YOU MAKE LIFE(夢喰らい)   作:グゥワバス

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8話

 正直すまんかったと思う。

 

 皐月賞もいよいよ前日と迫ったところ。

 私が出走予定のOPレース『忘れな草賞』を予定に入れてしまっていたのだ。

 

 関東圏内ならまだ都内で調整ができて幾分かましなスケジュールを組めたのだが、このレースの会場は阪神競馬場である。

 

 

 スケジュールもハードなもので

 金曜の午前中に最終調整→その日の午後に会場入り→次の日レース→終わったらサイドテール達と合流→皐月賞

 

 とかなりタイトなものとなってしまった。

 

 

 流石にG1出走とあって今回チーフTとパイセンらはサイドテールの調整に付きっきりである。

 それだけでは人手が足りないので、あの巨漢Tにも臨時で手伝ってもらい、何とかいつもと変わらぬ調整を施す状況を作り上げることができたのが昨日の出来事である

 

 手伝ってもらって言うのもなんだが、あの巨漢Tは暇なのだろうか。

 

 

 

 なお、私の方はサブTに同行してもらい、会場へ向かうこととなっていた。

 本当はパイセンらも一人こっちに来てくれるよう動きかけていたらしいが、それは申し訳ないので流石に遠慮した。

 本音はそんなもの必要ないけど……うん必要ないだけだ。

 

 

 

 

「ごめんサブT。

 完全に自分のことしか頭に無かった」

 

「あなたたちはそれでいいんです。

 それに自分のレースをしっかり勝つことが何より応援になります」

 

「……そう。なら頑張るしかないね」

 

「その意気です」

 

 

 

 

 道中の新幹線で少ない会話を交わす。

 そもそも私とサブTの接点は表向きの練習位しかない。

 未だに本気のマンツーレッスンはチーフTとしか行っていないのだ。

 

 別に信用してない訳ではないが、どうにもこの完璧善人には本音を話す気にはなれなくて今に至る。

 多分ダービーを終えるまで話すことは無いだろうと思う。

 

 

 お互いに無言。

 私はスマホで皐月賞特集の記事を確認。

 サブTはノートPCを扱い何か作業中。ちょっと気になったので暇つぶしがてら話を振ってみた。

 

 

 

「サブTはPC弄って何してんの。

 今更私の練習メニューの確認とかじゃないでしょ?」

 

「そうですね。まあネットサーフィンですよ。

 皐月賞特集で扱われているマルゼンスキーさんとシンボリルドルフさんについてです」

 

「奇遇じゃん、私もそれ見てる。

 サブTは正直どっちが勝つと思う?」

 

「こらこら、同じチームメンバーを応援してあげてくださいな」

 

「いいんだよ、1か月そこらで急に強くなるわけないのはサイドテールが1番よく知ってるから」

 

「あはは、相変わらずで。

 

 有利と言えばマルゼンスキーさんです。

 どうも走りの質がスプリント寄りに見えますので、2,000mの皐月賞ならそちらかと。

 

 ただしルドルフさんも普通の方ではないので。

 案外何事も無かったかのように後ろついて、当たり前のように差してしまうかもしれないですね」

 

「結局どっちつかずじゃん。

 まあいいや、答え合わせは皐月賞で出来るわけだし」

 

「当然、外れることを祈ってますよ」

 

 

 

 

 なんて事は無い。

 サブTだった本心と建前を使い分けているだけ。

 私とそう変わりなんてない。

 

 

 

--忘れな草賞

阪神競バ場 芝 2,000m 稍重

 

1着……

2着キュウセイナイト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞当日。

 会場は前回と同じ中山競バ場。

 

 但し客の入りは前回のスプリングステークスとは比べ物にならない。

 

 満員御礼。入場券完売。ヤバ過ぎである。

 正直、昨日の私のレースとは何だったのか、と思える位の規模である。

 いや、昨日は桜花賞が後のレースに控えていたから結構客の入りは良かったんだけどさ。

 

 

 言わずと知れた世代2強の激突。

 そこにその他のモブどもが割って入れるか、と言うのが大方の見方だ。

 

 そのモブどもも、サイドテールを筆頭にそれなりに粒揃いではある。

 なんせこいつらは世代2強の名前に怯むことなく挑むことができるのだから。ある意味究極のマゾである。

 

 

 

 

「ったく、あんたは何負けて帰って来てるのさ」

 

 

「数時間後のサイドテールの姿である」

 

 

「バ鹿言ってんじゃないわよ。こっちは討ち死にも辞さない覚悟よ」

 

 

 

 

 

 

 

 控室での一幕。

 いつも通りの軽口の応酬。

 

 

 T達もパイセンらも流石に慣れたのか、もはや私たちのやり取りに口を挟むことは無い。

 ……思えば大分私も染まってきたと思う。

 

