セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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39話『クリスマスデート』

「……よし」

 

鏡を見て入念にチェック。

梳かして寝ぐせも抑えた。カルミアボタンにしてもらった、編み込みもバッチリ。

 

服の確認。

フェイクファーのアウター、チェックのスカート。白いインナーに汚れがないかをしっかり見る。

手に持った鞄の中身も、問題なし。

玄関に用意しているブーツだって、昨日しっかり磨いておいた。

 

 

完璧だ。

 

おでかけ用の姿を仕上げたセラフィナイトは、満足げに反転してる自分を見て微笑む。

宿泊用の別途で用意したキャリーケースも、準備万端。

 

再確認出来たと同時に、ベッドに置いてあったスマートフォンが短い音を立てた。

どうやら、お迎えが到着したらしい。

 

「それじゃ、ボタンちゃん。行ってくるね!」

 

「はい。いってらっしゃい」

 

浮足立っている先輩を、穏やかな顔で送り出すカルミアボタン。

本当は、自分も付いていきたいぐらいだが。そこはぐっと我慢。

相手のことを問いただしたら、納得しかなかったから。

 

嫉妬しない気持ちもないが、こうするのがベストであるなら、快く送り出そう。

 

気持ちを切り替え、明日の有記念に備えるべく

ボタンは大きく伸びをしてから日課のトレーニングをすることにした。

 

 

 

 

「……あ、いたいた。トレーナー!」

 

 

寮を出たすぐの所に止まっている一台の車。

真っ青なセダンタイプの高級車だ。

持ち主と思わしき女性が前に立っている。

 

暗色系のコートにブラウス、フレアスカートから覗く足先は運転しやすいようにスニーカーを履かせている。

いつもよりちょっと気合の入った格好をした、セラフィナイトの担当トレーナーだ。

 

「お待たせ。ちょっと遅れちゃったね」

 

「ううん、大丈夫です」

 

嬉しそうな顔で返事をしてから、セラフィナイトはそのままトレーナーの姿を検める。

 

「……な、なに?」

 

「トレーナー、スカートとか履くんですね!」

 

「ふふん。可愛いでしょ」

 

「はい、とっても!」

 

「……さ、乗って乗って」

 

一回り近く年下の子の全肯定に照れながら、トレーナーは後部座席と助手席を開ける。

荷物を後方へ、セラフィナイトは隣へ。それぞれ本革のシートに腰を下ろす。

 

「忘れ物ないね? シートベルトした?」

 

「はい! オッケーです!」

 

「じゃ、行くよ~」

 

「はーい!」

 

年相応の声が車内に響き渡る。

レースという軛から外れているセラフィナイトを見るのは、もしかすると初めてかもしれない。

 

まだまだ知らない一面があったことに、驚きと嬉しさを感じつつ。

二人を乗せた車は、冷たい空気を切り裂きながら道路を走る。

 

向かう先は、少し離れた街の商業地域。

普段行っている場所では気晴らしにならないから、今日だけはちょっと特別。

 

なんてったって、このクリスマス。

セラフィナイトとトレーナーはデートをするのだから。

 

 

 

 

「それにしても、本当に言ってた場所で良いの? 他に行きたい所あるなら、今からでも遠慮せず言っていいからね」

 

法定速度を遵守しながら、隣の席のセラフィナイトに問いかける。

 

「はい。行き先の変更はなしで!」

 

「もっとこうさ、高いお店で無駄に高い物食べたいとか。

 良いお洋服屋さんでも、なんならジュエリーショップとかでも良いんだよ。

 冬のボーナスが入った大人はね、一時的に無敵なんだから」

 

「トレーナ~。私、中等部ですよ?

