「あ、姫野さんそれ美味しそうですね。俺にも分けてくださいお願いします何でもしますから」
「あ、うん。ハンバーグ少し切るから待っててね」
「美琴、別にあげなくてもいいわよ。今回の事件で1番疲れたのは美琴なんだし…ちゃんと栄養摂らないと。ね、引道???」
「え、ちょっと何言ってるかわかんなーー」
ズドンと音文字として表すことができそうなほど、力強く俺の皿にハンバーグを置く神代さん。姫野さんに向ける時は笑顔なのに俺の時だけは、何故か怖くなる。
あははなどと言って微笑ましそうに見守っている姫野さん。違うんですよ、きっとあなたが思ってるほど俺と神代さんの中って良くないんですよ。だからそんな母性溢れてる笑顔を今だけはやめて下さいお願いします。
だって神代さん今ものすっごい苛ついてる顔してるから!!
「まったく…本当に謎だわ。なんであんたが美琴と仲良くなれるのよ」
ハンバーグに刺していた箸を引っ込め、味噌汁をただまぜまぜする神代さん。ちょっとちょっと、お行儀悪いですわよ?
「姫野さんとは今まで死線をくぐり抜けてきた仲ですからね!命の預け合いは固い友情を育てるんです!」
「まぁあんたならそんなこと言うと思ってたし、正直半分も興味ないからどうでもいいけど…」
そう言って手元に向けていた視線を姫野さんに移す神代さん。美琴はどうなの?って意味を含んでるな多分。
神代さんの視線に気付いた姫野さんは、口の中の物を飲み込んで少ししてから、恥ずかしそうに話し出した。
「んー…えと、引道くんの言ってる事で大体合ってるかな。由香と比べてって聞かれたら困るけど…かけがえのない友達だよ」
「「…」」
「ちょっと2人とも何か言ってよ!これじゃ私がただ恥ずかしくなるだけじゃない…!」
……んはっ!!??な、にが起きたんだ、今。俺は、いったい何と闘っていたんだ…?まて落ち着くんだずんだ餅!俺は生きてるぞ!!
うん、こりゃ大変だわな。落ち着かねーわ。
「美琴が…こんなにも可愛いのに……なんで引道なんかと…っ‼︎」
「由香!?しっかりしてよ由香!?顔が怖いし目もなんかおかしいし…どうしちゃったの由香…!?」
「…」
うん、まぁ由香さんですらあんな状態なんだし仕方ないよね。やはり大天使コトミエルは存在した。流石だぜ姉貴ぃ!怪異を圧倒するだけはあるわなぁ!!
「俺っち、姫野ちゃんのことを好きだと公言する引道の気持ちが今ならよく分かるぜぇ。可愛いもんなぁ」
「まぁそうだな。このまま平和が続いてくれればいいが…」
少し離れた席では加賀ちゃんと氷室さんが話し合い、そして小野さんが黙々と食事をしていた。と言っても話してるのは主に加賀ちゃんなわけで、それに氷室さんが適当に答えていると言った感じのようだが…。
あと氷室さん。そんなフラグを今更建てなくても、向こうから勝手に来ますって。
それに俺たちは今、重要人物としてまた菊川警察署に送り戻されましたしね。
「はぁ…犯人扱いされるのは分かるけど、流石に堪えるよ…」
「私と引道くんはこれで2度目なんだけどね」
そう。姫野美琴、神代由香、氷室等、加賀剛、小野鈴美香含める俺達は先の件、『院内大虐殺事件』の重要参考人及び容疑者として警察署に連行されていた。
姫野さんが赤い女を屠った後、怪異の影響によって病院に貼られていた結界が解けたことによりら外部との接触が可能になったのだ。結界が溶けて少ししてから警察の突撃部隊が勢いよく入ってきた。
警察に対しては専門の人に話を任せたので聞かされたことしか知らないが、どうやら外からも病院の異常を知っていたようだ。強引な方法でも入れないため難航していたようだが、先程姫野さんが怪異を屠ったので入れたみたいだ。ちなみに怪異に関してはまだ知られていない模様。
