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いわゆる、エクストラクラスの一つである。
その特徴は通常のサーヴァントと異なり、マスターではなく聖杯自身に召喚され『聖杯戦争』という概念そのものを守るために動く、絶対的な管理者であること。
即ち、選手ではなく主催者側のサーヴァントである。
基本的には部外者を巻き込むなど規約に反する者に注意を促し、場合によってはペナルティを与え、聖杯戦争そのものが成立しなくなる事態を防ぐためのサーヴァント。
そのため現界するのにマスターを必要とせず、「中立の審判」として基本的にどの陣営に組する事もない。
──その筈、だった。
ホテルの一室で、ルーラーのサーヴァントであるフランスの聖女ジャンヌ・ダルクと、仮称そのマスターであるアラヤ・トオサカ。
アサシンのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーとそのマスターとなった一般人、治療された六導玲霞。
彼女の右手には、豹馬の持っていたマスターの証したる令呪が移植されていた。
ちなみに移植したのはアラヤである。
ジャックも移植自体は可能だが、彼女の移植技術は19世紀相応のもの。
見た目の保証は出来はしない。
「さて、つまりどういうことだってばよ」
「イレギュラー、と判断すべきでしょう」
ルーラーは現在通常のサーヴァント同様マスターを持つサーヴァントとして顕現していた。そのマスターはアサシン召喚の際に受けた傷の後遺症など欠片も見せず、人数分のカップを運んできている玲霞ではない。
アラヤをマスターとして、彼に依存する形で現界しているのだ。
同時にアサシン──ジャックの魔力供給も肩代わりしている彼の魔力量に驚嘆する間もなく、ルーラーは頭を抱えていた。
「つまり大聖杯は貴方の了承を取ることさえ無く、問答無用で私のマスターに仕立て上げたと」
「まぁそういうことになるね。あ、有り難う。って玲霞、病み上がりなんだから無理しない」
「私はもう大丈夫です。はいジャック、暖かいココアよ」
「ありがとう
「加えて、魔術師ではない一般人をマスターとするサーヴァントですか……」
聖杯戦争に一般人を巻き込む。
魔術師としては神秘の隠匿さえこなしていれば、そう目くじらを立てられるものではない。
だが、今回は調停者としてルーラーのサーヴァントが召喚されている。
そしてその多くは、本来聖杯戦争に召喚できない聖人が該当する。
そんな聖人が神秘の隠匿がなされているからと言って、一般人の犠牲を許容する訳がないのだ。
本来の
豹馬より遥かに上の技量を持つアラヤに徹底した暗示をかけられ、洗いざらい情報を吐かされた彼の末路は語るまでもない。
そして一般人の犠牲を強いた豹馬に、ルーラーの保護を受ける権利は無かった。
そうして令呪を安全に移植された玲霞は名ばかりではあるがマスターとなり、魔力供給をアラヤが肩代わりすることで黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパーは現界を続けている。
変則的ではあるが、マスター二人組による陣営と言えるのだが、問題はその片方がルーラーのマスターに成ったことだった。
本来ならばルーラーに人間のマスターなど存在しない。
それは公平性を欠くからだ。
「だけど現にルーラー、僕と君とに魔力パスは通っている」
「はい……私も貴方からの魔力供給を感じています」
全くもって不可解である。
だが、その不可解こそがルーラーの召喚に関わることなのかもしれない。
「
そしてもう一つは、『聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合』である。
「勿論、今回の聖杯大戦は前者に該当する大規模なモノ。しかしマスターを有さない筈のルーラークラスに、マスターが存在するというイレギュラーが発生しています」
