転生は好きな『物語』でした 二世代目   作:二世代目シャトス

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亡者の進行

 

 

 

「どうしたのですか。まさか、私が女だから殺すことが出来ませんか?もしそう思われているなら...がっかりです」

 

小野からはこれまで以上のさっきを感じると、この場の全ての者が共通して思った。右手でバールを構える姿は、今にも襲い掛かってきそうなほどだ。動きやすいようにと破かれたナース服から見えるスラっとした脚は、いつでも動けるように折り込まれている。

少しの間ではあったが、仮にも友に戦った仲だ。小野の戦闘力の高さを知っているからこそ、剛力はうかつに動けないでいた。

 

だがそれはあくまで理由の一つ。剛力には動けないもう一つの訳があった。

 

「…ったく。いい女じゃねぇか、なぁ引道?」

 

剛力は未だ横たわっている引道にふと言葉を投げかける。ピクリとも反応を示さないが、気にしている様子はなかった。

 

「褒めて頂いて嬉しいです。そのままこっちに戻ってきてもらえるとさらに嬉しいのですが」

 

小野とて、出来るならば人殺しなどはしたくない。だが小野は殺す覚悟は持っている。それを剛力は知っているし、彼女がそんな性格をしていたのも分かっていた。

別に剛力とて死にたいわけではないが、信念を貫くのもまた剛力という男なのだ。彼にはここを出てなすべきことがある。

 

「悪いが、今のお前たちでは勝てるとは思えねぇ。見ただろ?こいつはバケモンだ。死体を操って襲わせて来るんだぞ」

 

「そうですか、もういいです」

 

これ以上の話は無意味だと判断した小野は、看護師らしかぬ瞬発力で瞬く間に剛力との距離を詰める。急な出来事なため、怪異を除く全員が虚を突かれたような顔をしていた。

 

左から右へと横に振りかぶられるバールを紙一重でよけた剛力。後ろに倒れる体を左に捻りながら右足を小野の横っ腹に叩き込む。転倒中でもぶれない体感は、鍛え上げられた肉体が証明していた。

 

看護服は医師や患者のサポートを考えられて作られているため、とても動きやすい。小野の瞬発力も驚異的ではあるが、その動作を円滑に促していたのは看護服による影響も小さくはない。そんな”サポート面”では優れている看護服ではあるが、防御面だけはどうすることもできない。硬さよりも効率を求められる場ではいらない存在である。

 

「ぐっ...!」

 

つまるところ、いくら戦闘力が高くても中身まで響くような攻撃にはさすがの小野も引き下がるしかない。しかも女性というハンデまで追っているのだ。追撃されて今のような攻撃を食らってしまえばしばらくは立ち上がれないだろう。

 

小野は一度距離をとると近くの医療カゴからメスを取り出し顔を目掛けて投げつける。

 

「っと、あぶねぇな。死んだらどうしてくれるんだ?」

 

「死ねばあなたのためにすることもありません。死人がどう話すと?」

 

飛んできたメスを顔を横にずらして躱した剛力だが、そこそこ本気の蹴りを入れられた小野は依然とした立ち振る舞いでいる。

 

「お前ほんとに命を預かる看護師かよ。チャラい不良よりも恐ろしいぜ」

 

「なら早く降参してください。生産性のない争いは時間の無駄です」

 

「…ほんと、あいつとそっくりじゃねぇか」

 

一切引く気のない小野を見て、ポツリとこぼす剛力。それは二人以外にも聞こえるほどの独り言だった。

 

「そっくりって、その人は誰なの?」

 

今までほぼ空気になっていた神代が、何か思うことがあったのか聞き返す。

だがそれを教える気はないらしく、剛力はただ笑うだけだ。

 

 

「俺の大切な人だ...。だから、俺は一刻も早くここから出たい。そこをどいてくッ!!?」

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

急に歩みを止め苦しみだした剛力に恐れを感じたのか、思わず加賀が疑問する。苦しみながら震える手を胸に当てる剛力の後ろには、憤慨している赤い女だった。

 

「かッ、なっ...どう、して...」

 

