さよなかの猫   作:織々々

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02 継承の賢女

「マクウェル・クラークス……たしか、グラナ領主のご子息ですよね。論文もいくつか拝読しておりますが、すばらしい学者だと思いますわ。お会いできるのなら、ぜひ」

 

 アンサラーがミスティにマクウェルのことを伝えると快諾され、さっそく会食の場をもうけることとなった。レストランの個室を貸し切り、最高価格のランチコースを予約する。

 戦争でインフレーションが起きてから、アンサラーはなるべく使用人を多く雇ったり、高価な贈り物をしたりして経済を回すようにつとめていた。いくら王政が物価の上昇を抑えようとしても、戦争が終わらない限り民衆の不安は消えず、リスクが上がれば物流のコストは上がる。

 それが進めばあらゆる業種で客離れが起き、社会全体で質素倹約の度が過ぎれば経済は回らなくなり、腐り落ちてしまえば再建は容易ではない。資産を得た者には、経済を回す義務がある。

 施術士として錬金術士として長年働き手にした資産。結婚せず子も成さなかったアンサラーには残す必要もない。独り身では使いきれぬほどあり余っているため、地方に学校や病院を建てるなり、未来のために投資しようと計画しているのだが、戦争どころか星の船というイレギュラー要素が出てきたために話は保留になっている。

 今でもアリアスへの医療物資の寄付などは随時行っているが、日常では知人を招いて高単価の食事をふるまうようにしている。二人の若き錬金術士のためにもうけたこの席は、その一環でもある。

 

「実は私が錬金術士を志したのは、彼女の著書がきっかけでして」

 

 ホストのアンサラーよりも早々にレストランに到着していたマクウェルの語る言葉は、まるで自説を述べるときのように熱がこもっていた。

 

「ほう、そうだったのか」

「学生向けに書かれた入門書のような本だったのですが……幼い頃その本に出会い、私の求める世界があると感じました。この世のすべてには秩序があり、その謎を解き明かし操るのが錬金術士だと……」

 

 常の通り無表情ながら、声音が喜びに満ちている。無愛想で無口な朴念仁、という評価をされがちでありたしかにその通りであるが、ある程度親しい者にとっては、わかりやすいことこの上ない純朴な青年でもある。

 学生時代も、研究員時代も、そして今も、ストイックに学問に打ち込む彼がこの道に目覚めた幼い頃の転機。彼だからこそミスティ・リーアを紹介しよう、と思わせたのは彼自身の積み重ねの賜物だ。

 

「いつかひとかどの成果を出してから、貴女のおかげだと直接伝えるのが夢でした。私が国に帰れなくなったので、彼女が寿命を迎えるまでにお会いできるか不安だったのですが……こんな機会をいただいて本当に、ありがとうございます」

「──ああ、」

 

 マクウェルがひとつ大きな思い違いをしていることにアンサラーは気付いたが、黙っておくことにした。

 

「そういうことだったのか。ワシもその場に立ち会えて光栄じゃよ」

 

 こんなにも感動的な、とても良い話をしている青年にたいして、意地が悪いかもしれないが。それはそれこれはこれ。と考えているところで、扉がノックされる。

 

「失礼いたします。お客様がいらっしゃいました」

「通してくれ」

 

 来賓をむかえるためにアンサラーが席から立ちあがり、マクウェルも同時にならう。ウェイターが個室の扉をひらくと、濃紺のベールを纏った女性がアンサラーの従僕にエスコートされながら、しずしずと部屋へ入ってくる。

 

「ごきげんよう、老。本日はお招きいただきありがとうございます」

 

 一礼のあと、艶のある声がきれいに通る。横目にマクウェルを見ると、眉根を寄せて疑問符を浮かべているのがわかり、アンサラーは笑いを噛み殺した。

 

「よく来てくれた。さっそくだが、こちらがマクウェル・クラークス。新進気鋭の錬金術士じゃ」

「はじめまして、クラークス卿。ミスティ・リーアと申します」

 

 あやしげな艶のある声とほほえみ。ベールからのぞく白い肌はみずみずしく。若くうつくしい女性のかんばせを、青年は動揺のままにまじまじと見続ける。

 

