これはびっくり大穴ウマ娘 作:キングヘイロー↙️↓↘️➡️↗️⬆️
ダイユウサクが復学したのはシニア春シーズンの直前、2月のことだった。
「……あれ? ここだよね」
寮の部屋を開けると、妙にガランとした空間が広がっている。
それは全くの空き部屋のようだった。
(……そっか、あの娘やめちゃったのか)
1つ下の栗毛のかわいいウマ娘だった。
ジュニアの早い時期に1勝したが、勢いが続かず伸び悩みに苦しんでいたのを思い出す。
ダイユウサク自身が体調を崩しがちであったし、半年も放牧に出されていたのだから交流はささやかなものだった。
しかし、感じるものがないわけではない。
「1勝できたからいいじゃん、なんて言えないよねえ」
ダイユウサクも退学する予定だったのだから部屋に私物はない。
備えつけの机に手荷物を置き、ベッドに腰を掛けた。
「1勝、か」
2戦連続タイムオーバーの大敗。
この事実がズシリと心にのしかかる。
「……少なくともオープン。うまくやって重いとこ、か」
ヒラタトレーナーの口車にのって復学したものの、これからのレースやトレーニングを想像するだけで胃が締めつけられるような不快感に襲われる。
(トレーニングについていけるかな? また病気をするかも……)
だんだん胃から何かがせり出してくるのを感じる。
ダイユウサクにとって復帰はたまらなく不安なものだった。
☆
翌日、クラスではチラチラと視線を感じたが誰も声はかけてこなかった。
辞めたと思っていた落ちこぼれが現れたのだ。腫れ物を扱うようになるのは当たり前である。
(完全に無視してくれたほうがラクなんだけどな)
ダイユウサクの鼻から小さくため息が出た。
入院や休学を経て、いまさら友達づくりをする気にはなれない。
(……そりゃ友達くらい欲しいけどさ、あの中に入れってのはハードル高いよ)
ダイユウサクは横目で騒ぐウマ娘たちを盗み見た。
もう高等部となればクラスではグループのようなものができあがあっている。
まずにぎやかなのはオグリキャップ、スーパークリーク、ヤエノムテキのようなスターウマ娘のグループ。
ここにバンブーメモリーやブラッキーエール、ディクタストライカなども絡むことが多いようだ。
彼女らはレース以外にもテレビCMや雑誌の取材と忙しく、学園としても特例の塊、目にも眩しいキラキラした存在である。
他に目だつのは名門名家と呼ばれるメジロ家、シンボリ家、サクラ家などそれぞれで固まったグループ。
これに取り巻きも混ざっており、いかにも『女子の集まり』といった雰囲気だ。ダイユウサクが割り込む余地はない。
あとはクラスに馴染めないダイユウサクのようなはぐれがポツリポツリ……これは孤独を愛するとか孤高を気取るとかカッコいいものではない。
もともとウマ娘は群れる習性があり、グループに入れないのは完全なる弱者の立場だ。
中等部のころは弱者なりに集まってグループを形成していたが、高等部ともなると結果の出ない者は退学してしまっている。
グループからもはじき出されたヒエラルキーの最底辺だろう。
社交的な性格でもないダイユウサクは休み時間もぼんやりと教科書を眺めていた。
幸い、勉強で分からないことはない。
退学して一般の高校に転入しようと思っていたし、ダイユウサクは自主勉強を欠かしていなかった。
それにトレセン学園の学業は『いかに人間社会と関わり合うか』的なマナーや社会常識の授業も多く、偏差値はさほどでもない。
「オイ、お前ダイユウサクだろ? チョイとツラかせよ」
昼休み、無駄にカチカチとシャープペンの芯を出したり引っ込めたりして遊んでいると、不意に声をかけられた。
見れば知らないウマ娘だ。
ウマ娘らしい鹿毛に気が強そうな面構え。ところどころにバンソウコウを貼りつけ、いかにもじゃじゃウマ娘といった雰囲気だ。
「……えっと、どちら様ですか?」
「かーっ、オメェそれでも同期かよ! 俺はスペインランドだ!」
スペインランドと言われても全く心当たりがない。
恐らくクラスも違うのだろう。
「ランド、いきなりそんなことを言われてもダイユウサクさんも困ってしまいますわ。すみません、彼女も悪気はないのです」