「遅い長いで私は怒りはしないよ、でもね」

 

背後にいる赤い女に目だけでも必死に向けているが、徐々に体の自由が利かなくなってきたのか呻き声が小さくなってきている。

 

『よくも私の顔に傷をつけたなぁ!?』

 

「あ”あ”っ!?」

 

突如、剛力の胸から腕が生えてきたかのように赤い女が貫いた。遠目に見ている神代は突然のことで理解が及ばない。氷室や加賀は過去にも似たような経験をしてるため、何となくだが予想は出来ており驚きは少なかった。

そして、先ほどまで剛力と対峙していた小野はこの中でも一番印象に残る出来事になった。

 

「赤い女...あなたは......」

 

『あら、もしかして怒っちゃった?けどその怒りは正しくて間違いだよ。だって、あなたもこの男を殺そうとしてたじゃない』

 

赤い女は小野の睨みをいなすかの様に、貫いた腕を横に振るって剛力を払った。壁に叩きつけられた剛力は、目を強く見開いて口から血を吐くと、そのまま動かなくなった。

 

「おい、剛力ッ!!」

 

これにいち早く駆け付けたのは加賀である。自分の警戒を解いてまでして、一目散に剛力の元まで向かった。

ぐったりと動かない剛力の体を強く揺らしながら何とか意識を戻そうとする。

 

「おい、起きろ!お前には死ねない理由があるんだろぉ!?死ぬなぁ!!」

 

「な...あ...」

 

口から垂れる血の量は増し目を開けることが出来ないほどの状態であるが、それでも剛力は手を伸ばした。彼には自分の命よりも優先したい何かがあり、死をさまよう最中でも彼を突き動かしていた。

だが、それでも体は次第に動かなくなっていく。死神が魂を持っていくかのように、伸ばしていた手から徐々に力が失われていくのを見た加賀は、落下する手を強く握りしめる。

 

また一人死んだ。

 

「加賀...」

 

氷室は仕事上、長い関係を築いてきているため加賀の心境を察している。今の加賀にかける言葉はいらない。そう判断した氷室は、未だ殺気を放っている赤い女に引き金を引いた。

 

『っ、鬱陶しいなーもう!!』

 

表情は見えないが、声色で簡単に分かる。

 

赤い女は激怒しているのだ。別に計画を邪魔されたことに対してではなく、赤い女自身の顔を傷つけたことに。髪で隠れてないと思うが、彼女の傷はついてしまったらしい。

442m/sを超える速さで飛んでくる銃弾に流石に対処が難しいのか、赤い女の首元から血が噴き出した。

 

『ぐ、ぐあぁぁ!?』

 

赤い女は、小野に向けていた両手で自身の首を絞めた。体全体に駆け巡る痛みには慣れることなんて簡単にできやしない。それこそ、痛覚を殺すぐらいでなければ相手に隙を見せることなどなかっただろう。

 

痛みで警戒が散漫になっている絶好の場面を、小野が見逃すはずはない。数歩後ずさる赤い女に瞬時に距離を詰め、バールで頭を強打した。

 

『ぐがが...よ、ヨクモ!!ヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモ!!!!!!!!!!シネェー!!!!』

 

「っつ!?」

 

小野の一発で大きく後退したものの、首に手を当てたまま赤い女は自身の髪を鋭い槍のように伸ばしてきた。これにはさすがの小野も対応に追われ、右腕を抉られてしまう。

白い服、右腕から徐々に広がっていく赤がその痛々しさを物語っている。

 

あまりの痛さに膝をついてしまった小野は、今度は逆に大きな隙を作ってしまうこととなってしまった。燃え広がる痛みに苦しみながら、左手でバールを投げ飛ばした。その場しのぎに過ぎない行動は、怪異の前では無力に過ぎない。槍のように鋭い髪でバールを払いのけ、襲い掛かってくる銃弾を弾く。

 

「小野さん、今のうちにこっちに走ってきてください!」

 

「は、はい!」

 

