零れ落ちた美麗の雫   作:たけのこの里派

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第十一話 下手しなくとも抑止力案件

 

 

 

 

 

 

 

 黒の狂戦士(バーサーカー)・フランケンシュタインの怪物は、そのルーラーのマスターが苦手だった。

 血や臓物を「美しい」と思うなどの常識からは逸脱した感覚をもって生まれた彼女は、その感性故に創造主であるヴィクター博士から「失敗作」の烙印を押された。

 

『────お前は狂った怪物だ』

 

 生前、その絶対的な呪詛を込められた罵りを受けたことが、彼女にとって最大のトラウマとなった。

 その時から理性を持ち、常識を理解しようと決めている。

 それこそ、狂化スキルがDランクという低さに現れる程。

 そんな彼女にとって、アラヤという人物は未知そのものであった。

 

「(キレイ────)」

 

 生前に見た、犬の内臓。

 歪んだ感性故に美しいと感じたソレが、路傍の石に見える程に美しいヒトガタ。

 死体の接ぎ木が、落雷によって稼働した偶然の産物が、その価値観を根底から揺るがされた感覚。

 

「そうか、生前得られなかった花婿を……。その渇望の根底にある感情を察するのは、初対面の僕などでは無神経窮まるだろう」

 

 ただひたすらの■────美を叩き込んでくるそれは、きっと己の美しさを最大限抑え込んでいるのだろう。

 もし、その美しさを全開にすれば、そんな思考をバーサーカーが出来る余地がある訳がない。

 

 その美は、人の価値観を揺るがす────否、人に価値観を教えるものなのだから。

 少なくとも、彼女はそう直感した。

 この調停役を名乗るマスターは存在しているだけで争いを治め、あるいは存在しているだけで争いを生んでしまうのではないか。

 そんな支離滅裂な妄想さえ浮かんでくる。

 

「ウ、ウゥ……ッ」

「だけど、君は胸を張って欲しい。人の願いに矮小も崇高もありはしないが、本来君のソレは祝福されるものなのだから」

 

 彼女は、ほんの僅かに後退りながら呻くしか出来ない。

 自分の願いに一切の悪意なく感情移入し、中立の立場とはいえ応援してくれる。

 彼に己の願望を肯定されれば、気を抜けば嬉しさの余りに涙が溢れてしまうかも知れない。

 自己の価値観の否定、ではない。

 これは矯正というには余りに優しく、啓蒙というには余りに暴力的である。

 

 フランケンシュタインの怪物は、心底恐怖していた。

 もし己を召喚したマスターが、彼ならば。

 聖杯への願望など、彼への感情に塗り潰されていたかもしれないと。

 

 

「────済まないカウレス、僕は些か彼女とは相性が良くないみたいだ」

 

 黒のバーサーカーの聴取が終わり、彼女の私室を出たアラヤは、即座に彼女のマスターに頭を下げだ。

 カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 フィオレの弟であり、黒のバーサーカーのマスターだ。

 

「意外ですね。アラヤさんは、誰にでも好かれるものかと」

「保護した孤児なら兎も角、あくまで聴取程度で終わるべき関係の彼女には、そこまで深入りすべきじゃないよ。

 それに、ああいう反応は珍しくないさ。虐待され親に愛されなかった子は、特にね」

「あ、はい」

 

 サラリと、彼が孤児院のスポンサーでありその孤児の大半をアラヤ自身が直接保護している事をカウレスは実感した。

 子供の味方であるその姿は、その外見からピーターパンを連想させるに十分だった。

 

「カウレスも元気そうで何より。姉弟揃ってマスターとは、運が良いのか悪いのか」

「姉さんの付き添いでこの城に来たら、令呪がポンです。

 思わずその場で、ロード・エルメロイ二世(せんせい)に電話かけそうになりましたよ」

「それはそれで、爆笑できそうなのが何とも」

 

 カウレスは、姉フィオレを通してアラヤと知り合った。

 フォルヴェッジの才媛、その最大の瑕疵である両足の不随。

 それを取り除いてくれた恩人である。

 姉の苦しみを良く知っていた弟としても、純粋な感謝があった。

 元々両親から姉のような才能と万全の肉体を望まれ、然れど凡才故に失望されたのが彼だ。

 姉の身体面と常識面でのサポートを任じられるという中々に酷な境遇で育つも、しかし姉への嫉妬はごく一般的なものに留まり、厭世的にはなったものの、魔術師の人でなしな生き方は嫌っているため現状に満足していた。

