セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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14話『戦の前』

(別チームのウマ娘とレースなんて、いつ以来かなぁ……)

 

念入りなストレッチをしながら、横で和やかに身体を伸ばすグラスワンダーを見る。

 

先日、セラフィナイトは彼女から一つの提案を受けた。

 

 

 

「私と勝負しましょう、セラちゃん」

 

 

 

共に感覚を確かめ合い、ガッツを鍛える併走トレーニング。

 

提案されたのは、それとは違い真っ向から優劣を決する模擬レース。

 

独断では許可できないので、トレーナーに相談をすることにした。

話を聞いたトレーナーは、タブレットを手に持ったまま驚いたように尋ね返す。

 

「グラスちゃんと? どうしてまた」

 

「わからないです。お話してたら、突然言われて……」

 

「……」

 

宝塚記念の疲れもまだ抜けきってないはず。

 

これから夏に入り、グラスも合宿の時期。

秋のレースや年末に向けて、大事な調整をする期間だ。

 

無駄に疲れをため込むようなことを、わざわざ提案するウマ娘でもない。

 

 

だったら、何を目的として……。

 

 

タッチペンで唇を押し上げていたトレーナーは、そこで気付く。

 

 

多分これは、難しい話でもなんでもない。

打算も何もないのだ。

 

 

きっと、彼女は……。

 

 

 

 

「……受けようか、それ」

 

「え? あ、はい。わかりました」

 

気の抜けた顔で返事をするセラフィナイトに

少しだけ不安を覚えながらも、今日という日へ向けて共に練習してきた。

 

 

(今やれることはやった。……あとは、セラがそれを実感してくれれば良いんだけど)

 

「トレーナ~! なんかたくさん人集まってきちゃったけど大丈夫なの~?」

 

困ったように……いや、諦めたような顔でセイウンスカイがやってきた。

練習場のスタンドには、噂を聞きつけた人だかりが出来ていた。

 

「良いの良いの。観客の前で走る練習でもあるんだから」

 

みんなが注目するのも、当然ではある。

 

 

"最強世代"の筆頭格、グラスワンダー。

対するは、ここ最近の成績すら存在しない『元マネージャー』の肩書を持つウマ娘。

 

 

誰もが、何故こんな無謀なレースが組まれたのか理解できていない。

 

ただ一部を除いて。

 

 

 

 

「グラス……本当にやるんデスね」

 

困惑した表情で、エルコンドルパサーがコース上のウマ娘に視線を送る。

 

「……エルちゃん、グラスちゃんは今日のことをなにか言ってた?」

 

隣で真剣な顔をしながら、同じ方向へ目を向けているスペシャルウィークが尋ねた。

 

「特になにも言ってないデスよ。楽しみ、とは言ってましたが」

 

「……もしかして、なんだけど。

 グラスちゃん、セラちゃんに勝ち癖をつけさせるために、この勝負を申し込んだとか……?

ほら、二人とも怪我から復帰したもの同士だし」

 

「……スペちゃんは、あのグラスの顔を見てもそう思いますか?」

 

 

遠く、スタート位置で準備を始めているグラスワンダーは

既に先ほどまでの、穏やかな空気を纏っていなかった。

 

 

先日、最終直線で競り合いの末に完全敗北を喫した。

レース前から異様な雰囲気を放っていた彼女は、ターフを駆けている時も変わらなかった。

 

 

ただただ、後ろから迫ってくる蹄鉄の足音が、裂帛の気迫と錯覚するほど。

背筋の凍るような感覚と同時に、気が付けば横に居て、背中を見ていた。

 

二着に敗したスペシャルウィーク当人が、宝塚記念で感じたことである。

 

その時ほどまで、研ぎ澄まされてはいないが……似た空気を漂わせているのだ。

 

 

「……本気、なんだね。グラスちゃん」

 

 

普段は優しく、気配りも出来る優等生な彼女のことだ。

自分にも他人にも厳しい。甘さなどあるはずもない。

 

 

今日は、真っ向から勝ちに行くつもりの面持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セラちゃん。改めて、今日はよろしくお願いします」

 

口元にしか存在しない笑みで、練習着姿のグラスワンダーが手を差し出す。

 

「うん。よろしく」

 

セラフィナイトも手を出して握る。

 

「距離は1800mですからね~。ちょうどコースを一周ですよ」

 

「大丈夫、わかってる」

 

模擬レースとはいえ、久しぶりの対外戦。

手から伝わる緊張に、グラスワンダーは声をかけない。

 

これは真剣勝負なのだから。

 

「お互い、全力でいきましょう」

 

「うん!」

 

手を放し、スタート位置に入る際

グラスワンダーはちらりと、対戦相手の足元を見た。

 

両足に装着されたサポーター。

 

 

……特に言うことは無い。

 

 

それが『現在地』であるなら。

 

 

 

理解させるだけ。

 

 

 

 

 

「二人とも、準備は良いわね」

 

くじで負けたキングヘイローがスターターを務めることとなった。

お互いの状態を確認すると、すぐに肯定が返ってくる。

 

手に持った旗を前に差し出すと同時に

前傾姿勢になったのを見定めてから……少し間を置き。

 

 

「よーい……スタート!」

 

振り上げの動作と掛け声。

芝の抉れる音と強い振動が二つ、ターフに鳴り響いた。

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