「ねえ、このコロシアイ生活って誰が考えたものなのかな」
ある日、実花がそんな風に言った。
「…何よ急に」
体調は回復した様子のみのりが、実花に視線をやる。…怖がっているのだろうか。
「え?いや…あのね!モノクターが何者なのかも…何故私達がコロシアイ生活を送らなきゃならないのとかも…あの時の恐怖に負けて流しちゃっただけで、何も知らないなって思って!」
「確かに、どんな理由なんだろうね」
「そっ、それに…あの人………?の…正体も……何一つ…ですし……」
「……モノクター、がコロシアイ生活を企てたなら、どうして…なんだろう、ね」
「面白いから、とかいいそうだけど」
「おや、ワタクシの噂をしましたか?」
「…また貴様か」
月玖やらいあ、幸応、慎一が口々にそう呟き、考え込んだ時、またしてもモノクターは現れた。
「…最近よく現れるわね、アナタ」
視は苦々しげに言う。
モノクターの神出鬼没ぶりには、もう慣れてしまいそうだった。
「それでも探索中なんかは会わないけどね」
「粗方4階の部屋にでもいるんだろ」
囚と優成はそう言葉を交わした。どうやら相変わらず探索は真面目に行っているようだ。
「…ですがまぁ、ちょっとくらいこのコロシアイ生活の要因となりうるもののヒントを教えてあげてもいいかなぁと思うのですがね…ワタクシもスリリングなことは嫌いではありませんし、何より謎解きはワクワクするでしょう?裁判と一緒でね、うぷぷ」
「……それホント?」
自己紹介と同じように「言い出しっぺ」の実花はモノクターの言葉に食いつく。
仲間思いな実花は、このコロシアイ生活を終わらせたいようだが…。
モノクターとの交渉は危険にも思える。
用心深い薫や紗環、優成あたりは怪訝そうにモノクターと実花を見つめていた。
「ええ、ええ!アナタの持ってるキラキラとしたアレと交換こ!どうでしょう!」
「…へ?そんなんでいいの?研究教室のドレッサーのアクセ、この前よーく見てたもんね!いいよ、あげる!」
モノクターから出された条件は、周りや実花がぽかんとしてしまうくらいに子供じみたものだった。
モノクターは満足げに頷く。
「ではビッグなヒントをお教えしましょう!」
「裏返せば裏返すほど終わりに近づき、小さな世界で創るもの、なーんだ?」
「……なぞなぞ?」
「アナタのお仲間と考えてみてください!ネ!!」
不思議そうにする俺達の前、モノクターの黒い影が、炎のように揺らめいていた。
「さて、代償はきちんと払って頂きますからね」
「………!」
モノクターの言葉で、もう皆分かってしまった。
“次こそは彼女だ”と。
「ぁ…………み、………はな…ちゃん…………」
春子の消え入りそうな声。
死ぬよりも残忍か。
彼女の目の前は既に地獄だった。
そして突如空気を切り裂くような泣き声が響き渡る。それは春子の声だ。
追いかけ続けた、大切な存在の輝く瞳は血で塗れ、悲壮な表情でいっぱいになっている。
みのりやらいあの叫び声も重なる。そして
ディランが驚いてカップを落としては割る音。
耳が、痛い。
目に映るもの、耳に届く音、呼吸や感情の全てが、壊れていくみたいだ。
「許さないっ………許さない許さない許さない!!!!!!!」
春子は発狂し、そのまま崩れ落ちた。モノクターに何をできるわけもなく、ただ「悲しい」という感情と、愛する彼女が傷ついた事実に身体ごと落ちていく。
「何故………!」
「アクセサリーが欲しいのではなくて、キラキラしたアナタの瞳が欲しいのだと!!!!そういう意味でしたが…伝わりませんでしたか?」
紗環の問いにモノクターは意地悪そうにせせら笑う。
「このなぞなぞ、アナタ達には解けますかねえ。超高校級のアイドル様の瞳を犠牲に手に入れたのですから、解いてもらわないと困るのですがね…ぷぷ」