 

 こんな馴れ合いなんて始めは考えられなかった。

 最低限の愛想と事務的やり取りでしかコミュニケーションを図ることは無いだろうと思っていた。

 

 

 況してやサイドテールである。

 あのモブ中のモブとしか認識していなかった奴とここまでの付き合いになるなんて想像すらしてないなかった。

 

 それが同期で同チーム。そして現在では控室でしょうもない軽口を叩きあうまでの間柄だ。

 1年前の自分が見たら『絆されんなや』と間違いなく悪態を突いてくるだろう。

 

 

 間違いなく、丸くなったと思う。

 

 

 

 

 

「討ち死には困りますので、先ずは無事に戻ってきてください。

 そしてどんなレースも何が起こるかは始まるまで分かりません。虎視眈々と先頭は狙い続けてください。

 

 さて、サイドテイルさんを始めあなた達もご存じの通りですが、今日明日で劇的に強くなることは先ずありません。強くなるには今日の自分を超え続けていくしかないのです。 

 

 

 改めてサイドテイルさん、スプリングステークスの後に吐いた言葉に偽りはありませんか?」

 

 

 

 

 

「当然!」

 

「よろしい。今日のレースが有意義なものとなることを願っています」

 

 

 

 これだ。このサイドテールのひたむきさが堪らなく眩しい。

 純粋に勝ちだけを望んでいる姿がとても美しくて……同時に嫌悪感を催す。

 

 三冠馬、社会的名誉、歴代最強……違う、そんなものじゃない。

 

 

 

--あいつには負けたくない

 

 

 

 

 これだけだ。

 どんなにサイドテールが三冠を目指そうが何だろうが、結局マルゼンスキーの少しだけ上に立つこと。この思いだけでサイドテールは結果を残し続けているのだ。

 

 

 目標となる相手が最高峰に高いというのも頑張れる一因だろう。

 伸ばせるだけの才能が本人にあるのも理由になろう。

 

 

 だけど何よりもあいつが前に進み続けることができるのは、負けたくないという誰もが持ち得ている子ども染みた対抗心が原動力となっているからだ。

 

 

 

 間近で見てしまうと中てられてしまう情熱。

 とても眩しいものと感じると同時に、私はどうしても嫌悪感を抱いてしまう。

 

 

 

 

「まあ、うん、頑張んなよ」

 

「始めから素直にそう言ってりゃいいのよ。

 見てなさいな、私の生き様!」

 

 

「あんた死ぬの?」

 

「物の例えよ!」

 

 

 チーフT、私今、うまく笑えているかな。  

 

 

 

 

--皐月賞

 

中山 11R 芝 2,000m 良 フルゲート(18)

 

 

 

 

『皐月賞、中山競バ場。

 

 すでに観客は満員御礼。入場券は事前販売の当選者のみでSOLD OUT。

 今年のクラシック戦線の注目度の高さが伺えます。

 

 さて、注目は何といってもこの2人。シンボリルドルフとマルゼンスキーだ。

 

 2人とも前哨戦となるレースを圧倒的強さで踏破。文句なしの実績を引っ提げて中山の舞台で雌雄を決することとなりました。

 

 1番人気はこのウマ娘、真紅の勝負服を纏ったマルゼンスキー。

 圧巻の瞬発力が2,000mという距離で僅かに有利に働くと見られたのか。

 前日のインタビューでは『公式の舞台ならではの勝負を全力で味わいたい』とのこと。シンボリルドルフを意識しての発言であることに間違いはありません。

 

 続く2番人気は深緑の宮廷衣装を纏ったシンボリルドルフ。

 同じく前日のインタビューでは『全力を尽くす』と短いながらも堂々とした回答で多くを語らず。

 

 その姿は宮廷貴族と言うより生粋の軍人といった様相であったと、インタビュアーの談。』

 

 

 

『各ウマ娘、パドックでの勝負服姿の披露も終わりいよいよゲートイン。

 今から2分後には今年の皐月賞の覇者が決定いたします。

 

 さあ、最後の娘がゲートに入り、態勢完了。……スタートしました』

 

 

 

『先頭はやはりこのウマ娘、マルゼンスキー。

 続く2番手は2バ身離れてシンボリルドルフ。いつもなら勢いよく突き放すはずのマルゼンスキーだが、今日はやはり慎重になったのか。シンボリルドルフはこの位置。

 

 そこから5馬身ほど離れて3位集団。各ウマ娘、様子見と言ったところか。

 

 

 

 

 

 

 

 ……続いて集団内の外側にサイドテイル。前回の1人旅とは対照的に今日は集団内で様子見か。

 

 

 

 

 

 

