集まった超高校級
大きな爆発音。
男は女を抱えるようにして守るだけで必死で、奪われゆくものを取り返すことはできない。
「希望は何度でも…………」
それでも尚あなたは、希むのか。
問いかけには未だ答えないまま、彼等はやがて目を覚ますだろう。
ほらまた、あの場所で_______
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陽だまりの中、俺は目覚めた。
あたたかい光がよく体に染みる。
その陽気は生きてるって感じがする。
俺はまだ重い体を起こし、ひっついた草を剥がすように体を軽くはたいた。
見上げると、青い空が広がっている。
「やあ少年、お目覚めかな?」
いつからそこにいたのだろう。何者かが俺に話しかける。反射というやつで、俺はビクリと体を震わせた。
「………お前は……?」
「驚かせてすまないね。三上は時任千年という者だ。役者を業としている。よろしく頼むよ」
時任千年と名乗るその女は手を差し出した。俺は意図を握手だととり、その手を取った。
「俺は水蜜優だ。こちらこそよろしく頼むよ。…気づいたら俺は此処に寝ていたわけだが…。お前はどうなんだ?」
「三上も全く同じだよ。舞台に立っていたはずだったのだが……。いや、此処にくるまでの記憶が一瞬なくてだな」
長い髪を肩に落としながら、彼女は首を振った。
「千年、といったな。お前は役者をしているんだな。例えばどんなものを?」
「三上は代役といってね。都合で出れなくなった役者の代わりを演じるんだ。主演ややりたい役は身内にいつも取られてしまってね。いやー、悔しい…!……でもこのおかげで超高校級の称号を貰ったのだから、三上は才能を誇りに思っているよ」
千年は超高校級の代役らしい。
「そうか、偶然だな。俺も実は超高校級なんだ。超高校級のサックス奏者」
「おお!少年もか!」
千年が嬉しそうに手を叩いた時、放送がかかった。
「あーあー、聞こえてますかね…うん、大丈夫っすね!講堂ってとこに集まって欲しいっす!あ〜、講堂は1階、階段を降りてずっと奥にあるっすよ!」
この先は、闇だ。
前が見えない中進むのは危険にも感じる。
「…千年、どうする?」
「ここがどこかも、何故三上達が連れてこられたのかもわからない。勿論この先何があるかも、ね。他に三上達と同じ状況の者がいるのなら、集まっていた方がいいだろう。行こう、少年」
…でもまぁ、この時任千年という人間と一緒なら、少しは進めそうだ。
中庭にはホールへと続く道があり、中に入ることができた。左右に道が分かれていたが、千年が左だと言うので、信じて進むと偶然にも講堂が現れる。
講堂には既に何人かいて、5分もしないうちに20人程がそこに集まっていた。
「…19……20っと…これで全員ですかねェ」
「20人だって!随分多いんだね!」
長い髪の女が1人ずつ数えているのに対して、随分と小柄な女がぐるりと見渡しながらニコニコと言う。どうやらそこまで危機感を感じていないらしい。
「いや〜集まってくれて良かったっす!こういう時は固まってた方が安心だと思って!」
先程の放送の主だろう。やや刈り上がった頭に三つ編みを垂らし、片目を隠した男がそう言った。
「何人かと話してみたけど、ここには超高校級ばかりが集められているみたいだね」
明らかに外国出身であろう顔立ちの男が「ねえ?」と相槌を求めるように視線を向けると、視線の先のヘッドフォンをつけた男が静かに頷いた。
「にしてもここはどこで、ボク達はどうして連れてこられちゃったのかなあ」
「此処に来るまでの記憶がさっぱりないんだよね。自分についてはわかっているんだけど…」
「考えても仕方ないし、いっそ自己紹介とかしちゃおうよ!」
2人の男が疑問を提示する中、黒と緑が基調の服を着た女が手をあげて言う。
「それはそうだね。うん、それじゃあ自己紹介でもしようか」
片腕のない男が答えたことから、提案した女が前へと出た。
「じゃあ言い出しっぺの私から!はーい!今日も皆の愛され役!ミラドリグリーン担当!笑顔は一等星!皆、私のこと好きにな〜れ♡マジョリカだよ〜♡……っていう感じのアイドルやってるよ!私は西園寺実花!皆と同じ高校生だから、仲良くしてね!」
「かわいい!」「ステキ!」などの言葉を先程の小柄な女が連発する。
その視線に気づいたのか、女はこちらを向くと元気いっぱいに喋り出す。
「やほやほやほー!!!!わたし、超高校級のーっ、マジシャン!田中春子!よろしくーっ!」
「アナタ、随分と熱烈なコールを送るのね」
「わたしは実花ちゃんのファンなの!今一緒の場所にいるのも運命なのかも!!」
ツインテールの女にそう答えると、春子は「あなたの名前は?」と続けて返した。
「ワタシ?ワタシは陰明寺視。超高校級の占い師よ」
「みくり…?珍しい名前だねっ!」
「ええ、視力の視とかいてみくりと読むのよ」
「はあい俺安心院雨生、超高校級のアロマセラピスト!アンタらの匂いと顔はもう覚えたぜ!」
