これはびっくり大穴ウマ娘   作:キングヘイロー↙️↓↘️➡️↗️⬆️

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3話 転機

「ユウサク、電話だよー」

 

実家での休養。

年も改まり、体調こそ良くなったもののダイユウサクの気分が晴れることはない。

 

気晴らししようにも友人にも、近隣住民にも会いたくなかった。

最近のダイユウサクは常に引きこもりがちだ。

 

「ちょっと、聞いてるのー? 学園のトレーナーさんだって」

「トレーナー……? いいよ、いないって伝えてよ」

 

ふすまの向こうからダイユウサクの母が呼びかける。

なにやら小言を言っているが、相手にしなくていいだろう。

 

(いまさらどんな話をするのよ)

 

この母はウマ娘らしいおおらかさがあり、娘を追い出したトレーナーからの電話を取り次いでくる。

 

余談だがダイ『ユ』ウサクの名はダイ『コ』ウサクであった。それを母親が出生届にダイユウサクと誤記してしまい、ダイコウサクはダイユウサクとなったらしい。

母いわく「下の棒が長かったわね」と笑っていたが、小学生の頃に自分の名前の由来を調べる宿題(そもそもウマソウル由来なので意味はよく分からないのだが)で真実を知ったダイユウサクはショックのあまり数日寝込んでしまった。

もともとメンタルが弱く、体も強いたちではないのだ。

 

「――ええ、すいません。はい、伝えておきます。いえいえゴロゴロしてるだけですから――」

 

なぜ母親という生き物は言わなくてもよいことをわざわざ他人に伝えるのか。

ダイユウサクとて中等部、お年頃なのである。身内のこんなとこが恥ずかしくて仕方がない。

 

チン、と黒電話の受話器を置く音がする。

ダイユウサクの家は田舎であり、電話にファックスもついてないし、テレビにビデオもない。

トレンディ(※当世風を意味する当時の流行語)なトレセン学園とは全然違う。

 

あまり豊かでない家庭(ウマ娘は食費がかさむために一般家庭では大変なのだ)に生まれたダイユウサクは、両親がトレセン学園の学費や諸経費を苦労して捻出したのを知っている。

それゆえに、こうして逃げ帰ってきた自分が情けなく、家族と顔を合わせるのがつらかった。

 

「ユウサク、トレーナーさん4時に来るって。ちゃんとした格好しなさい」

「はあーっ!? ウチに? わざわざ? なんで?」

 

ダイユウサクがふすまを開けて部屋から顔を出す。

母親は「アンタが電話出ないからでしょ」と取りつく島もない。

 

母だって、かつてはトレセン学園に所属していたウマ娘だ。

思うように結果が出なかったのは自分と同じ。ならばもう少し気づかってくれてもよかろうとダイユウサクは思う。

 

(いまさらトレーナーが何で……? 退部の確認? 何か書類が必要だから? でも郵送でいいのに)

 

いくら考えても分からない。

そもそもロクにトレーニングできなかったダイユウサクにとってトレーナーは親しみを感じる存在ではなかった。

自らクビにしておいて、会いに来る理由など想像もできない。

 

「あーあ、ゆううつ……」

 

ダイユウサクは大きなため息をつきながら制服を用意する。

彼女にとって一番ちゃんとした格好とはトレセン学園の制服なのだ。

 

(もう、着ることないかと思ってたけど……あれ? リボンないじゃん)

 

あれほど袖を通すのが誇らしかった制服はくすんで見えて、すっかり輝きを失っているようだ。

 

「はあーっ。もう、なんなのよ」

 

つい、口から不平が出る。

引きこもりがちだった生活からか、独り言がクセになりつつあるダイユウサクだった。

 

 

 

 

 

 

「はじめまして……ではないんだけど、こうして話すのは初めだから。ヒラタです」

 

現れたのはミラのトレーナーではなかった。

20代後半か、30そこそこの若い男だ。トレーナーバッチを身に着けているが、全く知らない顔だった。

 

「かけ持ちだったがナイトウさんの元でもサブトレーナーをやっていてね。あまりキミに関わる機会がなかったけど、様子は見ていたよ」

「……あ、そうなんですね」

 

ナイトウさんとか言われてもダイユウサクにはよく分からない。

たぶんナイトウさんもトレーナーなのだろう。

 

ヒラタと名乗ったトレーナーはダイユウサクの母親が出した湯呑を受けとり、にこやかに「おかまいなく」と如才ない挨拶をした。

なんとなく人当たりがよく、世慣れた雰囲気がある。

 

「それで今年から独立してね、今年から新しいチームを作るんだ。3等星からだけど名前も決めていてね」

 

――アルビレオ。

 

チーム名を口にしたヒラタはどこか得意げで、おもちゃを自慢する子供のようだとダイユウサクは感じた。

もちろん聞いたこともないチーム名である。

 

「ここまで言えば察してもらえるだろうけど、スカウトだ。ダイユウサク、アルビレオに移籍してもらえないだろうか」

「あ、すいません。もうそういうのいいです……」

 

なるほど、とダイユウサクは納得した。

要は新規チームの数合わせなのだろう。

 

併せ馬に帯同バ……チームはある程度の人数がいないと機能しない。

しかし、ウマ娘にとってもチーム加入は競技人生を左右するファクターだ。わざわざ全くの新設チームに移籍をしたいと名乗り出るのは勇気のいることである。

ヒラタがメンバー集めに苦戦していても不思議はない。

 

