セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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9話『その日、私はあなたに出会えた』

入学してしばらくの時が経ち。

同学年の中では、既に評価が決まっていた。

 

スペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサー

キングヘイロー、セイウンスカイ。そしてセラフィナイト。

抜きんでた強さを持つ彼女ら六人を筆頭に、トレセン学園内は盛り上がっていた。

 

そんな中、やはり皆が注目するのはどのトレーナーの専属になるか、だ。

実績のあるチームに入った者、スカウトを断り切れずに謎のチームに入った者。

それぞれ、最終的には納得して所属先を決めていた。

 

 

 

一方でセラフィナイトは、最後まで決めあぐねていた。

 

 

色々と声を掛けてもらったのだが、いまいち納得がいかない。

 

強くなるためには、誰よりも速くなるには。

そんな意見ばかりだったから。

 

有名なトレーナーの言葉でも、彼女は揺るがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして?」

 

ある日のトレーニング後。

スカウトの集団へ、断り文句を置いてきた時のことだ。

 

一人の若い女性トレーナーが、セラフィナイトへ質問を投げかけてきた。

 

 

「どうして、とは?」

 

タオルで汗を拭いながら、この人もただのスカウトか。

と軽く流しつつ歩いていく。

 

「あの帽子被ったトレーナーさん、レグルスのトレーナーだよ?

 あっちのスーツの人は、ボルックスのスタッフさんだし……

 有名どころが、あれだけ手を伸ばしてるのに、どうして断るのかなぁって」

 

 

指を顎に当てて、空を見る仕草。

 

何かを探っているのには間違いない。

セラフィナイトは怪訝な目つきをやめなかった。

 

 

(この人確か……アルタイルのトレーナーさんだよね)

 

アルタイルは、キングヘイローとセイウンスカイが所属しているチーム。

悪いチームではないが、魅力的とは到底言えない成績のウマ娘ばかり。

トレーナー自身も、どこぞの令嬢らしいがまだまだ若く経験も浅い。

 

先述の二人は、スペシャルウィーク達と別のチームで戦いたいから

と言う理由で、アルタイルを選んだそうだが……。

 

この能天気そうな顔を見るに、私が何を渋っているのか見えないのだろう。

論外だ。

 

「別に、どうだっていいじゃないですか」

 

「どうでもよくない! このまま一人だと、レースに出られないよ。

 先生にも言われてるでしょ?」

 

「…………」

 

 

トレーニング後の疲れがある中、お説教なんて受けたくない。

 

すたすたと歩いていこうとすると、回り込んで進路を妨害した。

 

 

「……蹴りますよ」

 

「おお、怖い。でも大丈夫、わたし合気道の達人だから。

 ほーら、例えウマ娘のキックでも、このとお……あひやぁ!?」

 

 

威嚇の為に腹部へ足を延ばすと、冷や汗を流しながら両手を挙げた。

 

 

「…………もう、行きますから」

 

「ああ、待ってよぉ~」

 

しつこく迫ってくるのが鬱陶しくて、ぎらついた目で更に牽制する。

 

「なんなんですか。スカウトなら断ってるじゃないですか」

 

「……? あ、そっか。そういうこと?」

 

何に気付いたのか、女性は手のひらをポンと打つ。

そして申し訳なさそうに、半笑いで手刀を顔の前に持って行った。

 

「ごめんごめん。スカウトだと思ってたのね。

 違うよ。ホント、単純に気になっただけなんだ」

 

「……はい?」

 

「あなた、走るのが大好きだよね」

 

「――!」

 

屈託のない笑顔で指摘をする。

 

 

それは、誰よりも知って欲しかった気持ち。

 

 

「逃げ主体の子って、他のウマ娘よりも表情が良く見えるでしょ?

 特にあなたは速いから、目立つんだ。

 トレーニングの時もそうだし……模擬レースなんかだと顕著。

 あなた……最後の最後まで、楽しそうに笑って走るじゃない?

 その顔が、わたしすっごく好きでさ。

 でも成績も凄いあなたなら、どうせ他のチームにすぐ取られちゃうだろうな~って思ってたんだ」

 

 

ペラペラと、まくしたてるように続ける。

 

「ふふ。けどフリーな今なら、質問しても怒られないでしょ!

 だから、無所属を貫く理由だけでも聞いておきたかったんです。

 後でどこかに入ったら、納得できるしね! 中々、策士の、わたしなのです!」

 

年を考えた方がいいような、幼い動作のブイサインをして誇らしげに笑う。

 

 

「……あはは。なんですか、それ」

 

あんまりにおかしくて、思わず吹き出す。

 

 

いつの間にか、足は止まっていた。

 

 

 

「ええ!? 何か笑うところあった!?」

 

「……はい。ホント、意味わからなくて笑えますよ」

 

「うっそー。え? 意味……わかんないかな……?」

 

肩を落とすトレーナーを見て、私は問う。

 

「あの、アルタイルってどんなチームなんですか?」

 

「え? うち?