 さあ、マルゼンスキーが第2コーナー回ったその後ろをシンボリルドルフが続く。

 縮まらない。両者の差が全く縮まらない。

 着かれているのか、もしくは疲れているのか。

 共通することは両者の表情からは全く焦りと言うものが見られないということ。

 このマッチアップすらも想定の範囲内と言うのか。

 

 集団も第2コーナーを回ってから1直線に並び始めております。

 抜け出していたのはサイドテイル、サイドテイルだ。

 

 前日のインタビューでは『前走の悔しさをぶつける』と意気込んでおりました。

 

 

 

 しかし中山の直線は短い。速くも先頭2人は第3コーナーに入りました。

 

 ここでマルゼンスキーが加速し出し……いや、ルドルフ来た!ルドルフ来た!!シンボリルドルフが上がってきた!!!

 

 内側から、内側から撒くって来た!

 マルゼンスキーが加速し、僅かに外に膨れた瞬間に合わせて内側から入り込んで来た!

 

 両者が並んだ、並んだそのまま最終コーナーを迎える!

 内からルドルフ! 外からマルゼン! ルドルフか、マルゼンか!

 

 両者ともに余裕そうな表情など一切ない! 必死だ。ともに負けまいと必死だ!

 後方のサイドテイルも果敢に追いすがるが、届かないか!

 

 歓声はもはや絶叫!マルゼン、ルドルフコールが入り乱れている!!

 マルゼン、僅かにマルゼンか!! 今日のスーパーカーは特にエンジンフルスロットルだ!!

 

 さあ、最後の登りだ。幾多のドラマを生んできた中山最後の登りだ!!

 マルゼンスキーがそのままのスピードで突っ込む!!

 スーパーカーがバ力(りき)の違いを……ルドルフ!!?ルドルフだ!!!シンボリルドルフが再浮上!!!

 

 なんなんだこのウマ娘は!!憤怒だ、憤怒の表情だ!!『そんなもので突き放せると思うな』と表情が物語っている!!!

 

 加速!加速!!加速!!!加速だ!!!!

 最後の登りをとんでもない力で踏破して、強引に身体半個抜け出したぁぁぁぁああああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

--皐月賞

中山 芝 2,000m 良

 

1着 シンボリルドルフ (レコード)

2着 マルゼンスキー  アタマ

 

……

……

5着 サイドテイル   ハナ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞の勝者が決まった。

 世間では3本勝負の1本目と言う位置づけで、まだ2本目、3本目と勝負が残っているという見方であるが、ちょっとレースを齧ったものならこう捉えている。

 

 

 短ければマルゼン、長ければルドルフ

 

 

 得意距離の話である。

 もともとマルゼンスキーは瞬発力が売りのウマ娘だ。

 確かにスタミナも抜群にあるのだが、そこはシンボリルドルフの方が有利と言われていた。

 

 故に今回の皐月賞はマルゼン有利と言われていたわけなのだが、逆を言うとそれ以外はルドルフ有利か、とも言われていたのだ。

 

 

 

 とどのつまり、残り2レースはルドルフ有利で、下手したらマルゼンスキーは3タテを食らう可能性すらある。と言うことだ。

 

 

 

「最終確認ですが、後悔はありませんか?」

 

「微塵もないね……って言えばウソになるよ。

 けどさ、私の大望を止める理由にはならないよ。

 

 トレーナーこそいいの? せっかくいい飯のタネができたのに」

 

 

「ほどほどにおいしいご飯はもう食べ飽きました。

 そろそろちょっといいご飯を食べ始めたいと思っていましたので」

 

 

 

 

 以前私は言った。

 このTは栄達に全く興味がない。ウマ娘を自分の生活の糧ぐらいにしか思っていない、と。

 1年経って私が丸くなったに対して、このTは全くブレることがない。

 

 以前までそれが頼もしく感じられたが、1年経った今は逆に堪らなく怖い。

 何がこいつをここまで歪ませたのか。もしくは生まれ持っての感性なのか。

 

 

 分からない。分からないけど……同時に頼もしくもある。

 こいつだけは変わらない、という安心感があるから。

 

 1年前私はTに胸の内の悪意をぶち撒けた。

 その上でこいつは何てことが無いように受け止めてくれた。

 

 あの時は何とも思わなかったが、今にして思えばありがたく思える。

 だって、私の初めての理解者となってくれたのだから。

 

 

 

「尤も、全面的には難しいですが、でき得る範囲で協力はしますよ」

 

「あはは。ブレないなーほんと。んじゃま、ダービーはぶち撒けてやりますか」

 

 

 

 だからごめんね、サイドテール。

 あんたが歩みを止めないように、私も前に歩み始めるよ。

 

 歩む先が例え、あんたとの決別に繋がろうとも。

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