 

 だが、フィオレの両足の快復と共にカウレスは、本当に『用済み』となった。

 無論万が一のスペアとしての役割はあったが、瑕疵の無くなったフィオレの才覚は、カウレスの存在を両親に忘れさせるほどであった。

 

 元より魔術師としての執着は無く、それどころか敬遠すら内心していた。

 フィオレのリハビリが終わったら、身を引くのも良いと思ってさえいた時。

 フィオレの経過を診に来たアラヤが、カウレスにも声を掛けた。

 

『君達に紹介したい講師が居てね。きっと、君達を良い方向に導いてくれるだろう』

 

 とある顔の怖い魔術講師と出会い、カウレスは変わった。

『原始電池』と呼ばれる魔術の適性を見せ、フィオレの才覚に埋もれる筈だった凡才は、見事エルメロイ教室の生徒として成長していった。

 後数年もすれば、フィオレほどでは無いにしろ魔術師として過分無く大成したと言えるだろう。

 

 カウレスは、アラヤと彼が巡り会わせてくれた師に心から感謝している。

 そんな彼が本来ユグドミレニアが敵対した時計塔の 君主(ロード・エルメロイ二世)と、未だに強い繋がりを持っているのは当然であった。

 

 間者と言うには無能極まり、裏切り者というには生温い。

 カウレスは自身の勝利も狙いつつ、より穏便な結末を望んでいた。

 正しく、アラヤが望むモノと同じ結末を。

 

「カウレス、君達は生き残る事だけ考えなさい」

「分かってますよ、アラヤさん。俺、姉さんより視野広いですから」

 

 カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 彼は姉が人を殺せない善人であることを、よく知っている。

 フィオレは決して、人でなしに成れないことを。

 

「姉を支えるのも、弟の仕事ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話 下手しなくとも抑止力案件

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーラー、ジャンヌ・ダルクの問題報告。

 共にいたケイローンと即座に別れ、彼女の下に馳せ参じる。

 つまり、その問題となったサーヴァントとマスターの元に。

 

「先生の、一体何が問題なのさ」

「マスター、少し静かにしていてくれ」

「……わかりましたぁ」

 

 キャスターのマスターは、アラヤとルーラーに対し酷く気に入らない顔付きの少年────ロシェ・フレイン・ユグドミレニア。

 最早睨み付けているレベルに顔を顰める彼は、ある意味フィオレと類似していた。

 

 ユグドミレニア自体が、歴史が浅く魔術回路が貧弱な一族の集まりでありながら、若冠13才にして人形工学(ドール・エンジニアリング)の分野で名を馳せる天才児。

 そして聖杯に対する願望が、召喚したサーヴァントを受肉させその教えを得るというものだった。

 ロシェとフィオレとの決定的な違いは、その人間性だろう。

 魔術師として必要な欠陥の無さが、彼女の欠点だとするならば。

 ロシェは魔術師の資質以上に欠陥を持ってしまった点だろう。

 

 彼の生家であるフレイン家は、生まれた子供の養育の一切をゴーレムに一任する奇矯な教育を行っていた。

 刻印の移植が可能になるまで工房からほとんど出る事もなく、両親とさえ一度も顔を合わせることさえ無かった。

 結果として彼は、自分を世話したゴーレムは形状の一つも残さず記憶していながら、人間に対して興味を持てない少年として成長した。

 

 そんな彼が現状、唯一例外としているのが、彼が召喚した黒のキャスター、アヴィケブロンである。

 

「アヴィケブロン、貴方の宝具は聖杯大戦の枠組みを超えています」

 

 ルーラーが厳しい面持ちで相対するサーヴァントは、顔の一切が隠されていた。

 貌だけではない。青いマントとボディスーツで全身を隠した、老練な魔術師や気位の高い知識人を思わせる雰囲気を持つ男。

 

 本名、ソロモン・ベン・ユダ・イブン・ガビーロール。

 十一世紀の哲学者にして詩人。

 そして魔術の一ジャンルである「カバラ」の基盤を作ったと伝えられているカバリストだ。

 史実に於いて、アヴィケブロンはその哲学的な思想をアラビアからヨーロッパに伝えたとされる。

 言うなれば、ルネッサンスの文化を生み出すことに助力した偉人だ。

 魔術基盤の一つを生み出したという、魔術世界において非常に重要な影響を与えた魔術師でもある。

 魔術師の英霊として召喚される事も、納得の英雄だ。

 

