「だからさぁ、なんであそこで一回内ラチへ抜けようとしたの?」
「あなたが外側に走ってきたからでしょ!?」
「もう一歩、踏み込み早ければ絶対負けてなかったのになぁ~。キングが邪魔するから~」
「それは私のセリフなんですけど!」
「ふ、二人とも。もうその辺りで……」
「ホント、仲良いデスね、二人とも」
「ええ、まったく。見ていて飽きませんね~」
汎用のドレスを身にまとうウマ娘達が、歩きながら会話をしている。
日は既に暮れ、人工的な光がぽつぽつと周りを照らすのみ。
レースの興奮が冷めないまま行われる、今宵のウイニングライブが始まる時間になっていたのだ。
「……ふふ」
「なによ、セラフィナイトさん。それでも、私は負けなかったとでも言いたいのかしら?」
友人5名の最後方を歩くセラフィナイトが、噴き出すように笑った。
怪訝な顔をするキングヘイローに、そのままの表情で答える。
「ううん。それもそうだけど。
……みんなとこうして、一緒にライブ出来るのが嬉しくて」
(否定はしないんだ)
ツッコミを入れると野暮なことになりそうなので、セイウンスカイはぐっと堪える。
その言葉を意味通り受け取ったキングヘイローは、満足げな顔をした。
「……セラちゃん。そういえば、足はどうなの?」
ラストスパートのあの瞬間を、誰もが見ていた。
治ったはずの足から、態勢が崩れていた。
原因は一つしかないだろう。
当たり前の様に歩いているから、大丈夫だと思っていたが。
先ほどの、セラフィナイトの嬉しさの中にある寂しそうな声色から何かを察し
スペシャルウィークは尋ねたのだ。
「…………正直、わからない」
今はこうして動かせる。
レースが終わり、熱が冷めたと同時に痛くなると思ったが。
医者にも当然診せたけれど、異常はないらしい。
だけど。
ちょっとずつ。
感覚が鈍くなってきている気がした。
「変な予感はあるんだ。もしかすると、長くはもたないかも」
「え?」
「きっとさ、神様がくれた特別な時間なんだと思う。
みんなと揃ってライブなんて、そうそうないだろうし。
今まで頑張ったご褒美かな」
「な、何おかしなこと言ってるのよ。それなら、早く病院に……!」
手を掴もうとするキングヘイローを制した。
心配そうな顔を見て、セラフィナイトは儚げに微笑む。
「キングちゃん。諦めないことを教えてくれて、ありがとう」
「セ……セラフィナイトさん……」
次に、セイウンスカイの方を見る。
「スカイちゃん。私のこと、見ててくれてありがとう」
「……うん」
「グラスちゃん。走る意味を思い出させてくれて、ありがとう」
「忘れそうになったら、いつでもお相手しますよ」
エルコンドルパサーは、目を合わせてくれなかった。
「エルちゃん。約束、必ず守るから。その時まで、強くなろうね」
「……と……当然デス。その時はきっと、エルは"世界最強"になってますからね」
「スペちゃん」
「……セラちゃん」
何かを言う前に、スペシャルウィークが先に口を開いた。
「セラちゃんに、お礼が言いたいのは私たちの方だよ」
「……そう、なの?」
「当たり前だよ。だって、みんなで同じ時期にデビューして。
ケガもあったけど……こうして、凄いレースも出来た」
共にレースを走った記憶は多くはないけど。
一生分の会話を、走りながらした気もする。
「セラちゃんが、私たちに強さを教えてくれたから。だから、皆ひたすら前を目指せた」
「……スペちゃん」
「私たちの目標でいてくれて、ありがとう。セラちゃん」
「…………私の方こそ……」
みんなが、目標だった。
クラシックを制覇し、シニア級の混じったGⅠレースも次々に手にしてきた。
そんな、最高の
私は、ここまで這い上がってこれた。
「ありがとう、みんな。
これからも、ずっとずっと。一緒に走っていこうね」
目を擦りながら、崩れそうな表情を笑顔に変えて言う。
「だって私たち、同期なんだから!」
頷く5人のウマ娘。
