セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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20話『青天の曇り』

「はぁ、はぁ……。ふぅ……」

 

 

日差しの届かない木陰に入り、一息つく。

山道のランニングを行っていたセイウンスカイは、汗を拭いながら空を見上げた。

 

 

じりじりと照り付ける太陽。

真っすぐに光を届ける姿を、指の隙間から覗く。

 

 

(いざとなると。やっぱ、そう思っちゃうんだよねぇ……私って)

 

 

時には神と崇め感謝したり、農作物の恵みとして必要不可欠なもの、太陽。

 

明るくて、温かくて。愛しさすら覚えることもある。

 

 

 

でも、誰だって好きというわけではない。

 

眩しいのは苦手なヒトも居る。

 

 

 

(だって、強い輝きは弱い光をかき消しちゃうんだもん)

 

 

軽くため息をついて、セイウンスカイは再び走り出した。

 

勝負に負けた悔しさ以外で、彼女がこうやって自らトレーニングをするのは珍しい。

 

 

理由は、先日の合同練習の時にあった。

 

 

 

合宿も大詰め。

それぞれ、不調から脱出した者や長所を伸ばせた者、いまいち効果が見られなかったもの。様々な結果を、最後にみんなの前で共有し合う練習だ。

 

「じゃ、次のグループ行くよ~」

 

トレーナーの合図で、ゲートにウマ娘達が入っていく。

合宿場にある、練習用コースでの最終調整だ。

 

それぞれ、次回の出走レースでの距離で走りタイムを計るもの。

同距離の者が居る場合は、模擬レース形式で執り行っている。

 

 

アルタイルのチームとしての新たな特色『スタート最速』

それを体現するための練習でもあるのだが。

 

 

中でも一際、異彩を放つウマ娘が居た。

 

 

 

「……ふぅ。うん、良い感じ」

 

 

芝2200mを走り終え、爽やかな汗を流す彼女の名はセラフィナイト。

 

同時に競争していた誰よりも速く、一番にゴールを駆け抜けた。

 

かつての不調は面影すらなく。

彼女のみが体現できる、唯一無二のスターティングは誰もが騒めいた。

 

 

「お疲れ様でした。もう、すっかり調子は元通りですね」

 

共に走った、後輩のカルミアボタンが声をかけてくる。

息を弾ませているが、まだ余裕そうな顔つきだ。

 

「ボタンちゃん! お疲れ様。最後の追い上げ、凄かったね。

 ビックリしちゃった。レース形式で一緒に走ったの初めてだもんね」

 

「はい。私も先輩の走りに驚きました」

 

相変わらず、他者にはほとんど聞けない声量で会話が続く。

 

「2200mってことは、次はやっぱりセントライト記念? 菊花賞出るんだもんね、ボタンちゃん」

 

「はい。ですが、実は……」

 

「?」

 

「ちょっとちょっと、セラちゃんってば何さっきのスタート!?」

 

「トレーナーと秘密特訓してたの聞いてましたけど、何だったんですかアレ!?」

 

 

普通、見慣れない光景を目にしたチームメイトが、驚きと羨望の眼差しで駆けよってくる。

カルミアボタンは、あっという間に囲まれたセラフィナイトにそれ以上声を掛けず

一礼してその場を後にした。

 

 

「……なに、それ」

 

 

そして、そんなレースを見て喜びではなく、(ほぞ)を噛むウマ娘が一人。

セイウンスカイが、厳しい眼差しでその輪を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「……あれ。」

 

思い出しながら、心の内に湧き上がる感情に思考を張り巡らせていると

山間のコース中だというのに、トレーナーが手を振って待っていた。

 

「お疲れ様、スカイ。精が出るね」

 

「おやおや、トレーナーさん。何言ってるんですか。セイちゃん、努力とか柄じゃないタイプですよ~?」

 

「あはは。今更何言ってんの。見たところ、もうトレーニングコースを3周はしてるんじゃない? それ以上はオーバーワークになるよ」

 