 そんな子供がとりあえず好きそうな場所、行きたがるわけないじゃないですかぁ」

 

「中等部は十分子供ですけどぉ!!??」

 

「あはは! ちゃんと前見てくださいよ」

 

「も~。セラが驚かすからでしょ~?」

 

「ごめんなさーい」

 

信号機が赤色を示す。

風切り音が止まり、エンジンも停止する。

話題が一瞬途切れたので、ちらりとトレーナーは横のウマ娘を見た。

 

「!」

 

いつからなのかはわからないが、視線を動かしたと同時に目が合う。

嬉しそうに微笑む顔が、瞳に映った。

 

 

「別に特別なこととかは望んでないんです。

 ただ、ゆっくりトレーナーとお話しながら歩けたら嬉しいな、って」

 

「……うん」

 

担当になって、短くない時間を過ごしてきた。

観察力、読解力の高いトレーナーはそんなことわかってた。

 

だけど、何気ないどうでもいい会話をしたくて。

今日この場を設けてもらった。

 

 

昨年のクリスマスは、大変な状況だった。

当時のチーム人数は少なくとも、トレーナー自身は大人気。

誰が一緒にクリスマスを過ごすのか、などの取り合いになった結果。みんなで過ごそうとパーティを開いた。

 

その結論に至るまで、数日を要しただけでも彼女の好かれぶりがわかるだろう。

 

余談だが。

トレーナー自身はそもそも、担当ウマ娘達の誰かと過ごす選択肢しかない、という寂しい認識を皆に取られていたことにだけ、ちょっぴり傷ついたとか……。

 

 

今年のパーティは、イブに開催した。

忘年会と有記念への決起会も兼ねてだ。

 

そこで、セラフィナイトはみんなに無理を言ってお願いをしたのだ。

 

記念の前日、どうにか二人で過ごさせて欲しいと。

 

クリスマスになったのは偶然で、本当はそれが理由。

 

何が目的なのか、誰も聞かずとわかってくれていた。

様々な思惑で嫉妬や反感を抱いたウマ娘も居たには居たが、最終的には許諾を貰えたわけである。

 

 

「じゃあさ、セラ。わたしもわたしで行きたい所があるんだけど……付き合ってくれるよね?」

 

「もちろんです! どこですか?」

 

「秘密~♪」

 

「ええ~? 教えてくださいよー」

 

「まぁまぁ。楽しみにしておきなさいな」

 

信号が青に変わった。

ゆっくりと車体が動き出し、景色が流れていく。

 

見慣れた街並みを、あまり見慣れない角度から眺めていく。

 

形の良いフェイスライン越しの風景を、セラフィナイトは思う存分堪能していったのだった。

 

 

 

 

――――。

 

 

「わあ、もう暗い!」

 

「日が落ちるの早くなったよねぇ」

 

トレーナーの手には荷物がたくさん抱えられていた。ここにある以外にも、寮に直接届けられる品もある。

 

様々な店を見て、気になったものは何でも買ってあげた。

友人やチームメイトへのお土産など、一緒に悩んで話し合い、気が付けば大荷物になっていたのだ。

 

 

楽しい時間を過ごさせてもらった百貨店から出てきた二人は、黒と赤焼けが入り混じった空を見上げて同じことを思った。

夜と呼ぶには早い時間だが、空気はすっかり宵闇に染まりかけている。

 

 

「そういえば、トレーナー。行きたい所があるって、言ってませんでした?

 私との買い物ばっかり付き合ってもらっちゃいましたけど」

 

「大丈夫だよ。お夕飯と一緒に済ませられるところだから。

 とりあえず、満足して頂けましたかね? お嬢様」

 

「はい、もちろんです! ありがとうございました!」

 

誇らしげに胸を張るトレーナーに、満面の笑みと返事をする。

同時に、耳に付けた薄緑色の飾りが揺れる。

元々、セラフィナイトが付けていた銀の輪に、アクセサリーとして『斜緑泥石(セラフィナイト)』を買ってもらったのだ。

もちろん、クリスマスプレゼントとして。

 

 

「よしよし。じゃ、最後にその『例の場所』へ行きましょうかね」

 

「わかりました! どこなんだろーなー」

 

駐車場へ向かおうと、トレーナーが歩き出す。

 

その少し前を歩いていたセラフィナイトだが。

ちょっとだけ悩んだしぐさをすると。

 

「ん?」

 

無言で、トレーナーの手から荷物を受け取る。

そして空いた手を握り、共に足並みを揃えた。

 

きゅっと握ってきたウマ娘の細指を、トレーナーは優しく握り返す。

言葉を交わさなくても、互いの気持ちは通じ合っていた。

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