名門メジロ家とトレーナーのマックイーンをめぐる騒動記   作:響恭也

4 / 7
条件

「どういうことですか!」

 マックイーンの顔からは、怒りがにじんでいる。綺麗に関節を極められたゴルシはビクンビクンと痙攣していた。

 俺はマックイーンに歩み寄るとそっとその手を取る。すかさず物陰から駆け寄ったメジロパーマーがゴルシを回収した。

 大逃げの第一人者にふさわしいスタートダッシュだった。

 

「ふん、そんなことはマックイーン、あんたが一番わかってるだろう? 三回だよ?」

 三回と言う言葉に若干の心当たりがあった。

 

「天皇賞春で、ライスシャワーに負けたとき」

 メジロアサマは親指を折りたたんだ。

「そ、それは……」

 

「天皇賞秋、この子は焦ってやらかしたとき」

 さらに人差し指が折りたたまれる。

 ゴール前の競り合いで、背後からの追い上げに焦ったマックイーンは、とある大ポカをやらかした。

 そう、何を血迷ったかヘッドスライディングをかましたのだ。

 最初は入着を認められたが、審判団の判定によって反則負けとの裁定が下ったとき、マックイーンにはしばらく、スタジアム観戦を禁止するペナルティが実家より課せられ、それに反抗して俺の寮の部屋に立てこもったことがあった。

 

「そして、有馬記念。油断したとは言わないよ。それでも負けは負けだね」

 あのレースはダイユウサクの大駆けにやられた。それでもこれまでのタイムを大幅に更新するレコードを樹立した彼女に、真っ先に拍手を送ったのはマックイーン自身だ。

 

「彼女の負けが許せないと?」

「違う。勝ち負けはレースの常だからね。全部のレースを勝つなんて土台無理なことさね。あたしの言いたいことはだね……」

 メジロアサマの顔が怒りにゆがんで行く。

 再び彼女はリモコンを操作した。

 

「こうまでされてもマックイーンにうまぴょい(隠語)できないこいつのヘタレっぷりにさ!」

 

 バスタオル一枚で俺に抱き着くマックイーンの姿にメイドさんたちが色めき立つ。

「女にここまでされてそれで手を出さないとかあんた(ぴー)ついてんのかい! さっきも言ったけどね! うちの孫のどこが不満なんだい! こんなきれいに育ってさらにレースでもあれだけの結果を残したんだよ。この子で不満ならあれかい?  シンボリルドルフでも連れて来いって言うのかい?」

「いや、ですから、俺はマックイーンだけです」

「ならなんでうまぴょい(隠語)しないんだ!」

「彼女を大事にしているからです」

「そんなきれいごとは聞きたくないね。手を出さないから大意地にしてるってのはあんたの言い草さ。この子の気持ちはどうなんだい? 女としてね、どれだけの屈辱だと思っているんだ!」

 周囲のメイドさん含め、メジロライアン、パーマーの二人もいつの間にか現れてうんうんと頷いている。

 

「おばあ様、それでもわたくしは」

「あんたが良くても、メジロが良くないんだよ。あんたを三度までソデにしたんだよ? わかってるのかい!」

「それでも、わたくしを受け入れてくださいました。この方以外とうまぴょい(隠語)するなんてできません!」

「わがままもいい加減にしな! あんたはメジロの結晶だ。その力を次世代に残す義務があるんだよ!」

「勝手なこと言わないでくださいまし!」

「勝手なこと言ってるのはあんただよ!」

 

 鼻先がくっつきそうな勢いでにらみ合う二人にだれも割り込めずにいた。

 

「そこまで!」

 いつの間にか二人の間に割り込んでいたのは、マックイーンに似た雰囲気を漂わせる男装のウマ娘だった。

 

「お母さま!」「ティターン!」

 

「母上、そもそも駆け落ちをやらかしたのはどなたでしたっけ?」

「ぐぬ!?」

「遠征先で父上に強引に迫って、しかもその時にわたしができたと自慢気に語ってくださったのはどなたでしたかねえ?」

 ティターンのセリフに撃沈し、目を白黒させるアサマ。

 

「お母さま!」

 マックイーンは目を輝かせて母親であるメジロティターンを見る。

「マックイーン、母上の言うことももっともだ。あなたが彼と添い遂げるならば、もう一つ実績を重ねなさい」

 

「なんだってやってやりますわ!」

「その言葉、二言はないね?」

「もちろんですわ!」

「なら、ゴールドカップを獲ってきなさい」

 

 ゴールドカップ。そこで沈んでいるウマ娘のことではなく、アスコットゴールドカップと言うことだろう。

 

 ヨーロッパの歴史あるレースの一つで、芝19ハロン210ヤード、おおよそ4000メートルで行われる、ヨーロッパ最強ステイヤーを決めると言っても過言ではないレースだ。

 

「それって……新婚旅行はイギリスと言うことですわね!」

 マックイーンの色ボケ思考に、ビシッと決めていたティターンがずるべしゃあッとコケる。

 

「あ、あえて伝えておきます。トレーナーの同行は認めますが、サポートメンバーとしてドーベルとライアンも同行させます。もちろん宿泊先の部屋は別ですからね」

 

「お母さま! それでは!」

「覚悟を決めたのは良いことです。というか、すでに既成事実があったなら認めていたんですけどね」

 いや普通逆だろ。

「わたくしがふがいないばかりに……」

「マックイーン、勝ち取りなさい。ヨーロッパで確固たる実績があれば、誰にも口出しはさせません。あなたにそれだけの力を付けさせたトレーナーならば、ね」

「はい、やってやりますわ!」

 

 えーっと、俺の意見はどこ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。