俺達の状態を見た彼らは、現行犯で氷室さん含めて捕まえようとしたらしい。
だが警察の突撃部隊は俺たちを拘束はしなかった。なぜ?そう思いながら素直に彼らの指示に従って出て行く。
今夜、この病院で起きた事件は一人の女性に全ての罪が被せられることとなった。
「警察の人から見ても私達が怪しいはずなのに…そりゃ、逮捕されなかったのは良かったけどさ…」
釈然と、納得のいく答えが出ないと神代さんは顔を伏せる。そう、今回の事件の表沙汰の犯人として扱われたのは『スノーザン・レリア』となった。
あれだけの人が死んだと言うのに、一人の女性がそこまで出来るのかと疑問の声がマスコミから上がってくるが、警察側はそれ以上何も情報を開示しなかった。
コトン、ガラスか何かがゆっくりと置かれた音がした。コーヒーを飲んでいた氷室さんからだった。
「それについては心配することはない。上とは既に連携しているから、姫野くんたちが犯人として扱われる事はない。幸いなことに君達の顔はここにいる者含めて警察しか知らない」
つまり外を歩く事はできるから大丈夫、そういう事を氷室さんは言った。警察側がこの異常さを隠し通すことができることに俺は1番の驚きを持っている。犯人として扱われないのは嬉しいけど。
「だけど氷室さん、私たちが容疑者として扱われてるのは…」
「形だけだ。今回の怪異に関しては警察側も大きく関わってしまったからな。今回の件に関してはあの場にいた警察隊と一部の人間しか詳しく知らされていない」
神代さんがちょっと不安そうに言うが、それも軽々しく返した氷室さん。イケメン様は内部とのコミュニケーションだけでなく女の子の扱い方も上手ですこと!
「しかし…よく警察側も私たちの話を理解してくれましたね。自分で言うのも何ですが、今回の事件に関しては説明だけじゃ理解を得られないのが普通だと思うのですけど」
そう。今まさに小野さんが言った通りである。きっと誰もがテレビや映画で見たことがあるはず、『け、警察の人!あそこに首のない人が歩いてるんだけど!?』『落ち着いてください、詳しい話は交番で聞きますからねハハッ』
大抵その後は警官が死ぬと相場は決まっているが…。それほどまでに怪異は信じられず、信じることができず、存在の証明のしようがないため理解を得られないのだ。
だからこそ生まれる不自然。なんで警察は怪異を認めたのか。
簡単な話である。俺たちが初めて氷室さんや加賀ちゃんに会ったときに、彼らはこう言った。
『俺はこういった事件に慣れている』
『怪異などの事件に対する特務捜査官だ』
『今まで死にかけたこと結構あったなぁ』
ただの警察がここまで怪異と関わりながら上にバレずにやっていけるだろうか。氷室さんの分身がいるってんならそれはそれで面白いけど、生憎俺たちは人間。どれだけボロを出さなくても行動にも限界がある。
やはり氷室さんの言う通り、この世界の警察には異常事件、もとい怪異に特化したチームがあると言っていいだろう。
「警察も話が分からない奴だけではない。こう言った異常現象は度々報告されるからな、特務が作られるのも早かったさ」
「そしてオレっちが参加するのも早かったってわけだぁ」
「加賀…、まぁそういうことだ。警察のものでも一部しか知らない事だから言い振らしたりはしないでくれ」
いやまぁそりゃあ、ねぇ。子供に『何を頑張ってるんですか』って聞かれて『怪異と戦ってます』なんて答えたら世間から何言ってんだコイツって言われて大ブーイングになるだろう。税金泥棒なんてことも言われるかもね。ネット民の警察に対する辺り強いからなぁ…
「「「ごちそうさまでした」」」
姫野さんと神代さん、そして俺は食べ終えた弁当の空を洗ってゴミ箱捨てるとすぐに氷室さんのところに向かう。これから重要な話があるらしい。