「クラークス卿?」

 

 言葉をなくしたマクウェルに、何かを察したミスティが口角をあげて首をかしげる。

 

「……貴女が、ミスティ・リーア?」

 

 無表情が崩れ、目を見開き、いかにも驚きました! という顔をしている朴念仁を、アンサラーもミスティも小さく笑いをこぼしながら楽しむ。

 

「ええ、さようでございますわ。いかがされましたか?」

「いえ、あの……驚きました。アンサラー老とあまりお年は変わらない……はず……です、よね?」

「……、うふふ、ふふふふふ」

 

 マクウェルが錬金術士を志すきっかけとなったミスティ・リーアの著書。それは30年は前に発行されたものである。そして“ミスティ・リーア”がマクウェルも所属する学会に論文を出し始めたのは、アンサラーよりも早い。

 事情を知らない者が誤解するのも無理はない。熱心に学ぶ者ほど、“ミスティ・リーア”がアンサラーよりも長く活動していることを知っている。

 

「……まさか、私よりお若……い……? いえ、あの、大変失礼ですが実年齢は……」

 

 長年の思い込みを覆されたマクウェルは混乱のまま、普段なら決してたずねないようなことを口走る。

 目を疑うほどにいつまでも若く、不老不死の霊薬を完成させたのではないか、という噂はマクウェルも当然知っていた。しかしそれでも実年齢はアンサラーより年上の、若々しく見える老淑女なのだろうと想像していた。

 実際目にしたミスティ・リーアはあきらかに若く、マクウェルとたいして変わらない歳であるように見える。厚化粧でごまかしているなどということもなく、上品な化粧がほどこされた顔にも、大胆に開いたデコルテやバストにも、加齢のたるみやシミは見当たらない。特に豊かなバストは文句のつけようがないハリが──と思い至ったところで、デリケートな部分を凝視してしまったことに気付き、慌てて目をそらす。

 濃いめのルージュをのせたミスティの唇が、楽しそうに弧をえがく。はたから観ているアンサラーには、経験豊富な女性が、目のやり場に困る格好で純朴な若者をからかって遊んでいるようにしか見えなかった。

 

「質問に質問で返してごめんなさいね。あなたはおいくつでいらっしゃるの?」

「26になりました」

「うふふ、ふふふふ、お上手ね」

「……まさか不老不死の霊薬を……」

 

 医療薬や美容品も扱うというミスティ・リーアなら、無責任な噂だと思っていた話もありえなくはないのでは、とマクウェルが口をひらくと、そろそろ頃合いかとアンサラーが口をはさむ。

 

「ミスティ殿。若者をからかうものではありませんぞ」

「老、そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないでくださいませ」

 

 老だって楽しんでたくせに。と目線だけで語りあう。

 

「私、アンサラー老よりずっとずっと若輩よ。けど、あなたよりはお姉さんよ」

「……承知いたしました」

 

 腑に落ちない、といった様子の青年を前に。いったいいつぶりに笑っただろうかと、ミスティは胸をそっとおさえた。

 

 

 

「大変失礼いたしました。ミスティが継承される名だと知らず……」

 

 食前酒の果実酒を前に、マクウェルが頭を下げる。無表情なわりに、雰囲気や声音で思い込みを恥じているのが丸わかりなこの青年をミスティは気に入ったようで、艷やかな笑みを返した。

 

「いいのよ。私はミスティだから」

 

 純朴な青年が長年憧れた神秘的な錬金術士が、品良くグラスをかたむける。指先や視線の動きのひとつひとつ、何気ない仕草のすべてがたおやかで、不思議と目を惹く。

 

「貴方が読んでくれた本も論文も数えきれないレシピも、歴代のミスティの知識はすべて当代のミスティが継いでいる。貴方の人生を変えたのは私ではないけれど、ミスティであるのなら、私のことよ。それが名前を継承するということだから。老婆がいきなり若返ってたら、驚くのも無理ないわ」

 

