零れ落ちた美麗の雫   作:たけのこの里派

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第十三話 アキレウスの憂鬱

 

 

 

 

 ────赤のライダーは、己の境遇を久方ぶりに嘆いていた。

 トロイア戦争に行かないよう母に女装までさせられ、挙句オデュッセウスに容易く正体を見破られた時以来だろうか。

 

 赤のライダー、その真名をアキレウスという。

 ギリシャ神話の名高き、ホメロスの叙事詩『イーリアス』の主人公にして俊足の代名詞。

 アルゴノーツの一員であった英雄ペレウスと、「夫としたものを超える子を産む」権能を持っていた海の女神ティティスを両親に持つ、生まれながらの英雄である。

 しかし英雄であるが故に短命との予言に嘆いた母が、その運命を変えんとして多くの施策を取った。

 最愛の息子に、生きて欲しいと願ったが故に。

 

 その手始めとして神性の炎でその身を焼く事により、不死身となったアキレウスの代名詞。

 父ぺレウスが「人間としてのアキレウス」を殺さない為に、その踵だけを人のままにしたが故に、その踵を射抜かれ死の要因となった『アキレス腱』。

『人体の踵にある急所であり、転じて「強者が持つ弱点」を指す言葉』の語源となった英霊。

 

 ギリシャ神話に於いて大賢者ケイローン最後の弟子となり、ギリシャ神代に於ける人界最大の大戦争。

 多くの半神の英雄が参加した『トロイア戦争』に於いて尚、最強の戦士。

 ことギリシャ神話に於いて頂点が人類史最大最強(ヘラクレス)だというのなら、次席がアキレウスであるという声は非常に多い。

 アキレウス自身、ヘラクレスにさえ負けるつもりは無いという気概もあった。

 

 そんな己の短命の運命さえ顧みず、英雄として走り抜けた彼は生前でさえ多く無かった憂鬱に天を仰いでいた。

 

 事の切っ掛けは、昨晩の聖杯大戦第二戦後。

 赤の陣営全体の指示役を担っている言峰神父へ、その戦後報告を行った後の事であった。

 

『明日の正午、汝の時間を貰うぞライダー』

 

 少しばかり様子の違った赤のアーチャーから、そんな言葉を受けたのだ。

 父から教わった、幼少からの憧れの英雄。

 ぺレウスと同じくアルゴナウタイの一員たる、麗しき純潔の女狩人(アタランテ)の誘い(主観)の言葉である。

 

 やや冗談半分ながら粉を掛け続け、悉く袖にされたアプローチ。

 先の戦いで自分を見直したのかと、それはもうテンションを跳ね上げた。

 これが聖杯戦争の醍醐味かと、高笑いと緩む口端を必死に抑え込んだ。

 完全にデートの誘いと確信(主観)、相手から誘わせた事に失念さえ覚えた程に浮かれまくった。

 

「────この方が今回席を設けて下さった、ルーラーのマスターのアラヤ殿だ。

 神父の方針はこの際忘れよ。ライダー。先に告げるが、この方への無礼は吾が許さん故、心せよ」

 

 ウキウキで彼女に付いて行ったら、なんか男が待っていた(現実)

 挙句その男に、当のアタランテは相当入れ込んでいる様子でさえある。

 渋顔を手で押さえ、室内でさえ天を仰ぎたくなるというもの。

 窓の隙間から、己の踵を穿った太陽(アポロン)がチラ見した。

 キレそうだった。

 

「スゥ────……あー、僕がルーラーのマスターをさせて貰っているアラヤ・トオサカだ。今回ルーラー陣営としての招集を受けてくれた事へ感謝を……うん。でも、なんだ。その、何というか……。

 うん! ちょっと時間空けようか!!」

 

 ルーラーのマスターを名乗った相手の男が、此方の顔を見て即座に内情を把握し、全力で気まずそうに配慮してくるのがとても辛い。

 というかその気遣いから、普通に良い奴そうなのがとても辛い。

 何よりアタランテが何も察していない事が、特に。

 

 

 

 

 

 

 

第十三話 アキレウスの憂鬱

 

 

 

 

 

 

 

「まず、改めて感謝を。我々ルーラー陣営にとって、暫定重要参考人(敵対的)であるシロウ神父の指揮下にある君達が、僕の要請に応えてくれて本当に有難う」

 

