ライスのお兄さまがトレセン学園で働くお話   作:お兄さま第0号

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前情報

お兄さまこと真志場御幸の経歴 その1

 御幸は数年前から世界中を飛び回ってボランティア活動に従事していた。その際に家事のスキルを身に付けた他、ボランティアを通じて知り合った色々な人達から色々な物を貰ったり技術を身に付けていたりする。長距離の徒歩による移動もお手の物とか……



お兄さまの学園巡り その2

 たづなと御幸が次に向かったのは体育館と講堂を出て真っ直ぐ進んだ先にあるエリア。

手前に広さが体育館並のダンススタジオ、左奥には学園内のベテラントレーナー達が設立したウマ娘のチームが使用する部室、ダンススタジオから更に奥へ進むと三階建ての図書館、図書館の脇には屋外プールと、その隣にはこじんまりとしたプレハブ小屋が間に建っていた。

御幸はそのプレハブ小屋に見覚えがあった。就職案内のページに載っていた写真の用務員室だ。

 

「あそこが俺の?」

 

「はいっ用務員室兼住居になります。前任者の方が定年で退職されたので今は使われていませんが、電気ガス水道は通っていますし、予め掃除はしてあるので中は綺麗ですよ」

 

「おぉ……ありがとう御座います」

 

 実は御幸、ちゃんとした一人暮らしはこれが初である。

今まで世界中を飛び回る中で色んな国の人間とルームシェア、窮屈な車内泊、一部屋で多人数での雑魚寝、テントを張っての野宿等は経験してきたが、身の回りの全てを自分でやるのは初だ。

気を利かせた彼女が「少し中を見ていかれますか?」と聞いて、彼は勢いよく首を縦に振る。

 

「中には一般に普及している固定電話とは別で学園内で使用する内線があります。こちらの内線は充電して頂いて、仕事の最中は常に持ち歩いて頂く事になります」

 

 トレセン学園は広大だ。そこで働く人ひとりを探して呼ぶなら電話で呼び出すのが手っ取り早いだろう。個人所有の携帯電話等の番号を用いないのはプライバシー保護の為だとかなんとか……

そんな説明をしてたづなは「あっ」と自分のスマホを取り出して言った。

 

「万が一に内線が使えなかった場合や何かあった時用の連絡手段として、マシバさんの携帯に私の番号を登録しておいて貰えますか?」

 

「分かりました。ついでに俺のも渡しておきますね」

 

 御幸はそう言って懐からスマートフォンを取り出した。

そこで初めてたづなは彼の使っているスマートフォンが普通のと少し違うのに気づく。

彼が手にしたスマートフォンはデザインこそ最新のモデルだが一回り大きい。

 

「マシバさんのスマートフォン、メーカーはどの会社のものなんですか?」

 

「これですか?これは一般で販売されてるの最新モデルの基礎部分だけ中に使って、外側のフレームとかは海外で親しくなった友人に防水性能とか衝撃に強い絶版になったハイエンドモデルの奴を特別に合わせて作ってもらった特注品なんですよ。自作PCならぬ自作スマホみたいな物です。……故障したら友人に修理を頼むか、自分で直さなきゃいけないから大変なんですけどね」

 

「……それはまた……凄い友人をお持ちなんですね」

 

「日本に着いてから連絡したら、某国のスパコンと張り合える性能のスパコン自作するぞぉぉぉ!とか叫んで俺に秋葉原で部品買って送ってくれって言ってましたし………面白い人ですよ」

 

「…………本当に、凄い友人ですね」

 

 しかし御幸が中をパッとたづなに見せると、画面やアプリは一般のそれを変わらない。

彼は世界中を飛び回るボランティアで一体どんな経験をしたというのか。

今はまだその僅かな部分しか見せていないのだった……

 

 

 御幸がこれから生活を送る用務員小屋は見た目に反して豪勢な代物だった。

占有面積30㎡の1LDKの前任者が残してくれた洗濯機や冷蔵庫は比較的新品で、奥の三畳の和室には学園側で用意してくれた新品の布団と枕がセットされている。

その他にもIHコンロ、クローゼットにしまわれた炬燵と扇風機、テレビ等の備えもいい。

 

「……これ本当に俺が使っちゃっていい部屋なんですかね……」

 

 都会で働く社会人が数年かけて溜めたお金で暮らし始める高級マンション並の住居。

高卒で海外を飛び回っていた程度の大した経歴もない御幸が使うのを躊躇うのは当然だった。

彼の不安そうな顔を見てたづなは微笑んで「当然ですよ」と答える。

 

 玄関脇の靴箱の上にあるのが件の固定電話と充電器に繋がれた内線だった。

一般家庭にはありそうな白い固定電話に対して内線は子機のみ。

平成の初めくらいに流行った携帯電話のような見た目で上に番号が振られている。

後の壁には内線のものと思われる連絡先の名前と番号が記された紙が貼ってあった。

01は理事長室、用務員室は11となっている。

 

