転生は好きな『物語』でした 二世代目   作:二世代目シャトス

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神代由香の疑問

「ホープ…メビタル?」

 

はて、神代さんはいったい何を唱えているのか、私には皆目見当もつかないですね。ヘビメタはそこまで聞きませんので、このお話は終わりということで。

 

「そ。さっき資料室で真司誠也のパソコンに書いてあったの。赤い女の、生前の時に好意を寄せていた人の名前。…やっぱり試してみるものね。予想以上の反応だった」

 

「確かに自分捨てられましたけど、あれって逃げ帰ってるような感じでしたか?」

 

雑でこそあったが、解放されたのでこれ以上求めることはない。反応からしても、別に名前を嫌がってるような感じでもないし、結構落ち着いていた印象だ。そこがまた不気味である。

 

「そんなのは知らないけど…んー、分からなくなってきちゃった。とりあえず、チャッカマンは歯を食いしばってね」

 

そう言って、拳を振り上げる神代さん。怪異に連れまわされているときでも、俺は懐中電灯を手放さずにずっと持っていた。もし脱出できたとしても、ほぼほぼ何も見えない子の状況で進軍なんて、怪異からしたら赤子同然。帰りの算段はついてなかったが、神代さんのおかげで帰ることが出来る。まじで命の恩人。

 

でも、こうして危険な状況を招いたのは、うかつにもすきを見せとろとろと行動した自分。彼女の怒りは、おそらくものすごいものだろう。怒髪天は既に超えてらっしゃいますね。

 

普通に痛い平手打ちが頭に振り下ろされた。

 

「いっつ!?」

 

「本当はこれだけじゃ足りないよ?…でもまぁ、引道の気持ちも分からないわけでもないからさ、これでチャラにしたげる」

 

「…え?」

 

「と、とりあえず!ここから早く離れるわよ。また赤い女が戻ってきたら、今度こそ太刀打ちなんかできないんだから」

 

まぁ、それはそうだ。神代さんが投げたナイフがまだあるとして、これで勝てるかと言ったらまず無理。体力は無尽蔵にあるし、軽い自己再生能力を兼ね備えているかもしれない。捕まれば、あの馬鹿げた筋力でハンバーグにされてしまう。

 

しかし、思った以上に姫野さんたちから離されてしまった。掲示板も、案内表も見当たらないので、どこに向かえばいいかなんて分からない。

普通、中庭がある病院だが、怪異の影響で今は外が真っ暗だ。なのに月の光が差し込んでいるかよと思った君。これも怪異のせいだよ。ウン、オレウソツカナイ。

 

怪異の便利さに、少々腹立たしく思うが、帰ることが今は大事。木から降りられなくなる猫とは違うということを見せつけてやる。まずその相手がいないんだけどね、ハハ!?

 

「引道、早く戻るよ」

 

少しイライラとした感じで前を歩きです神代さん。突っ込むべきか迷ったが、古来から受け継がれてきたDNAには逆らえなかった。

 

隙を見せたあなたにツッコミたい!!

 

「もしかしてさっき、俺に優しくしたことが恥ずかしくて話切り上げたんですか?可愛いですね…おーけー落ち着こうか。神代さん含めた皆からのお怒りは、泣くほど後で受けますので、今は勘弁してもらいたくて―――」

 

「ん“っ!!」

 

「げぼばぁ!!」

 

神代さんの振り向きざまに見せた、残像ともいえるほどの速さで繰り出されたマッハパンチ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

うん、知ってた。こうなることなんて、前からあったもんね。でもいいんだ。なぜそんなにも満足げな顔をしているのかって?だってさ…真剣に恥ずかしく思ってる女の顔って、見ててそそるだろ?

 

「ふん!」

 

急に女の子らしくなった神代さん。引道君のこと嫌いですよアピールを漂わせているが、離れていかないところが、俺の好感度を上げるのです。もう、このまま神代ルートに突入しようかな?ハーレム築いてムハハな生活送ってもいいよね?