春子と視の会話を縫うようにして、男は安心院雨生と名乗った。
「……す、すごいね……あのえっと、その嗅覚……」
「犬よりすげ〜だろオレの嗅覚!」
雨生はいわばドヤ顔をして「アンタは?」と促す。
「…あ、ぼくの…こと?ぼくは黎葉幸応……、です。…お裁縫がすき、なの。その、超高校級…って呼ばれるまでには到底思えないんだけど、一応は超高校級の手芸部っていう…みたい、で。」
恐らく性別は男なのだろう。途切れ途切れに彼は話す。
「…あの、あなたがよかったら…で構わないんだけど、えっと……よろしくお願い、します…?」
「どうして疑問系なのよ」
「…ぇ?いや…ずっと此処に長くいるかは……わから、ないし…」
濃い緑色の髪の女が、キツイ眼光で幸応を見るが、既に慣れていたらしい。彼はまたもや途切れ途切れにだが言葉を縫った。
「…それもそうね。いいわ、私は大樹寺みのり、超高校級の庭師です。以後お見知り置きを。…ああ疲れた!」
みのりは大きなため息をつくと、頭を軽く掻いた。
「自己紹介にそんな疲れるもんなの?」
「疲れるわよ、自分の紹介はね!…堅苦しいのって苦手なのよ」
ふぅん、と声を漏らすとみのりに質問した男は続けて言う。
「ボクの名前は六瀬慎一。超高校級のゲーマー。よろしく」
ゲーマー故ヘッドフォンが手放せないのだろうか。今は何も流れていないようで、対話はこなせるようだ。
「じゃ、次あーしね。あーしネイリストの周防いのり、よろしくね」
淡白な挨拶だが、それで終わりらしい。そんないのりに物怖じする気配もなく、いのりよりも断然に小さい女が話しかける。
「ねえねえ!つ!め!もっと見せてよ!ネイリストなんでしょ?通りで綺麗だと思ったんだ〜!」
「爪?あんた見てたんだ。いいよ、見せたげる」
「うわ〜〜!すっご〜い!」
女の大きなリアクションに悪い気はしなかったのか、いのりは「ありがと」と呟くと少しだけ笑った。
「私は超高校級のクイズ王。燈庵冴香!巷で有名な天才美少女とは私の事!よろしくね!」
「ふふ、賑やかな子が多くて何よりだよ。ねぇ紗環?」
「はい、囚様」
紗環と呼ばれる女は、男を囚様と呼び、隣で頷いた。
「やぁ、初めまして。ぼくは緒環囚。超高校級の収集家さ」
「私は囚様に仕えるメイド、風桐紗環よ。好きに呼んで頂戴」
「彼女は完璧で優秀なぼくのメイドなんだ。誰より感謝しているよ。生活では彼女に頼りっぱなしだから……」
囚の言葉を聞き、紗環は謙遜しながらも軽く頬を赤らめた。
実花と春子と同じく、この2人は元から繋がりがあったようだ。
「どうも!俺は御宮寺優成、基礎心理学者っすよ。俺の事は気軽にローマンって呼んでくださいっす!どうも、宜しくお願いしまっす!」
放送をかけていた男は、御宮寺優成というらしい。何故ローマンと呼ばれたがるのかはわからないが…。まぁそれは機会があれば聞いてみることにしよう。
「僕は童部月玖。ウエディングプランナーをやってるよ」
片目前髪で隠れた男が言う。ニコニコと笑っているが、その目は一向に開かれることはない。
「そしてこちらは」
月玖は軽く一礼すると、片腕のない男へと引き継ぐようにして下がる。
「ありがとう月玖くん。初めまして、僕は逆叉薫。気軽に“オルカ先生”と呼んでくれたら嬉しいな。そして才能は超高校級の海獣医師」
「かいじゅういし……?怪獣…、ゴジラとか?」
「あはは…!海獣はシャチやイルカ、アザラシのような生き物の事。映画に出てくるような、そっちの怪獣ではないよ。僕は海の生き物のお医者さんなんだ」
薫は笑うと、優しく説明をする。
「ああ、海の、か……。漢字はちょっと苦手でね。俺は探偵のディラン・モンロー。名前は外国人だけどこの通り日本語はペラペラだからさ、仲良くしてよ。」
やはり外国出身だったようだ。ディランは少し気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「弔宮哀哭……超高校級の泣き女です。宜しくお願いしまァす」
長い髪を揺らしながら哀哭はそれだけ言う。
「泣き女って初めて聞いたよぉ。」
後ろへと下がる哀哭を引き止めるように、つなぎを着たふわふわの髪の男が言う。
「泣きの演技をするわけですよォ。興味があればいつでも泣いてみせましょうね」
「わぁ、ありがとうねぇ。ボクは超高校級の酪農家の神戸緒丑っていうんだ。仲良くなれたら嬉しいな、よろしくねえ」
「それで、キミはぁ?」
「えっあっあっ、わ、わたし!?」
ずっと黙っていた車椅子の女は、急に視線を向けられ、ひどく驚いた声を出した。
「え、ひ、ぁ、あー…ら、らいあ、です…むむ、夢鳥姫…。ちょ、超高校級の魔法少女……なんですっ」
「ふむ、魔法少女か?」
「はっはい……!」
千年の問いかけにビクリとしながらも、らいあはしっかりと頷いた。
俺と千年も挨拶を済ませた頃、それは突然やってきた。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!」
現れたのは、もやに包まれた人のような何かだった。