 そして黒の陣営において、ゴーレムの生産と宝具の設計・開発に明け暮れる『ゴーレムマスター』。

 それ故に、ルーラー陣営の問題提起は彼にとって無視できない一大事であった。

 

「……我が宝具は、私の生前からの悲願なのだが?」

 

 既に、彼の願望はルーラーが聞いている。

 アヴィケブロンが生前完成を願い、叶わなかった至高のゴーレム。

 彼の見果てぬ夢が宝具化した、受難の民族を楽園に導く王にして守護者であり救世主。

 宝具『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』。

 その完成と発動こそが、アヴィケブロンが聖杯大戦に召喚された悲願である。

 

 その宝具を「発動させるな」と裁定者気取りの聖女に口にされれば、如何に小心者を自称する彼と言えど、黙っている訳にはいかなかった。

 

「別に強さは問題じゃない。その巨躯も学習能力も、再生能力もどうこう言うつもりは無いさ。

 だけど君の宝具は()()()()()()()()()()()()()

 

 手に顎を乗せたアラヤは、困り顔で紙にその宝具の問題点を書き込み始めた。

 

「自立した固有結界、拡大し続ける『楽園』か。そりゃあ見過ごせないとも。比喩抜きで特異点さえ発生しうる」

 

王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』の問題点。

 それは自立した固有結界という性質から、『周囲の大地を際限なく「楽園」へと塗り替えていく』という途方もない性質だ。

 その楽園は物理法則を覆し、彼の思想も合わさり新たな神代の始まりになるやもしれない。

 即ち、現代社会の終わりとも言える。

 

「黒のキャスター。もし貴方がこのままその宝具を発動させた場合、我々はその特権を用い全サーヴァントを招集。全力で排除します」

 

 正直、その判断は言い掛かりではある。

 何故ならアヴィケブロンは特別なルール違反はしていないのだ。

 

「僕の宝具は、人を救う為の存在だ」

「残念ですが、ルーラーのサーヴァントとしてその宝具が発生させる『楽園』を見過ごす訳にはいかないのです」

 

 しかし、彼の想いをルーラーは容赦なく斬り捨てる。

 どれだけアヴィケブロンが人を救うと主張しようとも、その主張は十一世紀のサーヴァントの信仰心でしかない。

 元より極度の厭世家である彼が思う楽園が、彼の想像通りのモノである保証はどこにもないのだ。

 アヴィケブロンの『楽園』が人を許容しなかった場合、責任の取り様が無いからだ。

 アヴィケブロンは間違いなく、聖杯戦争に勝利してはいけないサーヴァントの一人と言えるだろう。

 

 それも、彼がサーヴァントである事を差し引いた上の話。

 今を変える事が出来るのは、今を生きる人間だけ。

 根本的に過去の存在であるサーヴァントが、今の世界を変える事をアラヤとジャンヌは許す訳にはいかないのだ。

 

『────』

 

 チリ、と。

 二者の間の空間がひり付く。

 お互いの主張が折れない場合、待っているのは武力衝突だ。

 ユグドミレニア城塞は、最早アヴィケブロンの工房である。

 聖杯大戦開始の時点で、彼が製造したゴーレムは千体を超えている。

 ルーラーが如何に強力な英霊といえど、マスターを抱えるサーヴァントでしかない。

 マスターであるアラヤを集中的に襲うことが、アヴィケブロンが取るべき戦術だ。

 無論、それでもルーラーを敵に回すのは愚かだろう。

 

 アヴィケブロンは、カルナのような超級サーヴァントではない。

 彼我の戦力差は歴然と言えど、アヴィケブロンの勝機が皆無とは決して言えないのだ。

 だが、彼の悲願を果たす直前のこのタイミングで、それを否定されれば戦うしかないのだ。

 

「────なので、お互いの着地点を用意しよう」

 

 その戦意に水を差すのは、アラヤの役割であった。

 

「……マスター」

「ルーラー、何事も頭から否定するのは良くないさ。

 アヴィケブロン、取り敢えず君の宝具によってもたらされるリスクについて理解して貰えたと思う。

 少なくとも我々は、それを見逃すことが出来ない」

「だが、私がそう易々と妥協する訳が無いのも、君達に伝わったと思うが」

「それは最終的には、だろう? 