 

とりあえず、このまま時間を潰すのはマズいのでいい加減立ち上がる。佐藤さんのもう半分も厄介そうで、ゴリラナースと白髪デカがいるとはいえ、安心はできない。まぁ、まずは自分たちの身を第一に守らなくてはならないのだが。

 

待ってくれていた神代さんの隣まで行くと、懐中電灯を前に向け、一緒に歩きだした。

 

「いい?勘違いしないでよね。別にあんたのこと気にもなってないんだから」

 

「ツンデレごちそうさまです」

 

「死ね」

 

可愛い声なのに低い声で罵倒された。まじ凹む。

 

 

 

 

 

 

 

ドライアイスの煙が漂っているライブ会場のような感覚を持ったまま、俺たちは歩いた。化け物におんぶに抱っこされた俺はまだいいとしても、助けるため奔走した神代さんは、体力の限界を迎えようとしている。

 

当たりは少し肌寒く、それでいて臭い。これまで生きている人とは一向に合わず、探せども死体のみ。こんなこと言うのはどうかとは思うが、死体を見るのにもそろそろ慣れてきた。神代さんもそれは同じで、興味が湧けば漁るほど。いや何してんの…。

でも、どうしても臭いだけは慣れないままでいる。

 

「…」

 

神代さんはもう喋らない。極力無駄な会話はしないで、体力を温存しときたいのだろう。けど、歩いてるだけで息が少し荒くなってきているのを、見過ごすわけにはいかなかった。

 

「神代さん、少し休みませんか」

 

「は?なんでよ」

 

「俺もう疲れて歩けないんです。何気に、もう昨日からほとんど寝れていませんから」

 

「ふーん……なら、仕方ないわね」

 

正直な話、体力的にはまだ余裕がある俺だが、この世界に来てから睡眠というものを取ったのは、警察署の時だけなのだ。人間、寝なくても活動できるというやつはいるが、俺は無理なほうで、落ちる瞼を必死に上げているのだった。

 

神代さんも疲れが溜まってきているのか、それ以上は何も言わない。

 

俺たちはどこにあるのかも分からない入院室で、休憩をとることにした。早く合流すべきなんだけど、今の状態で行動するのは危険だ。幸いにも、この病室には死体もないためゆっくりと休むことが出来る。

 

病室には軽い刺激臭が漂っている。ベッドに温もりはなく、人が前からいないことを証明して見せていた。家族とはぐれて心細い幼児のように、俺たちは今孤立している。睡魔は現在進行で俺たちを抱きしめている。

 

神代さんには先に休んでもらう。別に性欲に飢えているわけではないので、襲ったりなどは考えていない。というか睡眠欲のほうがすごいので、近くの棚から少し刺激臭のする瓶を取り出し嗅ぐことにした。おかげで意識がはっきりとする。

 

ベットに包まった神代さんは、天井を見上げたまま零すように話し始めた。

 

「…なんであんたはここにいるの?」

 

「姫野さんを堕とすためですよ。彼女にしたいですからね」

 

「今は眠いから、あとで干す」

 

弱弱しい声から急に覇気が出された。元気があるようで安心したよ。男は弱っている女性に漬け込むのうまいから、それだけの気迫があるなら急にヤツが現れても動けるだろう。

 

「……私ってさ、結構可愛いと思うんだよね」

 

「敵つくる発言怖いです。そんで、どうしたんですか?」

 

「いや、その……襲ったら殺すから」

 

「レイプは好きじゃないので安心してください」

 

「あそ。おやすみ」

 

それだけ聞いて安心したのか、神代さんは背中を向けて静かに寝息を出し始めた。というか、襲いはほんとにしないよ?だって寝取られやレイプの恐ろしさを知ってるもん。エロサイトであれを見かけたときに、見てしまう自分がほんとに嫌いだ。出てくるヒロインが堕ちる姿を見せられて悲しいのに、頭角を表す息子も嫌いだ。

