セラフィナイト ~最強世代6人目のウマ娘~   作:背水 陣

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7話『セラの出した答え』

「さてさて。キング、まずはGⅠ制覇おめでとう」

 

「おーっほっほっほ! 言ったでしょう。

 これがキングの実力なのよ!」

 

 

高松宮記念の次の日。

 

トレーナー室で今後の打ち合わせを行っていた。

 

キングヘイロー、セイウンスカイ、セラフィナイトが

机に座るトレーナーの前で揃って話している。

 

 

「うんうん。こうやって素直に喜べるのは良いことだ。

 あなた達ウマ娘は結果が全てだからね。」

 

「キング、次は何のレースに出るつもり?」

 

「そうね。秋にはスプリンターズステークスに出るつもりだけれど……。

 それまでに、何も出ないのも勿体ないわね」

 

「安田記念辺りが順当じゃないかな。

 秋にはマイルチャンピオンズシップで、二大スプリントとマイル制覇! とかどう?」

 

タブレットを操作しながらセラフィナイトが提案をする。

 

「良いわね! クラシックでの汚名返上には持って来いのトロフィーだわ!」

 

「すーぐ調子に乗るんだから。

 短距離はまだしも、マイルならグラスちゃんやエルも出てくるし。油断は禁物だよ~?」

 

「ぐっ……。わ、わかってるわよ!」

 

「スカイは、まず春の天皇賞だね。調子も良いし、いけそうかな?」

 

「さあ~? スペちゃんも結構仕上げてきてますしねぇ。

 私はマイペースにやってきたから……どうでしょう?」

 

「あはは。なら大丈夫そうだね」

 

 

和やかな空気でミーティングは進む。

 

だが、その場でただ一人。

タイミングをずっと計っている者が居た。

 

 

緩い雰囲気を壊したくない。

糾弾されるのが怖い。

 

今でなくても良い。

 

 

けど、今でないと直接話す機会を失いそうで。

 

 

優しく誠実な彼女は、それだけは耐えられないと思っていた。

 

 

だから。

 

 

「しかし、スカイに次いでキングもGⅠウマ娘かぁ。

 うちのチームへのマーク、また厳しくなりそうだねぇ」

 

ちょうど良い話題がトレーナーから飛んできたので、意を決して口を開いた。

 

 

 

「そうだ。トレーナー。そのことなんですけど……」

 

 

何気ない会話の流れ、何気なく取り出した一枚の封筒。

 

 

 

 

綺麗な字で書かれた……『脱退届』の文字。

 

 

 

「……」

 

 

空気が凍った。

トレーナーは受け取ることもせず、目を丸くしている。

セイウンスカイは一瞬の硬直後、ゆっくりと部屋の鍵を閉めに行く。

 

 

次に言葉を放ったのは、キングヘイローだった。

 

 

「な、なんでよッ!?」

 

 

封筒を取り上げながら、涙交じりで怒鳴る。

 

 

彼女が怒るのも当然だ。

 

 

だって、約束した。

 

 

自分が、届かない夢のはずだったGⅠを制覇すれば

またきっと、走るための勇気になるはずだ。

 

 

その時こそ、再びその才を芽吹かせて共に戦おう、と。

 

想いを無駄にする行為に、胸がチクチクするが

セラフィナイトは、はっきりと言う。

 

 

「トレーナーの言った通りだよ。

 これから忙しくなるなら、なおの事。

 宙ぶらりんなマネージャーじゃなくて、専属のスタッフになるべきかな、って」

 

「認めないわ! それじゃ、何のために私は走ったのよ!?」

 

「キングちゃんは、自分の為に走ったんだよ。それでいいじゃない」

 

「良くないわ! 伊達や酔狂で、他人の考案した作戦に乗って、大舞台のレースに臨んだりしない!

 私は、あなたが考えたからこそ、差しを選んだの!

 実際にやってみて、本当に思うようなレース展開で……だから……勝てたのに……!!」

 

拳を震わせて訴える友人を、セラフィナイトは目を細めて見つめる。

 

「……一応、確認するけど」

 

くしゃくしゃになった封筒を、キングヘイローの拳から優しく取り上げるトレーナー。

席に戻りつつ、内容の不備がないかを確認しながら続ける。

 

「さっき言ったことが、脱退理由でいいのかな?」

 

「はい」

 

「なるほどね。まあ確かに、次も、その次も。

 キングやスカイをGⅠに勝たせてあげつつ

 他のウマ娘をみるのは、難しいっちゃ難しいよね」

 

今度は署名欄にもしっかり名前の記述があった。

 

「二人だけじゃない。チームのみんな、凄く頑張ってます。

 キングちゃんが挫けずに頑張ったから、更に闘志に火がついてるように見えました。

 そんな皆を、私は支えてあげたいんです」

 

「それなら別に、チームを去る理由にはならないよね。どうして?」

 

「…………それは」

 

キングヘイローが何かを言いかけるが、手を引かれて留まる。

ゆっくり首を横に振るセイウンスカイの仕草を見て、信じて待つこととした。

 

 

「…………もう……走りたくないから、です」

 

キングの念願のGⅠ制覇には、心から喜んだ。

ずっとずっと、頑張ってきた姿を見てたから。

 