みんな、性格も体格も違うけど。
想いは同じ。
誰にも負けたくない。自分が一番になりたい。
遥か高い志を共有する、最高の好敵手達。
星の煌めく夜空の下、誓いを胸に少女たちはライブ会場へ進んでいく。
今日のレースを見てくれたお返しを、ファンのみんなへするために。
「……あ、そういえば」
ウイニングライブ会場の裏。
開始前、ふと思い出したように、キングヘイローが口を開いた。
「今年から有馬記念の楽曲が変更になったの、忘れてないわよね?」
「ああ! 忘れてた。あぶなかったぁ……『NEXT FRONTIER』じゃなかったね」
「結構複雑な動きが多い曲ですけど……。エル、ちゃんと練習してました?」
「もちろんデス! まあ、3着までの動きしか覚えてませんが」
「……今日はそれで良いですけど。次からはちゃんと全部覚えるんですよ?」
「おぉ……。グラスが怒らないなんて……今日はやっぱ特別デ……あいたたた!?」
「あら、失礼。進路に尻尾が落ちてたので」
「これから踊るのに、なんてことするんデスかーーー!! あー! 毛先がぁ~~~!!」
「私は逆に1着じゃなくてよかったかも。あの振付、恥ずかしすぎるでしょ。
ラフィは何とも思わないの?」
「うん。別に。何回もやってると慣れるよ」
「…………ラフィ?」
「た、他意はないからね? スカイちゃん、そんな目で見ないでぇ~……」
「……ちょっと不安だけど。問題なさそうね。それじゃ、行くわよ」
キングヘイローの合図と共に、セラフィナイトが一番前へ歩いていく。
そして、2着と3着になったウマ娘の間に入るように手をつないだ。
「よし、じゃあ、みんな。楽しく、歌って、踊って! 最高のライブにしよう!」
顔を見合わせて頷く。
スタッフの人が合図をした。
もうすぐ始まるようだ。
今年最後、最高のウイニングライブ。
曲名は――。
『うまぴょい伝説』
弾ける歓声と輝かしい光の下へ。
最強のウマ娘達は、足並みを揃えて駆け出して行ったのだった。
遠く、遠く。
地下バ道の先に光が見える。
いつぶりだろう。
どれぐらい待たせたのだろうか。
【今日のこの中山レース場には、オープン特別とは思えないほどのファンが詰めかけております】
【それもそのはず。今年より設立された、芝2500m『サビク杯』の記念すべき第一回目ですからね】
【このレースは、年末大一番のグランプリレース、有馬記念の出走が様々な理由で惜しくも叶わなかったウマ娘が集う、新しい試みですからね。
出走ウマ娘たちは、影の実力者ばかりですよ】
「……調子は?」
出口の近く、スーツ姿の女性が声を掛ける。
感情の起伏が激しかった彼女も、ここ最近はすっかり落ち着いたようだ。
「ばっちりです」
「今日のレースは、一筋縄じゃいかないからね。
苦しい展開になるかもしれないよ。
2200mだけど、レコード記録持ってる子だって居るんだから」
「だったら、問題ないですね。私は2500mの保持者ですよ?」
「今なお、破られてない記録のね」
「ええ」
にやりと笑う。
つられて、女性も笑う。
「気合十分だね。よし、行っておいで!」
「はい。いってきます、トレーナー!」
昔と変わらぬ笑顔で、そのウマ娘は本バ場へ駆けていく。
金色の髪が太陽に照らされ、銀の輪に緑色の石がついた髪飾りが躍る。
ターフを眺める碧眼は、真っすぐ前を向いていた。
【さあ、会場のみなさん。お待たせしました。
今、本バ場入りしたウマ娘は、かつて有馬記念で衝撃のレース展開を魅せ、今や数々の栄誉を手にする"最強世代"の中でも、一際輝いている選手です】
【長い間、治療の為にレースから離れていましたが……今日、ようやく"ターフの天使"が帰ってきました】
【さあ、みんなで呼びましょう!】
【未だに"最強"の名を譲らない、ウマ娘を!】
【その名も…………!!!】
『セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~』 完