セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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30.5話『ありがとうを伝えよう』

ある日のチームアルタイルの専用部屋。

 

今日もたくさんのウマ娘とトレーナーが、(せわ)しくやり取りをしていた。

 

 

「はい、これ明日からのメニューね。出来そう?」

 

「うええ……ちょっとキツいかも……。体幹トレーニング、苦手なんですよ」

 

「下半身だけ鍛えても、軸がブレちゃ意味ないからね。

 速く走るために必要なこと! 頑張ろう!」

 

「わかりましたぁ……」

 

「トレーナー! 次、私のフォームチェックお願いします!」

 

「はぁい。……とと、電話だ。ちょっとだけ待ってね。先、コース行っててくれる?」

 

「はい!」

 

「……あ、お世話になっております。……はい。ええ。かしこまりました。では、予定通り18時からで。はい、失礼します」

 

「トレーナーさぁん! スポーツドリンク無くなっちゃったんですけど~!」

 

「棚に粉末あるから溶かして使って、って言ってるでしょー!」

 

「棚ってどこー?」

 

「冷蔵庫の横ですぅ~! なんで、毎回聞くのー!」

 

「そうだったそうだった。ごめんなさ~い!」

 

「と、トレーナー! ジャージ破けた……やばい」

 

「直しておくから、一旦脱いで。はい、これ着替え。帰るまでには机に置いておくね」

 

「ありがと~!」

 

 

 

 

 

「……やっぱ、マネージャーの仕事続けた方が良かったかなぁ?」

 

部屋の角で、教科書や参考書を開いて勉強をしているセラフィナイト。

今日のトレーニングは休みなので、座学を中心に行う日としている。

 

「自分で出来るって、言ったんだから。気にする必要ないわ。大体、手伝おうとすると止められるじゃない」

 

同じく休みのキングヘイローが、突き放すように返した。

 

「自分のことは自分で、って公言しておきながら

 なんだかんだ、面倒見ちゃってるよね、トレーナー」

 

「世話焼きって言えば聞こえはいいけど、あれだけの仕事量を見てると心配にはなるわね」

 

「うーん……なんとかしてあげたいけど……」

 

春先に釘を刺された通り、セラフィナイトは自分のことだけでも手いっぱいだった。

 

ちょっとしたことを手伝うぐらいは出来るのだが、飽くまでその場しのぎにしかならない。

 

 

キングヘイローやカルミアボタンの活躍。

更には先日の、セラフィナイトが見せつけた圧倒的な復活劇。

 

普段の仕事に加え、対外的な案件も増加していた。

 

ハッキリ言って、一人で取り回すには過剰な仕事量である。

 

 

 

「えーと、後は……。って、ああ! 忘れてた! 蹄鉄の発注! 間に合うかな~! 間に合わせて、業者さぁん!」

 

スマホを片手に、部屋を慌てて出ていくトレーナー。

 

アルタイルもチームメンバーが随分増え、今や十数名の大所帯。

来るもの拒まずの方針も限界がきており、新規メンバー募集は打ち切り状態。それでも、未だに参加希望者が尋ねてくるほどの人気っぷりだ。

 

チームとしては幸いなことに、自らの意思で去る者は居ないのだが……まとめ役にとっては、中々悩ましい問題だろう。

 

 

「……」

 

「セラフィナイトさん、全然集中できてないわね」

 

「だって~……」

 

 

先ほどから白紙のままのノートを見て、キングヘイローは苦言を零す。

わからない所を教え合うために、わざわざ同席しているというのに。

これでは意味がない。

 

心配性なセラフィナイトの顔を見て、ため息交じりで同じことを考えていたキングが言う。

 

「……負担を和らげることは出来ないかもしれないけど。

 少しぐらい、労うのも悪くないかもね」

 

「例えば?」

 

「そうねえ……。温泉施設の優待券ならあるけど……」

 

「トレーナーのことだから、休むぐらいなら仕事させて、って言いそう」

 

「……これは、落ち着いた頃に渡す方が良いわね」

 

「……やっぱ、こういう時は食べ物が良いと思うな! 栄養のあるもの食べれば、少しは元気になると思うんだ!」

 

「あなたは料理上手だからいいけど……」

 

「そんなの関係ないない! 担当ウマ娘が、心を込めて作ってくれたものをトレーナーが嫌がるわけないよ!」

 

「……確かに、普段から良い物を貰ってるあの人でも。ウマ娘の手料理なんて、なかなか口にする機会はなさそうね」

 

「うんうん! 良いね。そうしよう! トレーナー、苦手な物あったっけなぁ」

 

「何かこれだけは、ってあった気がするけど……大体大丈夫だったはずよ。食物アレルギーはない、って言ってたわね」

 

「えー、なになに。セラちゃん、キングちゃん。面白そうなこと話してるね!」

 

 

いつの間にか、二人の周りにチームメイト達が集まっていた。

要約して伝えると、メンバーはこぞって賛成。

 

日を改めて準備し、盛大に労ってあげよう。

ちゃんとそれぞれのウマ娘がやるべきことをこなしつつ、計画は進められた。

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

(う~。提出書類の締め切り明日までだった~。急いで作らないとな……)

 

栄養ドリンクをストローで飲みながら、廊下を静かに素早く歩いていくトレーナー。

化粧で隠しきれない隈も気にせず、今日も仕事に励む。

 

トレーナー室の鍵を穴に差し込み、ドアノブを回す。

 

(あれ?)