 

「俺は何を考えているんだ」

 

刺激臭で煩悩を無理やり振り払う。これ以上考えるとゲシュタルト崩壊を起こしてしまう。

一息ついてから、壁に耳を当てて音を確認する。

 

…静かだな。

 

化け物の足音はおろか、姫野さんたちの声すら聞こえない。プロバスターズの集まりだ、今頃は俺たちを探してくれていると信じたい。

小学生の悲しい思い出が、俺を蝕んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…おはよう」

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

「言っても15分だけだけどね。でも結構楽になったかも」

 

「それは良かったです。ではすみません、自分もそろそろ限界なので寝させてもらいます。何かあったらたたき起こしてください。それではおやすみなさい」

 

引道は眠たそうに、けれど我慢してますよと言わんばかりの目で彼方を見つめ、ベットに倒れ込む。…って、ちょっ!?

 

「ちょ…そこは私が寝ていた場所…」

 

しかし私が言っても引道からの反応はない。少し間をおいてみたが、どうやら寝てしまったようである。よほど疲れていたのか、彼に少し同情してしまった。でもこの前、寝るのが早いほど危険だという動画を見た気がするし、大丈夫なのか…。

 

「って、あたしが心配することじゃないでしょ」

 

床に立ててある懐中電灯を机に置き、引道の隣にイスをおいて座る。別に深い意味はない。少し興味が湧いただけだ。

 

引道と初めて会ったのは、ひとりかくれんぼを終わらせた瞬間の時だ。体が軽くなったのを感じた私は、蘇えってくる痛みを我慢しながら美琴のもとへ向かった。なんで和室にいるとわかったのかは分からない。運命とか、必然とか、そんなものよりも恐ろしい何かが関わっているのだろうと察している。

 

引道は初めて会った私を知っているかのような口ぶりだった。そして美琴から聞いた話だが、氷室さんも言っていた今回の事件『怪異症候群』は美琴を中心に起こっているもので、なぜかそこに引道が深く関わっているとのこと。

 

「引道新聖。あんたはいったい誰なの。どうしてここに、私たちの前に現れたの」

 

冗談でひとりかくれんぼを始めた私は、オカルトなんて類を全く信じていなかった。でも、異常事態の今ならわかる。怪異が存在することも。…そして、あんたの不審さも。

 

だが彼は私たちと敵対するわけでもない。味方として、仲間として、彼は何度も美琴を助けてきた。その間にプロポーズじみたことを幾度と繰り返してきたらしいが、死線を潜り抜けてきた美琴は、満更でもなさそうな顔をしていた。

 

いっそ敵になってくれた方が楽だった。

 

「でも今は、助からないとね…」

 

引道にはまだ悟られていないと思うが、人形にやられた時の傷が開き始めてきていた。正直痛い。持っていたナイフで他の布団を切って、服の下に巻き付ける。

 

「…よし、できた」

 

簡単なものであるが、止血をすることに成功。あとはこのまま待機を続けるだけ。

 

私は再び引道の隣に行き、彼を観察するかのように見守る。そんな自分を恥ずかしく思いながらも、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

それからしばらくして、銃声が鳴り響いた。

 

銃を持っているのは、私の知る中で氷室さんしかいない。少し離れたところから響いて聞こえてきたので、位置も何となく知ることが出来た。

 

流石に音が銃声だったため引道も飛び跳ねて起きたが、何が起きたのかまでは理解してなさそうな顔をしている。不覚にも笑ってしまった。

 

「か、神代さん、今の銃声音って…」

 

「早く行きましょ!位置がおよそ検討もついたんだから、移動される前に!」

 

「そ、そうですよね!」

 

私たちは勢いよく病室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたっ!!氷室さん!!」

 

手元から激しく揺れる光を何度も氷室さんに当てながら、何とか合流することが出来た。氷室さんも加賀さんも、驚きながらこちらに駆け寄ってきてくれた。

 

