転生は好きな『物語』でした 二世代目   作:二世代目シャトス

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お久しぶりです。大変遅くなりましたが完成しました。

どうぞ!


姫野美琴を奪還せよ

 

 

 

重々しい空気が、神代さん、氷室さん、加賀ちゃん、小野さん、そして剛力の間を漂っている。すぐ隣に転がっている田中さんであっただろう死体がそれを物語っていた。勿論それだけではない。

 

「引道君、いい加減教えてくれないか?姫野君たちがいる場所を」

 

氷室さんがそういうと、神代さんがキッとした目で睨んでくる。やめてくださいよ氷室さん。女の子からの嫌われている視線って結構来るんですよ?現在進行形で胸がチクチクするねぇ…。

 

「……詳しくは知らないですけど、おそらく死んでいないと思います」

 

「なんであんたなんかにそれが分かるのよ」

 

神代さんが怒りを込めた目を向けたまま低い声で諭す。そんなに目を開けているとドライアイになってしまいますよ神代さん。心なしか、端っこには少し涙らしきものが浮かんでいるようにも見える。

 

けどまぁ、ほんとのこと言っちゃうとほんとに何も分からないんだよね。だけど何となくわかる気がする。俺がこの世界に存在する理由ってのもあるが、それはいかんせん楽観的過ぎる。

少しの心配が少しずつ波を荒立たせていくかのように感じられた。

 

「けど、どこにいるかまでは分かりません。ですが、今のメンツならあの化け物にも勝てると思いますよ」

 

「だといいがな。生憎、この世界を牛耳っているのはあの怪異だ。そうやすやすとタマをくれてやるとは思えんが」

 

剛力が田中に手を合わせながらそんなことを言ってきた。殺されたばかりだからか、光が照らす彼の血はまだ綺麗な赤黒だ。臭いもまだそこまでない。

 

しっかし、やっぱ簡単にはいかんかぁ…。例えるなら、ここはヤツの領域内。呪術を扱う人間や妖怪が生み出す固有の結界みたいなものだ。なにそれ強すぎだろ。

 

「ん…俺も早く姫野さんの無事を確認したいですし、探しながら話しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、詩織ちゃんも化け物に連れていかれたんですか?」

 

先ほどから姿が全く見えない詩織ちゃんが心配になり、氷室さんに尋ねる。だが誰も彼女の名前を上げない当たり、十中八九殺されたのだろう。怪異とは言え、やはり女子供も見境なく殺すところには何度も恐怖してしまう。

 

だが俺が考えていたのとは違い、氷室さんは困った顔をしていた。

 

「いや、実は詩織ちゃん、いつの間にかいなくなっていたんだよね」

 

「え、ナンスかそれ…。ちゃんとお守してたんですよね?」

 

先ほどから妙に暗い雰囲気をしている剛力だが、ありゃ落ち込んでんな。詩織ちゃんてば、確か剛力の親玉の妹さんだって言ってたし、責任を感じてるんだろな。俺は知ったこっちゃないけど、剛力が親玉に何されようが言われようが…。

 

「けど、いなくなったって…おかしくないですか?」

 

「ああ、俺もそう思ったんだがな。そのすぐ後に田中の様子がおかしくなって、襲い掛かってきたんだ。佐藤の時ほどじゃないんだが…ああいうのが続くのはキツイ」

 

加賀ちゃんの顔もげんなりしているし、体力、精神面でも限界は近くまで来ている。俺と神代さんは休めていたからまだましだが。大人組は大変だな。

 

だけど、やっぱりおかしい。どうも詩織ちゃんと田中さんがやられるタイミングが良すぎる。日頃からラノベや小説ばっか読んでいる俺からすると、こりゃあり得るかもしれんと考えてしまう。

 

ホントに、本当に予想なのだが…詩織ちゃん、怪異とライン持ってる臭いぞ?そもそも一人で資料室まで来て俺たちと合流できたこと自体が怪しかったんだ。小野さんと一緒に逃げていた俺なら分かる。人一人も残さないように殺戮していた怪異を潜り抜けたとはあまり考えられない。

 

初めに俺が赤い女と遭遇したのは、小野さんと迷子?になっているときだ。あの時はまだ反撃してダメージを負わせることが出来たから逃げ切れた。

 