「つまりルーラー、君が召喚されたのは後者である可能性が高い、と」
ルーラーは勝利者が叶えようとする願望に例えそれが我欲による物であろうとも干渉しない。
だが『世界の崩壊を招く』類の願いは絶対に許容せず、聖杯戦争によって世界の崩壊が理論的に成立すると見做された時点でルーラーは召喚される。
「恐らくこのイレギュラーは大聖杯の何等かの不具合か、あるいはそうせざるを得ない事態が起こりうると大聖杯が判断したのでしょう」
「……考えたくないな」
ならば、何故アラヤを選んだのか。
60億の人類の内の、何故態々彼を選んだか。
「とどのつまり、僕はルーラー──事実上の第三勢力として聖杯大戦に参加しなければならない。ということだね」
「はい……」
アラヤの言葉を肯定するルーラーの顔色は良くない。
聖杯大戦に参加することを拒んだ彼を、ルーラーや聖杯が無理矢理巻き込んだ形に等しい。
加えて、ルーラーのマスターとしてこの聖杯大戦で得られるモノは何もないのだ。
彼に報酬などなく、実質的には徒労である。
場合によっては、死さえ起こりうる戦いに参加するというのにも関わらず。
「まぁ、審判役が賞品に手を出す訳にはいかないからね」
「本来貴方をマスターとするにしても、その前に同意を得るのが道理というもの。ですが私は貴方を問答無用で危険な戦いに巻き込んでしまった。謝って済むものではありません」
「まぁ、イキナリで驚いたのは驚いたけどね」
しかし、その声色に拒絶や後悔は感じさせていなかった。
それはまるで、渡りに舟と云わんばかりのもの。
「何、そう暗くなる必要は無いよ。ルーラー」
「……?」
「何せ僕は元々この聖杯大戦に関わるつもりだったしね」
「え」
事実、アラヤにとってルーラーとの強制契約は酷く都合が良かった。
「実はユグドミレニアのマスターの一人は、間違いなく僕の教え子だからだ。一族の柵に囚われそんな戦いに参加してしまうのだから、心配にもなる。何より、今回の聖杯戦争は僕自身見過ごせない理由がある」
「理由、ですか?」
「諸事情でね。僕は二つの陣営に所属せずに大聖杯の行く末を、最後まで見届ける義務がある。その為に僕は片方の陣営で、聖杯を欲するサーヴァントを召喚するわけにはいかなかったんだよ」
アラヤは少し目を細めるという、ただそれだけの挙動をする。
外見上変化は無く、しかしルーラーにとっては劇的であった。
「自己紹介が未だだったね、
「……! 貴方は────」
ルーラーの瞳が驚きに見開かれる。
マスターとして彼女のステータスを視ていたアラヤは、ニカッとイタズラ坊主の様に笑った。
ルーラーとしての彼女の眼に映るモノが、アラヤの言葉に納得を与えるものがあったのか、静かに眼を閉じる。
それは、何故己のマスターが彼なのかへの理解があった。
「────解りました。だからこそ誓いましょう、私はサーヴァントとして必ず貴方を護り抜くと」
「無論その為に自己犠牲を、何てし出したら是が非でも止めさせて貰うからね。ソレを僕と君との約定としよう」
それは彼女の第二宝具の禁止を意味していたが、はたして。
静かに跪き、聖旗を捧げる聖女はここに契約を立てる。
それはまるで、絵画の一枚のようで。
ジャックはその光景に見惚れ、玲霞はそんな彼女を微笑ましく見守っていた。
一夜が明け、ルームサービスで運ばれた食事を取る四人。
因みにアラヤが別室で寝ようとするのを、玲霞と何故かジャックは是が非でも阻んだ。
外見的にもジャックはアラヤの妹の様で、ジャンヌは彼の姉に見え。
玲霞に至っては、その何処か憂いを帯びた雰囲気から訳ありの年若い母親の様に見えていた事から、ホテルの従業員が動揺することはあっても不思議に思うことはなかった。
実際は女子高生ほどの年頃の娘を侍らせる六十を超えるいい歳のショタジジイと、その孫同然の義理の娘にその娘を母と慕う幼子というカオスなのだが。