「か、神代君!それに引道君も!無事で安心したぞ!」

 

「はい!ご心配おかけして、本当にすみませんでした!」

 

「いや、俺っちたちこそ助けに行けなくてすまねぇ」

 

加賀さんが申し訳なさそうに頭を下げるが、これは私...もとい引道が招いたことなのだ。加賀さんが頭を下げることではない。

引道も流石にそれは理解しているのか、下げられた頭を上げてくださいと懇願している。

 

美琴にも迷惑を掛けてしまったので、謝らなくてはならない。

だけど、彼女の姿は見当たらない。それどころか、人数がすごく減っていることに私たちはやっと気づいた。

 

「あれ…氷室さん、姫野さんたちはどこに…」

 

「か、彼女たちは、その…」

 

小野さんが答えづらそうに横を見ている。

 

 

あぁ、嫌だ。それ以上先は言わないで。

そんな思いが頭を支配する。

 

私たちは黙って横を見続ける小野さんが何を言いたいのか、察している。だから嫌なのだ。

 

そして口火を切ったのが、剛力さんだった。

 

「幸か不幸か。姫野って奴ならそこにはいないぜ。そこにいるのは俺の元部下だ」

 

「えっ…?」

 

安堵から漏れた言葉か、それとも美琴がいないことに対してなのかハ分からない。が、今私たちの横にある死体は田中さんだということが分かった。

 

不謹慎なことは百も承知。だけどまだ希望があることを知った私は、弱弱しく膝から崩れ落ちるのだった。

 

引道が氷室さんに何が起きたのか尋ねる。

 

「それが、引道君が攫われたのを神代君が追いかけて行って、少ししてから急に追いかけて行ったんだ。だからてっきり一緒にいるものかと思っていたが…すまなかった」

 

「っ…!」

 

私はこれを招いた張本人である引道の胸倉を掴み引き寄せて怒鳴った」

 

「あなたが…お前がいたから、美琴は…くそぉ!!」

 

もう何が言いたいのかも分からない。涙で彼の顔も滲んで見える。だけど、彼は震えてもいなかった。壁に胸倉を掴んで押し付けた心臓からは、規則正しい音が手を伝って感じ取れる。

 

こいつは、美琴がこんなになっても落ち着いているのか。

 

「なんで…あなたはそんなに!」

 

これ以上は行き過ぎだと感じたのだろう。小野さんが私を止めにかかる。

 

「放してください!!私はこいつが、引道が許せないんです!!」

 

「いいえ、落ち着くべきはあなたよ神代さん。まだ姫野さんが死んだとは決まっていない。……そうでしょ、引道君」

 

「…は?」

 

引道はただ静かに氷室さんを見つめる。それが不気味で、私は力なく腕を垂らした。

氷室さんは何も言わない。だけど、その先を促すかのように見つめ返していた。

 

「…正直、姫野さんが生きているかどうかは分かりませんが、おそらく生きています」

 

「…は?」

 

素っ頓狂な声を出した自分に恥ずかしさなどない。ただ、彼に対する謎が更新されただけ。

出現場所も理由も、なぜ彼が怪異に関わっているかも分からない。おそらく氷室さんたちも知らないと思われる。

 

変態で、変人で、将来二股以上のことをしそうな自意識過剰痛い系廚二病男子の引道と同一人物なのかと思われるほどの、豹変ぶり。

半開きでもなく見下すようでもなく、見開いているわけでもない。ただ開いている瞳を揺らさずに私を見つめてくるその目を、私は知っていた。

 

 

 

赤い女。

 

 

今初めて、私は引道を人間ではナニかだと思った。

 

 

 




今回も読んでくださり、ありがとうございます!

二話続けて神代さん視点でしたがいかがでしたでしょうか。引道君のあほっぷりの披露の仕方がとても難しいですが、頑張ります!

最近は暑さが厳しくなってきているので、皆さんも体調にはお気をつけてください。

それではまた次回でお会いしましょう!ではでは~
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