「いやいや、まだ走り始めたばっかりですって。どこでサボろうかなーって思ってたぐらいですけど?」

 

「……上着の裾、種ついてる」

 

「? あ、ほんとだ」

 

「その植物、あなたの走るコースなら、終盤の坂の上まで行かないと生えてないんだよ。

 汗の量と土汚れの感じといい、流して走ってるわけでもないでしょ。一旦休もう?」

 

「…………はぁ。敵わないなぁ、トレーナーには」

 

 

能天気なお嬢様っぷりを発揮するかと思えば、こういう観察眼は鋭いものがある。

小さな情報から本質を見抜く眼があるからこそ、この人が指揮するチームに入ったのだった。

 

 

ちょうど良い木陰があったので、入り込み座る。

トレーナーは、持参した鞄から冷えたタオルとコンパクト扇風機を取り出して、セイウンスカイの身体を冷やした。

 

「……」

 

「……」

 

顔を拭い、手持ちのスポーツドリンクをストローで飲みながら空を見上げる。

 

 

ただただ強い日差しが、青い空を覆っている。

時折、目を細めながらもセイウンスカイは無言で休息していた。

 

 

「……焦ってる?」

 

何かしらの心中を察したのか、トレーナーが口を開いた。

スカイはいつものように、はぐらかそうとするが。

単なるお遊びの会話とは違う、優しくも気を遣うトーンを聞くと、それも無駄だと察する。

 

「……そりゃ、あんなの見せられたらね」

 

 

 

才能の塊。

 

自分たちの世代は、みんながそうだ。

輝かしい成績を収めた親、自らの走り。

 

策をめぐり、張り巡らせ、ようやくその土台にギリギリたどり着ける。

走れば走るほど、その格差にいつだってぶち当たる。

 

特に顕著に思うのが、セラフィナイトだ。

長い間、負担のかからない程度の自主トレしかしてこず、レース経験は1年以上無い。

 

 

にも拘らず、数か月でGⅠウマ娘達に比肩する能力を取り戻してしまった。

 

 

友達としては嬉しいことだが、ことレースになれば話は別。

途端に、最大級の敵として立ちはだかる。

 

 

それを実現させてしまう、才能という言葉がセイウンスカイは大嫌いだった。

 

 

「スカイのことだからさ、みんな天才でずるいよなーとか思ってるでしょ」

 

「……そこまで悟られると、気味が悪いですよ。なんなのさ、トレーナー。いっそ変態ですって」

 

「純粋な身体能力なら、確かにみんな凄いと思うけど……スカイは、別に才能があるでしょ」

 

「この小賢しい頭のことを言ってるなら、見当違いですよ。こんなの、才能でもなんでも」

 

「そーやって、卑屈になるのがあなたの悪いところ。セラと同じ、あなた達の欠点だよ。

 ちょっとは己の才能を自覚して、自惚れてみなさいな。十分、立派な武器なんだからさ」

 

「…………」

 

空になったドリンク容器を口にしながら、複雑な気持ちを懸命に整理する。

 

 

「……トレーナー……私、秋の天皇賞は絶対欲しい」

 

スペシャルウィークに敗北を喫した春の天皇賞。

長い距離を得意としている彼女が、その土俵で負けた。

底力の差を思い知らされた、悔しいレース。

 

同等格のGⅠレース、秋の天皇賞。

夏の合宿を終えて、更に強豪たちがひしめくこと間違いなしの厳しい戦いだ。

 

 

でも、だからこそ。

 

 

勝って、自分の才能(知略)を証明したい。

みんなに負けないものを、持っていることを一着になって示したい。

 

 

「当然。その為に今、色々やってるんでしょ」

 

「わかってるけど……。本当にこのままで大丈夫なのかなぁ……」

 

「…………しょうがないなぁ。じゃースカイにはとっておきを教えてあげよう」

 