「────加えて助手がマスターになってしまったのも大きい。今は僕が魔力供給を肩代わりしているけれど、玲霞は魔術師じゃあないんだ。僕が魔力供給を肩代わりしなかった場合、ジャック。君はどうしていたんだ?」
「人から貰うんだよ。心臓を抉り取って、食べるの」
「…………………………成程」
鎧を解いたルーラーが、ベッドの上で頭を押さえる。
ルーラー的にも、完全にアウトだった。
属性が混沌・悪のジャックは悪人である方がより魔力の吸収効率が高いため良いのだが、そんなことは気休めにもならない。
生命力を搾取する魂喰い処か、物理的に補食している。
そして、心臓を補食され生きている人間などそうは居ない。
何よりも肝要なのは、そんな行為を平然と行うであろう彼女が聖杯に何を願うのか。
否。仮にどんな願いだとしても、ソレ以前の問題が存在する。
「僕はルーラーのマスターとなった。つまり基本中立の立場に立ってしまったんだ。だから君が聖杯を求める場合、僕は君に魔力を供給することが立場上出来無くなるんだよ」
「え?」
それに加えて難題なのが、そうなった場合ジャックは魂喰いを行う以外に現界の道はなく。
しかしそれをすれば、調停役でもあるルーラーの処罰対象になってしまうのだ。
完全に詰みである。
「……どうしよう?」
道に迷った子供の様に、ジャックはマスターである玲霞の腕に縋り付いた。
そんな彼女を抱き締める玲霞は、ジャックの髪を撫でながらアラヤに向き直る。
「どうにかなりませんか?」
「二つ選択肢はある。一つは、何処かの魔術師とジャックが再契約することだ」
「!」
そうなれば彼女は魂喰いなどする必要なく、聖杯大戦に参加することが出来る。
しかしそんな選択をするならば、ジャックは豹馬の処分を止めていた筈だ。
だが、その処分を最も積極的に行ったのは他ならぬ彼女である。
何よりも玲霞をマスターとして定めるジャックにとって、別のマスターなどあり得ない。
当然そんなことは、一晩彼女と過ごした三人も良く解っている。
「二つ目は、聖杯を諦めることだ」
ルーラー陣営の庇護を受けるということは、聖杯を求めない中立の立場に立つ必要がある。
加えて調停役の役割を持つ以上、その陣営に所属するには聖杯を諦める必要があるのだ。
それは、聖杯大戦からの棄権を意味している。
「ねぇジャック、貴女の願いは何?」
「おかあさん……」
サーヴァントは英霊にとってしばしば第二の生と表現されることがあるが、彼女はそれに該当しない。
透明のようで、幾つもの瞳の彩飾が混ざり合った様なドロドロのジャックの眼は、一つの願望を口にした。
「わたしたちはね、おかあさんのところにかえりたいの」
「母親の元に?」
ルーラーの復唱に、しかしジャックは首を横に降る。
「おかあさんの、
「胎内、回帰────」
ジャンヌが目の前のサーヴァントの正体を悟り、戦慄するように呟く。
それは、当時19世紀の余りにも拙い堕胎手術によって、文字通りゴミのように捨てられ産まれること無く死んでしまった赤子達の集合体であるジャックにとって、唯一求める安らぎの場所だった。
否。そこしか知らない彼女は、ソコを求める以外に何も知らないのだろう。
「………………」
「マスター、これは……」
しかし、ルーラー陣営の二人の顔色は悪い。
それは彼女の願いの、その無意味さを理解しているからに他ならない。
「こういうことは言いたくないんだが……。ジャック、恐らく君の願いは聖杯でも──聖杯だからこそ叶わない」
「え────」
彼女の正体が『名前も与えられることなく命を摘み取られていった、数万以上の見捨てられた子供たちの怨念』が『切り裂きジャックの伝説』として取り込まれた故のサーヴァントであるならば、それは最早新しく生まれた存在である。
故に因果的にも生物学的にも彼女の母親は、存在しない。
存在しない母親の胎に還ることは、如何に万能の願望器と云えど不可能である。
「そんな……」
「だから、僕が呈示できるのは次善策でしかない」
「え?」
己の願望が叶わないのだと断言され、顔を俯かせるジャックは、アラヤの言葉に顔を上げる。