ミーティングルームのドアを軽くノックすると、返事は返ってきた。
「入ってもいいぞ」
「失礼します」
姫野さんを先頭に俺たち三人が部屋へと入る。長方形のデスクを並べて凹を作った、よく会社で見る会議のアレだ。
加賀ちゃんも小野さんも。そして霧崎翔太さんもいた。
3つ席が空いて並んでたのでそこに座れと言うことだろう。勿論俺は真ん中を取って両手に花をすー
「はい私が真ん中。美琴は右に座ってね!変態は左…ああ、ちょうど端っこになるわね。いいわ、そこに座って」
「え、でも俺真ん中座りたいなーなんて…」
「両手に花とか考えてるんでしょ?お見通しよ」
なんだこの人!?俺が席確保するよりも先に座り美琴さんに素早く指示することで圧倒的に優位に立たれてしまった!策士過ぎやしませんか神代さんやぁ泣
「…話を始めてもいいか?」
俺が座った後も落ち込んでいたのが気になったのか、始めるぞと言う霧崎さん。ごめんなさい、好きな人と席隣になれなかったの。ある意味NTRなんですわ。百合のNTRとかなんだよ最高かよ。
「まず、最初に謝らせてほしい。怪異の特務を名乗りながら君たちに多くの危害を許してしまった事を…本当にすまない」
「えっ!?そ、そんな謝らないで下さい!元はと言えば私たちが引き起こした事なんですから…。迷惑は私達が掛けたものなんですよ?それなのにここまで助けていただいてるのことに感謝しかありません」
「し、しかし…」
下げた頭を氷室さんは上げなかった。それも当然と言えるだろう。彼は街を、市民の平和を守るべくして存在する警察。そして俺たちが今被害を受けている原因の対処を主に行う特務の人間だ。守れずに殺された。赤い女に姫野さんが拐われた。彼は自分の無力さを痛感し、後悔と自負の念で渦巻いていることだろう。
現に、第三者がそうでもないと否定しようとも氷室さんは頑なに頭をあげようとはしなかった。
「そうですよ!元々は私が…ひとりかくれんぼを軽い気持ちでしちゃったから……本当にすみませんでした!!」
神代さんも頭を下げて謝る。加賀ちゃんや霧崎さん。小野さんと俺はただその光景を見ることしかしなかった。
「……」
誰もが言葉を発しない。氷室さんの過去に何があったのか、シーズン2を見ていないためあまり詳しくは知らないが、きっと今の俺たちでは彼が自分自身を許せる所まで行かせるのは無理だ。
だから彼は、氷室さんはその後悔と強い覚悟を持って精神を保ち次へと活かす。2人の許しを得たから顔を上げた、と言う風に見えなくもないが、俺からすれば氷室さんは自分自身を全く許していない。覚悟を固めたから顔を上げた。そんな感じに見えてしまう。
「さて、氷室の謝罪も済んだことだ。本題に入らせてもらう」
バッサリと空気を断ち切り本題に入る霧崎さん。一見すれば氷室さんの謝罪を蔑ろにしてるように感じとられるが、加賀ちゃんや氷室さんが何も言わないのを見ると、変な空気にならないために強引に本題に戻す事で話し合いがしやすい雰囲気を作ったように見えた。そういや霧崎さんと加賀ちゃんと氷室さんは学生時代からのよしみって言ってたしなぁ…。
「さて、これから話す事はとても大切なことだ。俺たちにとっても、君たちにとっても」
「はい、分かっています」
姫野さんが落ち着いた、でも強い口調で返事をする。霧崎さんはそれを聞いて頷くと話を続けた。
「まず順を追って説明をしよう。初めに怪異を起こしたのは神代由香。確かに彼女だ。そしてその影響により、『ひとりかくれんぼ』の形となって怪異が引き起こされた」
「はい、すみませんでした…」
うげぇキツいなこれ。いくらあらすじの説明だからって、人が起こした過ちをそんな簡単につらつらと言われると流石に来るものがある。頑張れ神代さん!