 一拍置いて、やり直す事になった。

 赤のアーチャーと赤のライダー間で行われた、無自覚な美人局的遣り取りは、ライダーの名誉と尊厳の為に無かった事になったのだ。

 アラヤによって用意された、少なくとも四人以上は過ごせる一室で、二人のサーヴァントは歓迎されていた。

 軽い冷水と摘まむ程度の菓子を用意されたテーブルに、アタランテとアキレウスはアラヤと対面する形で席に着く。

 

「おう、赤のライダーだ。真名は流石に明かせねぇが……」

「いや、ルーラーの特権によって吾等の真名をアラヤ殿達は把握済みだ」

「真名看破。少なくとも昨晩の戦いに参加したサーヴァントの真名はコチラで把握済みだよ。

 とはいえ、君達を召喚した触媒について時計塔から情報を得ているから、その精査程度ではあったけどね。

 ギリシャに名高き、俊足のアキレウス。会えて光栄だよ」

「何だよ、それなら早く言えよ」

 

 不満の様な言葉ではあるが、アキレウスは笑顔でアラヤと握手を交わした。

 師であり育ての親でもあるケイローン曰く、気に入り認めた相手には滅法甘いこの最速の英霊は、この短い間のアラヤの全力の配慮に既にそう認定していた。

 勿論、野性的で男性に対して等しく素気の無いアタランテが、格別な配慮をしている事は気になったが。

 

「アタランテも、少々強引なお願いを聞いてくれて有難う」

「構いません。ソレに、我々も無視できない事態の様ですので」

 

 敬語である。

 あのアタランテが敬語など、一体誰なら使うのだろうか。

 そんな彼女の対応に、アラヤ当人も気まずいのかアキレウスに苦笑交じりで視線を投げる。

 どうやら彼方も意図した態度ではないらしいが、原因に心当たりはある為に何もできない、といった具合だろうか。

 そんな風にふむ、と唇を親指で押しながら察するアキレウスは、万能勇者と呼べる程に多才である。

 

「それで、その無視できない事態ってのは何なんだ姐さん」

「我等のマスターに関してだ。アキレウス」

「!」

 

 昨夜も会話の話題に出た、召喚時にさえ姿を現さず魔力供給と「シロウ神父の指示に従え」という命令だけして、音信不通である二人のマスター。

 

「此方でも時計塔と照会して確認できたことだけど、君たちのマスターはキャビィク・ペンテルとロットウェル・ベルジンスキーという。

 これに関しては触媒を時計塔が用意したから分かった事だけど、両名共にシギショアラの山上教会に向かってから、連絡を絶っている。

 これはあくまで推測だが、君達のマスターは君達を召喚する前に赤のアサシン────セミラミスに毒を盛られた可能性が高い」

「「ッ!!」」

 

 人類最古の毒殺者セミラミス。

 アサシンでありながら、そのスキルによってキャスターの霊基も兼ね備える彼女が本気で毒を盛ろうとしたのなら。

 元より神の子の遺したソレとは別物と認識されている聖杯を争う、この聖杯大戦。

 冬木の第三次聖杯戦争で、あくまで監督にのみ努めて居た聖堂教会の神父がマスターであったこともあるだろう。

 現代の魔術師では、それを回避するのは極めて困難である。

 

「驚くべき事にそれを回避し、時計塔とも連絡可能な赤のマスターとはこれから接触予定だが、少なくとも君達にはこの事実を伝えるべきだと判断した」

「あの神父……、舐めた真似してくれたじゃねぇか」

 

 アキレウスに、怒気により呼応する英気が迸る。

 彼は極めて義理堅い性格だ。

 魔術師は外道だと認識しているが、それでも自分を頼った者に応えるために召喚に応じたのだ。

 何より、アキレウスの心情であり願望────それ故に、ここで憤らねばそれは英雄ではない。

 

「吾はマスターに毒を盛られたこと自体は、特に思う処は無い」

「姐さん……アンタさぁ」

 

 幼少期を山奥で過ごしたアタランテの死生観は、大きく自然に寄っている。

 戦いの前に毒を盛られ、戦いに参戦すら出来なかった己のマスターの無様を、彼女は野山で毒草を食べる不注意と断じるだけである。

 

「だが、我等を謀ったのもまた事実。同陣営とはいえ、虚言を弄し都合の良い駒にしたのだ。いや、同陣営だからこそそう易々と赦す訳にはいかん。

 ……しかし、吾はルーラー陣営に与する訳にはいかぬのだ」

「勿論。解っているさ」

 

 ルーラー陣営に参入する絶対条件。

 それは聖杯を、己の願望を諦める事である。

 

