名門メジロ家とトレーナーのマックイーンをめぐる騒動記   作:響恭也

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やりすぎたか?
だが後悔はしていない。


強襲のマックイーン

 邸宅の門扉は派手に歪んで人が通れるくらいの隙間が空いていた。真ん中に両足がそろった形で凹みがあり、そこから放射状にゆがみができている。

 

「ほえー、さすがだなあ」

 ゴールドシップはその惨事の跡を見てニヤリと笑みを浮かべていた。

「うんうん、ふごいよね」

 人参をかじりながらテイオーがのんきにのたまう。

 本来この門の前にはガードが立っているはずだった。格闘術を修めた屈強のウマ娘が最低でも二人。

 

「メジロ流格闘術の後継者だからなあ」

 え、なにそれ?

「レースで鍛え上げた脚力はすでに凶器だよね」

 え!? So what!?

「名門メジロ家だからな。ほれ、誘拐とかありうるじゃん」

 ゴールドシップ、略してゴルシがシレっととんでもないことを言う。

「マックイーン、レースのトレーニング終った後、よく庭でシャドーしてたよね」

 初耳ですが。

「ま、それもあんたとの時間を確保したいがためてやつだろ? この果報もーーーん」

 バシッとゴルシに背中を叩かれ前につんのめる。

「だよねー。免許皆伝をもらえたら、あのボディガードが付けなくて済むようになるって言ってたしねー。メジロ隠密隊だっけ?」

「あー、ちなみにだが、隠密隊の前でマックイーンに不埒なことをしてたら……」

 ゴルシは俺の肩にポンっと手を置いて首をゆっくりと横に振った。

 え? 俺どうなっちゃうの? テイオーはにっこりといつものお日様のような笑顔を浮かべながら、サムズアップした手を真横に動かした。いわゆる首を掻っ切るっていうしぐさだ。

 

「あれだよねー。いっそ誘拐されちゃえばいいのにねー。そんで、打ちひしがれるトレーナーをボクが慰めて……え、いやーん。焦っちゃだめだよお」

 何やら尻尾をパタパタさせてクネクネしはじめるテイオーの後頭部に目白と墨痕鮮やかに描かれた扇子を叩き込む。ちなみにマックイーンからもらったもので、骨は鉄製だ。

 ゴギンとなにか来てはいけないような音を立てて、テイオーの首が真横にかしぐ。

「おう、トレーナー。いいツッコミだな!」

 などと和やかな会話をしながらマックイーンがこじ開けた門扉の隙間から敷地内に入った。

 

「うわー、いつ来ても何考えてんだかわかんねー広さだな」

「普通にスプリントレースができるよね」

 侵入者を迎撃するスペースと言うことだろうか。まさかな?

 

 以前訪れたときは、このあたりで爺やさんが現れ、ウマ娘が引く人力車……バ車? に乗って本邸の前まで移動した。今回はどうしようもないのでてくてくと歩いている。

 

 そしてしばらく進むと……前方からビシバシッと何やら肉弾合い打つ音が聞こえてきた。

 

「ここを通しなさい!」

「お嬢様と言えどもノンアポで当主様にお会いすることはできません!」

「ならば問答無用! てやーーーーーー!」

「くっ! メジロ隠密隊のみなさーーーーーーん!」

 いつぞや訪問した時、門の前で出迎えてくれたガードのウマ娘がマックイーンの放った蹴りを避けつつ応援を呼ぶ。

 周囲から現れたメイド服を着たウマ娘たちがわずかな時間差をつけてマックイーンに襲い掛かる。

「お嬢様、失礼いたします」

 ドガガガガガガガガっと機関銃を乱射するかのような音があたりに響き、隠密隊の皆さんが吹き飛ばされる。

 

「うーん、何つーかあれだけ派手に蹴りを繰り出してもスカートの中身が見えねーのはあれか、お嬢マジックかね?」

「いっぺんいたずらでめくろうとしたらその先の記憶がないんだよ……」

 何やらハイライトの消えた目でテイオーが震えだす。

 予備の人参を口に捻じ込んで気つけを行うと、すぐに復帰した。

 

「はあああああああああああああああああああああ!!!」

 流れる様な旋風脚で集まってきたガードをなぎ倒す姿は、女神のように美しかった。

 

「女神ィ!? アレ修羅だよな?」

「ねえトレーナー。あんな野蛮なウマ娘は見捨ててボクに乗り換えない?」

 聞こえていたかは定かじゃないんだが、マックイーンに蹴り飛ばされたガードの警棒がゴルシとテイオーの眉間を直撃する。

 

「「ぬおおおおおおおおおおお!?」」

 そろって女子が上げてはいけないような悲鳴を上げてしゃがみ込む。

 

 くるっと振り返ったマックイーンと目が合う。両手で頬を押さえ、「まあ!」と言いたげな表情を浮かべた。

 

「トレーナーさん! わたくしを追いかけてきてくださいましたのね!」

「あたりまえだろう! 君がいなきゃ俺は!」

 マックイーンから捨てられたトレーナーと言う肩書でトレセン学園で生きていくのは無理だろうなあ。などと益体もないことを考える。

 

「うふ、うふふふふふ! おーーーーーーっほっほほほほほほほほほほほほほほ!!」

 マックイーンは艶やかな笑みを浮かべて舞い踊る。ターンを一つ決めるたびにウマ娘たちがはじけ飛んでいく。

 

「えー、アレが艶やか? トレーナー、ウマっ気で目が曇ってねえか?」

「笑みって言うか哄笑だよねあれ。なんかファンタジーの魔王がやってそうなの」

 ツッコミを入れた途端、再び警棒が飛来する。

「させるか!」

 同時に避けたと思ったら……ゴンッと鈍い音が聞こえた。

 互いにヘッドバッドを決めて地面でのたうち回るテイオーとゴルシ。

 

「ほっほっほ。お嬢様。おいたはいけませんなあ」

「おどきなさい!」

 いつの間にか現れた爺やさんがマックイーンと渡り合う。っていうかあの人は人間だよな。

「うらららららららららーー!」

 もはや残像が見える勢いで繰り出されるマックイーンの蹴りを難なくさばいていく。

 

「っちゃー、さすがのマックイーンも爺やさん相手だと分が悪いかあ」

「どういうことだ?」

「要するにマックイーンの格闘術は爺やさんから教わったわけだな、うん」

「なんだと!?」

「ちなみに、アタシがレース後のパフォーマンスでやってるドロップキックはマックイーン直伝なんだぜ」

 ドヤ顔で幾多のカメラを破壊してきた武勇伝を披露するゴルシ。

「ほう」

「素人が真似すると骨折するから気を付けろよ?」

「しねーよ!」

 と言うあたりで気づいた。テイオーが絡んできてない。背後から冷水を浴びせられたような気配がして振り向くと……。

 

「おやおや、久しいねえ。マックイーンのトレーナーさんや」

 にこやかな笑みを浮かべた老婦人、メジロの当主が俺の肩に手を乗せていた。

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