セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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17話『トレーナー直伝の技』

夏。

 

 

太陽は高く昇り、大地が溶けるような熱を放つ季節。

白波だつ大海原を前に、綺麗に整備された砂浜が座している。

 

 

 

ここはトレセン学園御用達の合宿地。

秋まで大型のレースがないため、学園主催での強化合宿カリキュラムが組まれている。

 

夏休みという時期を利用して、ほとんどウマ娘は参加し、大幅なパワーアップを図るのだ。

参加しないのは、夏レースに出る者や参加禁止を言い渡された者ぐらいだろう。

 

 

 

チーム・アルタイルは、もちろん参加だ。

 

向かうまでの行動は、学園のバスで移動なので皆と同じだが

到着してからの行く末はそれぞれ異なる。

 

まだ新進気鋭のチームや、成績の上がり切っていないチームは、小さな宿へ向かったり

逆に、見たことないほどハイグレードなホテル施設に泊まる者も存在する。

 

 

アルタイルは、徐々に頭角を現している若いチームだが……。

昨年度のGⅠ制覇ウマ娘の成績や、トレーナー自身が持っているコネクションにより、それはとても豪勢なホテルで過ごすことが決まっている。

 

 

となれば、使える施設や設備も相当なもの、と誰もが目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、みんな集まったね~」

 

「はーい……」

 

 

その輝きは、すぐに失われる。

練習着に着替えたチームメンバーは、潮風も届かない蒸し暑い山の中で、肩をがっくり落として集まっていた。時折、そよ風が吹いて葉を揺らすが、清涼効果はほとんどない。

人気もなく、自動販売機すら少し歩かないと見つからないほどの場所だ。

 

 

「はい、トレーナー!」

 

「なんだね、スカイくん」

 

「なんでこんな所で練習なんですか! あと、なんですかその恰好!

 セイちゃん、もっと涼しい場所でやりたいでーす!!」

 

照りつける夏の日差しを物ともせず、生地の厚い道着を着ているトレーナー。

黒い帯を巻いているが、コスプレではなくしっかりと金糸で流派と名前の刻まれた、使い古されたものである。

 

立っているだけで汗のにじみ出ているセイウンスカイは、色々と理解できずに一同を代表して抗議した。

 

 

「そうしたいのは山々なんだけど。見られて、技を盗まれたら勿体ないからね。今だけちょっと我慢して。

 ちなみにこの格好は、気合が入るので着ているのです。そう、言わば……勝負服!」

 

誇らしげにしているが、本当に大丈夫なのかこのお嬢様は……。

そんな疑問が、誰が口にするでもなく浮かび上がる。

 

遊びや道楽で、無駄に時間を潰すような人ではないが……。

暑さで頭をやられた、という線もあり得そうな状況。

 

 

「日差しもキツイし、早く始めようか」

 

 

服についての答えはどうでもいいのに、肝心の部分の返答が適当だったことに若干苛立ちを覚えながらも。

 

ある日、武術の練習中に活かせそうだと閃いたトレーナーの『秘技』の伝授が始まった。

 

 

 

 

「みんな、『縮地(しゅくち)』って聞いたことある?」

 

「あ、知ってる! 速すぎて見えないヤツ!」

 

「え? 瞬間移動でしょ?」

 

「と、言うことは……トレーナー、出来るの!? 瞬間移動!?」

 

勝手に湧き上がるウマ娘達を、申し訳なさそうに宥める。

 

「あはは。ファンタジーじゃないんだから、そういうのは出来ないよ。

 わたしが教えるのは、飽くまで実際にやれる範囲のこと。

 まあ、見てて」

 

 

そう言いながらトレーナーは、みんなから少しだけ距離を置いた。

 

「じゃ、行くよ~」

 

と和やかな雰囲気を出した直後。

 

身体を傾けて、地面に倒れこむような動作をしたと同時だった。

 

「え!?」

 

「速っ!」

 

 

突然加速したトレーナーは、一瞬にして先ほど空けた距離を詰めてきたのだ。

流石に人間の出せる速度の話ではあったが、普段のんびりしてそうな女性からは

到底想像できないほどの動きである。

 

 

得意げに繰り返すトレーナーが、鼻の下を擦りながら理論を説明する。

 

 

「歩き出しの動作を、重力で補うんだよ。

 倒れこみながら、足を前に出して……地面を蹴るというより、地面に乗っていく感覚だね。重心と一緒に地面を蹴って……加速する!」

 

 

実際に何度も何度もやって見せながら、やり方を伝えていく。

 

本来は相手の不意をつく際に使う、初動作の足運びだ。

だが武道のように、実際に戦うわけでもない。そもそも、そんなことをすれば妨害行為で失格だ。

 

 

凄いは凄いのだが、こんなものが一体どこで役に立つんだ……?

 

 

疑問が膨れる前に、キングヘイローが一つの結論を述べてみた。

 

 

「スタートダッシュに使える、ってことね」

 

「そのとーり! 流石はキング!

 ゲートの開いた時に使えば、出遅れだろうとすぐにトップスピードに持っていけると思うんだ~」

 

(……あれ、そういえば)

 

セイウンスカイが気付いたのは、トレーナーの呼吸だった。

 

温度により汗は滲んでいるが、トレーナーの息は全く切れていなかった。

瞬発力を必要とされるような素早い動作を、何度もやっているというのに。

 

「よぉし、みんな大体わかったかな?

 後はひたすら練習だよー。これでアルタイルの『スタート最速伝説』を作っちゃおー!」

 

 

元気いっぱいに拳を掲げるトレーナーに、チームメイトたちは応じて拳を突き上げる。

最初のきな臭い雰囲気はどこへやら、皆とっくにこの新技術の虜になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、トレーナー。これ、ラフィには教えなくて良かったの?」

 

休憩時間になり、スポーツドリンクを飲みながらセイウンスカイが聞いた。

 

 

そう。輪の中に、セラフィナイトは居ないのだ。

 

 

「うん。あの子の場合、まずは先にすることがあるから」

 

「先にすること?」

 

「遠くの新しいものより、近くの大事なものを取り戻してもらわないと」

 

「……あ~、そういう。でも、一人でやらせるのは流石に酷くないですかぁ~~?」

 

「大丈夫。グラスちゃんに続いてまた願ってもない助っ人が、協力してくれてるから。

 ホント、友達には恵まれているよ。セラは」

 

「……助っ人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

山間から離れた、遠くの砂浜。

膝をついて、汗を滝のように流すセラフィナイト。

浅い呼吸で取り込む空気は熱く、肺が焼けてしまいそうなほど。

 

 

「さ、セラちゃん。もう一本行こう! まだやれるよ!」

 

 

同じように汗水を流しているが、しっかりとその足を地につけているウマ娘

スペシャルウィークの、強い声が響き渡っていた。

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