セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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29話『声響く地下バ道』

「いつも思うんだけどさ、どうしてメイクデビューじゃないのに『Make debut!』を歌うんだろうね」

 

「同じ楽曲ならば、特に多くの練習も必要ないですから。

 それよりもっと、トレーニングをしてGⅠの選定曲を覚えなさい、ということでは?」

 

「あ~、確かに。でも、ジュニアクラスの子は『ENDLESS DREAM!!』も覚えないとだよね」

 

「そうですが……。あれは大体のウマ娘が一回、多くて二回ですし。場合によっては、練習しない方も居ますよ」

 

「なるほどね~。

 ウイニングライブ、楽しくて明るくて大好きなんだけど。

 こういう、どーでもいいことが気になっちゃって、集中できない時があるんだよねぇ」

 

「……先輩、ライブ中にフレーメン反応みたいな顔することありましたけど。

 まさか、それが原因なんですか?」

 

「え? してた?」

 

「してました。何かミスをして焦っているのかと思っていましたけど……雑念だったんですね」

 

「やだー恥ずかし~! 気を付けないとなぁ。

 ……あ、ライブといえば。やっぱ中でも『winning the soul』が一番カッコよくない?」

 

「……あれは、私にはちょっと不釣り合いな曲なので、苦手です」

 

「そんなことないよ! ボタンちゃんの歌声、私大好きだけどなー。

 マイクだとしっかり低音も拾ってくれてるからさ、またコーラスでも目立つんだよねぇ」

 

「……そう、ですか」

 

「あと、サビの前の演出も良いよねー! 火花やスチームがパーン、ってド派手で!」

 

「見ている分には良いんですが、ステージの上だと物凄く熱いんですよ」

 

「あ、そうなんだぁ。やっぱ、ステージからじゃないとわからないことってあるんだなぁ……。

 結局、私はライブで歌うこと出来なかったからさ。

 ボタンちゃんには、今度こそセンターで歌って欲しいな、『winning the soul』」

 

「あ……」

 

「ね、約束だよ!」

 

「……はい。必ず」

 

「まずは、初めてのライブ共演だけどね! 楽しみだな~」

 

「私もです」

 

 

 

 

「お二人さん、もう話しかけてもいいかな~」

 

 

レース後だというのに、楽し気に話しながら地下バ道を進んでいた二人。

 

そこには、同期達全員とアルタイルのトレーナーが揃って待っていた。

 

何度か声をかけようとしたのだが、あまりの親密空間に中々タイミングが見いだせず

セイウンスカイが、しびれを切らして呼びかけなければ、下手すると寮部屋まで会話は続きそうだった。

 

 

「あ、みんな!」

 

「レース前の雰囲気とは大違いね。心配して損したわ」

 

「……キング……」

 

「な、なによ、スカイさん! 言いたいことがあるなら、ちゃんと言いなさい!」

 

「別に、なんでもないで~す」

 

 

こちらもじゃれ合い始めたので、グラスワンダーが一歩前に踏み出し場を仕切る。

 

 

「お話したいことはたくさんありますが、まずは……トレーナーさん、お先にどうぞ~」

 

涙を必死に堪えて、化粧も既に落ちかけている大人の女性がウマ娘に気を遣われている。

遠慮して余裕を見せたいところだが、感情の(せめ)ぎに堪えられず、一目散に駆け出した。

 

そしてセラフィナイトとカルミアボタンの身体を引き寄せて、一緒に抱きしめる。

 

 

「…………二人とも、お疲れ様」

 

返事も待たず、顔を二人の間でうずめる形で続ける。

 

「ボタン。今日のレースはどうだった?」

 

「……今までのどんなレースより、楽しくて、辛かったです」

 

「セラの背中は遠いかもしれないけど。あなたなら、絶対いつか届くから。

 まずは次の菊花賞、一着取ろうね。2着、おめでとう。」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「セラ」

 

「はい」

 

呼びかけるが、声は続かない。

トレーナーは言葉を出したいのに、思いが溢れてしまい鼻を啜る音ばかりが地下バ道に響く。

 

 

「おっ……おめでとう……!」

 

「トレーナー……」

 

しゃっくりをしている肩に、セラフィナイトも手を回す。

 

「まだまだ、これからですよ。泣くのは、有記念でみんなに勝ってからにしてください」

 