二度目は佐藤さんが殺された直後。小野さんが与えた傷口は閉じていたため、回復量がバカほど高いと見る。万全な状態の赤い女には、まず肉体面で敵わない。神代さんの機転が無ければ今頃俺はどうなっていただろうか…。

 

二度、赤い女と対峙したがやはり後者のほうが厄介極まりない。とてもだがそんな化け物に、小学生、しかも女の子が見つからず逃げ切るなんてことはありえないだろう。

 

仮に上手く俺たちと合流が出来たとしたら、それは単純に詩織ちゃんの生き抜く能力がずば抜けて高かっただけ。だがそんな子が、あっけなく姿を消すというのは、どうも腑に落ちない。それも、痕跡を一切残さずにだ。

 

「こりゃあり得るかもしれんな」

 

「もしかして詩織ちゃんのこと?」

 

「そうそう…っえ?」

 

考えすぎてつい漏れてしまったことは認めよう。けどそんなにもすぐに分かるものなのか?いつの間にか隣を歩いていた小野さんは、曇りのない綺麗な茶色の瞳で見つめてくる。

 

「なにを惚けた顔をしてるんですか。早くあなたの考えを話してみてください」

 

「え…それは別にいいですけど、文句とか聞きませんよ」

 

というか俺と小野さん以外一言も話していないし...。これ、もしかして皆から催促されてるよね。言ってくるのが美人の小野さんだったから良かったけど、これが剛力とかならきっとビビってヒヨッてたわ。

 

俺は先ほどまで考えていたことをすべて話した。

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ。確かに今考えてみればおかしいなぁ」

 

「加賀、お前は気づいてくれていると思っていたが…はぁ」

 

「おいごら氷室ぉ!?それはひでぇじゃねぇか!教えてくれてもよかったのによぉ」

 

加賀ちゃんがいじけてしまった。にしても何故だろう、加賀ちゃんってばやっぱいじられ体質なのか、このコントを見ても特に何も思わない自分がいる。

あまりいじって露骨に拗ねられても困るので、そこら辺のラインは超えないようにしてる氷室さんは、背中を預けてきた中と言えるだろう。かっこいいですね。

 

「ふーん。そんなとこまで気が回るなら、最初からそうしてよ」

 

「す、すいません」

 

これまで印象を下げることしかなかったため、神代さんのあたりがキツイ。いや、身から出た錆なんだけどさ…こうも嫌われると流石に泣きそうになります。いや、まんま俺が悪いんだけどね。

 

「ほんと、なんで美琴はこんなやつを気に入ったんだか…」

 

それは俺に対しての嫌味なのか、それとも恨めしさから漏れた独り言か。たまたま聞いてしまったそれを、聞き返すことはしなかった。

 

だってもう、来るべき場所についたんだから。

 

「引道君、ここに姫野君がいるのか?」

 

部屋の前に立ち止まった俺に小声で話す氷室さんだが、やはりイマイチぴんと来ていないのか、半信半疑のようだ。いやまぁ、そう思うのも仕方ないんだけどね。

 

だって俺たちは今から『手術室』に入るのだから。

 

「いや、テンプレ過ぎじゃねぇかぁ?俺っちは好きだけどよぉ」

 

「確かに、この部屋からはただならない気配を感じますが…あれ?」

 

扉に向かってガンを飛ばしている小野さんが何かに気づいたのか、困惑の色を浮かべていた。その中には薄っすらと焦りのようなものも含まれている。

 

別にここが特段冷えているわけではない。どちらかというと、これから怪異と対峙するのだから、緊張して体温が上がるのを感じる。

 

「小野さん、どうしたんですか?」

 

「……皆さん、構えてください」

 

反射が素晴らしいのか、それともこれまでの経験がそうさせているのか、大人組の動きは速かった。扉のそばで各自武器を構えて臨時体制をとっている。

初めは俺も分からなったよ。だって連れてきたのって、違う理由だったもん。でも気づきました。

赤く点灯しているそれは、『手術中』と書かれていた。

 

「手術でもしてるんですかね、中で」

 

「こんな異常事態中にするとは考えられにくい。もしそうならもっと多くの人の気配を感じるはずだ」

 

「ごもっともだなぁ」

 

戦っても足手まといになるので、俺は神代さんのそばに行って彼女を守ることに宣戦します。本人はめちゃ嫌がっている素振りを見せるが、足手まといなのは理解しているため拒んでは来ない。

 