 マクウェルにとっては、若返っていたどころの話ではないのだが。

 一目見て、美しいひとだと思った。

 濃紺のベールからのぞく肌はあまりに白く、青緑の瞳は夜空をとかしたように深く。神秘的な空気を発しているから美しく感じるのか、美しいから神秘的に感じるのか。

 妙に色っぽい美しさがあると思えば、非常に大胆な格好をしていることにすぐに気付いてしまった。濃紺のワンピースは前身頃が胸の下までひらいており、存在感のある立体的な、やわらかそうなふくらみのあわいを、惜しげもなく見せている。濃紺の衣服と白い肌のコントラストで余計に際立ち、目についてしまう。

 目のやり場に困るのが正直なところで、意識的に視線を顔にうつすと、あでやかな瞳に吸いこまれ。思わずずらすと、芳醇なワインのような紅をのせた、つややかな唇が微笑をたたえている。八方塞がりだ。

 男を誘惑する魔性を持ちながら、ゆるぎない品がある。妖艶な微笑をたやさぬ彼女のふるまいに、あえてそういう格好をしているのだと理解した。何故なのかはまったくわからないが。

 しかし彼女がミスティ・リーアだと知れば、決して崩れぬ品にも納得がいく。総合学問である錬金術に造詣が深いのならば、その教養ははかりしれない。どんなになまめかしい姿をしても、たしかな知性が品位を保つ。

 

「だから、ありがとう。貴方のようなひとがこの世界に来てくれて、嬉しいわ」

 

 まさか、幼少期に人生の転機を与え、長年憧れてきた錬金術士が。こんなにも美しいひとだなんて。

 動揺するくらい、当然だろう。

 

「こちらこそ……こんなにも奥深く果てのない世界を教えていただき……ありがとうございました」

 

 だが、ミスティはマクウェルよりもはるかに研鑽を積んだ錬金術士であり、彼にとっては昔から憧れていた偉大な先達のひとりである。

 いくらあでやかで美しいひとでも、彼女へ色欲をわずかでも向けるのは失礼だと考えたマクウェルは、己を律するよう意識的に努めた。

 思わせぶりな言動に左右されるほど、色事に耐性がないわけでもない。ましてそのなまめかしさは、自分ひとりに向けられているわけではなく、万人にふりまかれているのだ。変な期待を抱く理由はひとつも無い。

 と己に言い聞かせていることすら、楽しげにほほえむミスティには見抜かれている気がして、マクウェルはごまかすように果実酒を飲み干した。

 

 

 

 味の凝縮された小ぶりな貝を使ったクリームフランと蒸し野菜の前菜、散らされた香草以外具のない海鮮出汁の透き通ったスープ。最初はぎこちなさのあった空気も、食事を進めるほど解きほぐれていく。

 メニューはシーハーツ自慢の新鮮な魚介類と野菜をふんだんに使いつつ、生食に慣れていないだろうミスティに配慮された構成になっている。アーリグリフ人が二人いるとあって、味付けはやや濃いめに、スパイスも強めに効かせている。

 

「施術学校に入るまでは、ずっとカルサアに通っていらっしゃったの?」

 

 メインの白身魚のソテーを味わいながらミスティが聞きかじっていた情報をたずねると、マクウェルはカトラリーを持つ手を止め、ミスティの目をまっすぐ見つめてうなずいた。

 

「はい。数学や自然哲学の基礎はそちらで。施術を学ぶため早々に留学したかったのですが、推薦状を書いてもらう必要もありましたし、基礎教養まではカルサアで学べ、と父から言われまして」

「地元の人脈を育むのも大事なことだからな」

 

 自然哲学、数学、施術、神学、天文学、占星術。錬金術の門戸を叩くには最低でもこれらの素養が必要であり、更に錬成を行う際の技術や手先の器用さが求められる。非常に高度な総合学問である。

 そのなかで施術だけはシーハーツの施術学校しか体系的に学べるところが無いため、アーリグリフ出身の者が錬金術を学ぶとなると、シランドへ留学するか、知識と技術のある個人に師事を得るしかない。

 

