セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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46話『キングヘイロー』

私の歴史は、敗北の歴史だった。

 

 

 

デビュー戦では勝利を飾ったものの、それ以降はまともに勝てていない。

 

特に中距離以上のレースでは、GⅢどころかオープン競走すら白星をあげたことがない。

 

 

 

クラシックレースで惨敗したことは、今にして思えば当然のことだったと思う。

 

 

 

 

 

――――距離適性。

 

 

 

ウマ娘個人に与えられた、天性の資質。

 

幾度も敗れ、幾度も挑んだことでようやく気付けた自分の領域。

 

 

スプリント、マイル。

 

短い距離であれば、キングヘイローは最強格のウマ娘に一気に名が挙がる。

それほどまでに、距離適性は残酷で優しい。

 

 

 

 

 

 

 

(それが、どうしたっていうのよ!)

 

 

 

 

高松宮記念を制覇してから、ずっとキングヘイローは走ってきた。

 

安田記念、スプリンターズステークス、マイルチャンピオンシップ。

中距離を越えない路線では、輝かしい成果をあげてきた。

 

もちろん、最高の気分だった。

憧れてたGⅠレースのトロフィーを手にした高揚感は生涯忘れない。

 

 

 

同時にずっと引っかかっていたこともある。

 

 

宝塚記念では、スペシャルウィークやグラスワンダーに歯が立たなかった。

安田記念でもエルコンドルパサーに勝てなかった。

 

 

負けて悔しい思いと同時に、浮かんできた小さな感情。

 

 

 

 

でも、私には短距離(スプリンター)路線があるから。

 

 

 

 

甘い考えに、頭をどこかに打ち付けたい気持ちが沸き起こったのを覚えている。

 

 

 

何を勝手に、自分で限界を決めているのだ。

私は、一体何を求めて走っていたんだ。

 

 

数々の栄誉を手にしているライバルの中で、本当に強いのは誰なのか。

 

 

それが決めたくて、ターフに立っているというのに。

 

 

 

夏合宿、末脚の鋭さを徹底的に鍛えてきた。

 

だけど、それだけじゃ足りない。

 

……どうすればいい。

 

スタミナトレーニングも十分にやっている。

 

……それでも届かない。

 

何をやれば、みんなに追いつける?

 

 

苦しみ悩んでいる中で打開策をくれたのは、セイウンスカイだった。

 

 

走行中の縮地という新しい技を開発しているから、手伝って、と。

また、それを応用して差しでの走り方も教えて欲しいと。

 

 

願ってもない、最高の誘いだった。

本人は、そのつもりなんてなかったのだろうが。

 

 

(それにしても誰かを頼るなんて、らしくないことを)

 

 

のらりくらりとした様子から、誤解されがちだが。

セイウンスカイは、超が付くほどの負けず嫌いだ。

 

 

そして、それは自分も同じ。

 

 

互いにライバルというのに、互いに手の内を明かしている。

 

それだけ切羽詰まっているということでもあるのだが。

 

わかっているから、知りたいこともある。

 

 

今はどっちが速いんだろう? と。

 

 

共同練習の最中、尋ねてみた。

 

「さあね~? キングと私じゃ、出るレース被らないから何とも」

 

「……そうよね。ここ最近は、あなたとは一度も同じレースに出ていないものね。

 併走トレーニングじゃ、参考程度にしかならないし」

 

「じゃあさ。やっぱこれも、一つの運命なんじゃない?」

 

「……ええ」

 

 

 

そう、運命なんだ。

 

 

 

年末の有記念。

 

全員が揃って、同じレースに出る。

 

強くなったライバル達が、最高の栄誉を掲げて年末の総決算を行う。

 

最大最高、至高の舞台。

 

 

今日勝ったものが、世代最強だ。

 

難しい理屈なんて捨て置き、みな同じことを思っている。

 

 

 

 

 

(だから、故障(そんなの)に負けたら承知しないわよ)

 

 

 

本当は泣きそうになっていた。

 

また悲劇が繰り返され、自分たちの決着はつかずじまい。

明るい彼女の、暗い顔をもう見たくなんてないのに。

セラフィナイトは再びターフに戻ることなく、今日の結果だけが残る。

 

 

 

あの時、ああだったら。

でも、こうなってたらなぁ。

 

 

いつか、名残惜しそうに当時を振り返って、ヘラヘラと感想を述べる。

なんてことない思い出に成り下がる。

 

 

 

 

 

嫌だ。

 

 

イヤだ。

 

 

絶対に認めない。

 

 

 

そんなつまらない未来を手にするために、私たちは走っているんじゃない。

 

 

負けて悔しくて、勝って嬉しくて。

いつまで経っても、あの時は本当は自分が速かったんだ。

こうしてれば、負けなかったんだ。

 

 

そう言い合える、最高のレースにしたい。

 

 

 

あなただって、そうでしょう?

 

 

 

セラフィナイトさん!

 

 

 

 

 

 

「……とう、ぜんッ! だよ!!!」

 

 

 

セラフィナイトは、歯を食いしばり、右足を強く前に踏み出した。

 

 

 

 

力が上手く入らない。

 

 

 

感覚がほとんどない。

 

 

 

壊れてしまったのかどうかも、わからない。

 

 

 

 

……でも。

 

 

 

 

それでも!

 

 

 

 

(立ち上がらせてくれるライバル(友達)が居るなら……私は最後まで走り続ける……!!)