氷室は球切れを起こした拳銃のリロード素早く行い、援護射撃に加わる。神代は印藤の開放をすでに終え、壁にもたれかけさせていた。

高速を裂けることは出来ない。今、赤い女が氷室たちを殺すことは出来ない状態だ。

そう、赤い女は...。

 

 

「いってぇ!?」

 

 

突然、加賀から叫び声が響いてきた。氷室は手が離せないため、声をかけることしかできないでいる。

 

「どうした加賀!?」

 

「ぐ...そこのクソ野郎がぁ!!剛力を使って攻撃させてきたんだよぉ!!」

 

「…まずいな」

 

状況が悪くなってきていることを氷室は理解した。仲間を一人失って、そこで相手の手数が増えたとなると話が大きく変わってくる。俺たちは命が一つしかなく、永遠に戦えるわけでもない。だが今回、この怪異は死者を操るのを得意としているタイプの怪異だ。

くねくねの村全体を囲むほどの結界ではないが、その分ヤツ自身の攻撃手段が多すぎる。ひとりかくれんぼでは今のようなこともあったらしいが、聞いた話ではここまでの機動力は有していなかったと言っていた。

 

つまり、今までの怪異と比べてレベルが何段も上の存在ということである。しかも考え方や話し方が人間よりなため、非常に相手しづらい。兵士と指揮官では、指揮官による能力で戦況がほぼ決まる。賢いやつが勝つのは、小学生の間でも常識になっている。

 

生前は頭がよかったのだろう、氷室が放つ銃弾を出来るだけ多く弾いている。拳銃の構えからある程度の弾道を見極め、なおかつ傷を最小限に抑えている。こうなると足止めだけとは言えない。球切れが起きてしまえば状況は一変し、一気に攻め込まれる。最悪、命と引き換えにと氷室は考える。

 

「加賀!剛力を無力化することは出来るか!?」

 

「武器らしいものを持ってねぇからな、なんとかできるぜぇ!!」

 

加賀が言ったように、剛力は武器と言ったものは持っておらず体すべてを使って攻撃してくる。噛んで、削って、打ち込む。獲物がなくとも殺すことは出来る。

しかし加賀もはいそうですかともらうわけがない。爪で引っかかれた左頬は仕方ないと割り切り、これ以上は食らうことはないと腹を括っていた。仲間がこんな姿で操られているということもあり、怒りで集中力が上がっているのも理由の一つだが...

 

(剛力...やっぱお前、強かったんだな)

 

獣のように襲い掛かってくるそれは攻撃こそ高いものの加賀からすればお粗末なものでしかなく、足を崩して体制を倒してしまえば、無力化するのは簡単だった。

すまねぇ、と心の中で謝ると剛力の首を力いっぱい反対に折った。剛力の体から力が大きく失われていくのが分かった加賀は、念のためと両手両足を反対に折って隅へ放置した。人間ならとっくに死んでいてもおかしくない様となってしまった。

 

 

 

 

 

「なんなのよ...もう、私には分からない...ッ」

 

気絶する印藤の重りを任された神代は、そうつぶやいた。

 

なんで私はここにいるのか。なんで私はあんな化け物と戦わなくちゃならないのか。なんで私は彼らのように強くないのか。なんで私がこんなことをしなければならなくなり、そして何をすればいいのか分からなくなってしまったのか。

 

危機的状況に何度も身を置くことにより、神代の脳処理は歯止めがかからずの状態である。常に情報が新しく変わる景色の中、死から逃げるための生存本能によってアドレナリンは最高潮だ。冷静な判断がまだ生きれいるだけでも上等。現状を理解し、仲間に指示を送る氷室や、真正面から戦う小野のような人が人間でいうところの化け物と言えるだろう。

 

神代は未だ眠る引道の心臓の鼓動を手で確かめる。

 

(なによ...ちゃんと動いてるじゃない。なら早く起きて、美琴を連れ出してきてよっ!!)