 

 

しかし、逆に。

その輝きにセラフィナイトは(くら)んでしまった。

 

 

 

同期達は、本当に凄い。

 

 

誰もが才能あふれるウマ娘なのに、誰も手を抜かない。

最後の最後まで、己の限界を出し切って走っていく。

 

 

 

痛感する、みんなとの差。

 

 

 

もう一年、レースに出ていない。

 

 

 

栄えある成績を残せる機会も少ない。

それどころか、その舞台に立つことすらままならない。

 

 

 

「……届かない夢を追いかけるのは、辛いんです」

 

 

 

私は、みんなと違うから。

 

 

 

速さも、運も、強さもない。

 

それを手に入れようとしても、出来なかった。

 

 

だから、ここで気持ちに区切りをつけるんだ。

 

 

 

「……一つ、言っておくよ。セラ」

 

「……」

 

「あなたの足の状態はわかってる。

 それでも、マネージャーとしてチーム所属にしたのは

 またいずれ、走るため」

 

「……はい」

 

「当然、周囲のトレーナー達もそれは知ってるよ。

 それでも、離脱を選ぶというなら……」

 

一息置いて、トレーナーは突き放すように言った。

 

 

「本当に、二度とレースには出られない」

 

 

もし、何か思い直して走る決意をしても

一度壊れたウマ娘を、わざわざ抱える酔狂人は居ないだろう。

 

また、同チームへの離脱から復帰は原則として禁止されている。

別チームに移って、また戻り情報だけを仕入れるようなことを防ぐためだ。

アルタイルに戻ることは出来ない。

 

 

「……」

 

 

「それでも、いいんだね?」

 

 

 

「…………はい」

 

 

セラフィナイトは、横で歯を食いしばるキングヘイローを見た。

そんな彼女の手を握る、セイウンスカイを見た。

 

 

悲しそうな表情で首を縦に振るセラフィナイトを、二人が見た。

 

 

 

「わかった。じゃあ、これは受理します」

 

 

冷たい声でトレーナーは言うと、机の引き出しから厳かな印鑑を取り出した。

用紙をしっかり伸ばし、受諾印の場所へ印面をゆっくり近づけていく。

 

 

 

セラフィナイトはその光景をじっと見つめた。

 

 

 

接地が近づくにつれ、自分の競技者としての終わりを実感していく。

 

 

 

 

 

 

思い出が、どんどん頭の中に溢れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

デビュー前。

 

ようやく憧れていたトレセン学園に入学。

まだまだ、わからないことだらけだったけど……

 

 

「ブエナスディアース、スペちゃん! 今日もエルと走りましょう!」

 

「うん! グラスちゃんも行こう!」

 

「はい。手加減なしですよ~」

 

「ぐぬぬ……スカイさん! 併走トレーニング行くわよ!」

 

「え~? キングは暑苦しいなぁ~。私は一人で走りまーす」

 

「え? ちょ、ちょっと! スカイさん!」

 

切磋琢磨して、周囲の評価を上げていくみんなが近くに居た。

 

同じ学年であることが誇りだった。

鮮烈なデビューを飾った子、レコードを早くも叩き出す子。

 

次のクラシックは、凄いレースになるだろう。

それは学園内だけでなく、外にも周知の事実になっていた。

 

 

 

 

だからこそ……。

 

 

 

「はぁ……はぁ……。うぅ~、また勝てませんでした……」

 

「セラちゃん……たまには手加減して欲しい……デス……がくっ」

 

「……次は、負けませんよ。セラちゃん」

 

 

 

模擬レースで、みんなの先頭に立つのが好きだった。

 

強い皆の中で、誰よりも先に入線するのが気持ちよかった。

 

調子に左右されることはあっても、自分の中の世代最強は揺るがない。

 

 

 

 

誇りだった。

 

 

 

 

 

 

『靭帯と関節部分に激しい損傷が見られます』

 

 

 

 

走るのが楽しかった。

 

 

 

 

『また同じように痛めると、レースどころか歩行すらままならないことも……』

 

 

 

 

 

走るのが嬉しかった。

 

 

 

『残念ですが……トゥインクル・シリーズは諦めましょう』

 

 

 

 

 

 

走るのが……好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

医師の言葉が脳内にフラッシュバックする中、セラフィナイトは目の前の光景を凝視していた。

 

 

 

 

トレーナーの動きがスローに見える。

 

 

あと数瞬で、押印は果たされる。

 

 

それで、おしまい。

 

 

 

レースではなく、サポート役として。

 

 

 

 

セラフィナイトは新しい道を進んでいく。

 

 

 

 

それでいいんだ。それで。

 

 

 

だって……もう、それしかないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

必死に言い聞かせる、自我に反し

 

 

 

 

 

頭の中には、楽しかった記憶がずっと流れていた。

 

 

 

 

芝を一人で駆けていく空気。

 

 

レースで勝った時の喜び。

 

 

 

みんなとの、心震わせる熱い勝負。

 

 

 

 

 

 

全部全部、大好きな思い出。

 

 

 

 

 

 

(…………さよなら。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

印鑑が、ゆっくりと接地した。

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