「吾には、叶えたい願いがある」

「ふむ……うん。折角だ、二人にはこの聖杯大戦の参戦動機を聞いても構わないだろうか?」

「参戦動機?」

「実はルーラー陣営として、全サーヴァントとマスターの『聖杯の運用用途』を確認していてね───────」

 

 こうして、およそ不可能だと思われた赤のサーヴァントへの聴取が行われた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 アキレウスにとって、その聴取は殆ど意味を成していなかった。

 彼は、英雄である。

 アキレウスの聖杯に捧げる願望は、元来存在していない。

 

 ─────『英雄として生き続ける』。

 人間としてのアキレウスを残してくれた英雄ペレウスと、不死と多くの祝福を授けてくれた女神テティス。

 この両親二人に恥じぬ生き様を歩み続ける事こそ、アキレウスにとって最も重要な行動指針である。

 そしてその根幹は、彼を人理最速として英霊の座に召し上げた。

 

 だからこそ、英雄として在り続ける。

 逆に言えば彼は、英雄以外に成ることを許されていないのだ。

 

 

「─────この世全ての子供たちが、愛される世界」

 

 

 故にアタランテの願いに対して有益な言葉など、アキレウスは持ち合わせていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「先ず、結論から話そう」

 

 アラヤはアタランテに優しい視線を投げ掛け、故に虚偽なくその事実を伝えた。

 

「アタランテ。この聖杯大戦の聖杯では、君の願いは叶わない」

「な─────、そんな馬鹿な!?」

 

 アラヤの言葉に、怒りさえ込めて叫ぶ。

 英雄、純潔の狩人アタランテは────孤児である。

 男児を望んだアルカディア地方の王イーアソスに、女児であったが故にパルテニオン山の泉の傍に捨てられ、女神アルテミスに拾われ、彼女の聖獣たる牝熊に育てられた。

 そんな出自故に弱肉強食の原理に従って冷徹だが、自身の生い立ちから「子供は庇護し、愛情を注ぐべき」と考える。

 こと子供が関わる事態となれば、自然の如き冷徹さが打って変わって夢想家となる。

 

「聖杯は、万能の願望機ではないのですか!? 子供がただ幸せになる世界! そんなありふれた願いを、何故叶えられないというのですか!?」

 

 この世に生を受けた子供は皆、両親からも周囲の人々からも愛され、そうして育った子供たちが新たに生まれた命を愛する。それが世界の循環であると。

 ただ当たり前に子供が慈しまれ、愛される世界。

 美しい、目も充てられぬ程眩しい無垢過ぎるその願いは、しかし夢物語と呼ばれてしまうモノでもあった。

 だからこそ、聖杯に奇跡を願うのだ。

 

「ではまず、聖杯の願望器としての仕組みを説明しよう」

 

 最早鬼気迫るアタランテに対して、アラヤは顔色一つ変えずに乾いた喉を潤しながら話し始めた。

 

「冬木の聖杯戦争は、元来英霊の魂を七騎集め、根源への到達を目指す試みだ」

 

 召喚した七騎もの、霊長最高の魂を焚べれば、それは聖杯の中身を満たすに相応しい最高純度の魔力となるだろう。

 そして通常の聖杯戦争と違い、聖杯大戦において片方の陣営を打倒するだけで聖杯は完成する。

 

「その魔術儀式に七人の魔術師が必要である為、『万能の願望器の奪い合い』というお題目を用意し、外部の魔術師達を呼び寄せた」

「な、なら、万能の願望器というのは、嘘偽りだと?」

「いや、冬木の聖杯は『万能の願望器』と呼ぶに相応しい機能は確かに備えていたんだ。少なくとも魔術師にとってはね」

 

 第三魔法の再現を求め聖杯をこそ造れたが、中身を用意出来なかった錬金術の大家、アインツベルン。

 時計塔の魔術師であり、しかし当時不可能とされた『境界記録帯(ゴーストライナー)』の論文を残したウクライナの蟲使い、マキリ。

 そしてその大魔術儀式を成立させる為、時計塔の影響を受けない土地を提供した第二魔法の系譜、遠坂。

『始まりの御三家』と呼ばれたこの三家は、一つの宿願の為に盟約を結んだ。

 

「第三魔法たる『魂の物質化』を以て、この世全ての悪を根絶する。

 そんな善なる願いによって造られた聖杯は、持ち主の求める願いを、その『過程を省略して叶える』事が出来る。

 ソレ抜きにしても、現代の魔術師にとって一生懸けても使い切れない無尽蔵の魔力炉心だ」

 

 第三魔法、天の杯(ヘヴンズフィール)