 

当てていた手に力がこもり、胸元の皺が大きくなる。

未だ姫野の姿は見当たらない。引道はここにいると言っていたし、ちゃんと化け物もいた。恐らく近くに姫野はいるのだろう。でも、今の私には探しに行くことすらもできない。化け物の目的である引道を取られてしまっては、姫野を救うことは皆無に等しいからだ。

 

だから、私にできるのはただこいつが目を覚ますのを待つしかない。

今までムカついたときや頭に来たとき、嫉妬したときなどはよく平手打ちをしたものだ。そんときこいつは、しっかりと声を上げて痛がってくれて、それでも私に楽しそうに話しかけてくれていた。

 

「ッ、起きろ、バカ!!」

 

自分を鼓舞する意味も込めて、引道の右頬を叩く。だけど都合よくいくはずもなく、未だ目を覚まさない引道に懇願するかのように頭を下げる。

 

しかしそのとき、あるものを見てしまった。

 

「ひっ…きゃぁぁぁぁ!!!???」

 

ゾンビのような動きでわらわらと集まってきた死人たち。手術室の入り口からなだれ込むように入ってきた中には、あの時神代が取った鍵を持っていた死人もいる。

 

つまり—――――

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、糞があぁ!!」

 

加賀が大声で汚い言葉を発した。しかし、それは当然の事であり、事実小野もそう叫びたい気持ちでいっぱいだったからだ。

完全に失念していたと、氷室は責任と後悔で泣きたい気分まで落ち込まされていた。それでいて、化け物はとても楽しそうに口元を歪めている。

 

ここに集いし亡者たちは、赤い女が殺した院内の人間である。今まで院内を探索するにあたり、数えきれないほどの死体を見てきた氷室たちは、似合わなくも無理だ、勝てないと考えてしまった。

 

それすらも理解している赤い女は、楽しそうに奇声を上げると低く聞こえるのになぜか高く聞こえる声で、亡者たちに命令した。

 

『さぁ!!そこの下賤な者を食い殺せッ!!!』

 

「くっ...!」

 

「マズいですね」

 

「糞ぉ!!絶対にお前を殺してやる!!」

 

『アッハハハハハハハハハハ!!!!シンジャエ!!!』

 

赤い女の命令を聞いた亡者たちは、奇行種かのような動きを見せ向かってきた。

氷室の拳銃の球はそこを突き、加賀や小野もすでに疲労困憊である。赤い女が院内の死体を全てここに集結させているのだとすると、正真正銘氷室たちの勝ち目はない。

 

先ほど神代の声が聞こえたときにすぐに駆け寄ってあげるべきだった。あの二人さえ守り切れば、まだ希望はあったはずなのに。

 

(今まで死線を潜り抜けてはきたが...ここまでか)

 

空になった拳銃を下ろした氷室は、ごめんと小さくつぶやくと膝をついて天井を見上げた。初めにあった薬の臭いなんてしなく、部屋全体に籠っているのは血の臭いのみ。一番嗅ぎ慣れたこれが、酷く気持ち悪かった。

 

 

『!!!???ナニイイイイ!!!!?????』

 

 

突如、優しい風が体を透き通っていく感覚を、引道を含めた氷室全員が感じた。それと同時に、あと数センチのとこまで迫っていた亡者たちが、小さく粒子となって一斉に消えていったのである。それも中心から広がった波紋のように。

 

少しして、この優しくも温かい温もりを知っている神代は目に涙を浮かべ、赤い女の。さらに後ろに佇んでいる姫野を叫んだ。

 

「待ってたよ...美琴!」

 

「ごめんね。でも、もう大丈夫」

 

不思議なオーラがうっすらと見えるほどのナニカを持つ姫野。それを見て何かを察したのか、今までで一番の憤怒の表情を見せる赤い女。

 

二人が向かい合ったと同時に、重力に押しつぶされるかのように床へと叩きつけられたのは、今まで多くの虐殺を行ってきた『赤い女』であった。

 




今回も読んでくださり、誠にありがとうございます!

前回、この話で終わらせるって言ってましたよね?あれは嘘だ。・・・すんません、終わりませんでした。でもでも!最後に姫野さんが次話で倒すみたいな雰囲気全開だったので、それに期待しましょう!

あと、就職活動終わりました。内定もらえました。いえーい!

それではまた次回でお会いしましょう!ではでは~
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