「優成は一命を取り留めたようだ。…心配いらないって」
俺は不安そうに立ち尽くしたままの面々にそう伝える。モノクターは「彼はラッキーですね」などなんだの一々勘に触ることをぼやいていた。
また、優成は治療を終えた後は安静にする必要もある上に、クロへの公平を保つために、裁判への参加はリモートでということになった。発言はできずとも、画面上で俺達の裁判の様子が伝わる仕様らしい。命を奪ったのだから公平も何もあるものかと思ったのだが、ここではモノクターがルールだ。…迂闊には逆らえない。
「助かってよかった。…ホントに」
慎一はほっと胸を撫で下ろす。周りも優成の無事に安堵の表情を見せた。
しかし、
「で、でも……お二人は…………」
と、らいあは顔を曇らせ、
「助からないのよね」
そしてその言葉を継ぐように視が静かな部屋の中言った。
そう、幸応とディランはもうこの世にはいない。
2人は死んでしまったのだ。
何故、2人も死んでしまったのか。何故死ななくてはならなかったのか。何故優成までも倒れていたのか。それを突き止めるには、捜査して裁判を切り進めるしかない。
結局モノクターから出されたなぞなぞの答えは分からないし、本来ならば頼みの綱であったはずの探偵はもう口を開くことはない。
「御宮寺さんのことは裁判で考えるとしてぇ……どちらから見ようかぁ?」
俺が1人思考に耽る中、相変わらず緒丑はのんびりと言う。
その横顔は強かで、眩しいんだ。
「……お前の方こそ、強いよな」
「え?」
「いや、忘れてくれ」
今の発言は不躾だっただろうか。緒丑は不意をつかれた顔で俺を見る。
「……できるなら……代わってあげられたら、って思ってるんだよぉ………でも、そんなこと出来やしないからさぁ、苦しんだ分ボク達が頑張って犯人を探さなきゃ、ってねぇ」
「………ごめん」
「ううん」
緒丑がそんなふうに考えていたなんて知らなかった。俺よりもよっぽどしっかりして、1人で立てているじゃないか。緒丑にそんなことを言わせてしまった自分が恥ずかしく腹ただしい。
「あれぇ、黎葉さんの包帯がとれてる…どうしたんだろう?」
緒丑はそんな俺に気にするそぶりも見せず、幸応の死体に近づいていく。
包帯が取れてると聞き、俺は一度頭を空にし、幸応の方に目をやった。
緒丑の言う通り、幸応の目に巻かれていた包帯は取れてしまっていた。
そしてその包帯であろうものが出血部分に巻かれている。
かなり無理やり巻こうとしたのか、包帯はボロボロな状態だった。
包帯の外れた目には綿のようなものが付着している。
「これなんだろう?迂闊に触らない方がいいよねえ?」
「ああ……もしかすると病気かもしれないな。幸応の自室を調べてみようか」
俺達の自室にはカルテが配布されており、そこに病気の詳細が書かれている。余程のことがない限り、自室に踏み入れ病気を調べることはしないつもりだったが…。幸応のものだけでもみておいた方がいいだろう。
幸応の病気を確認する前に、他の場所も捜査しておこう。
幸応の死体の近くには、細い刃物が転がっていた。
「…この刃物は…?」
「メスじゃないかなぁ。病院の手術とかに使う、メス」
どうやら、幸応の複数に渡る刺し傷はこのメスによって作られもののようだ。
「何度も、何度も、刺されて痛かったよねぇ、苦しかったよねぇ」
血がついたまま転がるメスを見ながら、緒丑は憐れむように目を細めた。
それから幸応の死体の近くにはもう一つ、細い瓶が転がっていた。中身は空でラベルも貼られていないため何かは分からない。千年と冴香の時の裁判のように、これも何らかの役に立つのかもしれない、と俺は手帳にとりあえず記録した。
ふと顔を上にあげると作業机の上に、作りかけのぬいぐるみが置いてあるのが気になった。それも20はあるだろう。
ここは幸応の研究教室であるため、幸応のもので間違いないとは思うが…。
でもなんだろう。
見ていると心が不思議とあたたかくなる気がする。懐かしくなる気がする。
…ああ、この色は、
俺達の色だ。
幸応は俺達をイメージしたぬいぐるみを作成していたらしい。夜時間にあまり姿を見なかったのはこれを作っていたからだったのだろうか。
「ありがとう」
俺はそっと呟き、もう一度幸応の死体の前にしゃがむと手を合わせた。
やっと立ち上がると、壁にもたれたままのディランの方へ。
ディランの顔には流れ落ちた血がこびりついていたが、その血は頭部分から来ているようだった。
血さえなければ、ただ眠ってるだけのようにも見える。
しかしその血だけが、ディランが何者かに殺されたことを示しているような気もした。
ディランの死体近くには何故か椅子が倒れている。
俺はディランから目を離すと、その椅子をよく観察する。
なんの変哲もない、この研究教室の椅子のようだが…。椅子の脚部分に血がべっとりとこびりついていた。
それからもう一つ。
ディランはメモ帳を持ち歩いていたようだが、1番間近に書かれたであろうページには、
『21時 幸応くんの研究教室へ』
と書いてあった。
そしてその裏にはこんな走り書きが。
…そうだ。
最後に幸応のカルテのことだが…。
俺はこの捜査の後、幸応の自室を訪れた。
___身繊綿布侵食症
幸応の小さな見た目とは似つかない、漢字だらけの病気。
要約すれば体の細胞や臓器が綿や布に置き換わってしまうらしい。
包帯の下に隠されていた綿はこの病気が起因だと考えていいだろう。
「……ずっと戦ってきたんだな」
カルテを戻した時、裁判場への移動を促す放送が聞こえた。
さぁ、三度目の裁判が始まる。