「私はぜんぶ身内に教えてもらったから、すこしうらやましいわ。いろんな環境で勉強して、楽しそうね」

「そうなんですか。貴女達の知識は、すべて徒弟制で?」

「ええ。バールの村には学校もないし、なにもかも親や親戚に教えてもらったわ」

「私にとっては、その環境がうらやましいです。ミスティ・リーアを生み出した教育環境……何物にも変えられない財産ではありませんか」

「そうね。まわりの大人たちは質問すれば答えにたどり着くよう導いてくれるひとばかりだったし、実験や錬成に使う材料はほとんど自分たちで育てたり、少し足を伸ばせば手に入ったし、本や論文も山ほどあったし……いい環境だったわ」

「親からといえば、私も基礎教養のほとんどは母から学びました」

「お母様が……とても、ご聡明な方だったのね」

「ええ。アーリグリフで母ほどの学がある女性はめずらしいですからね。カルサアではそれをからかわれたりもしたのですが……」

「そうなるわよね」

「正直理解できませんでした。教養の有無は男女差ではなく、環境と本人の意欲次第でしょうし。それを思えば、私は環境に恵まれていた。貴女の本も、母がすすめてくれたんです」

「……あなた、本当に……すばらしいご両親に育てられたのね」

「ありがとうございます」

 

 両親を褒められたマクウェルは素直に礼を返すが、真剣なまなざしと切実な口調に、ミスティの様子がすこし込み入ったように見え、逡巡する。その様子を見てアンサラーが場の空気を引き受けるように口をひらいた。

 

「……何故ミスティ・リーアが名を継ぐようになったのか、数代前のミスティに聴いたことがある」

 

 数十年前の記憶を昨日のことのように思い出す。宵闇いろのベールを纏った、夜空をとかしたような青緑の瞳と銀色の豊かな髪を持つ若く美しい錬金術士が、濃い紅をのせたくちびるで、秘めた情熱をあかした時のことを。

 

「『アーリグリフでは女は男という主人に添えられる花でしかない。万物の始源(アルケー)を問うのに男も女もあるものかと貫くのならば、無意識下の社会観念を打ち破る力が必要だ。そのための力を、継承によって蓄えていく為に我等は名を継ぎ、そして託す』……と」

 

 アーリグリフが男系社会であるのは風土由来のものである。土地が痩せており雪が積もるゆえに力仕事が必要となるため、男は外で働き、女は暖かくした家のなかで子を育て糸を紡ぎ内職と家政をとりしきる、性差による役割分担がはっきりしている。

 その習慣が形骸化した側面が、女性が高度な専門職や知識労働の場に出てくることを歓迎されない風潮にある。

 家の中で家事をして子供を育てる女が男の領分に口を出すな、女ならばたいした教育も受けていないだろう、受けているとしても優秀かどうかはこちらが決める、と。それは貴族階級であっても例外ではなく、貴族の女は幅広い教養を求められはするが、高い技量を身につけると疎まれる。男の領分を侵すほどの実力は不要なのだ。

 

「アーリグリフの学会に出ると、よく言われるわ。ミスティ殿は相変わらず若くて美しい、これだけの女傑を娶ったご主人様は大変そうですね、って。それ、錬金術に関係あるのかしらっていつも思うけれど。彼らにとって私は錬金術士ではなく、女なのよ」

 

 女は男と結婚し、外で仕事などせずに家の中で守られることこそ幸福なのだ、と無邪気に信じきっている男が大多数であり、そうした価値観によって社会ができあがっている。それは厳しい風土を生き抜くにあたって一理ある。家政は片手間でできるような生易しいものではない。体質からしても、性による役割分担は合理的だ。だが、

 

「面白いわよね。アーリグリフの一部の学会では、同じ内容の論文を、女の名前で発表すると取りつく島もないのに、男の名前で発表すると絶賛されるのよ。ここ数年でようやく、ミスティ・リーアの名前で出しさえすれば、まともに扱われるようになったけれど」

 

 形骸化が進めばいずれ視野の狭さ、価値観の貧しさへと繋がり、女性の可能性の芽を余すことなく摘む。これまで咲くことのできなかった未来がどれだけあっただろう。

 運よく我らは見目の良い血統らしい。添えものとしての役割とはいえ、結局は女を必要とするのが男系社会。そのなかでは美貌も色気も武器になる。身も心も磨き飾る、これこそ武装。そうでもしなければ、論文一つまともに扱われはしない。