 人が悪を御し切れぬというのなら、御し切れる存在に人を昇華させる。

 魂そのものを生き物にして、次の段階に向かう生命体として確立する五つの奇跡の一つ。

 

「まぁ土台となる魔法陣こそ出来たが、大聖杯を起動させるまでに一代経てしまって、結果戦争という形に成り、今に至る訳だが」

「で、では何故吾の願いが叶えられないと─────」

「聖杯は確かに過程を省略し、個人では成し得ない規模で結果を齎す。

 ────だが、所詮は道具だ。扱う人間がその『過程』を知らなければ、聖杯に入力出来なければ叶えようがないんだ」

 

 無論、大聖杯には元と成ったホムンクルス。

 大聖杯建造のために自ら生贄となった、冬の聖女ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン。

 そんな彼女を元にした人工知能が、使用者をサポートすることはできる。

 だが、だからこそ彼女が手段(過程)を用意出来ない場合、必要な手段(データ)の入力は使用者に委ねられる。

 

 とある世界線に於いて、人を殺す事でしか人を救えない男が聖杯を手にした。

 そして『争いの根絶』『人類の恒久的な平和』という夢想を、妻の姿を形取った聖杯に託し。

 しかしその結果として、その男が行ってきた手段での救済─────『人類殲滅』という回答が提示されたように。

 

「アタランテ。君は現代の子供たちを、どう幸せにする?」

「────────そ、れは」

 

 その問い掛けに、彼女は答えられない。

 親に捨てられ、獣に育てられ英雄となった彼女が答えられる訳がなかった。

 

 ギリシャ神話に登場する、アルゴス王タラオスとリューシマケーの息子パルテノパイオス。

 彼は一説では、アタランテの息子ともされる。

 しかし彼女はその一説に於いて、かつて自分がそうされたのと同じ様に、パルテニオス山中に赤ん坊の彼を棄てたという。

 子供に対して甘すぎるアタランテは、果たしてそんな事をするだろうか。

 

 例えばオリュンポス十二神。

 彼等ギリシャの神々がその実、外宇宙から来訪した星間航行船団である以上、伝説の全てが真実という訳ではない。

 例えば日本の英雄、金太郎こと頼光四天王の一人、坂田金時。

 彼は妻と息子を迎えたとされるが、サーヴァントとして召喚された彼にその記憶は曖昧模糊で、ほぼ無いと言ってもいい。

 それは、『純潔の狩人』という側面をサーヴァントとして召喚されたアタランテも同様であった。

 

 幼少期に親を亡くした、或いは虐待を受けた子供。彼等は親になった際に、子供との関係に亀裂が生じやすいという。

 それは、自身に経験が無いからかも知れない。

 そしてアタランテは実の親に育てられた事は無く、子供を育てた経験などありはしない。

 そんな女が、一体どうすれば子供の幸せを思い描けるというのか。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 アキレウスは英雄である。

 故にアタランテの願いに対して有益な言葉など、持ち合わせていない。

 

「────ライダー」

「姐さん……ッ」

(わたし)は、どうすればいいのだ」

 

 万軍に対し、孤軍奮闘し打ち破れと言われれば、笑いながら敵を薙ぎ倒すだろう。

 国から少女を護り抜け、と言われれば華麗に護り抜いてみせよう。

 しかし、今の道に迷った幼子のような彼女に、アキレウスは何も言えなかった。

 彼に、今の俯き英気が失われたアタランテを導く事も、救う事も出来ない。

 彼女の願いを美しいと思えても、同時に夢物語としか思えない。

 アタランテに、英雄は必要ない。

 

「だからアタランテ、君は聖杯で受肉しなさい」

「え?」

 

 きっと彼女に必要なのは、己の師(ケイローン)の様な存在なのだと。

 

「実は僕はね、孤児院や保育園などの養育施設のスポンサーをやっていてね。保育士なんかは色んな理由で人手不足なんだ」

「あ……え?」

「流石に子供を産めとか、起訴不可避のセクハラをする訳にはいかないからね。

 受肉したら、子供を育てる仕事に就いてみるのはどうかな? 勿論戸籍は用意するし、資格取得の為の環境も用意しよう。提案しているのはこっちだからね。それぐらいのフォローはするさ。まぁ貸しを作るのが嫌なら、それこそ聖杯を使えばいい」

 

 だからそれは、紛れも無いアタランテにとっての希望と言えた。

 

「君の願いを聖杯で叶える手段を、()は提示出来ないし、してはいけない。それに聖杯で直接他者に幸せを施す事は、ある意味怠惰と言えるかもしれないからね。

 だから君に提示できる手段は地道で、しかし君の願いに対して確実に益となるものだ。

『急がば回れ』とは、僕の実家の国の諺だったかな」

 