 

忙しさから、閉め忘れたのだろうか。

シリンダーの解除音が聞こえず、自らの記憶力のなさに落胆しつつドアを開けた。

 

 

 

「トレーナー、いつもお疲れ様ー! ありがとー!」

 

「ひょわぁ!?」

 

 

突然聞こえた破裂音に、思わず持っていたドリンクの瓶を落としかける。

 

クラッカーから伸びる、たくさんのテープを体に浴びながら返し技の構えを取っていたトレーナーは、目をぱちくりさせつつ部屋内を見渡した。

 

 

にこにこと笑いながら集まっているのは、みんな自分の担当ウマ娘。

やたら長い机の前に立ち、制服姿で出迎えている。

 

 

「な、なに? みんな、どうしたの?」

 

誕生日はもう終わっているし、他にお祝いをするにしたって、自分にされるような出来事は起こっていない。

わけもわからず、キョロキョロしているとキングヘイローが意見を代弁するように、進み出てきた。

 

 

「こほん。最近、あなた、どうにもお疲れなんじゃないかしら」

 

「へ? あ、まあ……嬉しい悲鳴だけども」

 

「けど、酷い顔よ。ちゃんと休んでいるの?」

 

「休んでるよぅ。昨日もちゃんと4時間寝たんだから」

 

「その前は?」

 

「……3時間。あ、でもお昼寝したから3時間半ぐらい」

 

「全然疲れが取れるような時間じゃないわよ!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

「キング~。トレーナー困ってるよ~」

 

労をねぎらうために準備したのに、問い詰めるような形になったのでセイウンスカイが助け船を出す。

話が脱線しかけていたのに気づいて、改めて恥じらいながらキングは言った。

 

 

「みんなと話して、そんなトレーナーに何かしてあげられないか考えたのよ。

 どこか連れだそうとしたら、どうせあなたのことだから仕事が気がかりで、集中できなさそうだし」

 

「あはは……よくご存じで」

 

「だから……偶には、と思ってみんなで食事を用意したの。

 まさか、昼ご飯をそんな飲み物一本で済ませるつもりだったのかしら?」

 

「つもりでした……」

 

「まったく。あなたが倒れたら、私たちも困るのよ。

 少しは自分自身も(いたわ)りなさいな」

 

「キング……」

 

 

「さ、トレーナー。みんな一生懸命作ったんですよ。召し上がれ!」

 

 

セラフィナイトに言われるがまま、前に足を進める。

確かに、先ほどから部屋の中を漂っている匂いに気付いてはいたが……。

 

「うわぁ……。え、これみんなで?」

 

「そうです! そのニンジンケーキは私が!」

 

「ニンジンチーズグラタンは、自信作だよ! 食べて食べて!」

 

「私は金平を作りました。母から教わった、自慢の一品です」

 

 

それぞれが嬉しそうに、楽しそうに。

机に広がる、オレンジ色の料理たちを紹介していく。

 

 

良く見ると、指に絆創膏をつけた子も居た。

 

本当に彼女を思って尽くしてくれた、最高の品々だ。

トレーナーへの気持ちが十二分に伝わる出来栄えばかり。

 

 

「……ありがとう。みんな。心配かけてごめんね。

 忙しいのは、すぐに変わらないかもだけど…。

 わたしも、みんなが大好きだから頑張れるんだ」

 

うっすら浮かんできた涙をごまかし、笑顔で言う。

 

「これからも、どうかよろしくね。

 せっかくだから、これは皆で食べようよ! わたし一人じゃ流石に食べきれないからさ!」

 

「わーい! やったー!」

 

「いっただきまーす!」

 

 

 

みんなの笑顔のために、自分は頑張れる。

 

楽し気な食事風景を眺めながら、トレーナーは何故自分がウマ娘達を導く立場になろうと思ったのか、改めて認識できた。

 

 

 

 

 

…………が。

 

 

 

 

 

(嬉しいには嬉しいんだけど……ニンジン、苦手なのをちゃんと言っておけばよかったかなぁ~~~……)

 

 

 

何事も上手くいかないのが、人生である。




それでも、ちゃんと一品ずつ口にして感想を述べたトレーナーなのであった。
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