名門メジロ家とトレーナーのマックイーンをめぐる騒動記 作:響恭也
がっちりとつかまれた手からは、俺の骨なんか簡単に砕いsてしまいそうな力が伝わってくる。
「トレーナーさん!」
その状況を見てマックイーンは動きを止めた。
「騒がせすぎだよ、バカ娘。ま、来るって思ってたけどねえ」
あきれたような口調で俺の肩から手を放す。そして付いてこいとばかりにひらりと手を振る。
マックイーンは無言で俺の手を握ると、当主の跡に付き従って歩き出した。
「で、何用かい?」
メジロ家当主の執務室。
来客用のソファーセットで俺とマックイーンはメジロ家当主、家運を開いたと言われる伝説のウマ娘であるメジロアサマと向き合っていた。
唐突な来訪にもかかわらず面会に応じてくれたのは
「これです!」
全力で先ほど配布されていた号外を叩きつける。バーンとすごい音がするがテーブルはびくともしていない。
ウマ娘向け強化素材で作られているらしい。
「ふん、何が不満だい? あんたはメジロを継がなきゃいけない。メジロの血をね」
表情を変えずにメジロアサマは言い放つ。
「だからと言ってこれはあんまりですわ!」
「なにがだい? あんたはこれまで何不自由しない生活をして来た。それは誰のおかげだい!」
「それは……」
「言いにくいようなら代わりに言ってあげるよ。名門メジロ家のおかげさ。だからあんたはメジロを守る義務がある。そういうことだよ」
「だからと言ってこんなだまし討ちはひどすぎますわ!」
「じゃあ、事前に打診してたらあんたは受け入れるのかい? そんなわけはないね。駆け落ちでもたくらむに決まってるさ」
さすが血がつながった祖母だ。マックイーンのことをよくわかっている。
さらに、そのことを指摘してきたということは……逃げ道はもう何らかの形でふさいでいるのだろう。
「くっ……」
図星を疲れたマックイーンが黙り込む」
「「それでも」」
異口同音に放った言葉、その意味は正反対だろう。
「なんだい? 言ってみな。可愛い孫娘の頼みだ聞けることならなんだってかなえてやるさ。結婚相手以外はね」
「トレーナーさんの何がいけないのですか!」
「全部だ」
「はっ!?」
「あんたがあんだけ迫ってるのに、このヘタレ男は一切手出しをしない。これは男として不能なんじゃないのかい? え?」
「それは……」
唐突にこっちに向いた矛先にうろたえる。彼女の気持ちを受け入れた「つもり」だったことを指摘された。
俺の煮え切らない態度を非難されるのはわからんでもない。
「ふん、このときはあたしははらわたが煮えくり返ったよ!」
ピッとリモコンを操作すると天井から大型のスクリーンがぶら下がっておりてきた。
「トレーナーさん……」
画面に映るマックイーンは目を閉じて俺の方に顔を向けている。
そして画面の中で彼女と向き合っているのは俺だ。っていうか何この隠し撮り?
俺は彼女の肩に手を置き、徐々に顔が近づいていく。
「はわわわわわわわ!」
マックイーンは顔を真っ赤にしているが、目は画面にくぎ付けだ。
この後の結末も当事者だから知っているはずなのだが……。
チュッと音がして画面の中の俺は彼女のおでこに口づけた。
「はふう……」
何やら満足げなマックイーンの声が隣と画面の中からほぼ同時に聞こえてくる。
「くおのヘタレがあ!!」
どこからともなく現れたゴルシが俺の後頭部にハリセンを炸裂させた。
「ぶべらっ!」
ゴルシのツッコミに、周囲にいた人間すべてがうんうんと頷いている。
いや、例外がいた。
「よかったあ……トレーナーはまだマックイーンに汚染されてなかったんだね」
目を潤ませながらテーブルの下から這い出してきたテイオーが俺の膝の上によじ登ってくる。何このホラー。
「ふふふ、やっぱりボクのことが気になってマックイーンとは出来なかったんだね。わかるよ。だから、ボクが上書きしてア・ゲ・ふぎゃあ!」
徐々に迫ってきていたテイオーの頭頂部にマックイーンがゴルシから分捕ったハリセンが叩きつけられた。
「と言うかだね。あんたに聞きたいんだが……」
「は、はひっ!」
メジロアサマのガチギレ気味の声に返答の声が上ずる。
「あんたね、うちの孫のどこが不満なんだい? どこに出しても恥ずかしくないくらいかわいいのにヘタレな寸止めかまされてマックイーンに失礼だろ! あたしはね、ひ孫の結婚式を見るのが夢なんだよ!」
実現しそうで怖い。と言うか、ひ孫と言う単語にマックイーンの頭からぷしゅーっと湯気が上がる。
その様子を見てゴルシが「だめだこりゃ」と昭和の偉大なコメディアンのようなセリフを漏らした。
「とにもかくにもね、もう見てられないんだよ! あんたにこのまま任せてたらこの子は嫁ぎ遅れちまいかねん」
「うん、だからアタシが号外をばらまいたんだな。ちなみに、真っ先にテイオーの部屋に投函した」
「号外の監修はあたしだよ」
ゴルシはメジロの遠縁にあたるとか聞いたことがある。マックイーンとも仲がいい。しかし当主とここまでツーカーとはさすがに知らなかった。
「どういうことですの!」
マックイーンがゴルシにつかみかかる。目を吊り上げ、口はへの字になっていてまるで否かのヤンキーがガンつけしているような顔だ。
クッソ可愛いな。
「で、だ。あんたはマックイーンをどうするつもりだったんだい?」
肚は決まっている。視界の隅ではマックイーンがゴルシの関節をキメつつ、こちらに期待がこもった眼差しを向けてきていた。
「そんなの決まってるよ! トレーナーはマックイーンじゃなくてボクnぶめぎゃ!」
割り込んできたテイオーはメジロアサマからえぐい角度の左フックを受けて撃沈した。
「俺は……これからもマックイーンと共に歩いていきたいと思っています」
パアアアアアアとマックイーンの表情が輝く。
その下でゴルシが苦悶の表情を浮かべて床をタップしている。
「遅いわタワケ!」
俺の決意表明は、一言で切って捨てられた。