セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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22話『夏空の終わり』

「……ん?」

 

エルコンドルパサーが始めた、即興のフラメンコパーティ。

いつの間にか、宣伝目的で来ていた逃げ切りシスターズというアイドル……いや、ウマドルグループも共に歌って踊り始めていた。

 

楽し気に手を叩いたり、踊ったりしている輪の中でセラフィナイトも同様に楽しむ。

 

そんな時、手に持っていた巾着袋が振動しているのに気付いた。

 

中のスマートフォンを取り出すと、少しだけ静かな道端の方まで移動し、通話を開始する。

 

 

「もしもし、キングちゃん?」

 

《セラフィナイトさん? 今どこにいるのかしら》

 

大体の現在地を伝えてみる。

どうやらキングヘイローの方は、やや離れた所に居るらしい。

 

「どうしてそんなところまで?」

 

《大方、釣りにでも行こうとしたんじゃないかしら》

 

《違いますー! 花火あるのに、釣りなんてするわけないじゃん! フラワーが居たから、ちょっと話してただけだよ》

 

どうやら、ちゃんとセイウンスカイを捕まえることは出来ていたようだ。

 

《セラフィナイトさん、こっち来てもらえるかしら。スカイさんのことだから、目を離すとまたどっか行きそうなのよ》

 

 

生返事をしてから ちらりと、セラフィナイトは友人らが遊んでいる集団を見た。

 

地元の人や、ウマ娘達のファンが集って大いに盛り上がっている。

水を差すのも申し訳ないな、と思い、通話アプリのグループチャットに一旦抜けることを伝えておいた。

 

「わかった。今から行くね」

 

《ええ、お願いするわ》

 

《もー、子どもじゃないんだから放っておいてよ~》

 

ふてくされた声から出る文句を最後まで聞かず、セラフィナイトは通話を切り、歩いていく。

 

 

(気持ちいい風……)

 

祭囃子が遠ざかっていく。出店の光が徐々に薄くなる。

逆に強まるのは自然の香りと暗い夜。

 

昼間の熱はどこへやら、ほどよい潮風が肌を撫でていく。

からんからんと、下駄の音が心地よい。

 

 

耳が良いセラフィナイトは、大きな音が苦手だ。

しかし、閉塞感と衣擦れの音はもっと嫌いで、いつもはカバーをつけていない。

 

こういったお祭りの時や、学園のファン感謝祭の時なんかは付けるようにしている。

本来は不得手なものでも、特別な時にする衣装はやはり気分があがる。

 

(……なんて、思えるように成れてよかったなぁ)

 

去年の今頃は、怪我に苦しみ復帰を諦めようと決心しかけた頃だ。

まさか、合宿に選手として参加しているとは、当時の自分に伝えても信じられないと思う。

 

 

 

言いようのない充実感を纏い、軽やかなステップで進んでいくと

前方に二人のウマ娘が居るのを見つけた。

 

「おまたせー」

 

「待ってたわ。やっぱり、スカイさんってば、隙を見て抜け出そうとしてたのよ!」

 

首根っこを掴まれて、猫みたいになっているセイウンスカイが不機嫌な顔をして手足をばたつかせる。

 

「もー。だーかーらー。フラワーと話してる途中だった、って言ってるでしょー。最後に挨拶しようとしただけじゃん!」

 

「ふふ。スカイちゃん、ニシノフラワーさんと仲良しだもんね」

 

「仲良しって言うか……別に、よく話すだけ」

 

そっぽを向くが、頬が少しだけ染まっているのをセラフィナイトは見逃さなかった。

 

「あの子はさっきトレーナーさんが迎えに来てたから、ついて行く必要なんてないでしょう。もうすぐ花火も始まるんだから、勝手に離れたりするんじゃないわよ」

 

「ぶーぶー。キングのお節介も、本当に大概にして欲しいよ。私の自由はどこにあるのさ~」

 

「まあまあ。他の皆も、もう少ししたら合流するみたいだし。

 場所取りついでに、ちょっと海の方まで歩いていかない?」

 

 

花火は海上から打ち上げられる。

浜辺の方で、良い場所取りをするのが一般的だ。

 

「そうね。スカイさんのせいで、まともに気も抜けなかったし」

 

