セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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1話『セラフィナイトの決意』

「どう、スペちゃん! 今日のは自信作!」

 

「……んん~~」

 

「え、え? ダメ? どこが?」

 

「んんん~~~~……!」

 

「もう、焦らさないでよ~~!」

 

「凄く美味しい! でもちょっ~と惜しいかなぁ」

 

「なぁんだ、そっち~!? あー、良かったぁ。ちなみに惜しい所は?」

 

「美味しいんだけど、もう少し甘みがあった方が食べやすいと思うんだ。

 にんじんの甘さも十分あるけど、お砂糖を足した方がお菓子に近い感覚になるんじゃないかな、と」

 

「さすがスペちゃん! 食べ物についての情熱だけは、熱いものもってますね」

 

「ふふ。お勉強の方も、同じくらいの姿勢でいてくれたら良いんですけど」

 

「ええー! 二人ともひどーい!」

 

とある日の昼食時。

セラフィナイトは、栄養補給用のプロテインバーを自作し

友人でもあるスペシャルウィークに試食を頼んでいたのだ。

 

同席していたエルコンドルパサーやグラスワンダーとのやり取りも、普段からよく見る通りだ。

 

「課題は甘さかぁ……。でもねスペちゃん。あんまりお砂糖で味をつけると糖分過多の問題があってね。

 今これちょうど一本で200キロカロリーに抑えてるから、それを超えないようにしないとビタミンバランスが」

 

「あちゃー、こっちもまた始まっちゃったかぁ」

 

机を囲む同期達の会話も、見慣れたもの。

セイウンスカイは、そんな友人らの楽し気な会話を耳にしつつ

マイペースに箸を進めていた。

 

「あ、居た! セラフィナイトさん。今日は私との約束があったでしょう!

 あちこち探しちゃったじゃないの! スマホはちゃんと確認なさいな」

 

額にわずかな汗をにじませて現れたのは、キングヘイロー。

同席していたウマ娘と彼女を含めた世代は"最強世代"と呼ばれ

トゥインクル・シリーズを大いに盛り上げている。

 

上世代のシニアクラスも交えたGⅠをも制覇しているのが所以だろう。

 

 

「ああー! ごめん、キングちゃん! 忘れてたわけじゃないの!

 用事済ませたら、すぐ行くつもりだったんだ」

 

「全く。忙しいキングの時間を奪わないで欲しいわ。

 さ、行きましょう」

 

「はぁい。じゃ、スペちゃん。また試作出来たらよろしくね!」

 

「うん! 待ってるね!」

 

 

ツカツカと歩いていくキングヘイローの後ろを、友人らに手を振り付いていくセラフィナイト。

 

楽し気な雰囲気の後に残された彼女らは、その背を少し寂し気に見つめた。

 

 

 

「……忙しそうだね」

 

ぽつりとセイウンスカイが漏らした。

言葉に誘われるように、スペシャルウィークも思っていたことを口にする。

 

「チームマネージャーさんだもんねぇ。トレーナーさんの補佐なんだから、忙しいのは当然だよ」

 

「そうなんだけどさ~。ラフィはあれで良いのかなー、って」

 

「……あの時、あんなことにならなかったら……」

 

 

 

彼女らの脳裏に浮かぶのは、とある日の重賞レース。

 

最終コーナーを曲がり、直線でスパートを掛け合うデッドヒートの真っただ中だった。

 

 

逃げによる戦法が得意なセラフィナイトは先頭を一人走っていく。

 

必死の形相で、後続のウマ娘達はその背を追った。

 

最後の力を振り絞り、誰よりも前へ。

この時の為に、しっかり溜めていた脚を一気に解放し一着を。

 

 

 

先行策を取っていたスペシャルウィークも。

それに負けじと食らいついていた、キングヘイローも。

客席で見ていた、グラスワンダーやエルコンドルパサーも。

他のウマ娘の研究のために、全体を見ていたセイウンスカイすらも、その姿に目を奪われ。

 

 

 

誰もが、残り600mの地点で気付いた。

 

 

 

 

――――絶対に追いつけない……!