「いいや、ぜひとも来てほしい。キミが欲しいんだ。ダイユウサク」

 

普段のダイユウサクは大人しく、温厚で素直な性格だ。

だが、このヒラタの物言いに少しムッときた。

 

(実績のないウマ娘なら断るはずがない、そう思われてるのかな)

 

たしかにダイユウサクはクラシックが終わって大惨敗続きの未勝利ウマ娘。

所属していたチームすら離れ3流以下の最底辺ウマ娘といってもよい。

 

「だから断れない……移籍の話に飛びつくに違いない。そう思いましたか?」

 

普段の彼女はこのような失礼な物言いはしない。

だが、この時のダイユウサクは完全にふてくされていた。

レースに戻る気がないのでトレーナー相手にも遠慮がない。

 

その様子を見たヒラタは少し困ったような表情を見せ「うーん、そうきたか」と呟いた。

 

「それは誤解だよ。言ったろ? ウチはアルビレオ――アルビレオって星は知ってるかな? アルビレオって星はね、2つの星がくっついている二重星なんだ」

 

ヒラタが言うにはアルビレオなる星は変わった星らしく、2つの星で1つの名前らしい。

ダイユウサクは「そうなんですね」と適当な相づちを打つ。

正直、あまり興味がない。

 

「クラシックの1等星を目指すのはいい。でもウマ娘の生き方も色々ある……あっていいはずじゃないか。キミたちは他の輝き方も探せるはず、そんな願いを込めたチーム名なんだ。アルビレオは」

「……クラシックの、星」

 

ダイユウサクの胸がチクリと傷んだ。

ジュニアはおろかクラシック全てを棒に振った事実はまだまだ癒えない心の傷だ。

 

「悪いがキミのデータは全て見た。選抜レースのタイムもね。上がり3ハロンのタイムは立派だ、驚異的な末脚と言っていい。それに前走はタイムオーバーの大敗といってもスタート直後はハナを切っていたし、スピード能力にはかなり期待がもてる」

 

ヒラタは言葉を溜めるようにお茶をすする。

ひょっとしたら言葉を選んでいるのだろうか、とダイユウサクは感じた。

 

「問題は体調だった。クラシックの2戦、キミはトレーニングも調整も不足してる上、熱発しているのに出バして大敗した。これは良くない。キミに必要なのは休養だった」

 

これにはダイユウサクも耳を伏せるしかない。

体調不良でレースに出れば事故に繋がったかもしれない……だが、これがラストチャンスと思いつめてしまったのだ。

トラブルがなかったのは幸運だった。

 

「だが、今日見たところ長期休養のおかげで体調も良さそうだし、レースに出てないだけあってバ体が若い。まだまだやれそうで安心した。『コンディション不良で泣いた逸材をスカウトしたい』ダイユウサク、これがキミに来てほしい理由だ」

 

ダイユウサクの喉がゴクリと鳴った。

ウマ娘は人間よりも五感が鋭く、本能的に口先だけの嘘など見破ることができる。

 

その本能が告げていた。

『この人間は嘘をついていない』と。

 

「本当に、やれると思いますか?」

「うん、あまり大きなことは言いたくないが、少なくともオープン級で勝ち負けは固い。上手くすれば重いとこで1つ2つは勝つと見ているよ」

 

この答えには苦笑がもれる。

普通は『キミなら勝てる』とか『G1を狙う』とか景気のいいことを言いそうなものだ。

 

だが、ヒラタはそうしなかった。

おそらく、本気で期待しているラインを示してくれたのだ。

それにしたって底辺ウマ娘に重賞レースをほのめかすのだから期待の大きさは推して知るべしである。

 

「重賞でいくつか勝てれば学園の学費を賄えるし、卒業後に大学や専門学校に行く学費だってだせるはずだ。次の生き方を探すまでの余裕が生まれる」

 

ヒラタは「それは大切なことだと思いますよ」とダイユウサクではなく母親に視線を向けた。

母親も納得したようで何度も頷いている。

 

「どこまでやれるか自信はありませんけど……」

「まだトレーニングをしてないんだ。おかしな自信があったら困るよ」

 

ヒラタは右手を差し出し、ダイユウサクは少しためらいながら握手を返す。

 

「決まりだ、復学や移籍の手続きはこちらでやっておく。また近いうちに電話で話をしよう」

「はい、よろしくお願いします」

 

自分の声が震えているのをダイユウサクは知覚した。

それはレースに戻る不安からだろうか、それとも嬉しさからだろうか。自分でも分からない。

 

「今日はお赤飯かしらね。ヒラタさんも食べていってくださいね」

「はい、お世話になります」

 

やはり母親の行動は恥ずかしいが、これで迷惑をかけた両親に顔向けができると考えれば悪い気分でもない。

 

夕飯時、ヒラタは人間の割にはよく食べ、食の細いダイユウサクを驚かせた。

 

作中の時代、大阪杯や高松宮記念はGIIでした。ウマ娘時空ということで現代風にGIに統一するのが良いか、それとも当時のままGIIにするか、どちらが良いでしょうか。よろしければ回答お願いします

  • ウマ娘時空を尊重、G1にする
  • 時代背景を尊重、G2にする
  • ややこしいので当該レースの描写は飛ばす
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