「2人の殺害に1人の負傷者、か」
「一体どんな理由があったんでしょうか……」
「とにかく!だよ!」
「やるしかない、のよね」
「もう深夜なんだけど、マジで裁判やるんだ…」
「まあこういうのは早い方がいいんじゃないかな」
ふわぁと小さなあくびをしてぼやくのいのりと、穏やかにたしなめる薫。
事件は夜に起こっているため、裁判は深夜まで続行されることとなった。
眠くはない。
緊張感でそんなものを感じる余裕などないのだ。
ふと上の方のモニターを見上げると、顰めっ面のままの優成が見える。
…何を思っているのだろうか。
殺されかけた相手を、ただ見つめるだけなんて、どんなに辛いんだろう。
「うーん、まずは2人の死因についてだけど…幸応くんはメスで刺殺で、ディランくんは椅子の脚で殴殺でいいかな?」
「いいと思う!御宮寺ちゃんもそれで殴られてたっぽいよね…」
薫の言葉に頷きながら実花は優成についても触れる。目にはまだ包帯が巻いてあり、かなり痛々しいが「超高校級のアイドル」を彼女なりに守っているようだった。
「黎葉さんとモンローさん、御宮寺さんとじゃ方法が違うんだねえ」
「何故違う必要があったのかしらね」
緒丑と紗環は考え込むように視線を斜めに向ける。
「わかった!幸応くんは計画的殺人で、ディランくんと優成くんは衝動的殺人だったんじゃないかな!」
そんな2人に、残っている方の手を挙げて発言するのは春子だ。
「2人はきっとその前の現場を見ちゃったんだよ!だから幸応くんはメスでも、2人はその場にあった椅子だったんじゃないかな!」
「わっ、わたしも!私もそう思いますっ!」
「なるほどね……。じゃあ…死体発見アナウンス鳴らしたのは誰かしら?」
次に切り出すのはみのりで、話題は第一発見者について。
「ボクだよ。研究教室でゲームをした帰りに、黎葉の研究教室の扉が開けっ放しなのに気づいたんだ。すぐに黎葉の死体が目に入って、思わず固まった。…そしたら死体発見アナウンスが鳴ったんだ」
「1人でかい?」
「うん、そう」
囚の問いかけに間違いない、と慎一は首を縦に振る。
「死体発見アナウンスは3人の目視で鳴らされるはずだよな?」
「そういえば、死体発見アナウンスの人数カウントって犯人も含まれるのかなぁ?」
「確かに、ねえモノクター。それくらいは教えてくれてもいいんじゃないかしら?」
俺と緒丑は顔を見合わせる。そんな俺達を見て、視はモノクターへと会話を回した。
「んまー、今回はかなり大事になりそうですしねえ!含まれてはいませんよ!」
「御宮寺くんが参加できないってことはさ、クロを見たってことなんじゃないかな。メタだけどね。そして2人の死体も見ていた、と」
はは、と笑みを浮かべながら月玖は言う。
「ボクが黎葉の死体を見た時に死体発見アナウンスが鳴ったんだから…黎葉の死体をディランと…ローマンが見てたってこと?」
「ああ、そうだと思う」
俺は慎一が途切れ途切れに時系列を纏めるのに同意した。
犯人は幸応を殺害後、ディランを殺害、そして優成までに手をかけようとしていたようだった。やはり、春子の推理に間違いはない。
「でもどうしてディランくんが幸応くんの研究教室にいたのかな?ローマンくんは研究教室が隣だから…その時間にいたとしても不自然では無いと思うけど…」
何故、ディランが幸応の研究教室にいたのか。薫の疑問の答えを俺は知っているはずだ。
「偶然通りがかった、とか?よくフラフラしてるイメージだったし。ローマンは兎も角ね」
「チューニングが甘いな」
俺はいのりの考えを否定した。
そう、何故なら…
「ディランのメモに、21時に幸応と約束をしていたことを示すものがあったな。あれは、幸応から呼び出されていたんじゃないか?」