 その過程を、上手く取り繕う事も出来る筈だ」

 

 元よりユグドミレニアの尽力により、『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』は完成間際だ。

 しかし、そこに必要な最後の材料が不足していた。

 即ち、『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』を半永久的に稼働させる為の『炉心』。

 より具体的には、優れた魔術師そのものが。

 現状、炉心足り得る魔術師は見付かっていない。

 否、手段を選ばなければ無い訳でも無いが、それによって生じる問題は無視できないモノだった。

 

「僕らは君の宝具の完全発動を許す訳にはいかないが、逆に言えば『楽園』の無制限の拡大以外は問題ではないんだ」

「つまり、敢えて未完成にしろと? それは妥協ではないのかな」

「妥協しない事自体が、現状は短慮そのものと言えないかい? なら、より確実な道筋を選択すべきだ」

「………………」

 

 そういう意味では、敢えて『アダム』を未完成にするという選択もアリではあった。

 アラヤの言うとおり大戦に勝利出来れば、聖杯を用いてより完璧な『アダム』を造ることも不可能ではない。寧ろ推奨するべきだろう。

 

「それと、もし君の宝具を戦力ではなく救世主として運用するならば、試行実験をして欲しい」

「……何だって?」

「君はこの宝具を生前に完成させられなかった。それはこの地上が『楽園』となっていない事から明らかだ。つまり君の宝具がどんな『楽園』を齎すか、君自身が確認出来ていない。

 先ほどもルーラーが言っただろう? 我々がネックとしているのはそれなんだよ」

「『アダム』が、救世主に足り得ないと?」

「それを確認する為にも、予め何度も試運転するのは寧ろ当たり前では? 申し訳ないが、万が一の失敗も許されない以上、こちらとしては検証に検証を重ねて欲しい」

 

 アヴィケブロンの信仰心を否定する様なアラヤの言葉は、逆に言えばルーラー陣営が出来る精一杯の譲歩と助言である。

 

「これは君の信仰心如何の問題じゃないさ。

 そうだ、いっその事月辺りを『楽園』にすればいい。そうすれば検証するのに周囲を気遣う必要はない。

 テラフォーミングと言えるかは分からないが、素で人類の発展に繋がりそうだ」

「君は────」

 

 否定ではなく肯定を。

 どんどん溢れ出るアイディアと活用法に、素直にアヴィケブロンは感心した。

 ある意味、ルーラーのような優等生とは程遠いだろう。

 何せ問題の活用法を考える調停者の主など、問題極まるのだから。

 

「─────ここで君達を敵に回すより、『アダム』を完成できる可能性は高い、か」

 

 遠回りではあるが、ルーラーと彼女が召集する全サーヴァント。それらを敵に回してしまえば、たとえ『アダム』が完成したとしても破壊される可能性は十分にある。

 少なくとも赤のランサーと黒のセイバー、この二騎を同時に敵に回しては一溜まりもない。

 黒のランサーを筆頭として、アヴィケブロンが確認しているサーヴァントも非常に強力で、あるいは厄介な存在だ。

 少なくとも、一か八かに賭けて失敗した場合を考えれば寧ろ当然の保険だ。

 

 もし、ここで召喚されたルーラーがジャンヌ・ダルクではなかったら。

 具体的には聖女マルタだったら、ガタガタ抜かす前にアヴィケブロンの仮面を拳でブチ抜いて黙らせただろう。

 あるいは、そのま退去させていたかもしれない。

 万が一にも、聖杯大戦が無辜の民を脅かす事の無いように。

 あるいはジャンヌ・ダルクが、誰かを依り代にした召喚形式であればその特権で宝具の完成そのものを禁じたやも知れない。

 無論、それによって様々な問題、あるいは軋轢が生まれたかもしれない。

 そういう意味では、ルーラーとアヴィケブロンという歯車の間に、アラヤは水というより油を差した、というべきだろうか。

 

 チラリ、とアヴィケブロンはルーラーを見る。

 少なくとも、彼女は己のマスターの考えに理解と納得を見せていた。

 

「ルーラーのマスター」

「?」

 

 果たして、アラヤの判断が正しいものかは解らない。

 だが、アヴィケブロンはアラヤの配慮を理解した。

 自分を気遣い、出来うる限りの譲歩をしてくれている。

 その気になれば、その強権を用いてアヴィケブロンという問題自体を消すことも出来るだろうに。

 聖女のサーヴァントにお似合いなのは、聖人めいた精神が必要なのだろうか。

 どちらにせよ、如何に人付き合いが苦手なアヴィケブロンといえど、伝えなければならない事がある。

 

「────君の配慮に、感謝を」

「何、どうやらそれが役目らしいからね。

 まぁ報酬が無いのが、何とも言えないが」

「それは仕事と呼べないのでは?」

「其処ら辺は、大戦が終わったらルーラーに要求しよっかなぁって思ってる」

「私ですか!?」

 