「ジャック、君は奇跡の様な存在だ。ジャック・ザ・リッパーが真に人類史のブラックボックスとするならば、君はきっとこの聖杯大戦で消滅すれば他の聖杯戦争に呼ばれることは無い。人と同じ、唯一の生だ。ソレを賭けるには、君とルーラーの能力の相性は最悪過ぎる」
ステータスはクラス的に言うに及ばず、何よりもジャックの宝具は呪いの類いだ。
しかしルーラー、オルレアンの聖女は呪いへの耐性が余りに高過ぎる。
仮に何等かの方法でルーラーの
「君が求めるのならば、僕は僕が生きる限り君への魔力供給を続けよう。何、魔力量には自信があってね。サーヴァントの一騎や二騎、魔術行使に支障はないさ」
「本当?」
「こんな嘘をつく必要は無いよ。ただし、それは君が聖杯を諦め、人道的に許されない悪を行わない場合だ」
「むむむ?」
悪いことを、と言われても属性が混沌・悪の世界一有名な殺人鬼は困惑するしかない。
「君は玲霞と一緒にいて楽しくなかったかい?」
「ううん、おかあさんと一緒にいるのは、楽しいし嬉しいよ。アラヤおにいちゃんと一緒だと、おかあさんも楽しそうだし嬉しそう。だからアラヤおにいちゃんと一緒にいるのは、わたしたちも楽しいし嬉しい。でも────」
「でも?」
「わからないから。わたしたちは何がダメで、何が正しいのかわからない。きっとみんなを傷付けちゃうこともあるよ?」
「なら、これから学んでいけばいい。君は真の意味で生まれたての子供だ。子供は教え、育てられるものだからね。その為に、君にとって役立たずな聖杯へ賭けるには余りにメリットがないだろう」
「……!」
アラヤが呈示したモノは、つまり未来である。
それはジャックがついぞ与えられなかったものであり、そんなものを呈示されれば彼女は手を伸ばさずには居られない。
「…………」
暖かい食事と優しい『おかあさん』に、色々な事を教えてくれる『きれいなおにいちゃん』。
そして厳しくも優しい『せいじょさま』。
今の彼女に、不満はなかった。
そしてジャックは子供だとしても、決して愚かでも無ければ頭が悪いわけでもない。
彼女はキチンと理解していた。
ソレ以外に、選択肢など無いことを。
故に解答は決まっている。
「わかった。聖杯は、あきらめる。だって、わたしたちは此処に居たいから」
「────決まりだ。僕はルーラーのマスターとして、君とそのマスターを庇護しよう」
「無論、ルーラーのサーヴァントである私もです」
黒のアサシンの、聖杯大戦の棄権。
それに伴いルーラー陣営への加入が決定した瞬間だった。
◆
「────なんて、良くもまぁ話が纏まったものだ」
「見事でしたよ? それに、黒のアサシンにあれ以外の選択肢が本当に有りませんでしたから」
地上より遥か高空。
ルーマニア首都ブカレスト行きの旅客機の中で、ルーラー陣営のメンバーは其々空の旅を楽しんでいた。
特にジャックのはしゃぎ様は周囲の客が微笑ましく目尻を下げさせる程だ。
無論、それを迷惑に思う客も確実に存在するだろうから、そんなジャックを見事宥めている玲霞の手腕は本当の母親の様だった。
「態々私達の席まで用意して貰わなくても……霊体化すれば、不要な出費だった筈」
「それぐらいの甲斐性はあるさ。金銭面で君が心配する必要は無い程度には持っているからね。それに────」
そんなジャックと比例するように萎縮するように肩身を縮めているルーラーの視線は、しかし上空を飛行する旅客機から一望できる地上と海の風景に釘付けだった。
「君達に見て欲しかったんだ、この空からの光景を。いやはや、楽しそうで良かった」
「……ありがとうございます」
おおよそ西暦以降の英雄が見たこともない景色。
人が地に増え、海を渡り、空を裂いた事で得た光景。
それは人の英雄が心動されるには、十分な物なのだった。
尤もこの光景を見る前に、ジャックがアラヤの事を「お父さん」と呼び出して一悶着あったのだが。
「僕としては呼ばれ慣れてるから、あまり抵抗は無いけれどね」
