これはびっくり大穴ウマ娘   作:キングヘイロー↙️↓↘️➡️↗️⬆️

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12話 星を掴め

4月、新潟7レース。

ダート1700M、天気は雨だ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

ダイユウサクが声をかけると、トレーナーは小さく「おう」と手を振った。

 

「馬場が荒れてっからよ、こう……グワッと砂をかいてけよ!」

「ファイトですわよ!」

 

つきそいの皆と別れ、ロッカールームに向かう。

復帰して3戦目、新潟のコースは初めてだが慣れたものだ。

 

「また7枠、オレンジか」

 

入選したレースでもオレンジをつけた気がするが、ラッキーカラーになってくれるだろうか。

ダイユウサクは独り言をつぶやきながらオレンジのゼッケンを身につけた。

 

「あの、いいですか?」

 

すると、遠慮がちな声で隣のウマ娘に話しかけられた。

栗毛でスラリとしたウマ娘、どこかで見たことある顔だ。

 

「前走の中京で一緒だったダイユウサクさん、ですよね?」

「……あ、1着だった」

 

そのウマ娘は「エイシンカンサイです」とニッコリ笑う。

どことなく優しげな雰囲気だ。

 

「あと、こちらのピタちゃんも」

「リュウジュピターだ。よろしくなっ」

 

こちらはちんまりとした鹿毛のウマ娘だ。いかにも元気そうな笑顔がまぶしい。

 

「前走は大変だったなー、私たちみんなにハメられたってわめき散らしてさ。こっちまで怒られたんだ」

「掴みかかられてビックリしましたけど、何だかかわいそうでしたね」

 

どうやら2人は顔馴染みらしい。

同じようなランクで走っていれば意外と知り合いは増えるものなのだ。

 

「……悔しい気持ちも分かるけど、次のレースではあんなことなかったし……やっぱり暴力は良くないですよね」

「えっ? ダイユウサクさんあの後に走ってるのか!? タフなんだあ」

 

ダイユウサクもがんばって会話に交ざろうとしたら、リュウジュピターに驚かれてしまった。

やはり連闘は珍しいらしい。

 

「ダイユウサクさん、お互いにがんばりましょうね」

「私もやるぞーっ!」

 

2人はそれぞれ、パドックに向かう。

ダイユウサクも『負けてられない』と自らの顔を両手で叩いて気合いを入れ直した。

 

(もう、負けたくない)

 

そう思えるように、トレーニングを重ねてきた。

 

今日は11人立て、10番人気。

だれも期待してないーーだからどうした。

 

ゲートに入り、ぐっと目の奥に力を込める。

バンッとゲートが開き、ダイユウサクは飛び出した。

 

『スタートしました! 各バ一斉、11人ほぼ揃いました。真ん中イチヨシフブキはちょっと後手を踏んだような形になりましたが大丈夫でしょうか。エイシンカンサイ前に行きそうです』

 

雨粒が顔を叩く。

田んぼのようなぐちゃぐちゃのダート、バ群に入ると前のウマ娘に容赦なく泥を撒き散らされた。

 

『前を行くのはエイシンカンサイとヤマニンストライプ! 濡れた砂を避けたか外からハクサンコペルも押し上げてきます』

 

強い衝撃、転びそうになるのを必死で耐える。

コーナーで内から体当たりをされたのだ。にこやかに話しかけてきた小柄なあのウマ娘に。

 

(くっそ、ナメられてる!)

 

押し負けてふらつく自分の弱さが恨めしい。

いらだつダイユウサクは口中の砂を「プッ」と吐き出し、必死で体勢を立て直す。

 

『内側からリュウジュピターがこじ開けて行こうとしているぞ。ちょっとぶつかった、オレンジのゼッケンダイユウサクにぶつかっていった第1コーナーカーブ。さあ先頭はヤマニンストライプ! 1バ身つづくのはハクサンコペルとエイシンカンサイ』

 

重い泥に足がとられる。

雨粒のせいで目が開けてられない。

肺が痛いのに泥が跳ねるせいで息も吸えない。

 

また、顔に泥の塊をかけられた。

口の中がジャリジャリする。

泥が目に入り涙が止まらない。

もうやめたい。たまらなく苦しい。

 

『先頭ヤマニンストライプに追いつくかハクサンコペル、3、4コーナー中間点を通過、内からマヤノジャイアント、外に持ち出したのはリュウジュピター』

 

『もうやめよ』耳元で誰かがささやいた。

もう私は頑張った。

復帰して3戦、入着だってした。

走るのはこんなにもつらい。

だれも期待していない10番人気、やめたって誰も悲しまない。

『頑張ったけど』って言えば許してくれる。

みんな報われない努力もあるんだって知っているから。

 

『さあ最終コーナーに入る! 先頭は入れ替わってハクサンコペル! 追いすがるのはエイシンカンサイ! これは先頭一騎討ちか!?』

 

誰も悲しまない? 本当に?

