【徹底的にマークしたスペシャルウィークが、一着でゴール!! 春の天皇賞を制覇しました!!】
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶え、セイウンスカイが掲示板を見た。
自分のゼッケン番号、8。
その数字は、上から三番目に掲げられていた。
一着には、スペシャルウィーク。
クラシックでは、勝ち越していた成績についに並ばれた。
(最後のコーナー、スペちゃん完璧に合わせてきた。
外によれるだろうから、直線で突き放すつもりだったのに……!)
仕上がっているとは思ったが、ここまでとは予想外だった。
まだまだ、自分には足りないものが多すぎる。
策も練習も、何もかも。
「スペちゃん」
「あ、セイちゃん。今日はありがとう! すっごくワクワクしたよ!」
汗を輝かせて、笑顔で観客に手を振るスペシャルウィークを呼ぶ。
「……秋の天皇賞は私がもらうから!」
「……! うん! でも私も負けない!
だって、スズカさんの為に勝つって約束したから!」
"最強世代"がクラシックに臨む前の天皇賞・秋。
ぶっちぎりで先頭を進む存在があった。
名をサイレンススズカ。
スペシャルウィークと同チームで寮も同じ部屋のウマ娘である。
国内敵なしとも思える、ハイペースの逃げと輝かしい戦績。
圧倒的な着差で強豪に勝利する姿から、異次元の逃亡者とも呼ばれていた。
だが、レース中に足を負傷。
長い療養期間を終え、ようやく復帰。
今は元々予定していた海外のレースに参加しており、素晴らしい戦績を残している。
そのスズカが、決着をつけられなかったレース。
今年は、スペシャルウィークが出場する。
彼女の影を追うように、姉のように慕う存在を超えたいがために。
(全く、キングといいスペちゃんといい。
誰かの為に走るウマ娘は強いね~……。負けてられないなぁ、私)
焦る気持ちを胸に押し込めて、セイウンスカイはウイニングライブの為に控室へ戻っていった。
「……スカイちゃん」
観客席で、その小さな背中を見届けるウマ娘、セラフィナイト。
たくさん練習してきたのも、最後のコーナーで一番の勝負をしかけたのも知っている。
それでも、勝てなかった。
真っ向から実力で負けた悔しさは、計り知れないだろう。
「……やっぱ強いわ、スペちゃん。……はぁ」
隣で腕を組み、眉間にしわを寄せていたトレーナーがようやく言葉を発した。
「中距離もだけど、長距離は無類の強さだね。
菊花賞でスカイが勝てたのは、本当にあの子が限界以上の力を出してくれたからなんだなぁ」
身体の調子やバ場状態などで、レース結果は左右される。
それを『運』の一言では片付けたくないが、結果的にはそうだったと言えそうな内容だった。
「……でも、スカイちゃんなら大丈夫です。
あの子、超負けず嫌いですから」
「わかってるよ。普段は自分から言ってこない癖に、ここぞという場所で負けると
もー、がっつくようにトレーニングや作戦会議してくるからね。ダービーの後は凄かった。
忙しくなりそうだなー」
「…………」
まだ熱の冷めきっていないコースを、セラフィナイトが黙って見つめる。
無表情ではあるが、発せられる気合をトレーナーは感じずにいられなかった。
「……セラ。早くレースに出たい?」
「……そう、ですね」
出たい、だけじゃない。
勝ちたい。
中距離や長距離は自分だって得意な距離だ。
今日、万全な状態の自分がもし出ていれば
あのウイナーズサークルに居たのは、自分かもしれない。
「気持ちはわかるけど。まずは焦らないこと。いいね」
「……はい」
滾る想いはトレーニングへ。
セラフィナイトは、ウイニングライブも見ることなく
その夜、ちょっとだけ言いつけを無視してメニューを1セット多くこなした。
――――。
春の香りは既になく。
空に浮かぶ雲が厚くなりだした季節。
雨の多い時期だが、良バ場の発表があったGⅠレースが開催された。
宝塚記念。
春のGⅠレースを飾る、最後のレースだ。
「頑張ってね、キングちゃん! スペちゃん、今日もすっごい気合だったよ」
「難しいこと考えず、普段通りにね」
「ええ、わかってるわ」
地下バ道でエールを送る。
ファン投票で出走の決まる、このグランプリレースには
キングヘイローが参加していた。
セイウンスカイは、秋の天皇賞に向けて秘策を立てているそうで
わざわざ手の内を晒すこともない、と回避している。
トレーナーと友人の言葉を背に、キングヘイローが本バ場へと歩いていった。
「……!」
キングにやや遅れて入場をする、栗毛のウマ娘が居た。
セラフィナイトが声をかけるのも憚られるほど、強烈な闘気。
普段の物静かで、優しい彼女とは程遠い。
すれ違えば、綺麗なお辞儀をしてくるのに、今日は目もくれずターフへ向かっていた。
「……今の、グラスちゃん……だよね?」
「だと……思いますけど……」
馴染みのある二人ですら、真贋を疑いそうなほど
グラスワンダーは、今日のレースに入れ込んでいた。
――――。
「…………圧倒的だったわね」
「うん」
「スペシャルウィークさんの調子は、決して悪くなかったと思うわ。
グラスさんが、あそこまで徹底的にマークするなんて珍しいもの。
あれは、あの子の精神力が勝ってたからこその勝利ね」
「そうだね」
「……それにしても。
やっぱり、この距離は私に難しいのかもしれないわ。
中々勝つためのイメージが掴めないもの」
「……でも、私はわかるよ」
「何が?」
「キングちゃんだって、やっぱ皆と走りたいんだね」
「当然よ。同世代の皆にも勝つ。
それだって、私の目標の一つなんだから」
「私も」
「……早く戻ってきなさいよ」
「うん。待っててね」
レース終了後。
地下バ道で二人は話していた。
宝塚記念、圧倒的な勝利を示したのは
2番人気のグラスワンダーだった。
最後の直線、スペシャルウィークとの一騎打ち。
他のウマ娘を置き去りにするデッドヒートで、3バ身もの着差で優勝した。
(凄いなぁ、本当に)
みんなが、どんどん先へ進んでいく。
目標設定を、年末の有馬記念にしたのは正解だった。
単に怪我から復帰し、適度な戦績で終えても誰だって文句は言わないだろう。
けど、セラフィナイトの目標は同期内でのナンバーワン。
既についている、この差を埋めるには短時間で辿り着かなくては
きっと永遠に追いつけない。
来年になれば、もっと完成度を上げてくるかもしれない。
ブランクを埋めるには、それだけ急がなくてはならないのだ。
……ならないのだが。