たらそれはもう当たり年である。

 

 

 

 

 そんな時勢の折、我らがチーム・エルナトでは、来たる皐月賞に向けてサイドテールが猛烈な追い込みをかけていた。

 

 来る日も来る日もぶっ壊れる寸前まで身体を痛めつけ、そして回復に努めるという繰り返し。

 そのせいもあってか、最近では練習が厳しいチームのトップ3に数えられる位になってしまった。チーフTとしては心外であるとの弁である。

 

 

 

 また、チームから久々のG1出走とのこともあり取材の方も少し増えた。

 ただ聞かれる内容のほとんどは『ルドルフとつよつよウマ娘のことをどう思っているか』と言ったものであるが。

 

 

 ああ、それと、サイドテールのスプリングステークス後のウイニングライブについて言及されることも増えた。

 

 あのレースの後にも当然ウイニングライブがあったわけなのだが、悔し涙を流しながらライブをこなすサイドテールの姿がすっぱ抜かれたのだ。

 笑いながら悔し涙を流すという器用な様子を1カットで表現された、非常に分かりやすい写真が受けたのか、本人の預かりの知らぬところで、地味に有名になっていた。

 

 なお、当の本人は事実を真っ向から否定。

 日はく、あれは汗が目に入って偶然顔を顰めた様子が写真に納まってしまったとの弁。

 私たちは生暖かい目で同意してやった。サイドテールのやる気が下がった。

 

 

 尤も、世代最強の内の1人に果敢に挑み、それでいて本気の悔し涙を流せる気概を一部では評価されているのだが、こちらは本人も知らない模様。

 

 

 

 

 ちなみにサイドテールの皐月賞出走について取り立てうちでは大きく扱われるが、私も出走条件を満たしていたりする。

 いくつかレースで勝利を挙げており、収得賞金的にも登録が外れないであろう位置にいるため、申請をすれば走ることはできたのだ。

 

 ただ前にも述べた通り、三冠表明の矢先に希望を掻っ攫ってくスタイルの方が最高に気持ちいいと思ったため、今回も2人を避ける方針で別レースに出ると言って出走を回避している。

 

 

 すでに私の性格はパイセンらにも既知のことであるのだが、それを込みで可愛がってくれるのだから、懐が大きいと思う。

 

「まあ現実的な後輩だしね」「その分私らが夢見てやんよ」

 

 意味不明である。

 でも、なんとなくこの繋がりは残しておきたいと思ってる自分もいるが……止め止め、ガラじゃないや。

 

 

 

 

 

 

 さて、話は冒頭に戻る。

 

 4月である。

 新入生入学の時期である。

 そして今年の新入生は豊作である。

 

 以上の要素よりサイドテールが新入生の模擬レースを見学したいと申し出たのだ。

 日はく『原点回帰』とのことであるが、正直勢い余って他のモブを勧誘し始めないか一抹の不安がある。

 

 

「あんた、チームへの勧誘は絶対止めてよね。ただでさえ私らの練習で手一杯なんだから」

 

「分かってるわよ。そんな余裕無いってことぐらい」

 

 

 

 正直私としては増やすだけ無駄だと思っている。

 なんせ5月の優駿以降チームは存続しているかすら分からないのだ。だったら集めるだけ無駄である。

 故に表向きの理由は今の状態で手がいっぱい、と言うことにしてもらっている。

 

 

 なお、これを提案したらチーフTから「チームのことを考えるなんて……1年で大分丸くなりましたね」と驚かれた。心外である。

 

 確かに以前までの私なら増やそうが増やさまいがどうでもいい、と一蹴していただろうからそれと比べるとまあ、丸くはなったのだろう。決意は微塵も揺らがないが。

 

 

 

 

「正直何が楽しいのかさっぱりだわ。あの日の屈辱を蒸し返すだけじゃない」

 

「いいのよそれで。寧ろ忘れないための戒め?の意味も込めてるわ」

 

「あんなの忘れられるわけないじゃないの」

 

「いいからいいから、原点回帰、原点回帰。

 あちゃー、いつの間にか始まって……はぁあ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--学園内レース場 1R 芝1,600m 良

 

 

 

 

 それは良家の令嬢であるエアグルーヴとメジロパーマーが出走するレースであった。

 下バ評は圧倒的にエアグルーヴ。メジロパーマーは名門メジロ家の出ではあるが、そこまで評価は高くなかった。

 