 

いつもレース場で側にいてくれたワースさんがいる。

ランドさんは毎日トレーニングで併せてくれた。

いつも『まだ速くなる』と言ってくれたトレーナー。

 

「……裏切れない」

 

仲間を裏切れない。

ここで諦めるのは群れへの裏切りだ。

 

「走らなきゃ」

 

そう、走らなければいけない。

出しきれなかった、その後悔を味わうのは1度きりでいい。

努力は裏切らない。努力を裏切るのはいつだって自分の諦めだ。

 

『私はまだ、出しきってない!』

 

その瞬間、ダイユウサクは世界からブツリと切り離されたのを知覚した。

 

分厚く、前を阻む黒い霧。

なにも見えない暗闇の中をダイユウサクは孤独に走る。

ただ、暗闇の先に1つだけ輝く星がある。

ダイユウサクは駆けた。

その星から伸びる光だけを頼りに手を伸ばす。

 

星を掴むために。

 

「つかめえぇえぇぇっ!!」

 

広がる世界。口からでた雄叫び。

これが自分の声かと驚いた。

 

進路を阻むバ群。

だが、迷いはない。どう進めばいいのかは星が教えてくれる。

自分だけの一番星が分厚い霧に穴を開けてくれた。

 

『最後の直線、先頭はハクサンコペル! 2番手は……おっと後方オレンジのゼッケン飛んできた! ダイユウサクすごい足っ! オレンジのゼッケンはダイユウサク! ダイユウサク3番手! 2番手! 届くかっ!? 届くかっ!? 届くかっ!? 届いたあっ! 差し切り勝ちすごい足だっ!! これは凄いウマ娘だーっ!! ダイユウサクはこれが初勝利! 泥にまみれて輝く大勝利だーっ!』

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああぁぁっ!! ユウサクさんがやりましたわよっ!! ゴボウをアレしてぶち抜きましたわっ!! ほらっ!! ほらっ!!」

「おっひょおおおぉぉっ!? なんじゃアレ!? なんじゃアレっ!? おっひょおおおぉぉっ!?」

 

ダイユウサクがゴールした瞬間、大歓声があがり、メジロワースとスペインランドは抱きついて跳び跳ねている。

驚きで語彙が死んだのか、叫び続けているが無理もない。

 

「すごい」

 

静かに見守っていた平田にも言葉がない。

10番人気が大穴をぶち開けた。それもこれ以上なく強い競バを見せつけて。

 

「ウイニングライブですわっ! 雨が降ろうと槍が降ろうと前に行きますわよっ!!」

「よっしゃあ! 行っくぜえっ!」

 

メインではないレースはとにかく時間がない。

レースの合間、体操着のままで行われるショートアレンジの楽曲。普段はそれほど盛り上がるものではない。

 

しかし、先ほどの走りが、熱が観客を突き動かした。

雨の中、濡れるのも厭わず前に前に押し寄せる。

 

「第7レースの1着は見事な大駆けを見せましたダイユウサクさんです! ご自身とともに新チームアルビレオの初勝利です。今後の抱負をお聞かせください!」

 

インタビューを受けるダイユウサクは頭から泥をかぶったような酷い姿だ。

だが、誇らしげに胸を張る。

 

「はい、遠回りしましたが、チームの皆や応援してくれた家族のおかげで勝つことができました。レースの途中で見つけた私だけの星……いつかそこに届くよう、これからもがんばります!」

 

短いインタビューが終わり、雨の中、泥まみれのライブが始まった。

観客がワッと歓声を上げる。

 

自分が担当するウマ娘がセンターで歌う。

その姿をみて平田はたまらない気持ちになってきた。

 

「うおおっ! あのウマ娘は俺が育てたんですよっ! あのウマ娘は俺の愛バなんですよっ!!」

 

レースの熱とトレーナーとしての喜びに耐えきれなくなり、平田は知らない男に肩を組んで叫び出してしまった。

 

「なーに、やってんですかしら」

「恥ずかしいなあ、ははっ。すいません」

 

 

大興奮のトレーナーの横で頭を下げるウマ娘たち。わけ知りのファンは「良かったね」「すごかった」と声をかける。

 

ついに、遅咲きの星が曇り空から顔をのぞかせた。

ダイユウサク、日本中がこの星の輝きに驚くまで、あと1年と8ヶ月。

 




1着 ダイユウサク
2着 ハクサンコペル
3着 エイシンカンサイ
4着 ヤマニンストライプ
5着 マヤノジャイアント


これで第一部完です。
ご要望があればまた……

作中の時代、大阪杯や高松宮記念はGIIでした。ウマ娘時空ということで現代風にGIに統一するのが良いか、それとも当時のままGIIにするか、どちらが良いでしょうか。よろしければ回答お願いします

  • ウマ娘時空を尊重、G1にする
  • 時代背景を尊重、G2にする
  • ややこしいので当該レースの描写は飛ばす
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