セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

3 / 54
2話『あなたに聞きたくて』

「はぁ……はぁ……。どうかしら?」

 

運動着姿のキングヘイローが、肩で息をしつつセラフィナイトへ歩み寄る。

 

次の出走レース、高松宮記念へ向けたトレーニングだ。

1200mを、思うなりに駆け抜けた結果をマネージャーは、ストップウォッチを見ながら嘘偽りなく答える。

 

「うん。凄く良かったよ。流石はキングちゃん」

 

「……具体的には?」

 

「え?」

 

「短距離路線……私には合ってるって、ようやくわかってきたわ。

 でも、勝てない。まだ勝ててない。

 そこには何か原因があるはずよ。あなたなら、それが見えると思ったのだけれど……」

 

 

スペシャルウィークやセイウンスカイと戦ってきたクラシック路線。

 

勝ちきれないキングヘイローが見出したのは、同期達の居ないレース。

 

 

最初は急な方向転換に誰もが戸惑った。

 

勝負から逃げた、と言われることもあった。

 

ダートまで走ったことについては、本人も流石に無茶な自覚はあったようだが。

 

 

それでも、キングは自分なりの王道を進んだ。

 

確実にあと一歩のところまで来ている。

泥だらけになってでも、我が道を行く(キング)にセラフィナイトも尊敬の眼差しを向けていた。

 

 

「そんな、買い被りすぎだよ。

 何か策が欲しいならトレーナーか……そうだ、セイちゃんに聞いてみたら?」

 

「嫌よ。あの子、そういうところは絶対口出ししないんだもの。

 抜け目ないというか、なんというか。他人が強くなるアドバイスはしないわよ」

 

「でも、前にニシノフラワーさんへ色々アドバイスしているのを見たけどなぁ……。

 もうそりゃ、すっごい丁寧に」

 

「え、そうなの? ………………ど、どういうつもりなのかしら……」

 

「……あ、ごめん! 今のは忘れて!」

 

 

決して弱くはないニシノフラワーに助言をするのに

何故、自分にはしないのか。

 

同じスプリンター、マイラー路線だというのに……。

 

まさか、それも彼女なりの策?

 

無駄に考え込みすぎるキングヘイローを、セラフィナイトは制する。

 

 

 

(多分、いや絶対。キングちゃんの考えてる理由とは違うっぽいんだけどな~)

 

 

憶測で言うには、やや難解になりそうなので、この話題は打ち切った。

 

 

 

 

「それで。何かないの? 思ったこと」

 

気を取り直して質問を続ける。

タオルで汗を拭きながら、キングはセラの隣へ座った。

 

 

重ねて聞かれたので、ざっくりとした感想を細分化してセラフィナイトは答えた。

 

「判断力があがってきて、スパートのタイミングも良くなってる。

 筋肉の付き方も、なんだか身体に合ってきてる感じもするし。

 路線変更は間違いじゃないと思うな」

 

「当然! このキングの目指す道に間違いなんてないわ! おーほっほっほっ!

 ……じゃなくて! アドバイス! 誉め言葉なら、もうトレーナーからだって散々聞いてるわよ!」

 

「ええ~? う~ん……アドバイスって言われても……」

 

レース経験豊富なキングヘイローに、何か言うことはあるのだろうか。

プロであるトレーナーの指導も受けているだろう。

 

ただのマネージャーに何か言うことなんて……。

 

 

 

「セラフィナイトさん。私は今、『マネージャー』に走りを尋ねてるんじゃないわよ」

 

「え?」

 

「『あなた』は、どう思っているのか。それを知りたいの。

 スカイさんのような、下準備も含めた策じゃない。

 勝負勘の強いあなた自身のアドバイスが、私は聞きたいのよ」

 

 

何度も言うが買い被りだ。

GⅠレースに出るような実力者が、何を……。

 

 

 

「…………」

 

だが、彼女はそこで止まらなかった。

言われるがままに、頭の中に流れ込んでくるイメージや言葉。

自然と浮かび上がってくる、たくさんの情報を処理していく。

 

 

 

そもそも、キングヘイローの強みはなんだろう。

 

他のウマ娘との違いは?

 

セラフィナイトは、瞬時に彼女(キング)の走ってきた道のりを脳裏に浮かべる。

 

 

その過程と結果。

 

あらゆる要素を分解し、組み立て……

 

気付いたことを言葉にした。

 

 

「…………キングちゃん」

 

考え込む仕草そのまま、セラフィナイトが呼ぶ。

 

「なに?」

 

「キングちゃん、長い距離を走ってきたから。

 スタミナはスプリンターのウマ娘より、全然あると思うんだ」

 

「……それで?」

 

面白そうな表情でキングヘイローは聞き返した。

 

「最初からバ群の後ろに構えて、コーナーで大外に逃げるとかどうかな。

 体力に問題がないなら、足も残せるだろうし。枠順にも左右はされちゃうだろうけど

 直線と比べて、遠心力を利用すれば逸れやすいだろうし」

 

「つまり、『先行』じゃなくて『差し』でいけ……ということかしら?」

 

「爆発力の使い方だね。内に埋もれないようにすれば、キングちゃんなら勝てると思う」

 

当然、博打要素も高い戦術だ。

短距離レースは、一瞬の判断が命取りになる。

勝負をしかけるタイミングを少しでも誤れば、敗北は必至。

 

けれど、勝つために貪欲なキングヘイローなら。

数々の激戦を繰り広げた彼女の、勝ちへの嗅覚なら。きっと。

 

 

 

「……良いわね、それ。一度やってみるわ。

 あなた、まだ時間はあるかしら。」

 

どうせ今更、失うものもない。

一着を手に入れられるなら、なんだってしよう。

 

そのストイックさこそが、キングヘイローの持ち味だった。

 

「うん。大丈夫だよ。あ、じゃあ色々と準備が要るね。

 いったん、チーム部屋行ってきてもいいかな?」

 

「ええ、待ってるわ」

 

元々長く付き合うつもりはなかったので、満足な道具もない。

しっかり見るなら、飲物やタオルも必要だろう。

 

キングに手を振り、セラフィナイトは所属チーム部屋へ向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。