「ふむ。この怪異により神代初、神代夏子、神代和也が殺害された。その後、神代由香からの連絡を受け取った姫野美琴がやってきた」
「はい、間違いありません」
「そしてその後、たまたま通りかかり異変を感じ取った引道新聖が神代家に侵入。姫野美琴と出会い、第一の怪異『ひとりかくれんぼ』を退けた」
「まぁ、引道が夜中3時に外をうろついてたってのもおかしいけどなぁ」
加賀ちゃんが俺の方を見て軽く笑う。や、やめろよ。怖いじゃないか。
姫野さんも不思議そうに俺の方を見てくるが、俺はやましことを思ってあの場にいたわけではないので全力で知らないアピールをします。
「死者は3名。一家の殆どが殺害されるという最悪な形で怪異は終息したように思われたが…」
「姫野くんたちを病院に向かわせる途中に第二の怪異『くねくね』と遭遇した。いや、向こうから来たと言うのが正しい」
「そう言う事だ。しかもこのくねくねによる被害はひとりかくれんぼの時の比じゃない。村の役20名少しが襲われた。いくらなんでも規模がデカすぎる」
「だけど私たちは…ううん、違う。あの神社のお爺さんが助けてくれたんです」
「……、そうだったな。この事件にもある疑問が残るが、それは最後に話すとしよう。姫野たちは助けにきた氷室に拾われ、保護されると共に神代由香のいる菊川市総合病院へと向かった」
「そこで私も巻き込まれる第三の怪異『赤い女』…いいえ、姫野さんが言ってた『表情のない女』でしたか。が、出現したのですね」
「小野さん、そういうことです。しかも市の中では1番大きい病院だ。多くの人間が無惨にも殺された」
すると神代さんが恐る恐る尋ねる。
「あの…生きてた人って、私たち以外いないんですか…?」
「あぁ、いない。間違いなく、あの場にいた君たち以外の人間は見る目もない状態でいた」
「っ…」
その中には小野さんの後輩である慎二さんも含まれている。小野さんの関係者だけではない。結婚を約束していた田中さんも殺された。
多くの人が被害を被り、多数の死傷者を出して『赤い女』は姫野さんによって倒された。
「だがなんとかなったのは姫野の力が大きい。不思議な力を纏っていたと聞いたが、これで合点がついた」
「にょにょ?どういう事ですか霧崎さん」
とは言っても、俺は姫野さんと神代さんの家系については知っている。ここの考察はネットでもだいぶ盛り上がったからなぁ。
今度は霧崎さんではなく、氷室さんが口を開く。
「そもそもな話、一般人が怪異に遭遇するのは1万分の1という恐ろしい程までに確率が低い。そして同じ人間に怪異が立て続けに起こるのも異常だ。だがなによりも1番おかしいのは…君たちが生き残っているという事」
「どういう、ことですか…?」
姫野さんが困惑した表情を作る。勿論それは神代さんも同じだ。
冷静に考えてみれば、この異常さは別次元と言える。普通の高校生が立て続けに怪異に遭い、そして多くの死者を出しながらも生き残る。ファンタジーなら英雄だがここは現実。いやゲームの世界だけどさ。
はっきりいって俺もなんで生き残れたのか分からない。頑張ったとしか言えない。
「以前まで普通の高校生にありえるか?怪異の領域に入った者は殆どの確率で死ぬ。生き残れるのは正しい知識を持ったやつと覚悟を決めたやつしか生き残れない」
「俺っちたちがそうだからなぁ」
オカルトジャーナリストである加賀ちゃんはまさに怪異専門の博士と言っても過言ではない。そこに多くの修羅場をくぐり抜けてきた氷室さんもいるんだ。この人たちが生き残る事に疑問はあまりない。
何の知識も持たない姫野さんたちが生き残るのがおかしいのだ。俺?確かあるけどなんで生きてるのか本当にわからねぇや…くねくねも直接見れてたし、おかしなこともあるんだなぁー。
「そこで、だ。勝手で申し訳ないが二人の過去…いや、家系を調べさせてもらった。立て続けの怪異だったために、不十分ではあるが」
「家計を、ですか…。私はあまり知らないです。由香は?」
「私も。お父さんが何か話してた記憶はあるんだけどー…ごめん、思い出せないや」
「神代由香、姫野美琴。君たちの繋がりが起こした怪異は偶然だと思うか?」
霧崎さんが少しずつだがニヤついている。あれだ、民族学者の人たちに限らずこうやって真理?原因を調査していくのってワクワクするからな。その気持ちは分かる。でもアンタの笑みは不気味だよ霧崎さん…。
「二人の家系にはある共通点がある」
「共通点だぁ?なんだよぉそれ!」
加賀ちゃんが興味津々に尋ねる。小野さんも、姫野さんも、神代さんも。みんなが霧崎翔太に注目している。そして彼は焦らす事なく、詳細を教えた。
「神代家、姫野家は歴史のある呪術を扱う家系ってことさ」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
投稿頻度は早めにしたい…頑張ります。
それでは次回、お会いしましょう!ではでは〜