「安心しました。神代さんてば姫野さんのこと好きすぎますから、このまま突撃するものかと」

 

「馬鹿にしてない?」

 

「皆さん、準備はいいですか?」

 

隣から発せられる怒りのオーラを断ち切り、戦士たちに突撃の合図を促す。

『なにお前が仕切ってんだ』とでも言ってそうな顔をしてはいますが、何も言わないところは大人ですね皆さん。

 

再度安全のためにあたりを見回すが、特に何もない。俺は頷いて手を振り下ろし―――

 

「突撃ぃぃぃ!!!!」

 

「あれーーー???」

 

その号令は俺がしたかったのに…。

 

銃声にも負けないほどのドでかい声量と勢いが、広い部屋の中に響き渡る。強く開かれたスライド式の扉は、開いた反動で少しだけ閉まっている。おかげで遅れて突撃した俺は情けなくも顔をぶつけてしまう。

 

「あぎゃ!」

 

だけど誰も俺に見向きもしない。いや、こんなとこ見られたくもないから助かったんだけどさ。

 

俺は痛む額を我が子のように撫でながら、冷え切った部屋の中心人物の元まで歩きだす。部屋の中は、ほんとに人を助ける場所であるのかと思うくらい、不気味な部屋だった。青緑の光って、ここ黒幕のアジトかよ...あ、本丸でした。

神代さんが横で怯えていても、氷室さんたちが一言も言葉を発せないにしても、俺はヤツの前まで歩いた。

 

怒りか、それとも怪異としてのオーラなのか。奴を中心として渦巻いている気持ち悪さが、この部屋全体を支配していた。

 

だけどそれだけでは俺は止まらない。超絶美少女が泣きながら助けを求めているんだ。足なんか止められるわけないだろ。

長い髪でヤツがどんな顔をしているのかは分からない。でもそれのおかげもあって、そこまでビビることはない。

 

 

「赤い女さん。姫野さんを返してください」

 

 

『いやだ』

 

「よっしゃこうなりゃ徹底抗戦だ!武力行使あるのみですしゅしゅしゅ!!」

 

俺の素晴らしい話術でも交渉決裂したので後は武力しかない。話の分かるやつかと思ったんだけど、そんなことはなかった。流石と言ったところか、怪異さnーーー

 

 

『少し大人しくしていろ』

 

 

「っ…ぶふ!?」

 

 

声が聞こえたときには、ヤツは既に目の前まで迫っていた。

一瞬にしてヤツとの距離が離れたのか、少しの浮遊感を感じた。やがて視界が遠のくのを感じた俺は、何が起きたのかすら理解することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引道君!」

 

「氷室、お前は一旦下がれ!」

 

入口扉の近くまで派手に吹っ飛んだ引道に駆け寄る氷室と小野。加賀と剛力は怪異の足止めを担っていた。

ぐったりとうなだれている引道は、まるで死んだようだった。急いで小野が打撃を受けた箇所を手当てし、状態を確認する。

 

幸いにも、命に別状はない。

 

「引道君なら大丈夫よ。気を失っているみたい。私はここで彼を介抱しているから、氷室さんは皆さんの加勢をお願いします」

 

「分かりました。では神代君と引道君を頼みます」

 

それだけを言い、氷室は急いで前線に加わる。先ほどまで立っていた引道の場所には、入れ替わるように赤い女がすんと佇んでいる。動きこそは今のところ見られないが、赤い女から吐き出されているオーラに、生物の本能が訴えかけてくるためか、加賀たちも動けないでいた。

 

しばらくして、先に切り出したのは怪異からだった。

 

『その男を引き渡せ。そしたら見逃してやる』

 

腹のそこから震えあがりそうな、空気を震わすほどの恐ろしい声。髪によって目が見えないでいるとは言え、それは気休めの効果にもならなかった。

 

「……」

 

『聞いているのか?できないのなら、今ここでお前らを殺す』

 

「…何が、目的だ。引道君を欲しがる理由はなんだ」

 

氷室はやっとの思いで答える。それほどまでに、怪異からの圧は重すぎるのだ。

初めこそは満身創痍であった神代も、今では夜に怯える子供のように大人しくなっていた。

 

『それはお前に話すことじゃない。用が済んだら借りてた女と一緒に返す』

 