 一番貧乏くじを引いているのは、或いはこの聖女かも知れない。

 先程の剣呑さなど忘れ、アヴィケブロンはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「いやぁ、取り敢えず出てきた問題が黒のキャスターだけで本当に良かった」

「本来、問題無しが最上なのですが」

「流石に其処までは高望みだよ。まぁ、本来なら黒のセイバーとゴルド氏みたいなディスコミュニケーションが主なんだろうけど」

 

 黒のセイバーのマスター、ゴルドの私室を後にする二人は、ミレニア城塞での役割を果たしたことを確認した。

 

「顕在的な問題は黒のキャスターの宝具ですが……」

「あれだけ釘を刺してやらかしたら、申し訳ないけど退去不可避だなぁ。一応ダーニックにも伝えて居るから、今出来るのはこれくらいさ」

 

 そして潜在的な問題である、黒のランサー(ヴラド三世)の第二宝具。

 此方も黒のキャスター同様に、それを発動させるであろうマスターのダーニックにも忠告した。

 

「この後僕らに出来るのは、万が一に備えることだけさ。

 想定できる最悪に、出来うる限り対策を行う。戦争だろうと何だろうと、必要だと思うよ?」

「その通りです」

 

 後者に関しては、成り果てる対象が『吸血鬼(ドラキュラ)』であるならばルーラーが正に適任である。

 聖女として聖人スキルを保有する彼女は、特効となる聖水の作成は勿論、それを用いた聖別も容易だろう。

 

 吸血鬼はその強力なスキルと膂力の数々に比例するように、その弱点は非常に多く何より致命的なものだ。

 その中でも聖女が作成した聖水を用い、聖別された武器を用いれば、自慢の不死性もクソも無い。

 そういう意味では聖人が召喚されやすいとは謂え、裁定者としてジャンヌ・ダルクが召喚されたのはヴラド三世にとって福音に近い。

 

「アヴィケブロンの宝具に関しては、既に『保険』の仕込みも終わっている」

「! ……『彼等』ですか」

「この城の把握するついでに、君から連絡を受けたと同時にね」

「周到ですね」

「そうじゃないと、すぐ殺されちゃう処だったからね。『私』も、彼等も」

 

 裏工作などお手の物、と言わんばかりの口振りにルーラーが苦笑する。

 そのままこの城塞を後にする為、城内の警備をしているホムンクルスに声を掛けようとし────。

 

「ッ!」

 

 ルーラーのその広大な知覚能力が、新たなサーヴァントの気配を感知した。

 そんな彼女の感知能力と同期しているアラヤも、その新たなサーヴァントの様子をある程度理解する。

 

「うーん、清々しい程の暴走っぷりだ」

「行きましょう」

「という訳なんだ。ダーニック達に謝ってくれると助かる」

「畏まりました」

 

 二人に頭を下げるホムンクルスに手を振りながら、近場の窓から身を翻しミレニア城塞を後にする。

 同時に、事態は急速に動き出した。

 その存在をユグドミレニア側が感知し、ゴーレム越しの投影で姿を確認。即座に戦場を指定する。

 二度目の戦場は、東側の広大なイデアル森林。

 そこに防衛のゴーレムを蹂躙、あるいはその攻撃全てを受け入れながら満面の笑みを浮かべる狂戦士が戦端を開いていた。

 そしてそれは─────筋肉だった。

 

 

 

「────ふはははは‼ 圧制者よ! 汝の悉くに死を与えんッ‼」

 

 どっかの劇作家(赤のキャスター)に唆され、黒の陣営に突撃した赤のバーサーカー。

 真名をスパルタクス。トラキアの剣闘士であり、第三次奴隷戦争の伝説的指導者。

 

 かのサーヴァントについて特筆すべき点は、最高ランクの筋力でも、評価規格外の耐久でもない。

 バーサーカーのクラススキルである狂化。その堂々の評価規格外(ランクEX)に至って尚、決して揺らぐ事の無い精神性にこそあった。

 

 その性質上、偶々聖杯戦争に巻き込まれた一般人が、偶々スパルタクスを召喚でもしない限り────彼は最悪のサーヴァントと言えるだろう。

 彼は圧政者を赦さない。

 そういう意味なら、虐げられる一般人と契約した場合は非常に頼り甲斐のあるサーヴァントとなるかもしれない。

 万が一マスターが理不尽に虐げられる子供の場合、狂化されている事を感じさせない程、理知的かつ穏やかに応対するだろう。

 だが現代魔術師という、その大半が貴族等の支配者層な者達だ。

 つまり自分を支配し、使役する為の契約である。

 そんな隷属を、彼は絶対に赦しはしないのだから。

 