次に現れたのはいかにも『お嬢様』といったウマ娘だ。
スペインランドより少し暗い色のつややかな鹿毛を腰まで垂らした細身の美人である。
こちらも見覚えはない。
「わたくしはメジロワース。ダイユウサクさん、アルビレオへ加入されるのでしょう?」
「あ、そのつもり……」
ダイユウサクがぼそりと答えると、メジロワースは嬉しげに「まあっ、やっぱり」と上品に喜んだ。
「わたくしたちもアルビレオのメンバーなんです。自己紹介も兼ねて、よろしければカフェテリアでランチをご一緒にとお誘いにきたのですが、いかがですか?」
「そうですわ。メシのお誘いでございますわ」
スペインランドが舌を出してメジロワースをからかい、キッと睨まれていた。
ずいぶんと仲が良さそうである。
(メジロって、あのメジロだよね。アルビレオって意外と期待されてるのかな)
ダイユウサクはメジロの名前少し気後れした。
メジロ家と言えば天皇賞を獲得したメジロティターンや、史上初ティアラ三冠を成し遂げたメジロラモーヌを排出したウマ娘の大名門だ。記憶に新しいところではメジロデュレンが菊花賞と有馬記念を制覇している。
ダイユウサクのクラスでもメジロアルダンは強豪と目されて注目株だ。
「あの、先約などありましたかしら。ご迷惑でしたら――」
「あ、いえ大丈夫です! 先約ないです!」
つい、ダイユウサクは食い気味に反応してしまい、驚いたメジロワースが「ひいっ」と小さく悲鳴をあげた。シッポがピンと張り、耳も横に折れてしまっている。
「あ、すいません。急に大声をだして……」
ウマ娘は臆病な性質なので急に近くで大声をだしたりしてはいけない。
引きこもりが長かったダイユウサクはウマ娘との適切な距離感を忘れてしまったようだ……ボッチである。
「うわっ、ビックリさせんなよ。変なヤツだな、へへっ」
「はしたないところをお見せしました……大きな声でしたので驚いてしまいましたわ。ダイユウサクさんて元気な方ですのね」
スペインランドもメジロワースも気にした様子もなく、ダイユウサクはホッとした。
「あの、カフェテリアの使い方、あまりおぼえてなくて……」
「休学なされていたのですものね。お体の具合はよろしいのですか?」
メジロワースの言葉に少し顔がひきつる。
もともと食が細いダイユウサクは昼は抜いたり、購買のパンやニンジンで済ましていたのでカフェテリアはほとんど利用していなかったのだ。
「良くなったから復学したに決まってんだろ。早く行こーぜ」
「ランドっ、そのような言い方は――」
にぎやかなスペインランドとメジロワースに釣られるようにダイユウサクも席をたった。
相変わらずチラチラとした視線を感じるが、これだけ騒げば無理もないだろう。
メジロワースがちらりとメジロアルダンを一瞥した気がしたが、その意味はコミュ症のダイユウサクには分からなかった。
【史実馬の紹介】
メジロワース
85年生まれ。
生涯成績
平地競走22戦6勝
障害競走21戦11勝
主な勝ち鞍、GIIマイラーズカップ、中京障害ステークス秋(1990・1991年連覇)中京障害ステークス春
平地競争でもマイラーズカップを勝つなどそこそこ活躍したが、故障もありパッとしなかった。
その後は障害競争に転向。これがピタリとハマって快進撃を続けた。
メジロは障害競争にわりと熱心でメジロパーマーも挑戦している。
史実馬のダイユウサクは他の馬とあんまり仲がよくなかったそうです。
作中の時代、大阪杯や高松宮記念はGIIでした。ウマ娘時空ということで現代風にGIに統一するのが良いか、それとも当時のままGIIにするか、どちらが良いでしょうか。よろしければ回答お願いします
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ウマ娘時空を尊重、G1にする
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時代背景を尊重、G2にする
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ややこしいので当該レースの描写は飛ばす