「仕事が始まってから学園の各施設の戸締り確認等も行っていただく事になりますので、後日マシバさんにはマスターキーをお渡ししますが……こちらは基本的に肌身離さず持ち歩いて、誰にも渡したりしないようにして下さい」

 

「分かりました。戸締りをするにあたって学園内の各施設警備システムの操作盤は何処に?」

 

「それでしたら全体の制御盤が校舎裏の警備員室にありますので、後でご案内しますね」

 

「お願いします」

 

 そんなこんなで用務員室を後にした二人は最初に図書館の方へと向かった。

暫く歩いていると、遠くで授業中にも関わらず図書館の周りをうろつく生徒のウマ娘がいた。

たづなと御幸は目を合わせ、御幸はその場で足を止めてたづなが生徒に駆け寄る。

図書館の前にいたのは葦毛のウマ娘”ゴールドシップ”だった。

 

「ゴールドシップさん何をやってるんですか?今は授業中ですよ」

 

「たづなさん!!いやそれがさぁ聞いてくれよ~。どっかのウマの骨がアタシのゴルシちゃん号を勝手に乗り回したみたいでさぁ!ホームルームでちょーっと目を離した隙にいなくなっちまったんだよ。こりゃもう許せねえ動物裁判だ…!ってなわけでタイヤ痕を辿って此処まで来たって訳」

 

「はぁ……それは授業を抜け出す理由になってないと思いますが!」

 

「そりゃないだろぉ!この学園に来てからアタシがずうっと我が子のように愛情を注いだゴルシちゃん号が攫われたんだぜー!たづなさんも子を想う親の気持ちってのは分かるだろー!?」

 

「いえ……そう申されましてもですね……」

 

 このゴールドシップというウマ娘、トレセン学園でも一、二を争う奇行種で知られている。

ある日突然セグウェイに「ゴルシちゃん号」と名前をつけて移動に用いたり、トレーニングと称してコースの端で詰め将棋をやっていたりとおかしな話題が絶えないウマ娘なのだ。

たづなが頭を抱えていると、ゴールドシップの興味は彼女の後ろで見守っていた御幸に向いた。

 

「おっ!?なんだお前見かけねー奴だな………さてはお前がゴルシちゃん号を盗んだのか!?」

 

「ご、ゴールドシップさん失礼ですよ!この人は新しく来た用務員のマシバさんです」

 

「真志場御幸だ。そのゴルシちゃん号とやらに俺は心当たりがないな」

 

「なぁにぃ~?新しい用務員だぁ~?」

 

 突然スカートの両脇に手を突っ込んで猫背のがに股で御幸へと詰め寄るゴールドシップ。

さながらチンピラが因縁をつけた相手に喧嘩を売るような体勢である。

たづなは止めようとするが、御幸は気にすることなく寧ろ自分を怖がらない彼女に驚いていた。

 

「……ジイィィィィッ……!」

 

「……それ態々声に出す必要あるか?」

 

「ふーむ……成程、お前からゴルシちゃん号の匂いはしねぇ……無実(シロ)だ!」

 

「そりゃありがたい、疑いが晴れたようで何よりだ」

 

「今からそこの用務員室で茶ァ貰って話してぇところだが、今はゴルシちゃん号の安否を確認しなきゃなんねえ。日を改めて話しに来てやる!高級茶葉と高級茶菓子を用意して待ってろ!」

 

「おう、暇な時はいつでも遊びに来てくれ」

 

「うっしゃ言質取ったからなぁ!忘れんじゃねえぞーーー!」

 

 言うや否やゴールドシップは明後日の方向へと駆けていく。

御幸は「やっぱウマ娘はえーなぁ」と彼女の背を目で追っていた。

眉間に手を当てて苦労した様子のたづなが言葉を付け足す。

 

「ゴールドシップさんはあれが通常運転なんです。あまり深く考えたらダメですよ」

 

 そう言って再び図書館へと向かうたづなに続く御幸。

このトレセン学園のウマ娘には今のところ二種類のタイプが存在する。

御幸を怖がる者とそうでない者。

彼はそれをこの学園巡りの後に嫌というほど思い知る事となる。

 




ゴールドシップ……皆大好きウマ娘界のムードメーカー
         ある界隈ではMTRブームの元凶とも言われているらしい
         唯一の追い込み育成で作者チームの主戦力です
         今作ではスピカの古参ウマ娘として活動しており
         実はライスが一着を取ったレースに何度か出場している
         御幸に対する評価「厳つい顔した用務員のおっちゃん」
         

お兄さまの住み込みのお家がめっちゃ豪華シルバニアファミリーな件。
小さい頃のライスはシルバニアファミリーで遊んでそう(存在しない記憶)

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