セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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23話『宣戦布告』

「え……?」

 

鳴り響く破裂音で聞こえなかったわけではない。

 

セラフィナイトの耳には はっきり、セイウンスカイからの拒絶の言葉が届いていた。

 

 

「ちょ、ちょっとスカイさん!? なに言ってるのよ、あなた!」

 

詰め寄りたいところだが、波打ち際にいるのと自分が浴衣なので近づけない。

キングヘイローは、大きな声を上げることでしか抗議が出来なかった。

 

 

「……スカイちゃん……本気?」

 

 

絞り出した声は震えていた。

思考が追い付かなくて、どうしても確認だけでも、と漏れた問い。

 

 

薄暗くて見づらかった顔が、打ちあがった花火の灯りで照らされる。

 

優しく微笑んだまま、セイウンスカイは表情を変えなかった。

 

そのまま無言で、じっとセラフィナイトを見つめる。

 

 

 

「……うぅ。」

 

 

 

様々な思いが、彼女の心を駆け巡っていく。

言葉で表現するのが難しいぐらい、複雑な気持ちが抑えきれなくなり

セラフィナイトは、涙を流してしまった。

 

 

「ああ、もう! 何してるのよ、スカイさん! この子、泣き虫なんだから そんなこと言ったら」

 

 

慰撫しようと肩に手を置いたキングヘイローの、その優しさは断られる。

ゆっくり手を払い、流れる涙を拭きながら言葉を絞り出す。

 

 

「ちが……違うの。キングちゃん……」

 

鼻をすすり、零れる思いを懸命に制しながら続けた。

 

 

「私……嬉しくて……」

 

その言葉を聞いて、数瞬置いてからキングも全てを察した。

 

 

 

 

そう、これは……セイウンスカイの宣戦布告。

 

 

 

今までの彼女にとって、セラフィナイトは友人だった。

同じチーム、同じクラス。苦楽を共にしていった大切な仲間。

 

それは、横に並び立つ存在ではなかった。

 

 

 

しかし、今日改めて口にされた二冠ウマ娘の、拒絶宣言。

 

 

 

つまりは、セラフィナイトをただの友達でなく

はっきり、脅威と捉えたという証。

 

 

 

リハビリも終え、トレーニングもし、特訓もした。

 

 

ようやくたどり着いた、強敵(とも)の領域。

 

 

 

同期達の、誰よりも他人を見る能力に長けているセイウンスカイのお墨付き。

 

 

 

まだレースに出て、成果をあげたわけでもない。

 

 

それでも、認められたことが誇りだった。

 

 

 

定期的な間隔で鳴り響く花火の音すら、気にならないほど

胸が一杯になったセラフィナイトは目元を擦ってから。

 

 

「……スカイちゃん」

 

充血した目で、力強く返す。

 

 

「私、負けないからね」

 

 

「……こっちのセリフ!」

 

 

そして笑い合い、年の瀬での勝利を互いに誓ったのだった。

 

 

 

「ごめーん、遅くなっちゃったー!」

 

遅れて、スペシャルウィーク達が合流した。

満足げなエルコンドルパサーと、やや申し訳なさそうなグラスワンダーもすぐ後ろに居る。

 

「ブエノ! 良い所取れてますね! さすがデース!」

 

「……あら、セラちゃん。目が赤いですけど……どうかしました?」

 

「ううん、何でもないよ。潮風が沁みただけ」

 

慌ててハンカチを取り出し、目元を拭う。

 

そして、ようやく揃った6人のウマ娘達は花火を堪能する。

 

 

にんじんの形をした平型花火。蹄鉄を模したものも打ちあがっていたり。

スポンサーのURAマークが、時折夜空に花開く。

連打するように、小割物花火が輝くと歓声が大きくあがった。

 

耳カバーをしていても、時折芯に響く音で少し身がすくむセラフィナイトの手を、キングヘイローが黙って握る。

セラフィナイトも、縋るように握り返した。

 

 

夜の空を色彩豊かな音と光が、消えては点いて辺りを覆う。

 

最後に、巨大なしだれ柳が暗雲を散らすように咲き誇ると

 

火薬の香りをわずかに残し、夏祭りは終わりを告げた。

 

 

 

 

「はー、楽しかったねー!」

 

来る途中でも何かを食べてきたのだろうか。

お腹の膨れたスペシャルウィークは、満足げに感想を言う。

 

「エルの熱いパッションを、みんなと感じられて最高でした!」

 

じゃららん、とギターを鳴らす。

 

「キングちゃん、セイちゃん探しに行ってくれて、ありがとうございました。

 はい、これ景品のおすそ分けです。」

 

「あら、ありがとう。……そういえば、屋台で全然遊べなかったわね。

 どうしてくれるのかしら、スカイさん?」

 

「え~? 勝手に探しに来て、それはないでしょ~? 私知りませーん」

 

 

 

「ふふ。……今年は、みんなと集まれて良かった」

 

しみじみと幸せを実感したセラフィナイトがポツリと呟く。

昨年は、こうして集まれる状況ではなかった。

 

だからこそ、今この時が堪らなく嬉しい。

 

 

「ね、来年もまた一緒に遊ぼうね!」

 

セラの提案に、みんな快く頷く。

スペシャルウィークは、そこに一言付けたした。

 

「来年だけじゃなく、再来年も、その後も! ずっとずっと、一緒に居ようね!」

 

「うん!」

 

 

輝かしき成績を持つ、"最強世代"6人のウマ娘。

その日は、宿舎に戻るのも惜しいくらい、楽しく明るく話し合いながら帰路についた。

 

 

 

 

――――――。

 

 

「たっだいま~!」

 

着替えもせず、セラフィナイトは寮部屋のベッドに飛び込んだ。

遅れて入ってくる後輩のカルミアボタンは静かに、手荷物の整理を始めた。

 

合宿を終え、いつもの部屋に戻ってきたこの時だけは

代り映えしない寝床も、どこか特別に感じる。

 

「疲れたね~。ボタンちゃん、どうだった?」

 

「はい。充実した練習が出来ました」

 

「トレーナーも、忙しいのに何だかんだで一人ずつ指導してたらしいね」

 

「そのようですね。あの熱意には頭が下がります」

 

「は~……来週からまた学校かぁ……」

 

シーツを抱きながら、再び始まる学業に少しだけ憂鬱な気持ちが忍び寄る。

勉強が嫌いなわけではないが、大好きな走ることに専念できた夏と比べると

どうしても、劣って見えてしまう。

 

「セラフィナイト先輩」

 

「ん? なぁに~?」

 

いじけながら、ベッドでもぞもぞしているとカルミアボタンが改まって話しかけてきた。

疲労で眠気も押し寄せており、普段よりもふんわりとした返事をする。

 

「先輩は、秋のレースでオールカマーに出走されるんですよね」

 

「うん、そうだよ~。久しぶりのレース、楽しみだな~」

 

「あの、合宿の時に言いそびれてしまったのですが……」

 

「?」

 

「私も、オールカマーに出走します」

 

「あ、そうなんだぁ。じゃあ、一緒に走るんだね~」

 

「はい、そうなります」

 

「私と勝負だね~」

 

「はい」

 

 

 

頷き頷き。

 

 

ようやく事態に気付いた。

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

セラフィナイトの戦いが始まる。

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