 

 

 

苦しかった時、辛かった時。

もう走るのは無理だと、諦めていた時。

 

 

自分の全てを賭けて、他人の為にターフを駆けたウマ娘が居た。

 

確固たる意志と、不屈の魂に、切れ味の鋭い末脚を持って。

デビューしてから、一度も手にしたことのない栄冠を手にしたウマ娘が居た。

この世に不可能なんてないと、教えてくれた。

 

 

経歴だけ見れば、決して輝かしいものではない。

 

泥臭く、みっともなく負けたこともある。

 

 

それでも、頭を絶対に下げず。

 

最後まで勝利を信じて、走り続けた努力の天才。

 

 

彼女の名は、キングヘイロー。

 

 

 

決して得意ではない。

 

距離適性に全く合っていないと言える、芝2500mの長距離レース。

 

 

 

 

彼女は、ただひたすらに愚直に挑み続け。

 

 

 

ようやく、ここまで来た。

 

 

 

 

 

(短距離でなら、私はあなた達の誰よりも速いのよ……!!)

 

 

セイウンスカイから受け継いだ縮地。

 

ずっとずっと、それを使って力を溜めてきた。

スタミナトレーニングを重点的に行い、タフネスも強化した。

 

 

だからこうして、最強(同期)たちのスパートにも追いつけた。

 

 

 

最終直線(ここ)からの距離は、キングヘイローの領域(テリトリー)だ。

 

疲れが全くないとは言わないが、それでも気力は十分。

 

 

負ける道理は一つもない。

 

 

 

 

4人が生み出すバ群を、高松宮記念(あの日)のように一気に外へ躱して抜き去っていった。

 

 

 

(き、キング!?)

 

(速い……!)

 

(やっぱり、キングちゃんも来てくれた!)

 

(当然だよね。私と特訓したんだもん)

 

 

驚愕するライバル達は、王の背を追っていく。

 

レース後半で初めて見る光景に、興奮が止まらない。

 

 

笑みを浮かべ、悔しそうに、けれど力を込めて叫ぶ。

 

 

 

「負」

 

「け」

 

「る」

 

「かぁああああーーーーーーーーッッッ!!!!!!」

 

 

 

同時にスパートをかけ、キングヘイローを追いかける。

 

背後から飛んできた叫声を肌で感じた彼女は、言いようのない高揚感を得ていた。

 

 

それでも、見据えるはただ前のみ。

 

 

 

だって、まだ2位なんだ。

 

 

トゥインクル・シリーズは1着を取らなくては意味がない。

 

惜しかったね、残念だったね。と言うこともある。

 

 

でも、今日だけはダメなんだ。

 

 

一番を取らなくては、己を証明できないんだ。

 

 

 

だから、ただただ全力で駆ける。

 

 

 

 

 

(ありがとう、キングちゃん!)

 

 

いつも助けられてばっかりだった。

高飛車な態度のように見えて、本当は凄く面倒見の良いウマ娘。

同室の、やや幼い所作の目立つハルウララに慕われているのがその証。

優しいだけじゃない、厳しさも持っている。芯の強いあなたが大好きだ。

 

 

それは、チームの誰もが思っている。

 

アルタイルには、特定のメンバーがリーダーとなる制度はないが。

何かを言う時、何かを始める時。

 

陣頭で指揮を執るキングを、誰も咎めない。

信頼を持って、その行動と言動にみんなが従っている。

 

それこそ、キングたる器の証明だ。

 

 

(だから、走りでもあなたが(キング)であることを、見せてみてよ)

 

(当然よ! 刮目なさい!)

 

(キングちゃんに勝てば……今までのお礼になるかな?)

 

(そういうのは勝ってから言いなさいな!)

 

(勝ってから言うよ!)

 

(この……! 生意気ね!)

 

二人が地面を蹴る。

 

セラフィナイトの長い一完歩。

負けないぐらい強く速く動かし、その差を埋めるキングの走り。

 

 

 

始まりは、キングヘイローからだった。

止まった時を動かしたのは、キングヘイローだった。

 

背中を押され、動き出したのはセラフィナイトだった。

 

今、二人は最高の舞台で共に競い合って走っている。

少し前の自分たちに言っても、信じられない光景。

 

真剣勝負をしているのに、夢の中のような幸福感。

 

 

だが夢を夢で終わらせないため、ウマ娘達は全力で駆けていく。

 

 

 

【さあ、一瞬態勢を崩しかけたセラフィナイト。未だ一度もハナを譲らない!

 飛んできたキングヘイローが、追いかける!

 続いているのはエルコンドルパサー……いや、セイウンスカイ達もあがってきているぞ!】

 

 

勝負は既に最終コーナーを抜けた。

 

残り約300メートル。

GⅠで走るコースの中でも、特に短い中山レース場の直線。

 

更に壁のような急坂が立ちはだかる。

 

スタミナを残し、足を残せたウマ娘だけが勝ちあがれる最後の(ふるい)

 

 

 

「ハッ! ハァッ! ぜぇっ……!」

 

 

ハイペースで走り続けたセラフィナイト。

 

記念、大逃げに出て撃沈してきたウマ娘は少なくない。

晴れの舞台で、見せ場を作ろうと努力をした結果だ。

誰も、その気概を責めやしない。

 

 

だから、もういいよね。

 

 

私、出し切ったよね。

 

足が前に出ない。

膝が笑ってる。

腰が震えてる。

肺が苦しい。

喉が焼け付きそう。

 

 

 

 

 

(だけど……!)

 

 

(だから……!)

 

 

(こんな状況でも、諦めたりしない)

 

 

(私たちにとって、最強()のウマ娘こそ……!)

 

 

 

(セラフィナイトなんでしょう!)

 

 

 

 

友の思いに答える、金髪碧眼のウマ娘。

 

 

 

 

今も昔も、きっと、未来だって。

 

 

彼女は、苦しい状況になれば なるほど……

 

 

 

 

 

 

楽しくて、笑うのだ!

 

 

 

 

 

 

 

追い詰められたセラフィナイトの脳裏に浮かんだのは、いつもとは似て非なる光景だった。

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