「誰も頼んでないし~」

 

「ふふ。じゃ……行こうか!」

 

セラフィナイトは当たり前のように

 

キングヘイローとセイウンスカイの手を片方ずつ握り、共に歩き出した。

 

 

「まったく……相変わらず、好きなのね。これ」

 

「うん。大好き」

 

三人がチームに入りたての頃。

練習が終わり、まだ日も高い自由な時間に、こうしてよく歩いていた。

 

話し込んでいるうちに、いつの間にか握ってしまった手。

セラフィナイトは、二人への思いが昂ると自然とそうしてしまう。といつも言っていた。

 

共に未来を期待視された者同士。

性格はそれぞれ違うけれど、目指す先はGⅠでの一着。

それだけは共通していて、たくさん話をした記憶がある。

 

「……」

 

子供のような行動を、まんざらでもない顔でいつも受け入れるキングヘイロー。

セイウンスカイも、そんな普段は見られない彼女の様子が面白くて好きな時間だった。

 

 

…………けれど。

 

楽しそうに笑う中、セイウンスカイは隠しきれない思いに、少しだけ表情が負けそうになってしまっていた。

 

 

 

「このあたりなら、良さそうだね」

 

潮騒の聞こえる浜辺まで到着した。

暗い海の向こうで、ゆらゆらと光が揺れている。

海上から打ち上げるための船だろう。

 

時間を調べると、そこまで猶予がなかった。

 

慌てて、スペシャルウィーク達に連絡すると、どうやら既に動き出しているらしい。

しばらくすれば合流できそうだ。

 

 

「もうすぐ来るってさ」

 

スマホから目を離し、二人に告げるセラフィナイト。

 

「スカイさんより、あの子達の方がよっぽど適当ね……。

 グラスさんが居るから油断してたわ」

 

「ちゃんと叱ってよ~? 私だけ損じゃん、これじゃあ」

 

「あなたは日ごろの行いがあるでしょ!」

 

「ちぇ~」

 

「……そうだ。キングちゃん、スプリンターズステークスはどう? いけそう?」

 

待っている間、秋のレースについて話すことにした。

質問に対し、キングは特訓の日々を考えながら答える。

 

「そうね。この合宿で徹底的にトモを鍛えたから、その成果を発揮させたいわね」

 

「縮地は出来るようになった?」

 

「差しや追い込み脚質の子は、中々難しいのよアレ。

 スタートが速過ぎると、逆に位置取りがおかしくなるのよね。

 もう少し、応用できれば良いんだけど」

 

「……」

 

「私も、スタートの時だけかな。普段の走り方とは合わないし」

 

「セラフィナイトさんは、オールカマーよね」

 

「うん。楽しみ!」

 

「復帰戦だからって、気を抜くんじゃないわよ。

 走るなら当然、ぶっちぎりで勝ちなさい」

 

「うん!」

 

「スカイさんは、もうすぐ札幌記念だったかしら? その後に秋の天皇賞よね」

 

「ん? ん~……そうだったかな~」

 

煮え切らない返事が戻ってくる。

話を聞いていなかったわけではなさそうだが……。

 

「……よっと」

 

セイウンスカイは履物を脱ぐと、オーバーオールの裾を捲り、海の方へ歩いていった。

 

「スカイちゃん?」

 

「…………あのさ、私ね。次のレースは、秋の天皇賞に絞るつもりなんだ」

 

「え、そうなの?」

 

セラフィナイトとキングヘイローが顔を見合わせる。

お互いに聞いていなかった話のようだ。

背を向けたままセイウンスカイが続ける。

 

「その後のことは考えてないけど……年末には、有記念に出たいかな」

 

「当然よ! キングもセラフィナイトさんも出るつもりなんだから。

 あなただけ出走しないなんて、ない話だわ」

 

「……うん。そうだね」

 

普段より、もっと落ち着いた雰囲気のスカイ。

何か言いたいことを、一生懸命言葉を探しているような……。

いや、覚悟を決めているかのような……。

 

 

「だからさ、ラフィ」

 

 

振り返り、真っすぐ告げる。

 

 

 

 

「合宿終わったら一緒に練習するの、もう止めよう?」

 

 

 

 

夜空に、大きな花火が一輪、打ちあがった。

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