内容は何にせよ、2人が当時会う約束をしていたのは合っているだろう。
「あれ?でも今朝……ディランくんが御宮寺くんを夜時間に御宮寺くんの研究教室へ誘っていたのは聞こえたよ」
指を顎に添え、不可思議そうな顔で言うのは囚だ。
「確かその時はモノクターからのなぞなぞが出た時よね?ワタシ、昼時間ずっと図書室の籠るディランクンを見たのよ。だから彼はそれを解こうとして……相談か何かの為にユーセイを呼んだんじゃないかしら?」
視は自分の推理を少し得意げに話してみせた。そんな視になるほどね、と柔らかに囚は言う。
「つまりモンローは2人と会う約束を取り付けていたわけね」
「黎葉ちゃんの後に御宮寺ちゃんに会うつもりだったのかなあ。逆に黎葉ちゃんはディランくんに会おうとする前に何をしてたんだろう…誰といたんだろう?」
「多分…私が最後に会ったんじゃないかしら……」
その推理に続く紗環と実花に、そろりと手を挙げるのはみのりだ。
「…さ、最後ですか……?」
「確かに私は夕食の後黎葉さんと会った……だけどディランさんにも御宮寺さんにも会ってないわ!!ほ、ほんとなんだからね!!!」
らいあのぽつりとした言葉にも、みのりは声を震わす。余程疑われるのが怖いようだ。
「へぇ、何をしてたの?」
「お裁縫よ!それだけ!!!最近はずっとよ!」
月玖の追求に、まるで犬が吠えるかのように早口でまくしたてる。
「ま、まあ、一度大樹寺ちゃんのことは置いておいて…肝心の犯人像だけど……んー、どうやって考えよう?」
そんなみのりを哀れに思ったのか、実花は少し話を逸らすことにしたらしい。
「メスは手術室にしか置いてないんだよね」
「そして、基本的に鍵がかかっているはずです…う嘘じゃないです!!!」
実花の発言に続く月玖とらいあ。
「手術室に入ったことがあるのは、僕と実花さんと春子さん、そしてみのりちゃんと雨生くんかな?」
「逆叉、西園寺、田中はお互いの目があるから持ち出しは難しいと思うけどな」
「それに片腕がない春子チャンは椅子を男の子に振りかざすのも難しいわよね」
薫と慎一と視が続けざまに発言していく。
「あと他に持ち出せるとしたらぁ…」
どんどんみのりに視線が集まっていく。
「違うわよ!何見てるの!?わ!私じゃないんだから!!!」
中でも隣の席の囚はみのりの頭のてっぺんから爪先まで、見つめた。
「……あれ、ここ暗いからわからなかったけど、きみの顔に血痕がついてないかい?」
眼光は少しの影と橙の灯火を突き刺す。
「は!?!ちゃ、ちゃんと処理したは……ず……」
みのりは途端に顔色を変え、顔をペタペタと触る。
「嘘さ、きみって面白いくらい顔に出るね」
そんなみのりを、揶揄うように笑う囚。些細な冗談のようだが、みのりにとっては致命的だ。
「はっ、嵌めたわね!!!!!」
「ま、血痕がついたままなのは嘘じゃないけどね。きみの靴さ」
気づけばみのりの足元が、スクリーンに表示される。
その靴には血痕がこびりついていた。
【理論武装開始】
「どうして誰も信じないの!?私はメスなんて知らないわよ!」
「それは…違うんじゃないかな?君は初日に手術室に入っているはずだよ」
「わ、わ、私だって一人で入ったりしてないわ!取ったりしてない!!!」
「認めらんねー、それはもうわからないのにね。…雨生は死んでるんだから」
「っ!」
【Break!】
「………」
「オホホ、それでは投票して頂きましょう」
静まり返った裁判場。モノクターがそれを気にするわけもなく、パッドには既に投票画面が表示されていた。
ーーー
「お見事!お二人を殺したのは大樹寺みのりサンでした!」
「………これを、罪だというの?」