「衆目を考えてください……」
玲霞を母と呼び慕うジャックがアラヤを父と呼び慕えば、ルーラーというよりも周囲の人間が真っ先に眼をひん剥いたのだ。
外見が中学生程度のアラヤと、二十代前半の玲霞の関係を下世話に邪推するのも無理はない。
更にソレに懐かしさでも感じたのかアラヤが玲霞を娘と呼び、ソレに悪乗りした玲霞が父と呼びながら抱き着き出したのだから混乱は加速し、ルーラーが三人を引っ張りその場を後にしなければどうなっていたことか。
そんな空の眺めに眼を輝かせているジャックと、隣で微笑む玲霞。
二人の背後の席に、ルーラーとアラヤはルーマニアでの方針を纏めていた。
「ルーマニアに着いたら、一度彼女達と別れるのでしたね」
「あぁ。玲霞達は聖杯大戦から既に降り、
彼女達には聖堂教会の監督役の元へ向かい、それを赤側に認識してもらわねばならない。
何せ今回の監督役は赤のマスターを兼任している。
そんな監督役には、聖杯戦争を棄権したマスターを保護する役割も義務付けられている。
聖杯大戦という最大規模の聖杯戦争の被害を最小にしたい聖堂教会にとって、ユグドミレニア側の陣営からの棄権組の発生は監督役としても赤のマスターとしても歓迎するものであるのだから。
「それまでに、赤のサーヴァントに襲われる可能性も考えましたが……」
「昼間に向かえばいい。聖杯戦争の基本原則である神秘の隠匿を、他ならぬ魔術協会のマスターが損なうだろうか?」
加えて、そもそも玲霞は魔力を持たない一般人。
アサシンの気配遮断で身を隠してもらえば、令呪さえ隠せば例えジャックを感知できるほどのサーヴァントが赤の陣営に居たとしても、襲われることはありはしない。
「私達は黒の陣営に事の次第を説明、ですね」
「まぁ色々言われるだろうけど、自分達の陣営のマスターの制御ぐらいして欲しい物だよ」
魔術師の理不尽の犠牲になるのは、常に一般人である。
それが自分の身内ならば尚更。
魔術協会はそろそろ本格的に神秘の隠匿を根本から見詰め直すべきだろう。
ソーシャルネットワークの普及により、唯でさえ難度は格段に上がるのだから。
「そして同時に、大聖杯の不備の確認ですか」
「そりゃシステム側がバグってる可能性も無いわけでは無いからね。その場合も想定しないと」
「大聖杯に問題が無かった場合は……」
「面倒な事になるね」
冬木の地脈に繋がっていた大聖杯を無理矢理強奪し、ルーマニアという別の土地で聖杯戦争を起こした際に何等かの不具合が生じたのかも知れない────など、その程度の異常なら全く問題ない。
しかし、ユグドミレニア側が大聖杯をこそ象徴として魔術協会に対して宣戦布告をしたのだ。
その要の大聖杯に異常など、あり得ないだろう。
ならばルーラーが召喚された理由は、参加者にあると考えられる。
「その場合、マスターとサーヴァント一人一人と会って動機と、聖杯戦争の枠を超える宝具の所持。及び使用する可能性の有無の確認をしていかないといけませんから」
「その場合、サーヴァントよりマスターの方が余程可能性があるから、気を付けないと。前にエライ事になりかけたから」
最悪な事例としてあるマスターが過去の亜種聖杯戦争を利用し、とある『大蜘蛛』を目覚めさせようと画策した事もあった。
目論見こそ失敗したが、もし成功していれば現行人類は滅んでいただろう。
それをこそを防ぐことが、ルーラーの役割なのだ。
故に、ルーラーには其々の規準ではあるものの公平性を求められる。
ルーラーの適性者が、聖杯に対する願望を持ち得ない聖人なのはコレが理由だ。
だからこそ、そんなルーラーを従えるマスターのイレギュラーさが浮き彫りになる。
「……本当に、貴方には何と謝罪を言えば良いか……」
「君だって似たようなモノだろう? というか、この話は何度もした筈だよ」
「しかし……」
「君、本当に頑固だねぇ」
世界で最も有名な聖女、オルレアンの乙女。
そんな彼女のめんどくさい、しかし人間らしい一面をアラヤは苦笑しながら堪能していた。