赤い女の芯は揺らぐことはない。彼女からしてみれば、この会話すらもただの気まぐれに過ぎないからだ。

小野の時は一瞬の油断を突かれ痛手を負ったが、今は完全に軍配が彼女に傾いている。殺そうと思えばいつでも殺せるのだ。

 

苦しい顔を見せる氷室一同だが、口を開いたのは剛力だった。

 

「なぁ。引道をお前に引き渡せば俺たちをこの空間から出してくれるのか?」

 

「っ!?剛力てめぇ、それはどういうことだよ!?」

 

剛力の思わぬ発言に、強い反論の意を示したのは加賀であった。

 

「お前、不確かな情報に踊らされるほどのバカだったのかぁ!?」

 

「悪いな。俺は一刻も早くここから出たいんだ。なら可能性の高いほうにつく」

 

『ふふっ...話が分かる人って素敵だよ?そう、私の願いを聞いてくれるなら一秒でも早くここから出してあげる』

 

急な裏切り。どのアクション映画でももはや恒例となっているイベントだが、リアルで起これば腸が煮え返りそうなほどのクソイベント。友人なら、明日からは他人同士だ。

もしそれが、一時的なものであっても背中を預けてきた間柄なら、この行動は味方に刃を向けるのと同義である。

 

赤い女は嬉しそうに笑いながら剛力に手招きをする。ゆっくりと歩みを進める剛力に待ったをかけたのは、菊川警察署刑務部。怪異による事件を裏から解決してきた氷室だった。

 

「止まれ剛力。それ以上進むなら、お前を確実に殺す」

 

これまで何度も見てきた型で銃口を向ける氷室。しかし剛力は振り返るだけで怯えたような表情は浮かべてなどおらず、むしろ煽るかのように笑って見せた。

 

「そんなチャカ向けてきてよ。よく考えてみろ、そいつをやるだけでこんな場所からおさらばできるんだぜ?馬鹿かお前は」

 

「黙れ。二度はない、大人しく隅に寄れ」

 

「はぁ...話の分からないものだな。小野は分かるだろ?俺の言いたいことが」

 

赤い女はあと思想に達観している。人間の喧嘩とは、当事者からすれば笑い話にならないのかもしれないが他人から見れば、メシウマなネタである。

 

なぜ裏切る、考えが理解できない、道徳を捨てている、仲間じゃないのか。

 

そんな思いが交錯し、絡まった糸がほどけないさまを見るのは人間であれ、化け物であれ、一種の娯楽みたいなもの。

赤い女からすれば、この状況は手を出さない。いや、娯楽に興じたいと考えていた。

 

『いいよぉ、お前らの話し合いが終わるまでは待っていてあげるから』

 

「ほんと、良い性格してるわねあの怪異...」

 

「そう、ですね」

 

あまりにも考え方が人間に近しいことから、前世は人間であったことが理解できた小野と神代。だが神代の方は、どこ吹く風であった。

 

(私、なにしたらいいんだろう。もう分からないよ...。美琴ならどうするの?あんたがこれまで...美琴を守ってきたなら、どうするの?)

 

悔しい気持ちと、大きな情けなさと責任で押しつぶされている神代には、今の状況でさえもはやどうでもいいとさえ思えてきていた。

 

それも見越してなのか、化け物の機嫌は良い。

 

「おい小野。聞いてんのか?」

 

「…確かに、あなたがそうするのも分かります。剛力さんが抱える重りを私は理解できません。だから別に自分の気持ちに正直になって行動するのは悪いことだとは思いません」

 

「だろ?ならーーー」

 

「なので、私も自分の気持ちに従います。あなたとは行けません」

 

小野はそういうと気を失っている引道を抱きかかえ、慈しむように、大事そうに優しく頭をなでる。

 

「私は、私の命の恩人を裏切るようなことはしません。あなたが敵に寝返るのでしたら...手段は問いません」

 

小野はゆっくりと引道を寝かせると、これまで持っていたバールを構える。

確固たる信念が、彼女を動かすエネルギー源となっていた。

 

 

 

 

「かかってきなさい。化け物もろとも、打ち砕いて見せましょう」




今回も読んでくださり、誠にありがとうございます!

後半は、様々なキャラに視点をおいてみたので分かりにくいと思った方、すみません。
それと、次回は赤い女の最後ですので、ぜひ楽しみにしていてもらえたらうれしいです。投稿もできるだけ早く頑張りますので...頑張りますので!

それではまた次回でお会いしましょう!ではでは~
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