「え?」

 

煮え切らない感じを払拭すべく、トレーナーは立ち上がる。

 

「みんなに教えた『縮地』ね。あれ、実はスタートダッシュの秘策だけじゃないんだよ」

 

日向のランニングコースまで歩いていくと、解説を始めた。

 

「走り出しの動作だけじゃなくて、走っている途中にも応用できるの。

 まだ、わたしも試行錯誤中だから黙ってたんだけど……」

 

 

言いながら、走行中のフォームから繰り出す縮地を披露するトレーナー。

 

ウマ娘によっては、縮地は前傾姿勢になりすぎるので、普段の走り方から急変させるとフォームを崩してしまうこともある。

 

しかし、そもそも前傾姿勢気味に走るセイウンスカイなら、問題なく使いこなせるだろう。

 

「なるほどねー。やっぱ、そうだと思ってた」

 

「ありゃ、気付いてたの?」

 

「だって、あんだけ全力のスタート切ってるのに、ほとんど疲れないんだもん。

 走ってる最中に出来れば、一息つくのに持って来いじゃないかなーと睨んではいましたよ」

 

「さっすがスカイ。ってことは、もしかして……」

 

「…………まあ、こっそり試してみたりは」

 

「あはー! スカイのそういうところ、わたし好きだなー」

 

「はいはい。でも、スピードを維持するのが難しくって……。カーブも出来るのかな。どうやってるの、トレーナー?」

 

「あー、そう。そうなんだよ。だからね、その場合は足だけじゃなくて、頭の方をもっと……」

 

 

 

休憩時間も録に取らず、二人の特訓は続いた。

何度も何度も、フォームの確認とスピード維持を目的に反復練習が続く。

 

最初から、指導の時のみに着るスーツではなく。動きやすいジャージ姿をしていたトレーナー。

彼女の配慮に気付いたセイウンスカイは、その好意に黙って甘えることとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

特訓の最中、セイウンスカイはふと気になったことがあった。

 

「ところでさ、トレーナー」

 

「ん?」

 

「私だけ、贔屓しちゃっていいの? これ他の娘が見たら、やりたがると思うんだけど」

 

「スカイが習得できたら、みんなに教えるつもりだよ。

 まー、セラとかボタンみたいなストライド走法が主体の子には、中々向かないけど」

 

「ふぅん」

 

「それに、贔屓はして良いの。だって、みんな違う考え、違う身体を持ったウマ娘なんだから。

 平等に指導はするけど、公平には指南できないよ」

 

「そりゃあそうですけど……。てっきり、お気に入りの娘にしか教えないつもりなのかな、って」

 

「ほ~ん? さては、妬いてるのかね、スカイくん?」

 

「べ、別にそんなんじゃないです~!」

 

「うんうん。まあ、それはそれとして。

 スカイの策についてなんだけど。みんなの頑張りも、あなたにとって一つの目論見になるからね」

 

「?」

 

「最近スカイがやってる、『もう一つの戦い方』は、アルタイルの方針とかみ合ってない(・・・・・・・)んだ。

 それがまた、良い感じにアクセントになると思うんだよ」

 

「…………ああ。そういう」

 

「そう、そういうこと。騙すならまず味方から、ってね」

 

「トレーナーもワルだなー」

 

「勝てばいいの、勝てば。だから、スカイの出走レースは天皇賞一本にするけど。

 それでもいいよね」

 

「大丈夫だよ。有への調整もあるしね」

 

「うん。頑張ろう」

 

 

 

晴れ晴れとした空の下。

 

今は太陽に負けない、青い空が清々しく広がっていた。




「あ、そうだ。トレーナー。一つだけ、お願い事があるんだけど」

「なぁに?」

「その、年末の有記念のことでね。ラフィと……」


――。



「なるほど。わかった。じゃあ、セラには言っておくね」

「ううん。私から言うよ」

「…………そっか。なら任せます」

「任せてくださいな」
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