 

 

 

その加速力、ぶれない体幹。

全力を出しているのに、背中がどんどん遠ざかる。

 

 

 

共に走るウマ娘達全員に浮かび上がった、冷たい気持ち。

 

 

 

だが、その結果は思った通りにはならなかった。

 

 

残り1ハロンで突如失速したセラフィナイトは、結局そのまま後続に埋もれて最下位。

 

 

ゴール板をギリギリ超えたと同時に、崩れる様に倒れこむ。

苦悶の表情で足を押さえる彼女を見れば、その原因は明らかであった。

 

 

 

 

「あの後すぐにお見舞い行きましたけど……凄く元気なさそうでした」

 

痛々しい傷の治療痕だけではない。

心まで折られたような表情で、ベッドに横たわるセラフィナイトをエルコンドルパサーは思い出す。

 

「クラシックはまだしも……年末の有記念なら、どうにか間に合わないかなぁって思ってたんだけど」

 

耳をしおらせながら、食後のにんじんジュースを飲むスペシャルウィーク。

 

「足のケガ、聞いているよりずっと酷かったようでして。

 軽く走るくらいならまだしも、全力で駆けてまた同じ箇所を痛めてしまうと

 普通に歩くことも難しくなるかも……と、言われてるみたいですね」

 

ケガから復帰した経験のあるグラスワンダーは、足をさすりながら言う。

 

「セイちゃん、リハビリに付き合ってたよね。どんな感じだった?」

 

「しばらく辛そうにはしてたけど、頑張ってたよ。

 ただクラシック始まってからは、トレーナーに任せちゃってねぇ……。

 実際、状態をよく知らないんだよね。そもそも本人が話したがらないし」

 

チームメイトでもあるセイウンスカイも、詳しい事情は聞かされていない。

 

ただ、いつの間にかレースに臨むウマ娘ではなく、トレーナーを補佐するマネージャーへ

自らの意思で転向したという。

 

 

もう、走ることを辞めてしまったのだろうか。

 

誰もが同じ疑問を浮かべる。

 

 

そして、それは唐突に答えが明かされることとなった。

 

 

 

「……あれ、セラは?」

 

 

長い髪をハーフアップに。童顔な割には、少し濃い化粧で圧を演出。

アイロンがけされた綺麗な濃紺のパンツスーツ。

 

まだ年若くも、その手腕で有名チームになっている『アルタイル』のトレーナーが場に現れた。

 

「いまさっき、キングとどっかいっちゃったよ~」

 

チームメイトのセイウンスカイが質問に答える。

それを聞いたトレーナーは、困ったようにため息をついた。

 

「そっか。急ぎの用だったんだけど……うーん、どうしよう。電話も繋がらなかったし」

 

「何かあったんデスか?」

 

興味本位で疑問を口にしたエルコンドルパサー。

他のウマ娘たちも、同じ様子で返答を待っている。

 

トレーナーは少し悩み、指を額に当てる時間が5秒ほど経過した後。

 

「ま、あなたたちも知った方がいい内容かな」

 

と言いながら、内ポケットに入っていた封筒を取り出した。

 

「受け取ったは良いんだけど。署名欄にサインがなかったんだ。

 わざと……なのかはわからないけど。話が聞きたくってね~……」

 

一同は声も出せずに驚愕していた。

 

 

封筒の表に書かれていたのは、『脱退届』

 

それは、チームアルタイルを抜ける意志表示。

個人であれ、チームであれ、トレーナーとの契約を破棄するということは

 

トゥインクル・シリーズに出られないことを意味する。

 

 

 

「なんで……そんな、突然……!?」

 

青くなるスペシャルウィークの口から零れた言葉に

トレーナーは首を横に振って答える。

 

「実は、いきなりじゃないんだ。

 年明けぐらいから相談は受けてきたの。何度も引き止めてるんだけど……。

 先日、ついにこれを突き出されてね」

 

悔しそうな表情で封筒を握るトレーナー。

 

同期達も、困ったように顔を見合わせた。

 

志半ばで道を諦めたウマ娘はたくさんいる。

才能の前に敗れ、学園を去ったものだって少なくない。

 

精神的なものならば、支えてやることもできるだろう。

だが、肉体的に難しいことはわかっている。

 

『走るウマ娘』でいることを、無理強いさせることは誰にも出来ない。

 

 

「それで……受け取ったの?」

 

いつになく真剣なまなざしでセイウンスカイが尋ねた。

ため息交じりでトレーナーは返事をする。

 

「わたしも納得してるわけじゃないから、正式な受理はしてないよ。

 ただ……最終的にどうするか、決めないといけない時が来ちゃったのは間違いないね。

 今まで、ずっと曖昧にしてきたことでもあるし……。

 ……と、楽しい時間に水を差しちゃってごめんね。他を当たってみるよ」

 

 

この一件はどうか内密に、と言い残しトレーナーは場を後にした。

 

 

 

気まずさと悲しみと落胆と。

重々しい空気だけがテーブルに残る。

 

目線を落とす輪の中、唯一。

セイウンスカイだけが、いつものようにどこか遠くの空を窓越しに眺めていた。

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