これはびっくり大穴ウマ娘 作:キングヘイロー↙️↓↘️➡️↗️⬆️
3月、ダイユウサクはトレーナーと帯同バのメジロワース、3人で新幹線に乗っていた。
本日ダイユウサクが出走する中京競馬場へ向かうためである。
ちなみにスペインランドは前日レースをしたためお休みだ。
「ちょっと前まで中京は前日入りだったんだが、今は便利になったし当日輸送だな」
「そうなんですね、宿舎で寝るより気楽です」
ダイユウサクはトレーナーが前もってまとめてくれたレース資料に目を通す。
中京競馬場6Rダート1700M。
左回り、今日の予報は晴れ。
出走者の名前やデータも記載されている。
「今日の調子を見るまでは何とも言えない部分はあるが……実績で見るならタケイチキングは去年地方で4勝して中央に移籍した強敵だな。オグリキャップ並とは言わんが注目を集めるだろう」
オグリキャップ、と聞きダイユウサクの耳はピクリと動いた。
怪物オグリキャップ――昨年クラシック級に地方から中央に移籍。いきなり重賞6連勝を飾り、年末のG1有馬記念でグランプリホースとなったウマ娘だ。
その走りとドラマ性で日本中を熱狂させ、オグリキャップブームを巻き起こすも今は故障のため休養中。
ダイユウサクはオグリキャップが嫌いではない……というより、好きとか嫌いとかそれ以前に交流がほぼない。
だが、苦手である。
オグリキャップを見ていると『なんであの娘ばかり』『私にあの才能があれば』『地方出身のくせに』と自分の負の感情を刺激されるからだ。
彼女がケガをしたと聞いたとき、ダイユウサクは笑っている自分に気がつき落ち込んだ。
「オグリキャップのおかげで地方レースに観客が増えた。第2、第3の怪物が発掘されるかもな」
「そういえばユウサクさんはオグリキャップさんと同じクラスでしたわね」
ダイユウサクはドキリとしたが、メジロワースは気にした様子もなく「これ食べます?」とお菓子の袋を拡げて見せた。
「徳用チョコですわ。お菓子は300円までですから貴重ですわ」
「あ、うん。いただきます」
甘いチョコレートをかじると、ざわついていた心が落ち着いていく。
「ありがとう、ワースさん」
「あら、ユウサクさんもチョコがお好きなんですのね。やっぱりチョコが一番ですわ」
メジロワースのはニコニコとしながら小さなチョコのかけらを大切そうに食べている。
彼女のおかげで気持ちがラクになったのをダイユウサクはハッキリと感じた。
臆病なウマ娘は知らない土地に行くと不安からコンディションを落としてしまう。
それを緩和させるため仲の良いウマ娘に付き添いをさせることを帯同バと言う。
なるほどこれは効果があるとダイユウサクは納得した。
「ユウサクさんのおやつは何ですの?」
「あ、私ははちみーのど飴。長もちするかなって……」
ダイユウサクがのど飴の袋を見せると、メジロワースは「ステキですわね」と目を輝かせた。
「よかったらいくつかーー」
「まあっ、よろしいんですの!? わたくし、ユウサクさんと友だちになれた自分が誇らしいですわっ!」
メジロワースはのど飴を口に放り込み、大げさに喜んでいる。
チョコレートを食べた直後によく飴をなめられるものだとダイユウサクは妙な感心をした。
「あー、ダイユウサク。いいか?」
「あ、トレーナーもどうぞ」
ダイユウサクが飴を手渡すと「ありがとう、でも違うんだ」とトレーナーは苦笑いした。
「今日のレースプランは頭に入ってるな?」
「はい、かけひきはせず、逃げられるとこまで全力で。無理はせずレースに慣れること」
これだけの指示である。
覚えられない方がおかしい。
ダイユウサクは脚質的に逃げはあまり向いていないが、レースの経験や勝負勘が不足しているために複雑な作戦が必要ない逃げをトレーナーは選択した。
あくまでも経験が第一ということらしい。
「そうだ。だがアクシデントがいくらでも起きるのがレースだ。スタートでつまずいたりゲートで待たされたりな。何か起きてもカッとなるなよ」
「あら? ゲートで待たされたら暴れて後ろを思い切り蹴っとばせば仕切り直しになりますわよ」
メジロワースのワイルドな発言にトレーナーが「はあーっ」と大きなため息をついた。
「そんなことしたらゲート再試験じゃないか……ホントにやめてくれよ」
「時と場合ですわ」
トレーナーは「ダイユウサクに変なこと教えるな」と叱っているが、メジロワースはどこを吹く風だ。
いざとなったら彼女はためらわずにやるのだろう。
(ひょっとしたら、すでにやったのかも)
まあ、ウマ娘は種族として閉所が苦手だ。
ゲートに入らなかったり、中で暴れたりするウマ娘もいないわけではない。
「……ま、それはさておき、くれぐれも無理だけはするなよ。来週もレースに出るからな」
「はい、無理せずレースに慣れます。逃げられるとこまで全力で、かけひきはなし」