「むっ、無理言わないでよぉ~~~……わ、わだし、ずっと……ずっ……ずっと待ってだんだからぁ~~~!!」

 

 

駄々っ子のように声を上げる背を、あやす様に叩く。

カルミアボタンも同じように、腰の辺りを摩ってあげていた。

 

 

「待たせてごめんね、トレーナー」

 

「う゛ぅ~~! 1着だったから許すぅ~~~!!」

 

「続きは後でいっぱいしましょう。ボタンちゃん、ちょっとお願い」

 

「はい」

 

「やだあ! セラの薄情ウマ娘ぇ~~!」

 

長くなりそうな気配がしたため、無理やり引きはがす。

体躯の差で足を宙に浮かせてじたばたする大人(こども)を背後に、セラフィナイトは前へ歩いていく。

その背を、カルミアボタンは少しだけ羨ましそうに、微笑みながら見届けた。

 

 

 

「……」

 

ライバル達の前へ、最速のウマ娘は立つ。

 

 

なんて言えばいいか、言葉を考えていたはずなのに出てこない。

 

ただ、とにかく今の気持ちを伝えたくて。

思わず、腰に手を当てピースサインを突き出してしまった。

 

 

「……プッ! あはは! なんデスか、それ!!」

 

予想外の行動に、厳しい顔をしていたエルコンドルパサーが噴き出す。

つられて、他のウマ娘もリラックスした表情に戻り、各々の言葉をかけ始めた。

 

 

「おめでとう、セラちゃん。久しぶりのレースで1着なんて、やっぱ凄いね」

 

「ありがとう、スペちゃん。……本当に、色々と。」

 

湿っぽい言葉に、スペシャルウィークは首を横に振る。

言葉を続けるように、キングヘイローが割ってきた。

 

 

「最終局面で追い込まれてからの、再加速……ようやく、あの頃のあなたが戻ってきたのね」

 

「うん。待っててくれてありがとう」

 

「キングのことだから、どうせ復帰するまで待ってたと思うけどね」

 

「ちょっと! スカイさんは、いつもいつも! なんなのよ!!」

 

相変わらず仲の良い二人は、いがみ合いながらも称賛の言葉をかけてくれる。

 

 

「ラフィ、合宿の約束は覚えてる?」

 

「うん、もちろん」

 

「今日改めて思ったけど……私の判断、間違いじゃなかったね」

 

「そう感じてくれたなら嬉しい」

 

「有記念まで、変わらないから」

 

「うん」

 

チームメイトとのやり取りが終わると、グラスワンダーが再び前に出た。

 

 

「……初夏の頃の、セラフィナイトという不完全なウマ娘は、もう居ませんね」

 

「グラスちゃん……」

 

「有記念で走る時は、私も最強のウマ娘に挑む覚悟で仕上げます。

 がっかりさせないでくださいね」

 

「うん。……グラスちゃんとの約束も、必ず守るよ」

 

「ええ。改めて、受けて立ちますね」

 

以前の、奮い立たせるための静かな様子ではなく。

既に、同じ領域に入ってきたと栗毛の怪物も理解してなのか、強い言葉が目立った。

 

 

「セラちゃん!!」

 

「うわぁ、な、なに!?」

 

 

飛び込むように、大声でエルコンドルパサーが近づく。

目をキラキラさせながら、興奮を抑えきれない様子で捲し立ててきた。

 

 

「なんなんデスか! あの超人的なスタート!」

 

「ああ、特訓の成果。どう? ビックリした?」

 

「しましたしました! もう、目が飛んでいくかと思ったデス!」

 

「良かったぁ。戻ってきて、今までの私じゃつまらないと思ったから。

 驚いてもらえたなら、最高だよ」

 

「うぅ~! やっぱ、セラちゃんは凄いウマ娘デス!

 エル、辛抱できません!」

 

「?」

 

どういうことなのかと待っていると、"怪鳥"は高らかに宣言した。

 

 

「今年のジャパンカップ、アタシも出走します!

 目指すは連覇! そして、一足早くセラちゃんとの勝負! デース!!」

 

 

「……」

 

 

「「「「ええーーー!!???」」」」

 

 

 

「……うん。わかった」

 

 

驚く周囲をよそに、セラフィナイトは闘志の籠った瞳で笑って返す。

 

 

 

秋の戦いは、まだまだ始まったばかり。

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