「最っ低よ……!!!!」
視はモノクターを睨みつけ、罵った。
俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
……その後のことはよく覚えていない。
あの後、実花は手術室へ連れられて、春子はそれを追いかけて、そんな彼女を心配するように薫も追いかけ。
気づけば談話室から人は消えていたんだっけ。
血の匂いはいつまで経っても慣れられるものではない。
翌日の俺達はやけに沈んだ空気に参ってしまっていた。
いつもなら賑わっている食堂も人気が少ない。
「周防さんって紅茶には何もいれないんだねえ」
「まあね。この方が飲みやすいかも」
「………あ、優くん、緒丑くん、いのりちゃん。いたんだね」
食堂に偶然茶を飲みに来たいのりと、俺達の前に現れたのは春子で。
やはり昨日の一件から元気がない。
「…あー、実花は?」
「………実花ちゃんなら今は視聴覚室に」
いのりの問いかけにも、心ここにあらずといった具合に返す。
視力訓練か何かの為、追い出されてしまったようだった。
「………私の行動は…無駄…だったのかな」
そばにあった椅子を引くと何となく腰を下ろし、なくなってしまった腕を見つめるようにして、ぽつりと言う。
「それは違うぞ」
気づけば口に出ていた。
「…お前の行動は……実花を思ってのこと、だろ?絶対、その気持ちは無駄なんかじゃない。…実花の力になってるんじゃないか?いつだって」
俺は何も動くことができなかった。
だから正直、春子の行動力が強く映っていたのだ。
「そうかなぁ…そうかなぁ…………、……………早く実花ちゃんに会いたい!絶対絶対2人で生きて出るんだから!!!」
春子は片方の拳を握る。
「ここで負けてらんないしね。……つか、そこの道に、トランプが落ちてるけど…あんたの?」
いのりが指差す方向__春子が来た道には一枚のトランプが。いのりはそのまま拾ってやると、春子に渡す。
「あれ?いつ落としたのかな?ありがとう!!」
春子は普段より気ごちなくとも、笑いながら、トランプを受け取ると、ひゅっと目の前から消してみせる。
「わあ、生マジックだぁ!はじめてみたよぉ」
それを見て緒丑は、ニコニコと手を叩いた。
春子と実花の心はまだ折れていないと、信じていたい。
…強く結ばれてる2人のはずだ。
俺は以前捜査の際に実花が語ってくれたことを思い出す。
しかしそんなほんのひと握りの、小さな小さな幸福だって簡単に捻り潰されてしまう。
『死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました。場所は黎葉幸応くんの研究教室です。生徒はすぐに向かってください。』
「黎葉…さん?」
「行こう、いのり、緒丑、春子!」
俺達はすぐに幸応の研究教室へと向かう。
脳裏には幸応の気弱で、でも優しくて、花のような笑顔が浮かんでいた。
「…こ、幸応は…無事か……!?」
掠れるような声で呼ぶ。
彼の研究教室にはもう人だかりが出来ていて。
「ああ………………」
側で誰かが色のない声を漏らす。
花の枯れたような、そんな声。
もう、
紡がれることはなく、
辿ることもできない。
そして、彼もまた、
「…ど、どうして3人もここで死んでるの…!?」
「ここは幸応の研究教室じゃん……、ディランとローマンまで………」
春子もいのりも、目を開いたまま動かない。
異様すぎる光景を目にして固まる一同の中、何かに気づいたのか薫は優成の方へ近づきその身体を触った。
「…っ、待って、優成くんはまだ息があるようだ……早く、手術室へ!」
「それホント?」
「ま、まだ助かるわよね!?」
「運ばなきゃ…。水蜜くん、手を貸して!」
「あ、ああ…!」
現場は大混乱。
ーーー
そして、波乱の、第三章です。うぷぷ