 そして今彼が目指すのは、生前からして圧制者である黒のランサーである。

 彼はその圧政故に売国貴族たちから国を護り、更には驚異の犯罪率ゼロ%を為した。

 しかしその圧政故に、恐怖した貴族達に背中を斬られた。

 英霊に至って臨機応変に対応することはあっても、彼の『王』としての気質が変わることは無いだろう。

 無論サーヴァントは召喚したマスターの影響を色濃く受けるが、今回ヴラド三世を召喚したのはダーニックである。

 つまり、どう足掻いてもスパルタクスにとってヴラド三世は圧政者なのだ。

 正しく、彼は叛逆に向かって邁進していた。

 加えて────

 

「────アレは見捨てるしかないと思うか? 赤のライダー」

「説得できると思ってる、アンタの方が変わり者だぜ。姐さん」

 

 一戦目とは違う、複数同時戦闘。

 聖杯大戦の醍醐味、その短くも激しい第二戦目の開幕である。

 

 




 別の投稿作品が著しく遅れている為*1、此方を先に描き上げました。もう三カ月も経ってるよ。

アラ何某
 アヴィケブロンへの説得ロールにクリティカル。
 勿論■■■補正バリバリ使った、100ファンブル以外確定のロールだったり。
 月での云々は本当にアリと思ってたり。
 それはそれとして不測の事態に備え、『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』への細工を既に完了してたり。
 ちなみに『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』はユグドミレニア城塞近くの湖の底に隠されているが、派遣した人員は勿論素潜りを要求されてたり。

貧乏くじ引かされた聖女
 一体何を要求されるかハラハラ状態。
 まぁ根本的にお人好しというか、機械的なまでに善良なマスターなので、本当はそこまで心配はしていない。
 という、ジワジワと■■■の影響を受け続けており、聖女としてではなく村娘としての側面を順調に引き出されている。

カウレス
 原作とは違い、大戦前に既に姉弟揃って略奪公の教え子に。
 その為『strange fake』の様に大成とまでは言わずとも、魔術師として相応に成長済みである。
 なのでフランのパラメータが、本当に少しだが向上している。
 本音としては大戦自体が無かった事になって、時計塔の現代科(ノーリッジ)に姉共々戻りてぇーと考えている。
 つまりアラヤと同じ着地点(原作のような終わり)を目指している。
 尚――――。

黒のバーサーカー(フランケンシュタインの怪物)
 生前からして英雄を知らない怪物が、アラヤとかいう劇物ブチ撒けられてSANチェックさせられる嵌めになった可哀想な娘。
 多分凛を依り代にしてないイシュタルや、ゴルゴン三姉妹の上二人と出会っても、方向性の違いからこんな反応にはならない。
 ■■■■■■■の■の側面に遭遇したら同じ反応かと。
 本作ではすまないさんの自害が起きない為、少なくともモードレッドに特攻宝具を使用する末路だけは回避している。

アヴィケブロン
 翌々考えずとも、コイツの宝具完全にアウトだよね案件。というのが今回のメイン。
 自律、拡大し続ける固有結界という、要は侵食固有結界な訳で。
 つまり強度や規模こそ違えど、言ってる事は極限の単独種(彗星のアルテミットワン)と同系統という驚異過ぎる能力。
 巨獣形態のイヴァン雷帝と戦えたのとか、些事になるレベルのブッ壊れである。
 という訳で運営にナーフを指示され、ある程度代案を提示された事で説得される。

ロシェ
 アヴィケブロンのマスターで、黒の陣営の数少ない天才枠。またはクソガキ枠。
 しかしゴーレムに重きを置き過ぎた結果魔術師としての必要以上に人として欠落してしまった。
 なので原作でゴーレムの素体となった際は、実はかなり悪因悪果な結末だったり。
 今回はほぼ空気だった。というかアヴィケブロン以外は人と会話する事も嫌いだったり。

叛逆する筋肉
 ずっと走ってました。
 アラヤが介入しようが無いお人。
 ただしそこまで相性は悪くなかったり。


修正指摘ありがとうございます。

*1
UQ原作を全巻持っていない為、設定の吟味に時間掛かってる、あと腰がヤバイ

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