 うーん、そーだねえ。まだ日は浅いし、実績も特にこれってのがないから……

 よそ様のチームと比べて、突出したことは言えないんですけどぉ……」

 

さっきまでの饒舌が嘘のように、しどろもどろになる。

それがおかしくて、また頬が緩む。

 

 

「でも、毎日みんなと楽しくやってるよ」

 

「……指導方針とか聞きたかったんですけど」

 

「ああ! え、えっと。し、指導方針は……自由にのびのびと、かな

 ま、待って。ほったらかし、って意味じゃないよ。

 個人個人の考えを尊重してるってコトで……でも、気になる点はちゃんと言うし……」

 

「……チーム構成は?」

 

「ええと、この前新入生が入ってきて……七人。

 ジュニアクラスが五名、クラシックが一名で、後はシニアが一名。

 最高成績は、そのシニアの子がこの前GⅡを取ってくれたことです」

 

「……なるほど」

 

「……あの? なんで、わたしが質問されて……?」

 

疑問符を浮かべながら困惑する彼女へ、更に質問を重ねた。

 

「……ねえ、トレーナーさん。

 私、どうして『逃げ』で走ってると思います?」

 

「? どうして、って?」

 

「先生には、結構言われるんです。

 逃げも良いけど、キミの脚質なら先行の方が安定するだろう、って」

 

「そうなんだ」

 

「そうなんだ……って。トレーナーさんも、そう思ったりしなかったんですか?」

 

聞き返すと、きょとんとした顔で返事をした。

 

「え? ううん、そんなこと考えたこともなかった。」

 

 

 

そして、私は。

 

 

 

「だって、あなた。誰よりも先頭を楽しそうに走るんだもん。

 他の子が周りにいたら、それを堪能できないでしょ?」

 

 

 

「………………うん。そう。そうなんです」

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて。

 

 

速く走れなくても。

 

強くなれなかったとしても。

 

 

 

この人となら、一緒に走っていきたい。

 

 

 

そう思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

ため息が漏れる。

己が未熟さを痛感した。

 

鼻水をすすり、赤くなった目を擦る。

 

天を仰ぎ、もう一度息を吐く。

 

 

記憶を思い返しながら、セラフィナイトは決心した。

 

 

 

「キングちゃん」

 

「……え? な、なに?」

 

突然呼ばれて、キングヘイローはたじろぐ。

 

「……貰った勇気、使わせてもらうね」

 

「……! ええ。一滴も残すんじゃないわよ」

 

 

嬉しそうにするキングへ微笑みかけ、セラフィナイトが

今度は、真っすぐ向き合った。

 

 

「トレーナー」

 

「うん」

 

 

そして自分の意思をはっきりと、口にする。

 

 

「私…………また、走りたいです」

 

「うん」

 

「本当は怖いけど。本当は不安だけど。

 でも、まだ足が動くなら。

 みんなとの距離は、計り知れないけど……。それでも。」

 

 

 

大きく息を吸い。

 

 

「私は笑って、ターフを駆け抜けたい。

 誰よりも、どんなウマ娘よりも……一番先に!」

 

「……よし。わかりました」

 

了承と同時に、脱退届をシュレッダーへ入れる。

そして徐にトレーナーはタブレットを取り出すと、ぶつぶつ呟きながら操作してから言った。

 

「あったあった。セラ、スマホ出して」

 

「?」

 

言われるがままにセラフィナイトが端末を取り出すと

トレーナーが画面をスライドする動作と共に、データが飛んできた。

 

 

「……『最新・セラフィナイト復帰プラン ver2.1(決定版)』?」

 

「何よこれ。

 何回もタイトル付け直したから、どれが最新版かわからないやつでしょ?」

 

「あれ、この前見た時は『最新』が無いのが最新じゃなかった?」

 

後ろから覗き見ていたセイウンスカイとキングヘイローが、呆れながら言う。

 

「それはちゃんと最新版ですぅ~! あと、スカイは勝手にパソコンを覗き見しない!」

 

「ごめんなさ~い」

 

悪びれた様子もないセイウンスカイは、舌を出しながら謝罪する。

 

話が逸れたので、トレーナーは咳ばらいをして気持ちを切り替え

目を輝かせて、言った。

 

「…………さあ、セラ。ちょうど新学期で区切りもいい。

 これから、頑張っていこうね!」

 

 

 

 

 

このプランが何を意味するのか。

 

 

考えるだけで、セラフィナイトの胸が一杯になる。

 

 

 

くよくよするのは止めだ。

 

 

弱い心は、強くしていこう。

 

 

支えてくれる人は、たくさんいるのだから。

 

 

 

「はい。頑張ります!」

 

 

 

 

その涙目の瞳には、強い決意が満ちていた。




「あ、そうだ。トレーナー、手を洗ってきていいですか?」

「手? どうして?」

「え、だって印鑑押しちゃったから、朱肉が……」

「ふふん。セラちゃんや、よく見てごらん」

「?」


それどころではなかったので、しっかりとは確認しなかった。


紙の代わりに押印された、セラフィナイトの手。


わずかに、凹凸の痕はあったが……。



赤い色の染みは、付いていなかった。



「……と、トレーナ~~!!」

「さー、作戦会議するよ」

「うぅ……はい!」
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