 子供を育てた経験が無いというのなら、受肉して現代で学べばいい。

 その記録を『座』に持ち帰れば、それは確実にアタランテにとって掛け替えのない価値あるものに成るだろう。

 本来聖杯戦争での英霊召喚は稀ではあるが、亜種聖杯戦争が多発している世界線では、また召喚される事もあるかもしれない。

 アタランテも紛れもない、ギリシャに名だたる英雄なのだから。

 

「あ、貴方はっ……」

「まぁ確かに、君の願いは聖杯でも叶える事が困難な夢物語かもしれない。だけど、人は夢物語を現実に出来る生き物だ。人が神の加護も魔術も無く、月に至った様に」

 

 聖杯の様な、都合の良い物では無いかも知れない。

 だが夢想と現実の差異と、無意識な諦めと理想との矛盾から逃避するよりも、余程健全である。

 

「それに、君のその願いの尊さが損なわれる事は決してない。

 聖杯に捧げるまでもなく、当たり前に持ち続けて良いものなんだ。俯く必要はない、顔を上げて胸を張るんだ。

 ────君は決して、間違ってなど居ないんだから」

 

 彼女に対し欠片も下心を持たず、まるで迷子に帰り道を示すように語り掛ける。

 アキレウスは、その優しい眼差しにケイローンを思い出した。

 そうだ、彼女に必要なのは英雄などではない。

 

「立場上表立って出来ないけど、聖杯大戦に勝利すれば関係が無い。

 その時僕は、君の夢に全力で協力するさ」

「あ、あぁああああああああぁ……ッ!」

 

 神が人間に対するモノよりも、もっと身近で当たり前なものなのだ。

 アキレウスにとって、ペレウスとテティス、ケイローンから与えられた様に。

 

「……そりゃ、俺じゃ土台無理な話だ」

 

 アキレウスが、小さく呟きながら悔しそうにアタランテを見る。

 先程まで途方に暮れていた女性は、もう何処にも居ない。

 それはきっと、ソレを見届けたアキレウスにとって羨ましく、そして生前感じた事の無い程の敗北感を与え。

 

「全く、とんだ厄日だぜ」

 

 だけど、不思議と嫌な気持ちになれなかった。

 それはきっと、彼が『良い奴』に他ならないからか。

 

 アラヤ・トオサカの正体とか、特性とか、能力とか、■■とか。

 そんなものとは、一切の関係が無く。

 彼女に与えられた言葉は、英霊アタランテにとって致命的なものであった。

 アタランテは、溢れる涙を止められない。

 ならばきっと、その時アタランテに生じた感情はとても普遍的なモノなのだ。

 

 そしていずれ結実する感情を、人は恋と呼ぶかもしれない。

 

 




アラ■■■■■
 今回は正体とか特性とか関係なく、現代人としての成果がプラスに働いた、自称還暦。
 スポンサーやってる孤児院から巣立った孤児達から時偶相談されたりするので、それをアタランテにやっただけである。
 正体的にギリシャ神話と確実に関わりはあるが、あくまで直接的ではない。
 具代的には■■■■■として、■■■■■時代の■■■からの影響とされているが、実際は彼等■■の残■の■■体であるため(オリ設定)。

アタランテ
 具体的な献策に加え、彼女の夢物語(自認)を大いに肯定されて色んなものにクリティカル。
 更にジャックの正体も次回知れるので、彼女を殺し掛けたセミラミスと赤の陣営(シロウ神父陣営)とは、敵対確実である。
 もし彼女が切嗣的思考放棄のまま聖杯を獲ていたら、ワンチャン全ての子供達が捨て子になっていたかも知れない(全人類もののけ姫化) 

アキレウス
 一番のとばっちり喰らった、単純戦闘能力ではギリシャNo.2な大英雄。
 魔物に堕ちたアタランテ(原作)なら兎も角、平常な彼女の夢物語には英雄であるが故に何も出来ない人。
 挙げ句、憧れの女性が恋に落ちる瞬間さえ見せ付けられて踏んだり蹴ったり。
 それでも苦笑いで済ませれる、圧倒的『秩序・中庸』。

ルーラー陣営
 諸々の買い物で不在。
 推定敵性勢力の赤のサーヴァントを、勝手に呼んで単身会合してたのが次回バレるので、聖女パンチと殺人鬼キック、助手ビンタが勝手老人(自称)に御見舞いされる。



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