 高くはなかったのだが……第1コーナーを回った時点で圧倒的先頭だった。

 

 いや、単純に大逃げを打っているだけではあるのだが、あの名門メジロから逃げ。それも大逃げをかますようなウマ娘がいることにどよめきが上がっているのだ。

 

 

 ああ、苦し紛れの奇策か。

 

 

 大方の見方はそんなものだった。

 先頭集団から()()()()()()()()あのウマ娘が出てくるまでは。

 

 

 

「ウェイウェイうぇーい、あがってこうよー!」

 

「あぁん!?」

 

 

 メジロパーマーが第2コーナーに入るまでの間に追い付いてきたのだ。

 大逃げをかましてるウマ娘に追い付く脚力とか、正直末恐ろしい瞬発力ではある。

 

 ただまあこれでパーマーの逃げが潰されたのだ。少しは展開も落ち着くだろう。

 誰もがそう思っていた。

 

 

 

「んじゃま、サイナラー★」

 

「--ッ!

 調子暮れてんじゃねーぞ!!」

 

「おっ、いいね、イイネー。

 勝負ったらショウ・ブー」

 

 

 

 まさかのテンポアップ。

 見てる外野は思った--こいつら、正気か、と。

 

 

 

 第2コーナーを回ってからの直線。2バはデッドヒートを繰り広げる。

 

 

 

 落ちないスピード、爆逃げを打ち続ける先頭の2バ。

 おい、一体いつになったらこいつらは落ちるんだよ。

 異様なレース展開に始めは嘲笑気味だった外野も、いつの間にか『まさか』を感じるようになった。

 

 

 そしてその『まさか』に誰よりも警戒していたのは、ターフ内のエアグルーヴであった。

 

 

 

 行動に移したのは先頭2バが直線の半分を超えたところだ。

 いずれ失速はするだろうがここで手を打たないと取り返しがつかなくなると踏んだのだろう。

 

 集団をいち早く抜け、先頭2人を猛追する。

 

 フォームもコース取りも。その一挙動一挙動に無駄が無い。

 入りたての新入生とは思えないほど洗練された追い込みで。

 

 

 

 エアグルーヴが第3コーナーに入る。

 

 流石に先頭2人もスピードは落ちていたが、第4コーナーを終えて体力を振り絞出すようにして脚を回していた。

 

 

 

--間に合うか、微妙か。

---いや、直線で捉え切れる!

----終わってみれば、私がトップだ!!

 

 

 きっとそんなことを思っていたのかもしれない。

 いずれにしても、少しでも意識を後ろに回せていたら気付く事ができただろう。

 

 

 迸る、白い稲妻の正体に。

 

 

 エアグルーヴが先頭を捉えるのと同時だった。

 その外から、白い稲妻が鳴り響いたのは。

 

 

 

 

 

--レース結果

 

1着 タマモクロス  (特待生)

2着 エアグルーヴ   3バ身

3着 メジロパーマー  1バ身

3着 ダイタクヘリオス  同着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1R目からこれである。外野のざわめきは留まることを知らない。

 

『大逃げコンビは思った以上に荒らす』『あのギャル娘は短距離で輝く』『難しいレースだったがグルーヴ嬢の判断力も光るものがあった』などなど、色々と評価が飛び交う。

 

 

 中でも圧巻だったのはやはりちみっこい白いウマ娘の走りであろう。

 驚異的な追い込みだったのは言うまでもない。

 調べると特待生と言うのだから、うん。あれは頼み込んででも来てもらいたくなる気持ちは分かる。

 

 

 

 

 さて、本日の見学会の発起人である隣のサイドテールであるが、その目は真っ赤に燃えていた。

 

 

 

 

 

「原点回帰、とか言って『昔の私から大分成長したよね』

 ……なんて生温い感傷に浸ってる場合じゃないわ。

 

 もっと追い込んであの娘らを迎え打つ準備をしないといけないわね」

 

「マルゼンスキーはどうすんのよ」

 

「倒す。んでもってあの娘らもシニアで迎え打つ」

 

「ルドルフは?」

 

「それはあんたに任せるわ。私がマルゼンスキーを倒して、あんたがルドルフを食う。

 ほら、強豪チーム・エルナトの誕生よ」

 

 

 

 ホントにコイツは……

 

 笑顔でそんなことを言ってくるサイドテールが、とても眩しく見えた。

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