 女の名で発表した学説を偏見なく平等に扱われる社会が来るまで、我らミスティが先駆となろう。

 

「求められるままに花として生きるのなら、それが心地よい生き方であれば、アーリグリフは暮らしやすい国だと思いますわ。そうではない者にとっては……向かい風が、絶えない」

 

 社会に無意識にはびこるジェンダーロールを逆に利用して、ミスティ・リーアというブランドを世代を超えて築き上げる。若く美しい女であることと神秘性を武器にするため、当代の死によってではなく、素養によって早々に知識と名前を継承させてゆく。

 その積み重ねで、“ミスティ・リーア”は錬金術士としてゆらがぬ地位を築いていった。

 さすがに人の寿命を超えてゆけばそのからくりも広く知れ渡るだろう。だがその頃には頑迷な社会観念の荒波に、波紋を広げることはできていると信じて。歴代のミスティ達は、一石を投じ続けてきたのだ。

 

「……私は本当に、恵まれてきたんですね」

 

 完全に食事の手を止めていたマクウェルが、手を組んで目を閉じ、追憶にふける。

 

「生まれも、環境も、制度も、風潮も……私にとってはほとんどすべてが追い風でしたが、貴女達は……逆境のなかであれほどの成果を……社会が認めざるを得ないほどの成果を出して……」

 

 このひとときで、今まで知的探究心のままに読んできた論文の、書籍の、重みが変わった。その背景に流れる、憎しみすら抱くほどの情熱を、切実な想いを。そして共に心の中にあるのだろう、この世の真理へのどうしようもない好奇心を。

 

「……貴女達に、心の底から敬意を表します」

 

 同じ志を抱きながらも境遇はまるで違う、幾人ものミスティに。

 

「ありがとう」

 

 どこか泣きそうな顔で精一杯笑う。この錬金術士に会えたことに、マクウェルは改めて感謝した。

 

 

 

「ところで、シランドへはどれくらい滞在する予定なのですか?」

 

 フルーツジュレのデザートを食べ終えたころ、マクウェルがタイミングをはかっていた件を口に出す。

 

「査証の期限が六ヶ月ほどですので、少なくとも二、三ヶ月は」

 

 食後のフレーバーティを味わいながらミスティが答える。国境からシランドまで、馬車を最速で乗り継いでも七日はかかった。トラブルやハプニングを想定して余裕を持ったスケジュールを取るため、主に用があるシランドとペターニでの滞在はそれぞれ二ヶ月を目安にし、あとは調整用の予備日にしようと考えている。シランドでは文献を、ペターニでは錬金の材料を収集する予定である。

 

「では都合の良いときに、私の工房にお越しくださいませんか。どうしても貴女にご覧いただきたいものがあるんです」

「まぁ、なにかしら。いつでもいいわよ、それこそ明日でも。あなたの都合のいいときに」

「承知いたしました。準備できましたら、ホテルまで連絡をいれます」

 

 すっかり打ち解けた様子のふたりを微笑ましく見守っていたアンサラーが、マクウェルの言葉の意味に気付き、息を飲んだ。

 

「マクウェル。それは……ミスティに知らせて良いものなのか」

 

 彼の言う「ひとかどの成果」。その内容に思い至ったためである。

 

「あら、祖国に知られたらまずいことなのかしら」

「今の所は公にはできないことですね」

「私があなたの秘密を知ってもいいのかしら?」

 

 あでやかな笑みを作り、様子をうかがう。この青年は、目の前の女が国に戻ったら密告するかもしれない、とは考えないのだろうか。するつもりはまったくないが、軽率ではないだろうか──と思考をめぐらしたことが恥ずかしくなるくらい。

 

「貴女だから、知ってほしいんです」

 

 マクウェルはまっすぐミスティを見据え、迷いなく言い切る。

 

「錬金術士は秘め事が得意でしょうから、心配もしていませんよ」

 

 

 

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