セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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16.5話『トレセン学園の掟』

「みんな、資料は行きわたったかな? 抜けがある人いたら言ってね~」

 

夏休み直前の放課後。

 

チーム・アルタイルの部屋にて、説明会が行われていた。

 

ウマ娘達の手元には、トレーナーお手製の冊子が配られている。

表紙には、絶妙な画力のキングヘイローとセイウンスカイが走っている絵が描いてあり

吹き出しには『夏合宿のしおり』とだけ、幼子のようなかわいらしい文字が添えられていた。

 

 

「今年の夏は、特に気合入れていくから覚悟するように!

 なんたって、ウチにはGⅠウマ娘が二人もいるんだから、他のチームからの注目度も高い。

 今まで通りじゃ、絶対上がりウマ娘の餌食になっちゃうよ」

 

「具体的には何をするんですか?」

 

一人の所属ウマ娘が手を上げつつ質問をする。

それに対し、トレーナーは誇らしげに指定のページを開くように答えた。

 

 

「グレードと目標レースを踏まえて、各個で足りないものを補っていく感じかな。

 ……とはいえ~、わたしの身体は一個しかないのでぇ……。

 個別指導できる時間は限られちゃうけどもぉ……」

 

申し訳なさそうに謝りつつ、それでも出来る最大限のことは尽くす

と約束する。

 

 

距離適性や秋から挑むレースの決まっているウマ娘毎に、それぞれメニューを作り

その中で、共有できるスキルや知識があれば合同練習という形で集まり、みんなと教え合う。

 

時間と人手が無いなりに、考えた結果が資料から見て取れた。

 

 

 

「ちなみに、セラ。あなただけは特別メニューね」

 

「え?」

 

セラフィナイトが驚いた顔をあげると、トレーナーはさも当然かのように続ける。

 

 

「復帰してから、まだグレードレースに出てないでしょ。

 足の状態のこともあるんだから、あなたは別個でメニューを渡します。

 いいね?」

 

「……はい」

 

 

不満と言うわけではないが……。

パラパラとページをめくるだけでも、トレーナーへの負担の大きさがよくわかる。

そこに、また自分のみの管理項目を作って平気なのだろうか。

 

 

「って言う心配はご無用です。

 あなた達はウマ娘、わたしはトレーナーであり……大人……!

 無理と無謀をしながら、出来ないことは出来ないってちゃんと言う人間なのは

 みんなも知ってるでしょ。

 わたしが作った資料で、わたしが出来ないことは載せないよ」

 

 

チームメイトが増えて多忙ではあるが、弱音は吐くことはあれど

指導を投げ出すようなことはしたことはない。

 

信頼のおけるトレーナーが、ここまで言うなら。

 

各々はしっかりと頷き、指導者の志に従うこととした。

 

 

 

 

「ちなみに……まあ、まさか? このアルタイルに?

 そぉーー~~~んな、不届き者が居るわけないけど……

 期末試験で『赤点』取った子は、居ないよね?」

 

 

和やかだった空気が、一瞬固まる。

 

 

「トレセン学園の規定で、赤点のある人は追試を合格できないと

 合宿には参加できない……ってのは、まあ常識か。

 とにかく!! いくら わたしでもねえ! そこまでは面倒見切れないからね!?

 もし! 万が一! 121億分の1の確率で、赤点者が居たら……」

 

 

「……いたら?」

 

 

「容赦なく置いていきます。

 これは学園所属ウマ娘、全員に当てはまる処置ですので。例外はありません。わたしの権力を超えた力ですから」

 

 

ピシャリと言い放ち、そこで今日の会議は解散となった。

 

 

 

「トレーナーも心配性ね。試験で上位数名に入れ、とか難しい話じゃないでしょう」

 

学年内での、成績優秀者であるキングヘイローは、全く怖気ずにその言葉を受け入れる。

 

「去年はそんなこと言わなかったのに。不思議だね」

 

キングヘイローには届かなくとも、同じく心配の必要がない成績だったセラフィナイト。

 

「……よし。じゃあ、私はもう行くね」

 

そそくさと準備をして、外へ出ようとするセイウンスカイの肩を、キングヘイローが掴む。

 

「スカイさん? まさか、あなた……」

 

「あ~、違う違う。試験はちゃんと合格してるよ。見せようか?」

 

と言いながら、順位表と点数の書かれた細長い紙を取り出す。

一部の成績はギリギリではあるが、確かに追試を受ける出来栄えではなかった。

 

「だったら、なんでそんな紛らわしいことするのよ」

 

「いや、わかるでしょ。私は面倒事に巻き込まれたくないだけで~す」

 

手を振りほどき、逃げるように部屋から出ていく。

 

疑問符が取れない頭を傾けていると、遠くから何かが走ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「あ、居た居たー! エルちゃん、キングちゃん達居ました!」

 

「ブエノ! スペちゃん、これで助かりますよ!!」

 

ノックもせずに入室してきた二人は、見知った顔だった。

汗をかき、走った後だというのにやや青ざめた表情のスペシャルウィークとエルコンドルパサーだ。

 

 

「ど、どうしたの二人とも?」

 

驚き身をすくめるセラフィナイトと、すぐに状況を察知したキング。

大きくため息をついて、額に手を当てた。

 

「……まさかとは思うけど……。あなた達、もしかして……」

 

「さっすがキング! 話が早くて大助かりデェェエス!

 ささ、今からエルが言うことを復唱してください!

 『あなたの勉強は、私が見ます』!! さん、ハイ!」

 

「あなたの勉強は、私が見ます」

 

「ケ!?」

 

欲しかった言葉はキングヘイローの口からは語られず。

 

いつの間にか背後に立っていた、グラスワンダーの冷たい語気で果たされた。

 

「エル……私、あれほど言いましたよね。

 今年は理事長の意向で、特に勉強面で厳しくなる、って。

 赤点のボーダーが普段より高めになりそうって、散々言いましたよね?」

 

「ヒェ……グラス……あの……アタシ、キングかセラちゃんと……」

 

「別チームの、別のクラスの人に、そんなこと頼む暇があるとでも?

 忙しい時間を、あなたが持っていったらダメじゃないですか。

 ねえ、キングちゃん?」

 

「え、ええ……」

 

「キング―ー!!?? そこは嘘でも、面倒みるって言ってください!」

 

「さあ、エル。戻りますよ。……そうだ。スペちゃんもご一緒しますか?」

 

「え、ええと! 私は……うぅ、セラちゃん助けてぇ~~」

 

「あはは……。じゃ、じゃあスペちゃんは私とやろっか」

 

「セラちゃん! それ、それ! エルも参加させ」

 

「行きますよ、エル」

 

「ぐひぃっ! な、なんて見事な……ギロチン……チョーク…………ガクッ」

 

「さて。お騒がせしちゃいました。失礼しますね~」

 

「ば、ばいばーい」

 

 

手を振り、嵐の元を送り出す。

 

人がいるのに静かなアルタイルの部屋の中。

 

冷房が必要以上に効いているような冷え込みが、一同に残ったのだった……。

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