ダイユウサクが復唱すると、トレーナーは「よし」と頷いた。
こうして新幹線でミーティングをするのは理由がある。
メインレースの出走者は控え室が与えられるが、ダイユウサクくらいの立場では大勢の出走者たちとロッカールームで支度をすることになるからだ。
つまりレース前にミーティングができないのである。
無理をすればどこかのスペースで行うこともできるだろうが、望ましい環境にはならないだろう。
「あ、この飴うまいな」
「ふふん、そうでしょう?」
ミーティングがひと息つき、トレーナーがのど飴を口に放り込む。
なぜメジロワースが威張っているのか、ダイユウサクには分からなかった。
☆
中京競バ場。
ロッカールームで着替えをすませたダイユウサクは静かに飴をなめていた。
パドックへの出番はもう少し。胃の辺りがググッと収縮し、気分が悪くなる。
(大丈夫、これはなれるための練習なんだ。落ち着け、落ち着け、私は逃げるだけ、かけひきはいらない)
何度も自分に言い聞かせるが、心臓の音がうるさくて集中できない。
ガリッと飴を噛み砕くと、濃厚なハチミツの味わいが口中に広がった。
「第6レース出走のみなさん、パドックお願いしまーす!」
職員の呼び声に反応し、ドクンッと鼓動の勢いが増した。
ロッカールームのウマ娘たちはパドックへ向かう。
ダイユウサクの目から見れば全員強そうだ。
パドックの内側で自分の出番を待つ間、たまらなく呼吸が苦しい。
「7番の方、お願いします」
職員に促され、パドックに出ると自分に視線が集中するのを感じた。ついキョロキョロと視線を泳がせてしまう。
(私は逃げるだけ、かけひきはいらない)
ダイユウサクは自分を落ちつかせるため、ぶつぶつと今日のレースプランを口にした。
無我夢中だったデビュー戦でも、ここまで固くなっていなかった気がする。
『続きまして7枠7番、ダイユウサク。2戦してまだ未勝利です』
『少し緊張気味ですね』
時間にして数秒、棒立ちだったダイユウサクは視線の先にトレーナーとメジロワースを発見した。
メジロワースは何やら必死に肩口を示して手を動かしている。
(あ、そうか……上着をバサッと脱がなくちゃ)
パドックではバ体の仕上がりを観客に見せるのであるが、それすらも忘れていたダイユウサクであった。
緊張で転ばないようにゆっくりと歩き、観客の前で上着に手を掛け力を込める。
するとどうしたことか、上着がスポーンと観客席に飛び込んでしまった。
緊張で引っ掛かったか、それとも汗で適度な重さがあったのか、ウマ娘のパワーで飛ばされた上着は観客に着弾し「ウワッ」と悲鳴が聞こえた。
(うわっ、やっちゃった)
恥ずかしさで顔がひきつる。
ダイユウサクはそのまま踵を返し、足早にパドックを去ることに決めた。
『おおっとダイユウサク、パフォーマンスでしょうか。上着を観客に投げ入れました』
『不敵に笑っていますね。このクラスで派手なパフォーマンスは珍しいですよ。お客さんも驚いています。いれこんでるかもしれませんね』
そのままパドックを出ると「ガイドライン通りにやるように」と職員に注意されてしまった。
まあ、その通りであるので言葉もない。
「ちょっと、変なパフォーマンスで目だとうとしないでくれる? 迷惑なのよ」
青いゼッケンのウマ娘がこちらに話しかけてくるが知らない顔だ。
ダイユウサクは『自分に話しかけたのではないな』と判断し、横を通過した。
今は失敗がとにかく恥ずかしい。
『私は逃げるだけ、かけひきはいらない』と繰り返し自分に言い聞かせる。
「なんなのよアイツ!」
どこかで苛立たしげな声が聞こえたが、ダイユウサクは気にしないことにした。
自分のことで精一杯、他者を気にする余裕などない。
ちなみにパドックでのパフォーマンス(?)が評価されたのか、ダイユウサクは10人立ての4番人気に推されていたという。
なぜかダイユウサク、このレースで4番人気なんですよ……2戦連続でタイムオーバーくらった馬の久々の出走なのに。その場の空気感は記録からは読めないので頭を抱えました。
これを創作におとしこむため「パドックで目だった」ということにしましたが、もちろん史実での溝橋騎手は無関係です。
作中の時代、大阪杯や高松宮記念はGIIでした。ウマ娘時空ということで現代風にGIに統一するのが良いか、それとも当時のままGIIにするか、どちらが良いでしょうか。よろしければ回答お願いします
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ウマ娘時空を尊重、G1にする
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時代背景を尊重、G2にする
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ややこしいので当該レースの描写は飛ばす